イオン新中期経営計画をデジタル視点で読み解く、新キーワード「イオン生活圏」が意味するものとは?

2021.04.15

イオンはこのたび、2025年を最終年度とする新中期経営計画を発表した。

20年度を最終年度とする前中期経営計画で、グループ共通戦略として「リージョナル」「デジタル」「アジア」「投資」の4つのシフトに取り組んだが、新型コロナウイルスの影響も受け未達となった。20年度の営業収益10兆円の目標に対し8兆6039億円、同営業利益は3400万円の目標に対し1505億円の結果となった。

リージョナルシフトでは、地域密着の経営体制による事業基盤確立に向けて全国6エリアにおけるGMS(総合スーパー)、SM(スーパーマーケット)事業の経営統合による再編を完了。デジタルシフトでは、EC(電子商取引)強化に向け、英オカド社や米ボックスド社など最先端のノウハウやテクノロジーを保有する企業との業務提携による連携を進めた他、レジゴーやセルフレジ、デジタルサイネージの導入など、店舗のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進、ネットスーパー対応店舗、ピックアップ拠点の早期拡大などオンラインの顧客基盤の拡大も図った。

アジアシフトでは、エリア最大規模のショッピングモールの出店を加速し、オンラインをと融合した新たなサービス提供などを推進し、中国では黒字化を果たすなど次の収益の柱として事業成長を加速させている。

一方、デジタルを活用したビジネスモデルや新たなサプライチェーンの構築などに対する成長領域の投資配分などは、グループの横断的な取り組みには進ちょくが不十分であった。

20年は、新型コロナウイルス感染の拡大によって、お客の行動、意識、価値観が大きく変容したとみる。従来から環境変化を予測し、変化に対応できた企業とそうでない企業の競争力の差が浮き彫りになった。デジタル技術の生活への浸透など、これまですでに起きていた変化を大幅に加速させた。

イオンにとって重要な環境認識とイオンへの意味合い(事業機会)

1. デジタル・AIが競争の必須条件

・Society5.0社会全体のデジタル加速

・キャッシュレス経済の加速

・IoT・AIの社会への更なる浸透

▶ 顧客接点のデジタル化を進め新たな収益源の創出へ

2. ボーダーレスな競争の激化

・リアル小売の業態の垣根の消滅

・オンラインのエコシステムプレイヤーの台頭

・SPA企業、メーカーD2C拡大

▶ 顧客ニーズを起点とした独自商品の開発・展開加速

3. 新たな健康ニーズの高まり

・食習慣のシフト(免疫力強化など)

・ヘルス&ウエルネスニーズの高まり

・介護・医療費の継続的増加

▶ 治療・予防から未病を含むウエルネスニーズへの対応

4. 地方創生の加速

・生活様式・行動範囲の変化

・地域活性化、地方創生の加速

・人口減少、自治体の財政逼迫

▶ リージョナルシフトを加速し、地域密着による事業領域の拡大

5. アジア各国におけるデモグラフィック変化

・アジアの継続的な興隆

・ミレニアルとZ世代が新たな消費の中心へ

・高齢化・単身世帯の増加

▶ 成長が見込まれるエリア、新たな顧客セグメントの取り込み

6. サステナビリティの重要性の高まり

・地球温暖化、異常気象の恒常化

・環境コストを組み込んだ経営へのシフト

▶ 多様な事業フォーマットを通じた環境にやさしい暮らしの実現

出所:イオン株式会社「2021~2025年度中期経営計画」

今回の21年度からの「新中期経営計画」は、こうした環境変化をグループの飛躍的成長を遂げるためのチャンスと捉え、持続的成長に向けた計画となる。過去に経験した変化と比べ、全く異なる規模の環境変化に直面しているとの認識から、大きな事業構造変革が必要と考えた。それを受け、アフターコロナを見据え、到達点の姿をよりクリアにするために従来の3年の計画ではなく、25年度までの5年の計画へと変更。

まず、2030年にありたい姿として、『「イオンの地域での成長」が「地域の豊かさ」に結び付く、循環型かつ持続可能な経営』を掲げ、そのありたい姿の実現に向けて25年までに成長のための事業基盤を確立すると共に、25年以降も安定的、かつ持続可能な経営を実現するために経営効率改善に注力し、営業収益対比「営業利益率」に軸足を置く。

グループ持続的な成長を目指し、25年度までに達成するグループ共通の成長戦略を5つ設定した。

5つの成長戦略

1. デジタルシフトの加速と進化

・店舗・デジタルが融合したシームレスな顧客体験を実現

・データ・AI・経験に基づく迅速な意思決定を実現

2. サプライチェーン発想での独自価値の創造

・イオンにしかない独自な商品の開発・提案

・一気通貫のサプライチェーンの構築

3. 新たな時代に対応したヘルス&ウエルネスの進化

・新たな健康ニーズに対応した顧客起点での商品・サービスの提供

・グループ横断で健康に関わるトータルソリューションの提案

4. イオン生活圏の創造

・地域の生活者を起点とした商品・サービス・場をシームレスに提供

5. アジアシフトの更なる加速

・日本モデルを前提にせず、エリアごとの最適なフォーマットの構築及び高速展開

出所:イオン株式会社「2021~2025年度中期経営計画」

定量目標は25年度に営業収益11兆円、営業利益3800億円、営業利益率3.5%などとし、非財務指標としては、25年度にデジタル売上高を国内リアル小売業でトップレベルとなる1兆円にまで高めると共に、業態、リアルとデジタル、製造と小売りといった垣根などさまざまな境界線がなくなりつつある中、「商品そのもの」をキーワードと捉え、プライベートブランド商品の売上高を現在の2倍以上の2兆円を目指す。

