第8回「CS(CUSTOMER SATISFACTION、顧客満足)」
2022.11.09
2021.05.06
顧客満足を経営の中心に考えたCS経営では「顧客期待」と「提供価値」の2つの要素しかありません。このことが理解出来れば、CS経営は結構簡単なのです。
顧客期待と提供価値の関係
「顧客期待」とは商品、サービスに対して「こうあってほしい」という「お客さまの気持ち」です。一方、「提供価値」は店舗がお客さまに提供した商品、売場、サービスなど「仕事のレベル」です。CS経営の世界にはこの顧客期待と提供価値の2つの要素しか存在しないのです。
CS経営の善し悪しを不等式で表すことができます。「顧客期待≦提供価値」「顧客期待>提供価値」の2つです。
前者は提供価値が顧客期待を上回っている、もしくが同等ですから、店舗の仕事のレベルが期待以上、期待通りとなり顧客満足を獲得しています。後者は提供価値が顧客期待を下回っていますので、店舗の仕事のレベルが期待外れとなり、顧客から不満評価を頂いてしまうことになります。
CS経営では顧客期待≦提供価値となるように活動を進めます。その理由は顧客期待≦提供価値の結果、顧客から満足評価を獲得でき、顧客からのリピート、またリピート客からの紹介客を期待できるからです。
一方、顧客期待>提供価値の場合は不満評価の結果、離反客の増加、また不評の増加につながり、売上損失は甚だしいこととなります。
顧客も気が付いていない期待を把握することがポイント
このようなことからCS経営では顧客期待の把握がKFS(Key Factor for Success)となります。顧客期待が分からなければ、店舗の仕事のレベルを決められないからです。
顧客期待を把握し、それと同等、またはそれ以上の価値を提供できる仕事を設計し、実現することがCS経営です。
しかし、CS調査、VOC(Voice Of Customer)など当たり前の調査だけでは限界があります。その理由は真の顧客期待はお客さま自身も気が付いていないケースが多く、既存の調査をしても見えてこないのです。
このお客さま自身も気が付いていない期待、お客さま自身も言葉にできていない期待をいかに把握するかがポイントとなります。この見え難い顧客期待を把握し、経営革新を進めている企業はたくさんあります。
例えば、ガソリンスタンドの洗車レベルの良しあしは水の拭き取りの仕方で決まります。皆さんも洗車後、走り出してフロントグリル、ワイパーなどから水しぶきが飛んだり、ドアを閉めた途端に水しぶきが飛んで、せっかくの洗車を台無しにした経験があると思います。
評判の良いガソリンスタンドはフロントグリル、ワイパー、ドア窓などの水拭き取りを入念に行います。しかし、お客さまは水の拭き取り方法まで指定しませんね。望む提供価値を顕在化できていないからです。
このときのキーワードは「お客さまのちょっとした困りごと」「お客さまの何気ない行動」「お客さまの何気ない言葉」です。この何気ないことに気付けるかが勝負となります。お客さまから「そんなことまで気付いているの!」と感嘆していただけることを求め、顧客期待把握を進めます。
CS経営で一番大事なことは自社の顧客の明確化です。「常に自分のお客さまは誰か?」と問うて、お客さまのことを考え続けることが大切です。
顧客理解に失敗した衣料品チェーン
ある衣料品チェーンの店舗に初めて訪問したときの印象が、「店頭が真っ茶っ茶だ」というものでした。シャツ、スカート、靴下に至る主力品種の中心となるカラーがすべて焦げ茶色だったためです。
理由を売場責任者に聞くと、「自店舗のお客さまはシニア女性が多く、どの主力品種でも茶色、焦げ茶色のものがよく売れる。うちは補充発注が利く商品ばかりなので、売れるカラーを繰り返し発注し、お客さまのニーズに応えた。また在庫効率を高めるため売れないカラーである白色、黄色、赤色を売場から除いた、その結果この売場になった」とのことでした。
一見、顧客ニーズに対応しているように見えますが、実は年々客数を減らし、売上高目標を達成できない問題店舗でした。その理由は一体何だったのでしょうか?
Now顧客とFuture顧客という概念
CS経営では「Now顧客」と「Future顧客」という概念でお客さまを分析(分けて考える)する必要があります。
「Now顧客」とは、現在のお客さまの中で一番多い客層で、自店舗の売上高に貢献してくれているお客さま層です。一方、「Future顧客」とは現在自店舗には少ない、またはいないが将来増やしたいお客さま層です。
Now顧客は「守りたいお客さま」で、Future顧客は「増やしたいお客さま」となります。事例ではNow顧客であるシニア女性を守る施策→「買ってくださるカラーを充実させる」ことはできていたのですが、残念ながら「Now顧客だけでよいのか?」「Future顧客は必要ないのか?」の意識はまったくなかったのです。
もし、Future顧客、すなわち増やしたいお客さまが明確になっていれば、在庫効率だけを自動的に考えて、主力品種でカラー展開を少なくすることはなかったはずです。
CS調査の限界と今後
CS経営ではCS調査(顧客満足度調査)が基になります。CS調査は現在店舗に来ているお客さまに行い、「満足」「不満」の評価を調査します。従って、Now顧客だけの情報となります。これがCS調査の弱点です。
また、マーケティングの世界では対象とするお客さま層を絞り過ぎると失敗すると言われていますが、その典型的なことがこの衣料品チェーンで起きてしまったのです。
このようにNow顧客とFuture顧客という概念を理解し、「守りたいお客さまは誰か」「そのお客さまの期待にどのようにお応えするのか」「また増やしたいお客さまは誰か」「そのためにはどんな新施策が必要なのか」を考え続けなくてはならないのです。
マネジメントの始祖P.F.ドラッカーは「あなたのお客さまは誰ですか?」と経営者に問い続けています。これがCSを基軸にした経営革新の出発点となるのです。