食品を提供するプライドを持ち、立派な市民たれ いなげや 本杉吉員社長

2025.08.26

2025.08.25

「消費の二極化」の実態を見極め、上と下双方で対応

 いなげやは東京都西部を地盤とするリージョナルチェーンのスーパーマーケット(SM)企業だ。同社は20年以上の長きに渡ってイオンの資本提携を受けていたが、イオンによる株式公開買付(TOB)を経て2023年11月にイオンの子会社となり、その後、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)との株式交換を経て24年11月、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東と並ぶU.S.M.Hの完全子会社、グループの一員となった。

 首都圏SM連合のU.S.M.Hとしては、年商1兆円を視野に入れた大きな一手となったが、いなげやとしても同社の歴史の中でも大きな転換点となる出来事となった。今回のU.S.M.H入りを決断した本杉吉員(もとすぎ・よしかず)社長にグループ入りの背景と今後のSMビジネスの展望について聞いた。

 2024年度の決算では、いなげやに関して下期分のみU.S.M.Hの損益計算書に反映された。もともといなげやの決算期は3月であったのに対し、U.S.M.Hは2月のため、いなげやとしては24年度の決算は変則決算となった。U.S.M.Hの決算発表で公表された25年2月締めの12カ月ベースの前期比の数値では営業収益、売上高が共に101.8%、営業利益が116.1%、経常利益が176.6%と増収増益、営業利益率は1.1%だった。

 「24年度の決算は(U.S.M.Hとの決算期の調整があったため)変則でしたが、同年同月比でいえば、客数も、売上も、利益も前年はクリアしていますので、昨年1年間は順調に推移したと感じています。

 ただ、さまざまな特殊要因もあり、昨年8月の『南海トラフ地震臨時情報』や台風の影響で、米、水、餅、カップ麺などが備蓄目的に一気に需要が高まりました。それをきっかけに米不足が始まり、米が(売場から)消え、米の価格が上がり始め、新米の価格は更に上昇することになりました。そのような単価アップが売上に影響したことは外的要因として挙げられます。

 また、南海トラフ地震臨時情報によって旅行を控える動きもあって在宅比率が高まったことも、外的要因としてプラスとなった部分もあります。

 一方で、どの小売りも同様だと思いますが、冷静に振り返ると今年はそれがありません。そこに課題があるとも思っています。

 それも踏まえた上で、数字を押し上げた要因は、昨年1年を通して既存店の客数が前年比で超えていることであると捉えています。今期も既存店の客数は前期を超えています」

 客数が伸びている要因は。値上げトレンドの影響で客単価は上がる傾向にあるが、一方で客数に課題を抱えるところが多い。

 「もちろん、客単価も上がっていることは事実ですが、1つは2年ほど前から本格的に既存店の活性化を進めていることです。それまでも既存店活性化行っていましたが、少額投資で化粧直しをするのではなく、1億円、2億円を投資して、抜本的な活性化にシフトしています。

 冷蔵ケースのフロンといった環境問題もありますし、冷蔵ケースの交換を含め、1店舗当たりの投資額を増やして、(店舗の)数を絞り、昨年は14店舗、一昨年は11店舗改装しました。現在、3年目に入っていますが、こういった大きな改装をした店が客数と売上の伸びをけん引しています。

 また、(新型)コロナ(ウイルスの影響)が収束したころから、(消費の)二極化の動きが始まり、価格に敏感なところも見られますので、価格対応としてどれだけ価格を抑えられるかも鍵となります。

 あとはマーケティングで、お客さまが何を求めているかをしっかり認識し、それに対してタイムリーな販促や、対象となる商品をしっかり売ることが客数アップにつながっていると認識しています」

 値上げの時代ではあるが、実際、価格は下げているのか。

 「価格が値上げにより上がっている部分もありますが、一時期、どうしても競合に劣後する場面がありました。市場調査の他、当社独自のお客さまアンケートを毎年行っていますが、その中で『価格が高い』というお声が多く、別途、従業員に対するアンケートの中でも、『少し価格が高い』という回答がありました。

