シリーズ_改めて考えたい「よく使っている言葉」の定義 第5回「生産性」と「効率」は意味が違う

2021.01.29

KMAきむらマーケティング&マネジメント研究所 木村 博

小売業、チェーンストア企業の方々と長いこと付き合ってきて、不思議だなと思っていることがあります。それは言葉の定義が曖昧なまま会話して、コミュニケーションが成立していないことに「気が付かない」ことです。そのために起きた問題をたくさん見てきました。しっかり、言葉を定義して使いましょう。これから、その認識が混同される言葉を紹介していきます。

小売業、チェーンストア企業の人が言葉の意味が曖昧でも平気な理由

小売業、チェーンストアのお客さま層の特性がその理由ではないかと常々思っています。

小売業、チェーンストアのお客さま層は不特定多数という特性を持っています。従って、小売業、チェーンストア企業は長年に渡り、お客さまからの店舗に対する期待を想像し、仮説を立て、検証しながら仕事を進めることに慣れてきました。

多少曖昧なことがあっても平気で仕事を進め、問題がある場合、仕事を修正し続けてきました。言ってみれば「仮説検証型」の仕事の進め方です。

一方、メーカーの場合、直接対価を支払ってもらう顧客層はバイヤー、購買担当という個人です。どんな経歴、どんな仕事の進め方、どんな言葉の使い方をするのか明確に分かります。従って、顧客を事細かに調査し、曖昧さを許さない仕事の進め方に慣れてきました。言ってみれば「論理的」仕事の進め方です。

どうもこの差が小売業、チェーンストア企業が言葉の定義が曖昧でも気が付き難い風土を作ってきたのではないかと思っています。

「生産性」と「効率」の違い

生産性は分数の概念で、分母にインプット(資源)、分子にアウトプット(価値)がきます。資源がどれだけの価値を稼ぎだしているかを示すものです。一方、効率は整数の概念で、投入資源のムダを排除することを指します。

例えば、生産性を上げる施策は、インプット(資源)を下げるか、アウトプット(価値)を上げるか、2つの方向があります。効率を上げるといった場合は投入資源を下げるという一つの方向しかありません。生産性を上げるという意味と効率を上げるという意味は違うのです。

「人時売上高」という生産性指標は売上高/投入人時で算出されます。人時売上高の向上の方向は売上高という価値を上げるか、投入人時という資源を下げるか2つの方向があります。それを明確にしなくてはなりません。

「人時生産性」という指標があります。荒利益高/投入人時で算出されます。人時生産性を上げる方向は、値入高を上げるという本部バイヤーの努力、ロスを下げるという売場責任者の努力、そして投入人時を下げるという店長の努力と3つの方向があり、どこに問題があるのか特定できないまま取り組みを進めると、現場は混乱する危険があるのです。

「人時生産性を上げる」という言葉は取り組みを曖昧にする大変危険な言葉なのです。人時生産性は「良い」「悪い」という評価に使う指標なのです。問題解決を進める指標には向いていないのです。

「効率」と「有効」も意味が違う

効率は投入資源のムダを排除することを意味します。有効とは効き目があること、効力を有することを意味します。定義だけではまだ、分かり難いですね。

概念の違いを分かりやすく解説するために、「効率が上がる」「有効である」という文章にして説明します。

「効率が上がる」とは以前の資源の使い方より、現在の資源の使い方がよくなったとき、効率が上がったと言いますね。このとき、以前の自分と現在の自分を比較しています。

一方、「有効である」とは、効率の面で言えば、自社の資源効率レベルとライバル企業の資源効率レベルを比較したとき、自社の効率レベルが高いとき、「有効である」ということができます。

このように、効率は資源の面で自社内での以前と現在の比較、有効は色々な面で自社とライバル企業とを比較する概念ということになります。

従って、「効率は上がったが、有効ではない」という言い方があり得るのです。この意味は社内での効率は以前より上がったが、ライバル企業と比べるとまだ負けているということになります。

「有効」になるために

有効はライバルとの比較の概念ですから、一番大事なのは「ライバルは誰か?」ということです。「そんなこと、分かり切っている」と思っている人が多いと思いますが、これを間違っている企業をたくさん見てきました。

例えば、スーパーマーケット(SM)の店舗でいえば、ライバルは同じ業態である近隣のSMの店舗と思い込みがちですが、そうではないケースがたくさんあります。

最近は近隣のコンビニ、食料品宅配、鮮魚、青果、精肉の専門店の人がライバルであることが多いのです。ライバルはお客さまが自店と比較している店舗です。お客さましか知らないはずです。比較するライバルを間違えば、有効な施策は見つかりません。

二番目が比較する土俵、言い換えると戦う場所です。横文字でいうとドメインです。それは品揃え、品質、サービス、価格だったりします。皆さんはすぐ価格競争に走りますが、価格競争は潤沢な資金を持った強者だけに許される戦う場所です。

ほとんどの企業は価格以外の場所で戦うべきです。一番よい戦い方はお客さまがその違いが分かって、ライバルがその違いが分かり難いことです。

例えば、洗車レベルで勝負するガソリンスタンドは洗車後の水の拭き取りレベルで勝負します。ドア、フロントグリル、ワイパーまでしっかり拭き取ります。このメリットはお客さましか分かりません。走り出したときに水しぶきが飛ばないことで、お客さまは感動します。

三番目は差の付け方です。その差は小さい差でよいのです。大きな差を付けてしまうと不必要なコストを使ってしまいます。そのためには、ライバルのレベルをしっかり調査しなくてはならないはずです。

四番目はスピードです。施策は遅ければ遅い程、ライバルと同等以上に戦うためにはコストが掛かります。

施策を有効にするためには、ライバル、戦う土俵、ライバルのレベルの明確化を行い、スピーディな実施が求められるのです。

きむら ひろし 1954年千葉県生まれ。早稲田大学卒。83年日本能率協会コンサルティング入社、90年チーフ・コンサルタント。2005年きむらマーケティング&マネジメント研究所を設立。小売・流通企業、サービス企業における企業理念・中期経営計画策定、マネジメントシステム構築、マーチャンダイジング革新、店舗オペレーション革新、ストアマーケティングなどを指導。次世代の売場づくり、買物行動分析、店長現場力アップ、チーフの改善スキルアップなどに取り組んでいる。

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