ニューノーマル時代のシニア攻略を考える。ターゲットを絞るか、広げるか
2022.04.21
2020.10.09
ラディック代表 西川立一
2013年に、団塊の世代が65歳に達し、4人に1人が65歳以上となり、今年は65歳以上の高齢者が全体の約3割を占めるまでになり、シニアマーケットの攻略がますます必要とされている。しかし、残念ながら十分シニアを取り込むことができていないのが実情ではないだろうか。
東京・大森の商店街にある「MEGAドン・キホーテ大森山王店」。かつては「ダイシン百貨店」ということで「百貨店」と名が付いているが、食品、住居用品、衣料品を取り扱う総合スーパー(GMS)だった。
1964年に開業し、長年地元住民に親しまれ、シニア御用達の店としてマスコミにも多く取り上げられたが、16年、ドンキホーテホールディングス(現パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)が経営権を獲得し、「ダイシン百貨店」の屋号としては50年余りの歴史に幕を閉じた。
シニア御用達の店だった、ダイシン百貨店の弛まぬニーズ対応漬物売場は300アイテム
いまは、ダイシン百貨店時代の面影はまったく残っていないが、残した痕跡から有効なシニアのアプローチの手法を読み取ることができる。
まず挙げられるのが「商圏半径500mシェア100%主義」。2万人が訪れる夏祭りに代表される住民を巻き込んだイベントの開催や無料の送迎バスの巡回。また、実現しなかったが、医療機関などと連携したポイントカードの地域通貨化といった施策で地域密着に徹した。
肝はシニア世代のニーズへの対応を、徹底的に継続して行ったこと。その結果、漬物300、みそ180、ペットフード3000というとてつもない品数が売場に並ぶことになった。
二層式洗濯機、カセットテープ、柳屋のポマード、アルマイトのやかんといった、シニア世代の慣れ親しんだアイテムを品揃えするなど、効率重視で売れ筋を追い求めるのではなく、1年に数個しか売れない死に筋商品も置き続けた。
昔ながらの高齢者アイテム「もんぺ」をスラックス仕様にしたもんぺスラックスも充実させ、年間2万本を販売した。
その結果、「ダイシンに来れば欲しいものがある。ダイシンでしか手に入らないものがある」ということになり、シニアをがっちり捕まえることに成功したのだ。
戦略的なマーケティングでシニアの取り込みを図るイオン
マーケティング戦略を立て、総合的にシニアの取り込みを狙ったのがイオンだ。
キーワードは「グランドジェネレーション(G.G)世代」。55歳以上を対象に、従来のシニアの「シニア=高齢者」への対応という考えから脱却し、新しいシニア像を提唱した。
少し長いが、イオンが想定したG.G世代のイメージを紹介してみよう。
「近頃、ボクたちの世代はグランドジェネレーションって呼ばれているらしい。略してG.G(ジージー)ダジャレかね? でもグランドって響きは悪くはない。グランドピアノは、最上級のピアノ。つまり、人生で最上の世代を楽しめってことだ。一緒に花なんか育てて一生においしいものを食べて。やりたいことは、いっぱいある。まずは一緒に買物に行こう孫なんかつれてさ。」
脚本家の小山薫堂氏によるものだそうで、なんとも心地よいフレーズが並ぶ。こうした考えに基づいて、ファッションやホビーなどを提案したのが7年前。
イオン葛西店をリニューアルし、G.G世代向けに「Grand Generation’s Mall」の1号店を出店した。
「大人が“わたし”を楽しむ場所。」をコンセプトに、シニアを意識して、カフェ、カルチャー、フィットネスといった機能を備え、食品売場では、軽量のミニカートを用意、コンシェルジュ、即日配送といったサービスも導入した。
こうした取り組みはその後、検証を重ねて修正を加えながら新たな施策も投入し、シニア人口の多い店舗にも導入され、現在に至っている。また、電子マネー「G.G WAON」の特典や割引なども効果を発揮しているという。
シニアに絞り込むか、オールターゲットにするべきか?
サブカルで若者の絶大な支持を得て、その後ショッピングセンターに進出、ファミリー層を取り込んだ「ヴィレッジヴァンガード」。品揃えを変えて、シニア向けの新フォーマットの「ホームカミング」を開発、多店舗化に取り組んだが、残念ながらもくろみどおりにいかなかったようで、主婦を意識した店づくりに転換した。
ドラッグストアのサンドラッグも、シニア向けコンビニ「サンドラッグCVS」を展開したが、シニアの色合いは薄れ、チェーン展開のスピードも上がっていない。
これらに対して、シニアをターゲットにするのでなく、世代を意識せず、高齢者を取り込んでいるのがユニクロ。
広告でシニア世代を起用しアピールしたことはあったが、シニア向けの商品開発は一度もしたことはない。しかしながら、シニア世代からも支持を得ている。
その理由は、「LifeWear」をコンセプトに、すべての人のための服づくりを掲げて、誰でも着られるベーシックアイテムを提供していることによる。
シニアマーケットはこれからも拡大の一途をたどる。新たな需要喚起策が必要とされているが、シニアにこだわるあまり、かえって取り逃がしてしまうこともあるのではないか。
ダイシン百貨店のような徹底的なニーズへの対応はもちろん、これからも必要だろし、イオンのようなマーケティングも重要な取り組みだろう。一方で、ユニクロのようにターゲットフリーにして、「結果的に」シニアを取り込む戦略もある。ユニクロの事例からは、そうした逆転の発想も有効であることが伝わってくる。