消費者データから見る「新型コロナ」緊急事態宣言解除前後の生活者の変化

2022.04.12

2020.08.07

新型コロナウイルスは小売業界を大きく変えた。必需品を販売するスーパーマーケット(SM)やドラッグストアには多くのお客が集まり、全体の売上げを押し上げた他、マスクやトイレットペーパーなどの紙類、あるいは小麦粉やカップ麺など特定の分野の商品が軒並み欠品した。

一方、食品などの必需品以外の衣料品や住居用品を主力とする小売業、あるいは飲食店、サービスなどを提供する店は、当局の自粛の要請もあってお客は減り、売上げはかつてないほどの減少となった。

結果として、SMなどの小売業で働く人は、医療従事者などと同様にエッセンシャルワーカーとして、世間の感謝の念を集めた。一方で、感染のリスクにさらされた状態で業務に当たる従業員に対するケアへの関心が一気に高まった。

右肩下がりのチラシデータに回復の兆し、しかし…

「3密」を防ぐという新たな方針が広まる中、場合によっては入店を制限するほどの状態になったことで、当然ながら集客を目的とした販促は一斉に減ることになった。図表①はロコガイドが提供するトクバイサービスを利用するスーパーマーケット(SM)のチラシデータの投稿状況を示したものだが、問題が深刻度を増してきた時期でもある3月15日を境に、それまでほぼ一定だった投稿状況が、まさに右肩下がりに減ったことが分かる。

特定警戒地域(北海道、関東1都3県、大阪府、兵庫県、福岡県)については、最も下がった5月3日週には1月5日週比で40%を割ってしまっている。その他府県、あるいは全国平均についても、同週には50%台にまで、まさに激減。この時期は、もはや販促どころではなかったということになる。

しかし、関東1都3県と北海道を除く府県については5月14日、そして25日の5都県の緊急事態宣言解除を経て、状況は変わってきている。チラシ投稿が次第に回復してきているのだ。ただ、5月24日週の段階では、回復の比率は6~7割程度となっている。

チラシの再開に当たっては、打ち方や内容に変化が出てきた。全体的にサイズの縮小や掲載商品点数の減少、数日通しの特売品に絞った展開やウェブチラシのみ再開といった傾向が見られた。また、感染予防に対するアナウンスや在宅を促進する企画など内容面で工夫を凝らす企業もあった。

今後、「新しい生活様式」が意識される中で、日常生活のスタイルがどのように変わるのか、あるいは以前の状態に戻っていくのか。あるいは競争状況がどのように推移していくかによるが、販促の打ち方について注意深く戦略を練る必要があることは確かだ。

「必需品への節約意識」は一層の高まりを見せる

一方、緊急事態宣言が解除されたことによる生活者の意識の変化についてはどうだろう。4月7日に緊急事態宣言が出された直後で、緊張感が高まっていた4月8日と、全都道府県が解除された5月25日の後、29日に実施された調査を比較する形で見てみよう。

まず、「節約意識」についてみてみよう。図表②はロコガイドがトクバイアプリユーザーに対して実施した調査の結果のうち、分野別の節約意識について4月と5月の調査で比較したものだ。

注目すべき点は、生活全般、および食品、生活日用品といった必需品分野において、むしろ緊急事態宣言解除後の5月の数値の方が高まっていることだ。対照的に不要不急の代表ともいえる「趣味・レジャー」や「交際費」においては節約意識のゆるみを見せている。

がまんを強いられていたこうした分野には、今後ある程度の出費が見込まれる一方で、その分、必需品でより節約するという構図が見えてくる。社会経済活動が大きく停滞したことを誰もが実感している中、今後の景気に対しても厳しい見方をするのはある意味当然のことといえるが、この結果からは、生活者が今後に対して厳しい見通しを持っていることが改めて実感できる。

また、買物に対する意識を聞いた図表③を見ると、今回の新型コロナ発生前と比べて買物頻度を減らした人は、緊急事態宣言の解除後も62%と依然として多く、さらにこれは1回目の調査時の46%よりも高い数値となっている。また、これは2回目の調査時のみの設問だが、「少人数での来店」については47%が意識するなど、高い数値となっている。

