2021年版:世界の食品トップ10トレンド(後編)

2020.12.14

Innova Market Insights 田中良介

毎年、当社が世界的に発表している「トップ10トレンド」の、トレンド6~10を紹介する。1~5については、前回執筆したので、まだ読んでいない方は、まずそちらから読み進めて欲しい。

繰り返しになるが、このトレンドは単なる表層的ブームを描いたものではない。世界の膨大なデータと深い分析を通して得られた、食品企業が社会に貢献し発展を続けるための、指針となる情報源だ。

トレンド6:栄養テクノロジー

テーラーメイド(トレンド3)や免疫力(トレンド5)にも関連するが、消費者は効率的に優れた栄養を摂取したいと考えている。栄養価に富んでいて、体への吸収も良く、砂糖などの余分な原材料は使われていない…。現代における食品技術の進歩が、このようなハイクオリティ食品を可能にしている。

しかし同時に、消費者の中には、次のようなジレンマが芽生えてきている。

「最先端のテクノロジーを駆使して製造された食品は、果たしてナチュラルと言えるだろうか?」

専門家でもない限り、複雑な食品技術を理解することは難しい。だから、どれだけ高栄養価をうたわれても、得体の知れないものを摂取するような、一抹の不安が付きまとう。不安の程度は消費者によってさまざまだが、当社グローバル調査の結果が参考になる。

世界の半数以上の消費者が「自分に最適な栄養や食事を摂取するために、ナチュラルさを妥協しても致し方ない」と答えているのだ。

ここから言える食品企業に求められる戦略はどのようなものか。それは最新テクノロジーを大いに活用する一方で、ナチュラルとの最適バランスを見いだす必要がある、ということだ。

トレンド7:ムード・次なるチャンス

身体だけでなく、心や感情に対する健康ニーズが高まっている。それに伴い近年、メンタルサポートを目的とした食品が伸長中だ。日本でもリラックスやストレス低減を意図した製品が徐々に増えてきている。

まだ規模が大きいとは言えないが、特に成長率が際立っているのが、集中力や記憶力といった領域だ。脳機能については、あらゆる最新研究が進められていて、未来に向け、食品への応用ポテンシャルが非常に高いと言えよう。

もう1つ特筆すべきは、睡眠をターゲットとした食品群だ。

いままでの一般常識では、就寝前はあまり食べない方が良い、という考えが主流だった。その通念が変わろうとしている。

例えばコカ・コーラが中国向けに発売したコラーゲンペプチドとGABAを含んだドリンク。寝る前に飲めば、快適な睡眠を促進し、さらに美肌にもつながるというコンセプトだ。またプロテインにおいても、テアニンを配合し、就寝前の摂取を前提とした製品も見られる。これら領域は、今後の伸びしろが大きい。

トレンド8:製品マッシュアップ・トレンドの衝突

マッシュアップとはもともと音楽用語で、2つ以上の音源から、例えばボーカルと伴奏をそれぞれ取り出し、重ね合わせるリミックス手法のことを言う。

食品においても、このような要素の掛け合わせが注目されている。世界の多くの消費者が、スマホやソーシャルメディアを通して、随時新しい情報やトレンドに触れている。

だから潜在的に普通では物足りず、常に目新しい魅力を求めてしまうのだ。このニーズに応えるため、ハイブリッド型の食品が多く見られるようになった。

例えば、中国ではチーズティーが流行っているが、それとピザを掛け合わせた「飲むピザ」が企業コラボから生まれている。またベトナムでは、新型コロナウイルスの影響で売れ残ったドラゴンフルーツの美しいピンクの色合いを、パンに練り込んでいる。これはサステナブルも意識した取り組みだ。

何と何をマッシュアップするかがポイントとなる。いま伸びているトレンドや原材料などを意外性とストーリー性をもって掛け合わせるのが良いだろう。

トレンド9:モダン・ノスタルジア

各国で培われた伝統食品は、その地域にとって代えがたい財産である。本トレンドではこのことを「ノスタルジア」と呼んでいる。これがすべての基本だ。最近では、国よりも小さな単位である地方に消費者の意識が向き始めている。ローカルの伝統を見直そうという流れだ。

