特別提言 2023年流通業の針路「セブン-イレブン」でさえ、SBのPBを出すだろう

2022.12.05

いま流通業は、選択を迫られている

第1に、2023年流通業、特にスーパーマーケット(SM)は、戦略の岐路に立っていることを覚悟すべきである。「インフレ」が原因である。

そこでいま流通業チェーンは、①新しくディスカウント路線を採るか、②これまでのオーソドックス路線を守るか、③それともまったく別の新しい路線を開拓するか、の選択を迫られている。

②のオーソドックス路線の難点は、仮に商圏に同業が3店ある時、1店しか残らない可能性が高いことである。これから確実に、同業のサーバイバル競争が始まるからである。しかも仮にオーソドックスな路線を選んだとしても、単品の価格、買上総額(客単価)の動向には敏感であり続けなければならない。

そこで必要になるのは、①品揃えの再検討による圧縮、売場面積の圧縮、②省力化によるコストダウンの徹底、③絶えざる新規商品仕入れソースの開拓、である。

①は、現在の品揃えをすべて再検討して、商品ラインごとに高単価品目をカットする、低単価品目を追加する、という手を探らなければならない。

当然に現在の売場面積は、縮小される可能性が高い。なぜならこれまで多くのチェーンで、部門品種品目の多様化が潮流になっていて、面積の不足を慨嘆する声が多かったからである。だがこの「商品の再選択」をやれば、カットする品種品目、場合によっては「部門」が出来し、店舗売場に「空き」が出ることは確実である。

それをおそれてはいけない。それは「作業面積」の縮小にも結び付き、稼働面積の縮小すなわちコストダウンに寄与する。扱い品目数の低減は、作業時間の低減をもたらすはずである。仮に「ある売場部門」をカットすれば、その分コストもカットできる。

同時にオーソドックス路線を選ぶなら、50年以上前のダイエーの手法に「学ぶ」べきである。当時ダイエーは、品種ごとに売れ筋品目だけは在庫を同業他店の3倍置いていた、のである。

このダイエーの手法は「薄利多売」で遠方からお客を集めるのではなく、これまでの商圏の常連客を守りつつ、常連でなかった住民も積極的にわが店のお客にすることで、商圏内で客数を増やす「決め手」だった。

ディスカウント路線には必須の、新しいフォーマットづくり

第2に、そこでこれから「ディスカウント路線」を採る企業が増えるだろう。だが実はこれは極めて危険な路線である。なぜなら不景気、インフレ時に、ディスカウントはダレでもが考えることであり、多くの企業がここへ殺到するからである。競争は確実に激化する。

だがディスカウント路線での決め手は、「販促、安売り」ではなく、従来のフォーマット(企業構造)を転換すること、まったく新しい品揃えのフォーマットを実現すること、によるディスカウントである。

品揃えを従来のままにして、そのディスカウント版をやっても、真の成果を得ることは難しい。それは結局「薄利多売」、すなわち安売りによる商圏拡大によって商圏外から「お客」を集め、そうすることで「多売」すること、である。

だが、同業他社においても同じ戦略を採用する企業が増えるだろう。とすれば、薄利で売っても、多売できない。売上げだけでなく、薄利ゆえに利益も期待できない結果になる。

ディスカウント路線成功の決め手は、これまでにない新しいフォーマットを構築することにしかない。例えば、コストコ。コストコは、①すべての商品を卸売り単位で売る、②大面積の店に臨時の「特売品」を数多くそろえ、単なる「安売り」買物ではなく「買物の楽しさ」を狙い、③そうすることで「衝動買い」を誘い、客単価をかさ上げする、④それによってSMなら5~7店、ビッグストアなら少なくとも2店分の商圏から集客して、圧倒的「客数」を獲得する…といった他に例を見ない画期的なフォーマットの実現によって成立し、マネしようにもマネできない独占的ポジションを得ている。

あるいはトライアル。その急所は、SMならドコも重視する「生鮮」の割合を必要最小限に抑え、在庫期限の長い瓶ものや冷凍食品、パッケージドフーズ、ノンフーズに重点を置いて、ディスカウントを実行していることである。こうすることで商品ロスと取り扱いコストと人員を徹底的に下げ、冷蔵ケースの長さを制限して店舗コストを下げ、構造的に「安売り」が持続するフォーマットを構成している。

逆にSMが採用しがちな、米国ウエグマンが採っているようなデリ強化、生鮮強化による路線、あるいは自然食品重視の路線は、多くの商勢圏で難航するだろう。インフレがドコまで続くか、予想もつかないが、インフレが収まるまで「価格の安さ」を超える戦略で生き抜くことのできるチェーンは、例外的な存在しかあり得ない。