 そこで、カテゴリーの中でナンバーワンの主力商品など、ナショナルブランド(NB)も含めて、価格を競合と同レベル、もしくは下をくぐる価格にすることを地道にやり続けました。そのようなことが(買上)点数アップにつながり、徐々に客数アップにつながるに至りました。

 半年、1年ぐらい経ったときにはアンケートの『価格が高い』という件数が減るなどの結果が出たので、やった甲斐があったと思いましたし、商品部の従業員の励みにもなりました。この取り組みは3年ほど前から始めましたが、最初は利益面ではなかなか苦労しました」

 値上げの動きがあるインフレ基調の下では、値下げは当然、利益を圧迫する要因になり得る。これについてはどのようにクリアしたのだろうか。

 「原価交渉しながら少しずつ行いました。あとはカテゴリー割引です。カテゴリーで割引をすると、普段買わない商品を買われるお客さま層が結構いらっしゃり、お客さまの評価が良かったため、こういった施策を増やしました。

 これを習慣化してもらえるように、なるべく実施サイクルをお客さまのライフサイクルに合わせるようにしていく。現在、止めているものもありますが、食パン、卵など、購買頻度の高いものを毎週、特定の日に、エリアで一番安い価格で出すことを続けることで、固定客をつくることを目指しています」

 二極化の「下」の方には価格対応をした一方、「上」の方の消費についての対策についてはどのように考えているのか。

 「始めは、二極化の『上』の方の商品に取り組んで、そこを狙った商品を展開しましたが、あまり当たらないということが分かりました。二極化もさまざまで、『当社に合う二極化』を考えたとき、ハレの日やイベントの日に、いいものを買っていただく傾向が高いことが分かりました。

 ですのでそこに的を絞り、高級なものを売っていくのではなく、ハレの日や、日曜日、あるいは行事があるときなど、そういったときに良いグレードのものを当てました。

 毎日、そういったものを売っていくのではなく、曜日や季節を勘案しながら適切に対応することができるようになりました」

データや販売実績を踏まえ、二極化に対する施策を練ってきたことが奏功している

 消費の二極化と言っても、同じ人が価格志向になったり、場合によっては、こだわりの商品を求めたりするといったことが指摘される。日常生活では節約しつつ、「推し活」には大胆に出費をするといったこともその一環といえるだろう。

 「そうですね。使うときに使う、使わないときには使わないということが、データ的に出ていますので、それに沿った販促と売場展開に切り替えることを推進しています。土日はちょっといいものやワングレード上げることに取り組んでいます。

 精肉でいえば平日は牛肉が売れずに鶏と豚がメインで売れます。しかし、土日は買っていただけていますので、思い切って平日は牛を縮め、週末に牛肉を売り込むようにしています。その際は、和牛などサシの入った牛肉をしっかり展開し、単価も取りながら、ハレの日の売場をしっかりつくる。いまはそれが順調に行っていると認識しています。

 あとは、週末に大容量の商品を販売しています。平日は4桁売価の商品はあまり売れないのですが、週末だと4桁の売価でも売れます。毎日展開する大容量商品もありますが、売価は3桁止まりとしています」

U.S.M.Hの中で東京西部、神奈川でのシェアを担う

 これまで、イオンの資本提携を受けながらも自主独立の経営をしてきたいなげやにとってU.S.M.Hグループ入り、100%子会社化は大きな決断だった。このタイミングでその選択をした背景はどこにあるのか。

 「もともと長年の大株主としてイオンとのお付き合いがありましたが、それに決着を付ける意味もありました。その中で、イオン子会社化と、U.S.M.H子会社化の2つの選択肢がありました。

 その中でやはり、多摩地区を中心に関東でSM事業を営んでいることを考えた場合、お客さまのためにも、従業員のためにも、関東圏のSMと組んだ方が、商品、商流、物流を含めてメリットがあると判断しました。

