「安さは正義」、ディスカウントほどインテリジェントな小売りはない イオンビッグ 三浦 弘社長

2026.10.27

「値付け」で優劣が決まる時代

 イオングループでディスカウントストア(DS)事業を担い、「ザ・ビッグ」のブランドで店舗網を広げるイオンビッグ。本社を名古屋市中村区に置き、店数130店、2025年度の売上高は2950億円と、3000億円が目前となっている。

 基準となる売場面積5000㎡以上の「ザ・ビッグエクストラ」、主力フォーマットで2000㎡以上5000㎡未満の「ザ・ビッグ」、1000㎡未満の「ザ・ビッグエクスプレス」という3つのフォーマットを持つが、これはグループ内のDS企業の再編を重ねる中で構築されたものでもある。26年7月には横浜市初出店となる「ザ・ビッグ港南台店」をオープンするなど首都圏での存在感も高まってきている。

 そのイオンビッグのトップを務めるのは三浦 弘(みうら・ひろし)社長。1992年4月にダイエーへ入社し、2014年3月に同社執行役員DS事業本部長とビッグ・エー社長を兼務、18年3月からはアコレ社長も兼務、小型のDSを長らく手がけてきた経験を持つ。24年3月にイオンビッグに副社長として転じ、25年3月に社長に就任した。展開フォーマットの売場面積が一気に広がる形となったわけだが、DSの本質は同じともいえる。改めて三浦社長にDS経営の本質を聞いた。

 継続する値上げ基調は、小売業には概ね売上のかさ上げとなっている状況が見て取れるが、一方で業績の格差も目立つようになってきた。低価格を打ち出すディスカウントは値上げ局面の対応の難易度も高そうだ。直近の業績傾向はどのように推移しているのか。

 「実は2025年度は売上高が過去最高、営業利益も過去最高益でした。逆に今年3月に入ってからの26年度はいろんな要素があって厳しくなっています。大きな原因の1つは去年の『令和の米騒動』の裏年だということ。去年は米をかき集めていたこともありますし、また、輸入のカルローズ米も売れていました。

 また、実は去年の3月、4月は野菜の相場が結構高かったのですが、われわれは『野菜を買うならビッグ』ということでチラシにも載せて、その言葉に恥じないような安さと鮮度、品揃えにも力を入れていたので、売上がかなり上がりました。

 さらに去年はお米が高かった分、(代替として伸びた)パン、ベーカリーやカップ麺であったりパスタなど、そういったものの反動減は、やはり今年に入ってからありますね。一昨年の24年度対比では上がっていますので、昨年度対比ではこの反動減のところが一番影響が大きいのかなとは思っています。

 やはり特需を受けているときは(それが特需だと)分からないものですね。当時は必死に『米を集めろ』『輸入米も売るぞ』『パスタもどんどん売らないといけないだろう』と言っていたのですが、そのときには特需を受けているとあまり感じていなかったですね。それで翌年になって『あのとき、特需で得していたんだな』と感じるわけです。

 その反省も踏まえて次のことも考えていかなければいけません。9月には26年最大と言われる4900品目以上の値上げ、10月も3000品目以上、9月、10月で約8000品目が値上げされたと言われています。

 10月には酒税法改正でビールや酎ハイなどの税率が変わりました。この流れで年末の一番のお酒のピークに行く。今年はそこが一番大きいと思います。それで年が明けたら、確実に消費税減税に向けた買い控えが出てくるはずです。そこでもメーカーの値上げもありますので、ここからは本当に『値付け、売価設定』で優劣が決まって来るんじゃないかなということをすごく感じていますね」

 相次ぐ値上げ基調、減税といった環境変化を考えながらの値付けは難易度が高い。

 「連続して値上げが続きますが、どこまでお客さまに許容してもらえるかというのはカテゴリーや単品によって全然違います。同じ10円の値上げでも 、『10円は許容』というものもあれば、10円上げた途端にがくっと売上げが7掛け、8掛けにまで落ちるものもあったりします。