同様に、2回目の調査時のみではあるが、キャッシュレス決済の利用や商品にさわらなくなったといった意見が3割程度あることも新型コロナの影響があるとみてよいだろう。

また、「節約志向が高まった」「短時間で買い物ができるように計画をたてるようになった」、さらに「ネット購入が増えた」といった項目で2回目の数値が増加している点には注目したい。インターネットでの購入は今回をきっかけに増加したであろうし、以前と比べてショートタイムショッピングが意識されるようになることは、店舗の在り方、面積やレイアウトなどを再考するきっかけになる。

SMなど必需品以外の小売業や飲食、サービスなどその他業種が大きく売上げを落としたことは、今後の消費に大きく影響を及ぼすことになると考えられる。節約志向の高まりは、そうした見通しからすれば当然のことといえ、それに適切に応えられる店が今後、支持を高めることになるはずだ。

生活者が求めるのは、タイムリーな「混雑情報」と「お買い得情報」

リアル店舗での買物で困っていることを聞いたのが図表④であるが、生活者が困っていることは、次第に変化してきている。5月の段階でも「欠品」の状況はあまり改善がなかったが(現在ではずいぶん落ち着いてきているとみられる)、大きく変化したのは4月の調査時には35%だった「特売品情報」に関するものが5月には68%と大きく高まった。

また、これも5月の調査時のみの項目ではあるが、「お店の混雑情報」に対する関心が42%と高いことにも留意したい。今後はチラシなどによる特売情報のタイムリーな発信に加え、混雑情報も発信することで、生活者の不安を解消することができ、店のロイヤルティを高めることにつながる可能性が高い。

商品単位の動向はどうか。図表⑤の4月と5月の調査結果を比べると、やはり買いだめが起こった保存性の高い商品や日用品については、購買意向がかなり落ち着いてきていることが分かる。4月の調査時点ではカップ麺や冷凍食品など保存が利く商品の需要が特に高まったが、かなり落ち着きを見せている。

次に、今回の販促の停止とその後の再開という過程を経て、生活者の買物情報の取得手段の変化について考察してみたい。図表⑥は5月の緊急事態宣言解除後のデータをまとめたものだが、まず、「お店に直接行く」ことを減らしているのは、家にいることが強く求められたことの影響だろう。

もう1つの動きとして、紙のチラシ広告の利用が減り、逆にデジタルのチラシ広告やネット広告の利用が増えていることは、情報取得手段におけるアナログからデジタルへの移行が着実に進んでいることを示唆している。もちろん、これは以前から進んでいた流れであると思われるが、今回の新型コロナによってそれが一層促進されたといえるのではないか。

店に行く機会は今後、徐々に増えていくは行くとは思われるが、デジタルでよりタイムリーな情報収集が可能であることが実感できれば、より効率的に訪問することにもつながる。当然、「3密」を避けることにもつながるため、メリットは大きいといえる。

実際、5月の調査で生活で工夫や意識するようになったポイントを聞いた図表⑦を見ると、緊急事態宣言解除後も「不要不急の外出を控えようと思っている」は72%と高い水準に達した。また、外出をするにしても、「混雑状況が気になるようになった」という意見が60%に達するなど、混雑に対する関心が一気に高まったことが分かる。

それは次の図表⑧からも分かる。店が発信してほしい情報として「お店の混雑状況」の数値が、4月調査時の39%から5月調査時には50%にまで高まっている。一方で、こちらは5月のみの調査だが、チラシ情報が71%という高い数値であるのと同時に「お買い得情報」が5月の調査時にかなり高まっていることなどを見ると、やはり「お買い得情報」を何らかの手段で入手したいという需要が高まっていることが分かる。

今回の一連の動きの中で、混雑状況を発信する店が一気に増えたが、まさにタイムリーな混雑状況の発信には大きな需要があることが改めて分かった。

今後、「新しい生活様式」の考え方を踏まえた新たな買物行動が本格化する。何が変わって何が戻るのかについては、まだ詳細に判断することはできないが、「混雑状況」および「お買い得情報」などの特売品情報をよりタイムリーに伝えることは、今後も継続して求められ続けるのではないか。

これらの需要にしっかり対応することは、よりよい買物体験を実現し、最終的にストアロイヤルティを高めることにつながると考えられる。冒頭で、チラシデータが回復傾向にあるということに触れたが、「ポストコロナ」時代には、その中身についても従前と同じ取り組みだけでない、新たな視点を加えることが肝要になる。

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