また、今後の成長の柱となる海外については営業利益比率を25%、実額ベースで2倍強にまで引き上げる。

投資は前中期経営計画と同等の年間4000億~4500億円を計画するが、投資配分について国内からデジタル、物流などのインフラ関連、海外の新店にシフト。

デジタルは全ての戦略の基盤、25年度にデジタル売上げ1兆円の目指す

中でも「デジタルは、全ての戦略を進める上で基盤となるものであり、グループとしても最もプライオリティの高い取り組みと位置付ける」(吉田昭夫社長)ことから、デジタルシフトについては加速と進化を図る。目指す方向性は、「リアル店舗の物販中心から、店舗とデジタルが融合されたシームレスな体験へと変えること、グループ共通のデータ基盤を構築し、新たな収益モデルの創造と既存業務の刷新」(吉田社長)

施策レベルでは大きく3つ。まず、デジタル事業そのものの加速。既存ネットスーパー、EC(電子商取引)などを高いレベルで伸ばし、顧客基盤の拡大を図る。中長期的にはこれらに加え、英オカド社との提携による次世代型ネットスーパーの本格稼働を計画。先行投資型で創業赤字だが、将来性のある領域と考えている。25年度に1兆円を超えるデジタル売上げを達成し、「オンラインデリバリー=イオンというイメージを作り上げていきたい」(吉田社長)としている。

2点目は店舗、本社・本部のデジタル化。現在グループ各社が進めている自身でスキャンしながら買物をする「レジゴー」やキャッシュレスセルフレジの導入などによる顧客体験の向上や店舗オペレーションの効率化、業務フロー見直しとデジタルによる効率化などで、これらは短期的に効果が出やすく、中期経営計画の前半に利益インパクトを出しやすいと考えている。

レジゴーは来店客の約20%の利用率がある他、客単価もセルフレジと比較して約500円高い傾向にある。かつレジ関連労働時間は約30%削減されるなど生産性の向上にも貢献している。このように、グループの販管費約3兆円の約3割を占める人件費の中でレジ、発注、店出し、後方業務オペレーションの一部をデジタルに置き換え、ねん出された人時で新たな収益を創出していきたいとしている。

3点目は共通デジタル基盤の構築、整備で、今後の成長を支える基盤の構築や新たな収益源の創造などの先行投資型の施策。グループ各社の顧客IDや決済、購買データなどをグループの競争力に変えるデジタルインフラを構築し、広告収入など新たな収益源の創出につなげたり、データ、AI(人工知能)を活用してマーチャンダイジングによる利益改善を図る。これについては、昨年10月に立ち上げたイオンスマートテクノロジーが担う見込み。

需要の高まるネットスーパーについては、GMS、SM各社が積極的に取り組み、イオンリテールで20年度第4四半期、前年比130%以上など高い伸び率を示している。

同時に、オカド社が持つ最先端ノウハウを取り入れた新会社のイオンネクストの次世代ネットスーパー向けの物流拠点が23年に本格的な稼働を計画している。

「既存のネットスーパーをご利用いただく中で、一度限りというユーザーも残念ながら存在するなど、まだまだわれわれが取り込めていない大きなニーズが存在すると認識しているが、大きなシェアを持つプレーヤーがまだ存在していないことから、スピーディに収益化できるモデルを作り上げ、シェアを急速に高めていければと思っている」(吉田社長)

ネットスーパーは現在、イオンリテールを始めGMS、SMのグループ数社が店舗出荷型のネットスーパーに取り組んでいるが、これがオカド社のノウハウによる物流拠点ベースのネットスーパーとどのような関係になるのかは未知数であることも確か。

これについては、「基本的に事業としてのデジタルは個社別で積極的に進める」(吉田社長)との考えだ。まだ需要に対し供給が足りていないとの認識で、各社で伸ばしていくという方向性にある。

今回、特にリアル店舗があることを強みとしたい意向が明確に示された。同じ人が都合に応じてリアル店舗、ネット、あるいは店舗受け取りなどを自由に使い分けられる環境が重要だということだ。

リージョナルを追求し、「イオン生活圏」を創造する

デジタルシフトに加え、残り4つの成長戦略にはそれぞれ詳細な中身を持つが、幾つか注目点として挙げたい。1つ目は、強化する商品開発に関して「ローカルPB」、つまり「地域」という軸が登場したことだ。「生鮮三品とデリカ、ローカル商品について地域事業会社が主体となって開発を担う」(吉田社長)

これに先立って、19年3月にはマックスバリュ西日本とマルナカ、山陽マルナカの3社、19年9月にはマックスバリュ東海とマックスバリュ中部、20年3月にはイオン北海道とマックスバリュ北海道、マックスバリュ東北とイオンリテールの東北カンパニー、さらにダイエーと光洋、20年9月にはイオン九州とマックスバリュ九州、イオンストア九州の3社といったように、GMSとSMを含めた形で地域ごとに統合してきた。イオン東北では帳合統合による商品原価低減、本社組織のスリム化、修繕・設備管理業務の効率化などによって20年度、十数億円規模の統合効果を創出したという。

「世の中全体が、地域に着目し始めている。地域をどう活性化するかという課題を持っている。そう考えたとき、リージョナル単位での経営が今後、非常に重要になってきている」(吉田社長)

また、「イオン生活圏の創造」という考え方が登場したことも注目だ。「経済圏という側面での囲い込みより、もっと生活者目線で生活をさらに便利で豊かなものにする視点を持つという意志を込め、生活圏という表現をしている」(吉田社長)

これまで進めてきたリージョナルシフトの次のステップと位置づける。モールなどの地域拠点、電子マネーWAONなどの決済、デジタルを組み合わせることで、地域が必要とするサービスや社会資本の不足を補いながら、地域活性化に貢献するイオンの生活圏を構築していきたいとしている。

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