 (U.S.M.Hとして年商)1兆円を目指すという目標、理念もありました。働いている従業員も分かりやすいのではないかと当社の強みを生かしながら、(グループの)アセットを活用しようというスタンスになりました。

 これだけAI(人工知能)が進化してくると、仕入れはバイヤーが担いますが、商品構成はデータを基にAIが棚割りを組む方が、精度が高くなるかもしれません。こういったものをうまく活用できるのであれば、当社としてもそのノウハウを使っていく。全部を自社開発するのではなく、アセットを活用するということです。

 そうすると、どのスーパーも画一的な売場になる可能性もありますが、その中でどれだけオリジナリティが出せるかが、これからの商品部の仕事になっていくと思います」

 U.S.M.H内でのいなげやの位置づけはどのようなものになるのか。

 「基本は東京の西部を中心にシェアを拡大するという位置づけになります。プライベートブランド(PB)商品のeatime(イータイム)や(イオンのPB)トップバリュを導入していますが、当社のPBもありますので、いまのところ、独自のMD(マーチャンダイジング)になっています。

 ただ、当社のような年商2000億円台の企業では、なかなか価格対応できるPBは作りづらいので、そこはトップバリュ、(トップバリュの低価格ラインの)ベストプライスをしっかり販売する方針です。当社としてはその(価格対応PBの)開発をやめます。価格対応はそちらに任せて、当社は安全・安心を含めた付加価値のある生鮮や惣菜を中心としたPBをつくることにします。現在、トップバリュの売上高構成比は3%を超えるところまで来ています。

 当社のPBの『食卓応援』は価格対応のPBではありません。食卓応援には2つのラインがあり、『プレミアム』は国産の原料にこだわったもの、『セレクト』は輸入も含め、その時期のおいしいものという設定なので、トップバリュとすみ分けはできます。イータイムに関しては若干、調整が必要になるかもしれません」

イオンPBのベストプライスをプライスブランドの位置づけで低価格領域をカバーしつつ、国内外から高品質な商品を調達する自社PBの「食卓応援」を売り込む

 店舗の面では、いなげやが現在展開するフォーマットは3つ。「いなげや」「ina21(いーな21)」と「blooming bloomy(ブルーミングブルーミー)」だが、これらの位置づけはどうなっていくのだろうか。

 「いなげやはベースのフォーマットで標準タイプとなります。

 いーな21は店舗規模的には小型店で、ローコストオペレーション、少人数の社員による運営で、基本はオールセンターパックで商品を供給し販売しています。取扱アイテム数はいなげやと比べ、一般食品は1~2割少なく、一部専用品を構成に入れています。以前はいなげやに対して価格も下げていましたが、あまり効果がなかったので、価格に関してはフラットにし、オペレーションだけ変えて運営しています。

 ブルーミングブルーミーは、商業施設にテナントとして入店するタイプです。標準店より特色を出せるようにデイリー食品、野菜、フルーツ等で少し品揃えの幅を広げています。一部、高級品も差し込んではいますが、アッパーを基本にしているわけではありません。

 今後については、いーな21は、いまのところ出店の予定はありません。300坪程度ですと競合店が出店する中では厳しいです。(既存店を)維持することに対しては非常に有効なフォーマットとは思いますが、拡大していくということになると、このフォーマットで数ある競合店の中に出店してもシェアは取れないことが見えてきました。

 100坪、200坪タイプを大量出店できれば、それはそれでフォーマットとして成り立つかもしれませんが、当社の商圏では、そんなに数を出せる立地はありません。

 実際、最低でも(売場として)400坪程度は必要と考えており、その場合は標準タイプのいなげやを出せます。あと、後方を含めた設備などを考えると、もう少し大きければインストアベーカリーを入れるといった形になります」

「客数」の伸長、シェアの拡大こそ重要

 今期に入ってからもSM業界全体では引き続き、売上を伸ばしている。いなげやはどうか。

 「施策の精度が高まっていることに加え、改装効果で、いまのところ好調です。一昨年11店、昨年14店改装した店は売上が10%伸びていますし、全体(現在、131店)にも1~2%の影響を与えます。今期も11店の改装を予定し、新店は3店舗出店しました。

