ビヨンドミートをはじめ、「食品ベンチャーの台頭」イノベーティブな商品はどうやって生まれるのか?

2020.10.13

Innova Market Insights 田中良介

イノベーティブな商品はどうやって生まれるのだろうか? その1つの答えが、スタートアップ企業にある。世界では数々の食品ベンチャーが奮闘中だ。

彼らは小さいが、情熱にあふれ、行動力に長けたリスクテイカー。他社がまだやっていない、新しいことに果敢に挑戦する。そして彼らの中から、世の中に真のインパクトを与える企業が出てくるのだ。

当社のInnovaグローバル食品データベースを見ていて、「あ、この商品、とてもクリエイティブで面白い!」と思うことがある。よくよく調べてみると、創業して間もないスタートアップ企業の商品であることが多い。特にベンチャー大国のアメリカの事例が目立つ。しかも20~30代の若い起業家が、非常にアグレッシブかつミッション性を持って、事業に取り組んでいる。

コロナ状況下にあるにもかかわらず、アメリカではスタートアップが増えているというから驚きだ。大変悔しいことだが、日本とは全く勢いが異なる。この世界の動向から、われわれ日本人が参考にできることは多い。そのヒントを書きたい。

ベンチャーが世界の食品産業をけん引し始めた

マーケットでは多くの企業が、し烈な戦いを繰り広げている。たとえば、コカ・コーラvs.ペプシ、マクドナルドvs.バーガーキングは、しのぎを削る、言わずと知れたライバル関係だ。少なくともかつてはそうであった。

しかしいまの時代、多くの消費者は、これらの企業の商品と商品に、さほど違いを見いだしていない。作り手の顔や、尖った個性が見えにくいからだ。大手vs.大手という構図ではなくなり、大手と革新的なベンチャーが、入り乱れて競合する時代に入った。

一昔前は、起業は大変なことであった。お金もなければ、情報もなければ、販路もない。しかしいまは違う。誰でもその気になれば事業を立ち上げることができる。クラウドファンディングで資金調達ができるし、あらゆる情報がインターネットで手に入る。

商品をスーパーの棚に陳列しなくとも、ネットショップで販売することができる。ソーシャルメディアやYouTubeを駆使すれば、無料で世界に向けて情報発信ができる。一個人が、大手企業をしのぐプロモーションをすることだって不可能ではない。

時代が、スタートアップを後押ししていると言えよう。いまや破竹の勢いでビジネスを展開する、植物肉のビヨンドミート(アメリカ)だって、2009年創業の駆け出しの企業だ。しかも主要株主としてビルゲイツが名を連ねる。食品ベンチャーは、ITベンチャーに勝るとも劣らない注目の的となった。

ビヨンドミートは2019年にNASDAQに上場

小さい企業だからこそ、ストーリーが魅力的

当社で18年に実施した調査によると、アメリカ人とイギリス人の約40%が、「小さいブランドの方が情熱にあふれており、個人的なストーリーを持っているから、より魅力的だ」と回答している。特に00年以降に成人を迎えたミレニアル世代にその傾向が強い。

スタートアップする人たちの大半は、個人的な経験がきっかけとなり、強い信念を持ち創業する。それ自体が物語なのだ。もちろん十分なリソースなんてあるわけない。だから得意分野に集中する。

結果、その分野で目立つ存在となる。たとえば、伝統やクラフトへの徹底的なこだわり、また地元農家との愛ある連携など、想いを差別化につなげる工夫が見られる。しかもスピードが速い。大手企業が、稟議書をじっくりゆっくり回して、「よっこらしょ」と重い腰を上げている間に、ベンチャーは実践と失敗を繰り返し、経験を積み上げる。

以下のRebel Ice Creamは、若い夫婦が立ち上げた小さな企業だ。17年にクラウドファンディングを活用し、たった3時間で目標額を達成、最終的には約800万円の資金調達を成し遂げた。コンセプトはケトジェニックのアイスクリームだ。

ケトジェニックとは、いまアメリカで非常に人気の食事法で、低糖質かつ高脂質が身体に良いという考え方。これをアイスクリームに応用し、おいしさと健康を両立した。大手企業が思いつきそうで、でもやっていなかったニッチ市場。ここにいち早く目を付け、短期間で支援者(ファン)を増やした。