 よく外食のラーメンについて『1000円の壁』と言われたりします。1000円を超える価格は厳しいといった意味です。これについて、例えばラーメンは1000円なのかもしれないですけど、多分、うどんは1000円ではないでしょう。700~800円だと思うんですね。これと同じように『単品の壁』といったような、商品によってお客さまの値頃感のようなものがあると思います。

 デフレの30年を経験している中で、急にインフレのような状態、これだけ値上げが続くという経験は、たぶんいまのバイヤーも初めてです。しかも、お客さまの動向も変わっています。コロナであるとか昨今の猛暑、酷暑、また、地震などの自然災害を経験している中で、お買物動向はやはり変わっていると思うので、そこにアジャストできる会社が強いのかなと思いますね」

値上げの波が続く下期、ディスカウントの看板を傷つけずに転嫁できるかが問われる

PBと生鮮、デリカで差別化、「名物化」で局地戦

 値上げが進む中、節約志向が高まっているという向きもある。DSの店頭からは感じられるのか。

 「(節約志向は)強いと思います。ただ、『推し活』ほどではないですが、『使うところは使う』といった傾向もあると思います。消費の二極化で『K字型経済』と言われたりしますが、(所得などの違いというよりは)同じ人でも使うところとぐっと抑えるところが二極化しているような感じがします。

 私などが見ていても、意外なところにお金をかける一方で、『ここはシビアだな』と思うこともあります。特にステープル(定番)系などはシビアに見ていらっしゃると思いますね。

 その点、生鮮が強い企業は(生鮮の)価格を打ち出しやすいという点で、有利だと思うんです。魚でも、良い商品だったら『切り身よりも丸魚の方が鮮度感がある』ということで買われたりすると思います。もちろん、そこでさばいてくれることが前提にあるとは思いますが、やはりいまは生鮮の強いSM、あるいはディスカウント寄りの店であっても生鮮の強い店に有利に働いていると思いますね」

 その点で、イオンビッグとしては差別化の軸をどこに置くのか。三浦社長がまず挙げるのはプライベートブランド(PB)商品だ。

 「『節約』『簡便』『健康』はいま、そしてこれからもそうだと思いますが、5年、10年変わらない軸なのかなと思います。要は『コスパ(コストパフォーマンス)』『タイパ(タイムパフォーマンス)』『ヘルス&ウエルネス』といった部分は変わらない軸であろうと思います。

 中でも特に『節約』については、値上げに対しては価格に敏感になることを想定し、他社との差別化ポイントをしっかりとお客さまに打ち出していく必要があると思っています。その中で一番のポイントは、やはりプライベートブランド(PB)だと思うんですね。(新型)コロナ(ウイルス)禍を経て、また、インフレ下に入る中で正直、消費者のPBに対する見方、買い方、使い方が10年前、20年前と変わってきていると思います。

 それもあって、グループとして武器として使っている『トップバリュ』、(その低価格ラインの)『ベストプライス』に加え、われわれもいっしょになって、(イオングループのPB機能会社である)イオントップバリュ社といっしょに作っている、イオンビッグ中心にディスカウント業態で販売しているPBについても、もっとお客さまにしっかりと打ち出したいと思っています。

 PBは価格優位性もありますので、この値上げの中ではその部分が一番の押しになります。まずはそこを仕掛けていく。値上げのときに、何でもかんでも価格を維持していたら利益が飛んでしまいますが、逆に何でもかんでも一律で上げると、お客さまからしたら『高くなった』となってしまう。

 いまでもチラシを見たりしながら価格を比べていらっしゃるお客さまも多いですが、(いちいち確認しなくても)『イオンビッグは安いんでしょう』と思って買ってくださっているお客さまもいます。このお客さまが急に全体的に(価格が)上がってしまうと、『あれ、イオンビッグ高くなったな』と違うお店に行かれるなど、客離れにつながってしまいます。