 改装は大体月に1店、年に10店~15店の間を目安にしています。人手もかかりますし、建築資材の調達が難しいこともありますので、1カ月に2店舗はハードルが高いのが現状です。1カ月に1店舗、プラス2店ぐらいになります。お盆期間中や年末年始にはできませんから、大きな改装については、それぐらいが当社の規模感からマックスかなという感じです。

 大きな改装は2週間営業を休みますから、(売上として)結構なインパクトがあります。売上の大きな店が2週間休むと大きな影響があるのですが、この2、3年間はそこは思い切ってやりました」

 出店に適した立地が少なくなる上、建築コストも高騰している。いなげやのドミナントは人口も多く、競合他社も出店を模索する魅力的なエリアでもある。いなげやとしての出店戦略をどう描く。

 「重点地区は(東京都の)多摩と神奈川、JR南武線沿線になります。物流から考えると多摩にセンターがあるので、圏央道(国道468号)、もしくは(その内側の)国道16号の内側がメインとなります。

 ただ、いま内側には大きな用地の物件がないので、なかなか出せません。ワンフロアが150坪程度の多層階で出せるフォーマットを持っていれば良いのですが、いまのところ持っていません。神奈川も同様に出店は難しいです。

 千葉にもセンターがありますが、U.S.M.Hに加わったことで、物流効率の面も含め、今後は重点エリアとして出店していくことは基本ないと思います。店舗開発の出店に関する会議を(U.S.M.Hの)4社で行っていますが、千葉はカスミ、マックスバリュ関東、もしくはマルエツが検討する方向で、ある程度、すみ分けされていくと思います。

 また、日本は人口が減少していますので、出店が止まったときにどうするかも考えなければなりません。成長戦略は2つあり、1つは新店を出して成長すること。もう1つは既存店を伸ばしていくこと。当社は、たくさんの新店を出せませんので、既存店を活性化しながら、しっかり守ることを方針に施策として進めているのが実情です」

 業績好調の背景でもある改装を2桁の規模で進めつつ、厳選しながら数店の出店をしていくのが当面の方針となる。

 一方で、商品面での方針はどのようなものとなるのか。いなげやの商品の強みとは。

 「歴史のある会社なので、昔からお付き合いしている産地や取引先との関係性が続いていることは強みになっていると思います。分かりやすい例としては、精肉では、PB(食卓応援プレミアム)の豚肉「東北産美味豚」は30年ぐらい、「仙台牛・仙台黒毛和牛」は25年ぐらいのお付き合いがあります。

 こういった商品は、売場できちんとコーナーが成り立ち、販売を続けています。それが青果、鮮魚にもあり、鮮魚ではマグロやサケも強いです。

 日本人好みのマグロに焦点を当て、関東圏でナンバーワンになろうと取り組んでいます。マグロなどの冷凍物は解凍して販売していますが、常温水で解凍するのではなく、ぬるま湯を使って解凍することで発色も良く、ドリップも出ずに、味も良くなる温塩水解凍の技術を使っています。

 マグロは競合他社に比べても『おいしい』という評価をいただいています。1つ1つのカテゴリーに、ものすごく強みを持っているものがあり、それらが支持されています。こういう商品が多数あります」

 差別化のために商品供給の川上を取り込む意味も含め、加工や物流のインフラを整備することの重要性も指摘される。いなげやとしての整備状況、今後の方針について、どのように考えるのか。

 「自社の肉、魚のPC(プロセスセンター)があります。惣菜は精肉センター内にあり、一部商品の製造、惣菜向けのキット商品の製造を行っていますが、それほど大きくありません。これからは、U.S.M.Hに加わったこともあり、マルエツの惣菜センターが新設されているので、全体方針の中で物流も含めて設計していくことになります」