当初はオンラインショップからスタートしたが、いまや全米各地のスーパーで取り扱われるまでになった。

Rebel 7G Net Carbs Cookie Dough Ice Cream(United States, Sep 2018)。砂糖不使用(no sugar added)、低糖質(low carb)、高脂質(high fat)の、KETOスタイルのアイスクリーム

大企業によるベンチャー取り込み戦略

ではこれからの時代、大手企業はベンチャーに簡単に凌駕されてしまうのか? もちろん、そんなことはない。大手には大手の強みがある。資金力、技術力、世界中に張り巡らせた販路など、長期に渡り培ってきたものは大きい。

問題が生じるとしたら、その優位性にあぐらをかいてしまうことだ。これだけ世の中の変化が激しいと、気が付いた時には、周回遅れになりかねない。自分たちの弱みを客観的に理解し、危機感を抱いている大手企業が取るべき戦略がある。それはポテンシャルの高いスタートアップ企業を、早い段階で仲間に引き込むことだ。

ネスレやダノンやケロッグなど、世界の食品大手は、独自のベンチャー投資育成機関を持っている。有望なベンチャーに出資し、技術面で支援し、そして販路も紹介する。それにより、自分たちにはない革新的なアイデアとスピ―ドを手に入れるのだ。

ベンチャーにとってもこれはありがたい仕組みである。多くの零細企業はキャッシュフローが厳しく、ヒヤヒヤの綱渡り経営(私自身もかつて経験がある。)。また自分たちの力だけでは、販路を効率的に広げることは難しい。大手が支援してくれることにより、尖った素晴らしい商品を、短期間で世の中に広めることができるという訳だ。

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グローバル食品企業それぞれが、独自のベンチャー投資育成機関を保有する

上述のビヨンドミートも、ゼネラルミルズの「301 Inc.」の仕組みを活用し、急速に成長した企業の1つ。圧倒的とも思える成功の裏には、このような大手とのパートナーシップがあったのである。興味深い。

両輪が噛合ったときにイノベーションが生まれる

このように、大手とベンチャーがお互いの強みと弱みを把握し、それを補完する形でパートナーシップを組むことにより、相乗効果が生まれやすくなる。投資育成機関としての食品大手は、常に「Future of Food」「Game Changer」を探している。最近では、健康的な原材料と透明性にこだわったクリーンラベル商品や、社会的課題の解決を目指した商品が注目されやすい傾向にある。

Quevos Cheddar Flavor Egg White Chips(United States, Jun 2019)。卵白が主原料の健康チップス。創業者は20代前半の2人の若者。糖尿病を患っている人でも気にせず食べられるというコンセプト。プロテインとファイバーが豊富。クラフト・ハインツのSpringboard Incubatorを活用し開発

日本ではなかなかベンチャーが育たないと言われる。一方で、私自身、海外の食品関係者と常にやり取りをしている中で、彼らから頻繁に言われることがある。「日本の食品は独特でクリエイティブだ」と。

そう、われわれにはイノベーションの素地があるのだ。足りないのは、奇抜とも思えるビジネスアイデアを本気で発掘し、育てるスキーム。大手とベンチャーが組んで、世界をアッと言わせるビジネスに挑戦してみる。このような仕組みが、コロナ時代の日本にとって、突破口となりうるのではないだろうか。

※記事中の画像・グラフは、当社Innova Database及びInnova Reportsより引用

たなか りょうすけ Innova Market Insightsの日本カントリーマネージャー。世界の食品トレンドを読み解き、日本へその知見・視点を伝え、企業の商品開発やマーケティング活動を支援している。自身もかつては食品企業で、苦労しながら商品開発と販売をしていた経験あり。日本と世界をつなぐ懸け橋となり、クライアント企業と一丸となって食産業の発展に貢献することがミッション。Innovaでは90カ国以上をカバーし、新製品情報、消費者動向、原材料トレンド、市場規模データなど、多様化が進む現代の食品産業を、あらゆる角度から深いレベルまで分析できるデータベースを提供している。

HP: https://www.innovamarketinsights.com/

世界の最新食品トレンド情報: https://55auto.biz/innovami-japan/registp.php?pid=1

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