一方で、新しい概念、新技術、また他国の食文化の中にも、尊重すべき価値があることは言うまでもない。これが「モダン」だ。特にグローバル化が進んだ現代においては、モダンの躍進は無視できない。

モダンとノスタルジアのどちらが良い悪いではない。いま世界的に増えてきているのは、伝統食を、現代風にアレンジする、または他文化と掛け合わせる「モダン・ノスタルジア」の概念だ。

アメリカのMoshiというブランドで発売されたユズジソジュースが参考になる。ユズもシソも日本発の原料だが、この会社は、さらにリンゴと掛け合わせたスパークリング仕立てにしている。

しかもシソを「チャーミングなピンク色を醸し出す、赤色のハーブ」と紹介している。シソがチャーミングなピンク? 日本人からすると、伝統的なイメージと異なるが、これこそがモダン・ノスタルジアの典型的な商品開発パターンと言える。

われわれ食にかかわる人間は、ノスタルジアもモダンも尊重し、柔軟な発想をもって、それぞれの価値を引き出さなければならない。

トレンド10:インフルエンサーの時代

ますます多くの人がソーシャルメディアを使う時代。食品のブランドイメージ構築にはインフルエンサーの存在が欠かせなくなった。またデジタルマーケティングの急速な発展に伴い、特定の顧客属性にターゲットを絞り、最適なメディアを活用していくことも必要だ。

たとえば、イギリス人はテレビや料理本を見ることが多い一方で、中国人はWeChatやウェイボーを主な情報源として重宝している。

ただし、当社のグローバル調査によると、世界の40%の消費者は「インフルエンサーは真実を語っていない」と考えている。特定企業や何らかの組織の意向に沿った、バイアスかかった発信をしているのではないか? という疑いだ。

そこで最近注目されているのが、KOC ―Key Opinion Consumersだ。これは自身の消費体験をもとに、リアルな口コミをするインフルエンサーのことを言う。一般の消費者に限りなく近い存在だ。特に中国でKOCを活用したマーケティングが盛ん。このように世界でインフルエンサーの多様化が進んでいる。

また、北米で女性向けに健康スナックを展開しているTruWomanという企業の戦略もおもしろい。創業者は女性で、自らの体験を通して、女性が気兼ねなく食べられるスナック製品を開発した。

役員の大半に女性を登用し、また女性の消費者に徹底したヒアリングを実施。企業の取り組みそのものが、インフルエンサー的であり、女性向けビジネスを展開していることに説得力を与えている。

世界同時トレンド加速時代、「モダン・ノスタルジア」に着目せよ

世界トレンドは、日本より数年先を行っていると言われることが多かった。しかし、新型コロナウイルスの影響で、世界で同時にトレンドが加速しているというのが、世界と日本を両面から見ている私の体感だ。

紹介した10のトレンドは、多かれ少なかれ、すべて今の日本市場に応用できる。ただし、海外のトレンドを盲目的に取り入れろと言っているわけではない。日本には誇るべき伝統がある。私が伝えたいことは、日本と各国の食に敬意を表しながら、視野を広く保ち、新しい時代に求められる「モダン・ノスタルジア」を追求しようということだ。

※記事中の画像・データは、当社Innova Database及びInnova Reportsより引用

たなか りょうすけ Innova Market Insightsの日本カントリーマネージャー。世界の食品トレンドを読み解き、日本へその知見・視点を伝え、企業の商品開発やマーケティング活動を支援している。自身もかつては食品企業で、苦労しながら商品開発と販売をしていた経験あり。日本と世界をつなぐ懸け橋となり、クライアント企業と一丸となって食産業の発展に貢献することがミッション。Innovaでは90カ国以上をカバーし、新製品情報、消費者動向、原材料トレンド、市場規模データなど、多様化が進む現代の食品産業を、あらゆる角度から深いレベルまで分析できるデータベースを提供している。

HP: https://www.innovamarketinsights.com/

世界の最新食品トレンド情報: https://55auto.biz/innovami-japan/registp.php?pid=1

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