 だから、何でもかんでも上げるのではなく、『これは上げるが、これは据え置く』といったことをしていかないといけません。原価は値上がりしている中、例えば価格を据え置いても売れ数が上がらないとか、むしろ、『ここは勝負だ』と価格を下げても売れ数が下がってしまうものもあったりします。逆に、上げても値頃感で売れて利益も取れるというものも当然、あります。やはり価格設定は難しいですし、重要です。ここのところがこの下期の非常に大きなポイントです」

 そのイオンビッグが強化しているPBを打ち出す中、興味深い事例があったという。

 「われわれは『ローコスト経営でディスカウント』ということが大前提にあるわけですが、その中で(POPを貼り替える手間がかからない)電子棚札の導入を進めています。大きさも若干大きいものを採用して、色も出るような形にしています。できるだけお客さまの目線で見るようにして、時間もかけて導入しました。『これでみんな楽になるね。消費税の減税のときも紙のPOPを貼り替える必要がなく、本社一括でできるね』という話もしていました。

 ただ、実際に付けてみると、紙のPOPとは目立ち方が全然違います。PBもNBも価格は分かるけれども、打ち出しに差が付かない。価格を分かりやすくするだけではなく、商品の魅力をどう伝えるかも大事だということに気づきました。

 そこで、ローコストが前提ではありますが、PBにだけは8月中に全店で紙のPOPを付けて、『われわれが自信を持ってお勧めするPBなんだ』ということを伝えるようにしました。本来は、お店の人手を使わないようにすることばかり考えているのですが、必要なことはやはりやらないといけないと思っています。

 お客さまからすると、われわれが思っているほどPBの商品を知っていただいているわけではなく、『見たこともない商品』と思われて、手に取り慣れたNBを選ばれているのかもしれません。だからこそ、商品の良さをきちんと伝えて、もっと手に取っていただくことが大事だと考えています」

 PB強化に加えてもう1つ、三浦社長がいまの環境下で「有利」になっているとする「生鮮の強さ」についても手を打っている。実験場になったのが、26年7月にオープンしたザ・ビッグ港南台店だ。1977年に「ダイエー港南台店」として開店し、「イオンフードスタイル港南台店」への転換を経て、今回、イオンビッグが引き継いだ物件だ。

 「当然、先ほどのPBもそうですし、グロッサリー、デイリーという、もともとわれわれが武器として戦っていたところがありますが、加えて生鮮とデリカです。そういう意味では港南台店で、デリカで当たったところ、お客さまからご支持をいただいたところはいま他の店舗にもどんどん広げていっています。

 港南台店では、実験的なところも含めて、できることは全てやろうと思って取り組みました。競合がきつい場所だっただけに、全てやろうと思いました。そこでうまくいったことは、できる限り(既存店に)波及させようとしています。

 フライの99円均一のばら売り、焼き鳥の87円均一のばら売りなど特にデリカでの取り組みが好評です。ディスカウントのデリカでは、『(売上高構成比)7%の壁』とよく言われていますが、ありがたいことに港南台店は7%を超えています。デリカ、例えば揚げ物などは『時短』の意味もありますが、どちらかというと暑さに対するソリューション(暑い時季に自宅で揚げ物を調理したくない)だと思うんです。

 こういった暑さ対策ともいえるようなこと、また、アウトレットのコーナー化といったことも含めて、港南台店で成功したことを活性化(既存店の改装)の際にはできるだけ前面に打ち出すようにしています。

 99円均一のインストアベーカリー、フライのばら売りももっとバリエーションを増やしながら広げていっています。87円均一の焼き鳥もそうです。また、本体価格197円の具だくさんの『たまごサンド』も非常に売れていまして、これは他の全店舗にも広げていっているところです。

