どうする? 2023年の商品と売場 青果編|価格上昇は避けられず、販売方法、調達方法を見直すとき

2022.12.09

多くの食品が値上がりする中、相場商品である青果物は消費者感覚でも値上がりしたのか? していないのか分かりにくい品目だ。

青果物の価格は上がっているのか?

2022年10月消費者物価指数を見ると、食料全体で前年同月比6.2%と高い上昇が続く中、野菜6.7%、果物は1.2%の上昇だった。ところがこの1カ月前、9月の上昇率は野菜でマイナス6.7%と昨年より安くなっている。相場変動の大きい青果物の難しさがある。

そこで、青果物価格が実際はどのようになっているのかを確認するため、東京と卸売市場扱いの青果物kg単価の推移を見ていくことにしよう。

東京都中央卸売市場扱い、青果物kg単価推移 単位:円/kg

この東京都中央卸売市場扱いの青果物kg単価推移のグラフから分かるのは、青果物の価格は確実に上昇しているということだ。消費者物価指数が9月にマイナスとなったのは、たまたま天候に恵まれ一時的に入荷量が増えたためで、それ以外は野菜、果物とも確実に昨年より高くなっていることが読み取れる。

その主な理由は、産地生産者の高齢化、後継者不足による生産量減少で、世界的インフレによる肥料や資材、輸送コストの値上がりは、まだまだ反映しきれていないのが現実だ。

青果物の値上がりの本番は2023年という認識を持っておく必要がありそうだ。それがはっきり分かるのが、輸入果実の価格動向だ。22年1月~9月の単価は前年対比で16%上昇しており、国産青果物も23年は最低でもこの程度の値上がりは覚悟しておかなければならないだろう。

従来の商売感覚は通用せず、販売現場が採るべき方向性は2つ

このように着実に青果物の価格が上昇する中、国が行っている消費動向調査ではこの数カ月間、消費マインドは低調に推移しており、今後は消費が低迷することが予想される。このような逆風下、青果部門の販売現場が採るべき方向性は2つある。

第1に調達価格が上がった分、どのようにしてそれをお客に受け入れてもらうかという点。もう1点は価格上昇と共に起こっている生産量(入荷量)の減少に対する対応だ。

国産野菜は年数%程度の入荷減少が続いているが、価格が急騰した輸入果実は既に15%程度の入荷減となっており、「安い輸入果実を大量に売る」という従来からの商売感覚は通用しなくなっていると感じている人も多いのではないだろうか。

先行して値上がりが進んでいる加工食品の場合、メーカー側が内容量の変更(いわゆるステルス値上げ)や商品パッケージのリニューアルを行い、できるだけ消費者に値上げを感じさせない工夫をしている。

青果でもイチゴやミニトマトなど内容量を産地で見直す動きが続いている商品もあるが、大根1本やキャベツ1玉など多くの青果物は内容量の変更もできず、手の打ちようがなく、青果部門での価格転嫁を遅らせている原因にもなっている。

そこで、ここからは青果物の価格上昇をどのようにお客に受け入れてもらうかという点に関して、具体的な手法を幾つか紹介していくことにする。

①グレードアップと価格改定をセットで行う

消費者は見慣れた商品の見慣れた価格が変わると、すぐに気が付く。しかし、商品が変わり、見慣れないものであれば、その価格も見慣れないものとなり、値上げという感覚を持ちにくくなる。これは販売商品の価格を見直す際に極めて大きなポイントとなる。

例えばミカンMサイズ8玉入りを398円で販売していたものを、10玉入り580円にするとしよう。実質2割近い値上げをしたことになるが、何となく高くなったと感じるお客はいても、明確に2割値上がりしたと感じるお客は少ないのではないか。

②商品価値を知ってもらい、それに見合う価格を付ける

輸入果実が値上がりした際、ある輸入商社が品質の良いオーストラリア産のオレンジの代わりに、価格の安いトルコ産を輸入したものの、日本の消費者に受け入れてもらえず、価格が上がったオーストラリア産の方がよく売れたという笑えない話があった。

日本の消費者は成熟しており、本当に価値のある商品と認識してもらえれば多少価格が上がっても購入してもらえるということだ。コロナ禍も4年目となり、そろそろ試食販売をしてもよいだろうし、お試し価格での販売をしてみるのもよいだろう。

ぶれのないおいしい商品を販売し、それをお客に知ってもらいリピート購入してもらうのが青果商売の王道といえるのではないだろうか。

③利益商品の開発+マージンミックス

前述の通り、キャベツ1玉や大根1本はグレードや規格もほぼ一定で、調達価格上昇の逃げ道が見当たらない商品だ。

そこで考えたいのが、利益商品を開発することで生み出した利益(原資)を使うことでマージンミックスを行い、キャベツや大根など逃げ道のない商品の価格を値ごろの範囲に抑えるという手法だ。

問題はその、利益商品開発の手法だ。実は国産農産物の生産出荷原価における選果、荷造りのコストは品目によって差はあるものの、市場卸値の数割に及ぶといわれている。

分かりやすい例でいえば、リンゴの木箱や収穫したまま無選別の玉ネギなどを仕入れ、ケース幾つ取りという形で商品化すれば値上げ分以上に原価低減することが可能なのだ。

生産量(入荷量)減少にどう対応すべきか

世界的に見て人口増加が進み、食糧需要が増える中、気候変動が進んで農作物の増産がままならない現実がある。

ウクライナ情勢も相まって、農産物需給はひっ迫の方向に進んでいる。こうなると、国産青果物の生産量(入荷量)減少を輸入青果物でカバーするという従来からの考え方は通用しなくなってしまう。

実際、輸入果実は世界的価格が上昇したのに日本の購買力がついていけず、輸入量が15%も減ってしまっている。

ここで重要になるのが、小売現場と生産現場のコミュニケーション強化だ。お互いの立場を理解し合うことで無駄のない最適な流通、消費の形を作っていくことが求められる。

現状の青果物流通では出荷規格が決まっていて、これを外れると出荷規格外品として加工用に回される他、農産物直売所での販売、自家用消費でさばききれないものは廃棄されている。このような商品を販売することにより、生産者の所得を維持しつつ、青果物全体の価格を押し下げることが可能になるはずだ。

また、このような産地生産現場とのつながりを持つことで、いわゆる「顔の見える関係」ができ上がる。今後生産量が減り、調達商品確保が難しくなる中、こうした関係があれば優先的に出荷してもらえるといったメリットも生まれてくるはずだ。

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