ビヨンドミートをはじめ、「食品ベンチャーの台頭」イノベーティブな商品はどうやって生まれるのか?
2022.04.12
2020.10.13
イノベーティブな商品はどうやって生まれるのだろうか? その1つの答えが、スタートアップ企業にある。世界では数々の食品ベンチャーが奮闘中だ。
彼らは小さいが、情熱にあふれ、行動力に長けたリスクテイカー。他社がまだやっていない、新しいことに果敢に挑戦する。そして彼らの中から、世の中に真のインパクトを与える企業が出てくるのだ。
当社のInnovaグローバル食品データベースを見ていて、「あ、この商品、とてもクリエイティブで面白い!」と思うことがある。よくよく調べてみると、創業して間もないスタートアップ企業の商品であることが多い。特にベンチャー大国のアメリカの事例が目立つ。しかも20~30代の若い起業家が、非常にアグレッシブかつミッション性を持って、事業に取り組んでいる。
コロナ状況下にあるにもかかわらず、アメリカではスタートアップが増えているというから驚きだ。大変悔しいことだが、日本とは全く勢いが異なる。この世界の動向から、われわれ日本人が参考にできることは多い。そのヒントを書きたい。
ベンチャーが世界の食品産業をけん引し始めた
マーケットでは多くの企業が、し烈な戦いを繰り広げている。たとえば、コカ・コーラvs.ペプシ、マクドナルドvs.バーガーキングは、しのぎを削る、言わずと知れたライバル関係だ。少なくともかつてはそうであった。
しかしいまの時代、多くの消費者は、これらの企業の商品と商品に、さほど違いを見いだしていない。作り手の顔や、尖った個性が見えにくいからだ。大手vs.大手という構図ではなくなり、大手と革新的なベンチャーが、入り乱れて競合する時代に入った。
一昔前は、起業は大変なことであった。お金もなければ、情報もなければ、販路もない。しかしいまは違う。誰でもその気になれば事業を立ち上げることができる。クラウドファンディングで資金調達ができるし、あらゆる情報がインターネットで手に入る。
商品をスーパーの棚に陳列しなくとも、ネットショップで販売することができる。ソーシャルメディアやYouTubeを駆使すれば、無料で世界に向けて情報発信ができる。一個人が、大手企業をしのぐプロモーションをすることだって不可能ではない。
時代が、スタートアップを後押ししていると言えよう。いまや破竹の勢いでビジネスを展開する、植物肉のビヨンドミート(アメリカ)だって、2009年創業の駆け出しの企業だ。しかも主要株主としてビルゲイツが名を連ねる。食品ベンチャーは、ITベンチャーに勝るとも劣らない注目の的となった。
小さい企業だからこそ、ストーリーが魅力的
当社で18年に実施した調査によると、アメリカ人とイギリス人の約40%が、「小さいブランドの方が情熱にあふれており、個人的なストーリーを持っているから、より魅力的だ」と回答している。特に00年以降に成人を迎えたミレニアル世代にその傾向が強い。
スタートアップする人たちの大半は、個人的な経験がきっかけとなり、強い信念を持ち創業する。それ自体が物語なのだ。もちろん十分なリソースなんてあるわけない。だから得意分野に集中する。
結果、その分野で目立つ存在となる。たとえば、伝統やクラフトへの徹底的なこだわり、また地元農家との愛ある連携など、想いを差別化につなげる工夫が見られる。しかもスピードが速い。大手企業が、稟議書をじっくりゆっくり回して、「よっこらしょ」と重い腰を上げている間に、ベンチャーは実践と失敗を繰り返し、経験を積み上げる。
以下のRebel Ice Creamは、若い夫婦が立ち上げた小さな企業だ。17年にクラウドファンディングを活用し、たった3時間で目標額を達成、最終的には約800万円の資金調達を成し遂げた。コンセプトはケトジェニックのアイスクリームだ。
ケトジェニックとは、いまアメリカで非常に人気の食事法で、低糖質かつ高脂質が身体に良いという考え方。これをアイスクリームに応用し、おいしさと健康を両立した。大手企業が思いつきそうで、でもやっていなかったニッチ市場。ここにいち早く目を付け、短期間で支援者(ファン)を増やした。
当初はオンラインショップからスタートしたが、いまや全米各地のスーパーで取り扱われるまでになった。
大企業によるベンチャー取り込み戦略
ではこれからの時代、大手企業はベンチャーに簡単に凌駕されてしまうのか? もちろん、そんなことはない。大手には大手の強みがある。資金力、技術力、世界中に張り巡らせた販路など、長期に渡り培ってきたものは大きい。
問題が生じるとしたら、その優位性にあぐらをかいてしまうことだ。これだけ世の中の変化が激しいと、気が付いた時には、周回遅れになりかねない。自分たちの弱みを客観的に理解し、危機感を抱いている大手企業が取るべき戦略がある。それはポテンシャルの高いスタートアップ企業を、早い段階で仲間に引き込むことだ。
ネスレやダノンやケロッグなど、世界の食品大手は、独自のベンチャー投資育成機関を持っている。有望なベンチャーに出資し、技術面で支援し、そして販路も紹介する。それにより、自分たちにはない革新的なアイデアとスピ―ドを手に入れるのだ。
ベンチャーにとってもこれはありがたい仕組みである。多くの零細企業はキャッシュフローが厳しく、ヒヤヒヤの綱渡り経営(私自身もかつて経験がある。)。また自分たちの力だけでは、販路を効率的に広げることは難しい。大手が支援してくれることにより、尖った素晴らしい商品を、短期間で世の中に広めることができるという訳だ。
上述のビヨンドミートも、ゼネラルミルズの「301 Inc.」の仕組みを活用し、急速に成長した企業の1つ。圧倒的とも思える成功の裏には、このような大手とのパートナーシップがあったのである。興味深い。
両輪が噛合ったときにイノベーションが生まれる
このように、大手とベンチャーがお互いの強みと弱みを把握し、それを補完する形でパートナーシップを組むことにより、相乗効果が生まれやすくなる。投資育成機関としての食品大手は、常に「Future of Food」「Game Changer」を探している。最近では、健康的な原材料と透明性にこだわったクリーンラベル商品や、社会的課題の解決を目指した商品が注目されやすい傾向にある。
日本ではなかなかベンチャーが育たないと言われる。一方で、私自身、海外の食品関係者と常にやり取りをしている中で、彼らから頻繁に言われることがある。「日本の食品は独特でクリエイティブだ」と。
そう、われわれにはイノベーションの素地があるのだ。足りないのは、奇抜とも思えるビジネスアイデアを本気で発掘し、育てるスキーム。大手とベンチャーが組んで、世界をアッと言わせるビジネスに挑戦してみる。このような仕組みが、コロナ時代の日本にとって、突破口となりうるのではないだろうか。
※記事中の画像・グラフは、当社Innova Database及びInnova Reportsより引用