 197円の弁当も予想以上に売れています。『だけ弁』と呼んでいまして、『唐揚げだけ』『シュウマイだけ』などありますが、ありがたいことに非常に売れていまして、(店舗を)広げていこうとしていますし、『白身魚だけ』や『メンチカツだけ』などSKUも増えていっています。

 いままでの『ディスカウントのデリカ』から一歩脱皮して、やはり、『良い物がこの値段で買えた』『賢い消費をした』『どうせ買うなら賢いお買物をしたいよね』というところに刺さる商品を『名物化』ということで農産、水産、畜産で作っていきたいですし、そういったところを打ち出すことをしていきます。

 デイリーもそうですが、やはり生鮮が強いと買い回り頻度が上がるので来店頻度が上がるということがあると思いますし、いまSMがディスカウンティングを始め、ディスカウントとSMの境界線がなくなってきています。そこの部分で逆にSMが強いところを取りに行かないといけないと思いますし、いまドラッグストアがどんどん食品を強化する中で、『何がドラッグストアとの差別化になるのか』というと、やはりドラッグストアはグロッサリー、デイリー、フローズン、リカーが中心であると思うので、生鮮、デリカを強化することは差別化になると思っています」

 畜産の名物化商品では1枚150gで本体価格970円の「国産黒毛和牛サーロインステーキ用」が目を引く。

 「いま肉の強いSM、ディスカウント企業が、肉で『ディスティネーション化(目的来店化)』をしていますが、そこに真っ向から取り組んで肉を展開するのは、戦い方として全然正しいと思っていません。

 だからそこは『名物化』の局地戦で、例えば牛であれば『黒毛和牛のサーロインステーキが、いつ行っても1000円以下』といったように『ステーキだけ』とか、豚であれば『豚バラだけ』『豚小間だけ』といったように、何か決めてやらないと、あれもこれもというわけにはいかないと思っています。それで、その商品を名物化していくことがわれわれディスカウンターとしての生鮮の戦い方だと思っています」

1枚150gの「国産黒毛和牛サーロインステーキ用」を本体価格970円で売り続け、名物化していく

3フォーマットは、「武器」が3つあるということ

 チェーンストア企業がマルチフォーマットを運営する事例は少なくないが、DSだけを複数フォーマット展開する事例は少ない。基本的に小型DSの単一フォーマットを展開していたビッグ・エーからDSを3フォーマット抱えるイオンビッグに移った三浦社長は、DSを3フォーマット抱えることの意義をどう見ているのか。

 「やはりチェーンストアの『要諦』というか、『クッキーアンドカッター方式』、同じクッキーの型のように、どんどん(店を)造っていくというのがチェーンストアの原理原則でもあるんですが、逆に3つのフォーマットで、しかも面積が違うということで、最初(イオンビッグに来たとき)、『これは不利なのかな』と思ったんです。

 ただ、よくよく考えると、3つ持っていることはすごい武器だなといまは思っています。(出店に当たって)エリアや物件をより好みしなくて良い。3つあるからどれかが当てはまるということもありますし、1つがうまくいかなかったとしても、他の2つの武器もあるということで戦える。

 エクスプレスが1000㎡未満に対してエクストラは5000㎡以上。5倍以上あります。今後、人口動態を含めていろいろと変わっていきます。基本的には少子高齢化で人口は減っていくわけですが、その中でフォーマットを3つ持っているのは、立地やエリアなどそこの人口動態に合わせられるという意味で武器になるといまは思っています。

 今後の出店については、一番多いのは真ん中の2000~5000㎡のザ・ビッグのフォーマットになりますが、どれが重点ということはありません。都市部であればやはり自ずとエクスプレスの物件が多くなりますし、今後、ロードサイドなどのエクストラもエリアによっては物件も出てきているので、そこが成り立つのであれば出店します。実際に年明けにエクストラを2店舗連続で出店する予定です。もちろん、都市部にはないですが、エクストラのニーズは確実にあります」