とすればこんな予測はしたくないのだが、SM業界にはこれから、ある種の激動的な「企業淘汰」現象が見られる可能性がある。あえて米国のチェーンで参考例を上げるとすれば、ウエグマンでもクローガーでもなく、(ウォルマートの)ネバフッドマーケットですらなく、アルディである。

NBのPBではなく、SBのPBが決め手

第3に、商品戦略にも激動が見られるはずである。その1つはイオンが主導する、ナショナルブランド(NB)に代わるプライベートブランド(PB)主導の品揃え路線である。だがこの路線は、イオンの1人勝ちになる可能性が高い。

というのはPBで「安さ」を実現し、なおかつ十分な収益を上げるには、何よりも「販売量」あるいは「売上規模」の大きさが必要であり、その点で圧倒的に優位なのはイオンだからである。

売上高そのものではイオンに対抗できるセブン&アイグループは、その主力がセブン-イレブンであって、SMグループでもイトーヨーカ堂でもない。とすればPBの価格対応力、収益力では、イオンが圧倒的になる。

とすれば、さらにローカルチェーンの中に、イオン参加に救命策を求める企業が現れても不思議ではない。ここに「多々ますます弁ず」、というロジックが働く。この事情はスーパードラッグにおいても同じである。スーパードラッグの主力である薬品と化粧品については、NBが決定的に強力であるが、その他の商品分野においては、大幅な非食品品種で、PBで優位に立つことのできる価格戦略を実行できる最も強力なチェーンは、イオングループのウエルシアだからである。

では他に手はないのか。私はインフレの兆候がまったく見えない時から、「安さ」は、イオンが優位に立つに決まっているNBのPBではなく、ストアブランド(SB)のPBの「品揃え」の強化で実現せよ、と主張してきた。

SBを商品グループとして強化しているチェーンは、何社かある。だが、そういうチェーンでも、ことSBのPBについては、単品での開発が圧倒的に多い。だがNBのPBでのイオンの圧倒的優位に対抗するには、そしてインフレに対応するには、SBのPBを商品グループとして開発する必要がある。

それには何もわが社1社で、と限定する必要はない。同業他社がこの部分だけ協力して、「量」を確保すればいい。私はかつてNBのPBについて、同様の提案をし、それは実現しなかった。だが今回は、その可能性があるのではないか。

セブン-イレブンは、「売価見直し」に踏み切るか

もちろんそれには、まず既にかなりのSB商品グループが開発されていなくてはならないが、その点については既に有力チェーンには多くの実績がある。私があえてNBではなくSBというのは、SBのPBづくりにはSB以上の独自マーチャンダイジング技術が必要だからである。

NBのPBなら、トップのNBメーカーではなく、その下位のメーカーに委嘱すればいい。実際イオンのPBの多くは、その手法に依拠している。だがSBはそうはいかない。それは企業独自のマーチャンダイジング技術によってしか実現しない。商品スペックをさらに再検討する必要のあるSBのPBは、SB以上のマーチャンダイジングの工夫、マーチャンダイジングソースの開拓が必要である。

だから手を組むことを提案しているのである。幾つかのSMチェーンが手を組めば、そのSBグループのPBの数は増えるはずである。私の想像いや妄想では、それを先ず実行しそうなのは、実はSMチェーンではない。セブン-イレブンである。

といえば、セブン-イレブンは、企業テーゼとして、絶対に「安さ」の魅力で集客することはしない、それはセブン-イレブンという企業の存在理由そのものにかかわる、としてきた。

私は、セブン-イレブンがその戦略を転換する、と予測しているのではない。いや、ライバルのローソンやファミリーマートも、セブン-イレブン対策として「PB」を、すなわち「安さ」で対抗することは、これまで考えた気配がまったくない。今後も、それはあり得ないだろう。それは「自滅」の道だと分かっているからである。

にもかかわらず、なぜこのような「不逞」といってもいい想像をするか。

既にインフレは、これまで「価格」の影響がまったくなかったコンビニにも、及んでいるからである。セブン-イレブンは、確実に独自SBのみによるアソートメントは、そのまま残して、「安売り」ではなく、その価格ラインの総体的引き下げ、を試みるはずである。セブン-イレブンには、それだけのマーチャンダイジング力があるからである。

もちろんこれは私の空想であり放言に過ぎない。だがことSMやスーパードラッグ、ホームセンターについては、これは空想でも放言でもない。急いで決着を付けなければならない戦略テーマである。

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