 今後の出店地域はどう考えているのか。

 「出店地域はいま12県にまたがっていますが、その中で人口動態なども含めて考えながらそこでまずドミナントを築いていく。当然、あっちもこっちもというわけではないので、基本的にはドミナントを集中させたいところを中心に出店を進めています。優先順位からすると名古屋圏、仙台圏です。

 静岡、山梨、長野にも店舗はありますが、やはり人口、世帯を考えるとそう(名古屋圏、仙台圏に注力)なってきます。神奈川はいま港南台店(横浜市港南区)のオープンで7店舗になっているんですが、小田原寿町(小田原市)、二宮(二宮町)、平塚真田(平塚市)、厚木旭町(厚木市)などとも離れているので、そこはドミナントにしていきたいと思っています(他、北部の相模原市に2店)」

 3フォーマットを運営する組織体制はどうなっているのか。

 「基本的に1つのフォーマットを運営するのが強いのは、人材教育、あるいは応援などもしやすいということがあります。ただ、いま3フォーマットでやってきているので、これらをブラッシュアップして、それぞれがもっと強いフォーマットになっていくことを目指します。面積で分かれているので、その面積の中でお客さまへの差別化ポイントやディスティネーション性をどこに求めるかを磨き上げて行って、常に変えていかないといけないのは事実です。

 現状の組織は1000㎡未満のエクスプレスだけ別組織で、2000㎡から5000㎡以上の2つのフォーマットはいっしょなんです。エクスプレスは商品部も分けています。売っている商品は基本的には共通ですが、エクスプレスはSKU数がぐっと下がりますし、ノンフーズの構成が違うということもあります。

 エクスプレスでは、基本的には(生鮮の)店内加工を極力減らそうとしています。減らして、それをわれわれが『マイクロPC(プロセスセンター)』と呼んでいるPCに移管していきます。各地に5つほどあるので、そこから小型店には基本的には持っていく形にします。それで、いままで(ある店に)肉の加工場があったとすると、そこで集中してデリカの商品を作って、他のお店に持っていくというようなことをしていきます。これから採用はさらに難しくなってきますし、今後、買い手市場になることはまずないじゃないですか。それを考えると、できるだけ省人化を進めないといけないと思っています。

 今年は山梨に肉のマイクロPCである甲府南PC(山梨県甲府市)を作りました。そこから山梨全店に供給します。

 幸い物流センターも山梨では自社で手掛けていますので、今度はそこの近くに魚のマイクロPCを作る予定です。1つの大きな実験でもあるのですが、いま山梨には13店ありますので、そこで全くバックルームを使わずに肉と魚を供給するようにしていきます。いろいろ試行錯誤をしているのですが、まず肉ができましたので次に魚を作るということですね。それで、今度は(店内の)肉と魚で働いてくださっている人にデリカに移ってもらってデリカを店内加工するとか、そういう形に人をうまく配置をしていくことを考えています。

 電子棚札もそうですが、作業を効率化して生み出した人時を、手をかける売場にスイッチすることをいまやっている途中ですね」

 一方で、デリカについては現状、PC化を急いでいない。投資とノウハウの壁が高く、自前で抱えるより取引先と組む方が合理的だという判断だ。

 「デリカもPCで作ることを将来的には構想として考えていますが、ただ、デリカのPCのノウハウの難易度、また投資もそんなに簡単なものではない。どちらかというとデリカは取引先と組んで、どうしたら『味が良くて、品質が良くて、しかも低価格で』というものが開発できるかをいっしょになって考えていくべきかなと思っています」

 また、生鮮、デリカについては一律に店内加工を減らすのではなく、地域別に考えることも重要になっているともいう。

 「もしかすると、『このエリアは魚も全部PCではなくて、一部は店内で切った方が良い』ということも出てくると思いますし、12県で展開していると全然ニーズが違うと思うところがあります。オールアウトではだめな県もあるなとは思いますし、一律型ではないと思います。

 チェーンストアであっても、グロッサリーやデイリーではローカルブランドも重要だといわれますが、生鮮の場合はそれが『加工』まで含めたものになってくると思います。しかも、先ほどの『K字型経済』ではないですが、いまは『これだけは』というこだわりが、お客さまの中で過去よりも強くなっているように思います。『魚だけは』、肉だったら『牛肉だけは』、デリカだったら『揚げ物だけは』『寿司だけは』といったこだわりが出てくる。水産の寿司が売れるのにはそういう背景があると思いますので、そこにはしっかりとお客さまの方を向いて対応していきたい」

 年商3000億円が目前だ。

 「よく店舗数でいうと200店舗、売上でいうと3000億円というのが1つの目安だと言われますが、いまちょうどそこに来ています。だから、非常に重要になってくるのはこの次だと思っています。早く5000億円にしないといけないと思いますね」

 ローコストの姿勢はネットスーパーに対しても一貫している。

 「いま、ネットスーパーは全くやっていないです。リアル店舗のみです。ただ、いま港南台店でもやっていますが、ウーバーイーツと組んでいます。その意味では、ウーバーイーツのアプリから商品を買ってもらって運ぶことはしています。また、ウーバーダイレクトという仕組みで、お客さまがお買物をしたものを届けるサービスも導入しています。

 われわれは販売管理費を削って価格を少しでも安くするディスカウントなので、いつ注文が来るか分からないところに人を充てることはやはり難しい。そこをウーバーイーツがやってくれるという形です。

 お客さまの要望にはできるだけ応えたいのですが、やはり(価格の)安さ(の重要性)がある。その安さを作り出すには作業をなくしてしまうか、減らすか、PCや本社などに集中するか、外出しにするか、なんです。

 外出しに関しては、受益者負担でお客さまが払ってくださっても良いというものはできるだけやろうと思っているんですが、自前でやるとすごくハイコストになってしまって、結局、全体の価格にも反映してきてしまうので、それはやめるようにしています」

 一方で決済手段についてはある程度コストをかけてでも選択肢を増やす。

 「港南台店ですごくプラスになっている1つの要素として、やはりクレジットカードやイオンペイなどが使えるということがあります。おそらく次の世代になれば、ここで(現金のみ対応の企業との)差が出てくると思うんですね。いまの若い世代は現金を持ち歩かずにスマホだけで買物に行く人が多いと思うんですね。

 『ディスカウントは現金しか扱えません』というのは、昔は通用したかもしれないですが、いまは通用しなくて、『それなら結構です』となってしまう。設備投資や手数料がかかりますが、そこはイオングループの強みで、『インテリジェント』です。逆に『乗っかれるものは乗っかろう』ということはディスカウンターとしてありますね(笑い)」

 イオングループであることのメリットは大きい。

 「PBもそうですし、決済の手段もそうですし、ITのところなどいろいろあります。ナショナルブランド(NB)商品の仕入れも、イオン商品調達でしているものと、当然ローカルブランドもありますし、イオン商品調達以外のNBは自社でやっていますので、そこはうまく使い分けています。基本的にはイオン商品調達で仕入れているものはそこから入れて、他のものは自分たちで、というような感じでやっています」

 共通調達では差がつかない。差がつくのは、原価そのものが違う商品である。港南台店でも常設のアウトレットコーナーが売りの1つとして掲げられている。

 「そこで大きいのがアウトレットです。これは全然違う原価で調達し、価格が出せます。今年3月にアウトレット調達の専任者を複数名配置しましたが、今後ここは増やしていきたいと思っています。やはり足で稼がないといけない仕事になりますので」

PB、NB共にイオングループであることのメリットは最大限生かす。決済手段の選択肢も同様

目指すのは「戸が笑う」店づくり

 日本のディスカウントには長い間、ある種、偏った見方が存在していた。1つは商品に対するもので、安いものは品質が悪いという見方である。もう1つは働く場に対するもので、安売りの店で働くことを胸を張って語りにくいという感覚である。前者は売場と品質で覆せるが、後者は覆すのが難しい。三浦社長は、この2つを同時に取り払おうとしている。

 「『安さは正義だ』と思っていまして。ディスカウントほどインテリジェントな小売りはないと思っています。というのは、ただ単に安くすれば良いというものではなく、そこには『仕組みがあるからこそ』ということが重要です。お客さまに見えない部分の自助努力もそうですし、お客さまに分かっていただける努力というのもあると思います。

 日本には『安かろう悪かろう』とか『安物買いの銭失い』という言葉があって、ディスカウントは『バッタ屋』と呼ばれたり、品質が悪いというイメージがずっと付きまとってきました。もしかすると、昔そういうところがあったのかもしれないですけれども、いまは(小売業で売上高が)世界で一番はディスカウントのウォルマート(全社ベースでは前期アマゾンが首位になったが、小売事業ではウォルマートが依然首位)ですし、アマゾンもやり方が違うといっても安さが重要ですし、(売上高上位で存在感が大きい)コストコしかり、アルディしかり、リドルしかりと考えていくと、やはりディスカウントをどこまで極められるかが小売りでは一番ではないかと思います。もちろん、お客さまにとっても一番分かりやすいのが価格だということにもなります。

 私が『安さ(やすさ)は正義だ』と思っているのは、お客さま本位でいかに安くできるかという『価格の安さ』だけでなく、『来店のしやすさ』『選びやすさ』『買いやすさ』といった『お買物のしやすさ』、さらに『精算のしやすさ』なども含めたそれらの『やすさ』が、『安かろう悪かろう』を排除するために絶対必要だと思っているからです。

 商品が入り乱れ、お客さま同士がすれ違うときによけながら『すみません』と言うような通路にはやはり選びやすさ、買いやすさは少ないと思いますし、そうしたお客さまの『不』を解消する『やすさ』が同時並行で、売場で実現できてこそ、ディスカウントが本当にお客さまから支持されると思っています。

 例えばいまガムを超えてグミが売れています。私からすると、30代の男性がグミを食べるなんてことは20年前には考えられなかったことですが、生まれたときからグミがあった世代は大人になっても普通にグミを食べている。状況は変わっています。だから同じように『ディスカウントも変えられる』と思うんです。

 『安かろう悪かろう』であるとか、『安物買いの銭失い』ということを、いまの子どもたちがディスカウンターで買物するときに思わないようになっていることが重要です。それが定着していくことで日本でも真のディスカウントストアも定着するのかなと思っています。昔ながらのディスカウントではなく、お買物しやすい、駐車場に入りやすいディスカウントに親に連れられて行っていた世代が親になったとき、当たり前のようにディスカウントで買物するということが日本で浸透するのかなと」

 この読みが、中期経営計画のテーマにそのまま置かれている。前半は商品と売場の話であり、後半は働く場の話である。

 「2030年に向けた中期経営計画の中で、『地域で一番頼られ、従業員が誇れるディスカウントストア』をつくろうということを大前提のテーマにしています。お客さまから一番頼られるというのは、『安かろう悪かろう』じゃなくて『安かろう良かろう』であって、『安物買いの銭失い』じゃなくて『安物買いは銭が残る』というような形になっていくことです。

 それで働いている人たちが誇りに思っている。働いている、パートに行っている、アルバイトに行っていることを申し訳なさそうにではなく、『われわれはディスカウントという一番インテリジェントな小売業をやっているんです』と従業員が誇れる会社、DSにしたいということが夢でもありますし、経営者の使命だと思っています。そうすることで、採用難の解消にもつながってくると思います。

 もう1つ、社内でずっと言っているのが、『戸が笑う』という言葉です。『三浦さん、いつも同じことばっかり言っていますね』というぐらい、新店ができたときだとか、改装した時だとか、『戸が笑うお店にしたい』と言っています。

 これは北川八郎先生という、九州の陶芸家であり哲学者のような人が出している本の言葉です。『何かはよく分からないが、お客さまが惹きつけられるお店は戸(扉)が笑っているように思える』ということを表したものです。なぜ、そう思えるのかと言うと、従業員同士、仲が良く、コミュニケーションも良くて、力を合わせて協力し合っているお店は、お客さまから『戸が笑っている』ように見えるんだと。そういうお店にお客さまは集まり、客数が増えるというわけです。

 パート(タイマー)さんなどの採用でも、働く前にお店を見に来ているはずなので、(戸が笑っていれば)働く仲間も増えるんだと。従業員が誇れるということでは、(従業員が)ご家族や友だちに『雰囲気はどう?』と聞かれたとき、『仲良くてすごく良いよ』となるお店にみんなが集まるようになるはずです。

 時間給を10円上げるといった『差』を強調するのではなく、ディスカウントでも『戸が笑う』お店を造りたいと思っています。次の世代になったときは、『イオンビッグはどのお店に行っても戸が笑っているよね』と言われるお店にしたいですね。

 マニュアルで『戸が笑う』ようにはできません。さらにAI(人工知能)でもなくて、やはり『人と人』だと思っています。その中にパワハラやセクハラ、過度な長時間労働などがあってはいけない。そういうものがないからこそ、『戸が笑う』お店になるわけです。それを作り出すのが経営者の仕事だと思っています。

 薄利多売の中で、どう知恵と工夫を積み重ねられるか。過去のような『気合と根性と体力で勝負』という時代ではないと思います。仕組みでやすさを実現する必要があります。『インテリジェント』と言ったのはそういう意味です。価格を安くする、お客さまにとっては買いやすい、選びやすいということも合わせて『ディスカウント』だと思っているので、それができれば従業員も誇れるDSになっているのかなと思います。そういった意味では、手前みそかもしれませんが、ディスカウントは一番インテリジェントな小売業だと思っているということです。

 社内では『環境が厳しいときは、下を向かないでお客さまの方を向かないといけない』という話をしているんですが、そうしていきたいと思いますし、日ごろからそういう癖を付けておきたいと思っています。そこができたところが、たぶん一歩抜け出せるところになると思います。しかもそれをローコストでできる。だからこそインテリジェントなのかなというところですね」

 最後に、日々どの数値を見ているのかを尋ねた。複数設定しているKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)の数字は毎朝全て確認するというが、その中で最も気にしているものが2つあるという。

 「やはり、すごく気になるのはPBの構成比ですね。PBが受け入れられているかどうかは差別化のポイントですし、イオングループの強みでもあり、われわれとしてイオントップバリュ社といっしょになってDS専用のPBを作っていることもあります。ノンフーズなど自社で作っているものも含めて、いま(売上高)構成比は3割弱です。一方で、これをどんどん高めようとは思いません。そうするとお客さまへの押し付けになってしまうので、あまりそこは追求したくないなとは思っています。

 もう1つ、いますごく気にしている数字は、従業員の家族とか、友達とか、あるいはアルバイトから会社に入ってくる人数です。これを増やしたいと思っているので、常に確認しています。『地域で一番頼られ、従業員が誇れるDS』を目指す中で、それが『戸が笑う』お店になることにつながると思うんです」

 「安さは正義」と言い、日本におけるDSを追求し続ける三浦社長。その三浦社長が「戸が笑う」という、まさに「人が作り出すもの」を重視している点は興味深い。われわれはローコストというとつい「人を減らす」ことばかりに注目しがちだが、イオンビッグが目指す境地が「戸が笑う」DSづくりであることを考えれば、同じく三浦社長が強調する「ディスカウントほどインテリジェントな小売りはない」という言葉も、さらに深みを持った形で聞こえてくる。

インテリジェンスを駆使して、「戸が笑う」DSを目指す

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