今後は、MD面では独自性を維持しつつ、出店やインフラ面ではU.S.M.Hの資産も生かし、すみ分けが図られるという

 業績堅調の中、U.S.M.Hグループ入りし、グループのインフラも生かした形での新たなフェーズが始まっている。今後の経営環境をどうみる。

 「さらに二極化が進むと見ており、決して楽観視できないと思います。単価が上がっている影響で、1人当たりの買上点数が3年連続でマイナスしています。これから個人消費が急回復するような状況にはならないと思っています。

 それをカバーするためには、やはり『客数』を増やさなければなりません。そのためには、価格もそうかもしれませんが、どれだけ他社と違いを出せるかということが勝負になると思います。

 他社に勝つということが何かと言ったら、『まずは従業員がしっかり買物をしてくれる店をつくらなければいけない』ということです。従業員が買物をしないで、『他店で買物しています』では話になりません。従業員割引がある中で、それでも当社で買わないということの理由が、価格なのか、商品なのか、鮮度なのか。それを追求していきます。

 当社が好きで買物するという風土にならないと離職率も下がりませんし、新規の採用も難しいです。プライドを持ちながら仕事をしなければいけないということもありますが、(いなげやの)ブランドをしっかり築いていかないと、採用できません。そういったことに配慮しています」

 そうした中、本杉社長が経営において最も重視している数値は何か。

 「一番は『客数』、それ以外の指標もありますが、客数はお客さまの人気のバロメーターです。あともう1つ挙げるとすると『廃棄』です。この2つを重視しています。

 客数については、『商圏のシェアをどれだけ高められるか』の勝負になるので、それをひたすら追い続けることを重点的に取り組んでいます。そのためにできることを、本部からの指示ではなく、自分たちで考えて、行動できる人になるようにと伝えています。そうすると、仕事も楽しくなってくると考えています」

小売りで働くからこそ、立派な市民たれ

 お客の支持のバロメーターである客数を増やすことは、まさにチェーンストアの原則である。一方で、インターネットによるオンラインチャネルが存在感を増す中、食品においてもネットスーパーのシェアが徐々に上がっている。

 ノンストアリテイリングの存在によって今後、「店舗」はその役割を含め、どうなっていくのかという議論が活発になっている。実際、店舗は残っていくのか。

 「加工食品、雑貨などはノンストアリテイリングに置き換えられると思いますが、生鮮品はお店に来店されて、買われると思います。やはり、自分で商品の良しあしを判断されて選ばれたという満足感もあると思いますし、そこに価値観を見いだす人も結構いると思います。

 ただ、当社で販売している商品に本当に信頼があり、ネットで注文しても間違いなく同じ商品が届くというブランドを築ければシフトしていくこともあるかもしれませんが、お客さまの心理としてはやはり、生鮮品に関しては現物を見て買いたいという文化は、根強いと思います。

 あとは、高齢化が進んで、買物に行くことが適度な距離の運動として健康につながることや、地域のコミュニケーションの場になると思います。そうした中で、われわれは何をしなければいけないかということが、いま課せられている課題だと思います」

 オンラインチャネルに対する取り組みも進めつつ、将来的な店舗の役割も考えながら現在の営業を続けていく。SMに限らず、小売業の運営にはこのような両にらみの戦略が強く求められている。

 今後、デジタルインフォメーション(DX)の観点も含め、SMはその形を変えていくことになるが、現場でそれを実践していく従業員がどのような姿勢で臨むかは非常に重要な事柄となる。

 「お客さまに対して、従業員同士、感謝の気持ち、お互いさまの気持ちを持ちながら働きましょうということを伝えています。プライドという面では、震災や(新型)コロナ(ウイルスのまん延)の際には食品スーパーは存在感を増します。そこで感じるのは、社会のインフラを担っている企業であり、どれだけ自分たちが社会に貢献しているのか、もしくはお客さまに感謝されていることを常に思い出し、仕事に取り組もうということです。

 さまざまな業種がありますが、『食品を販売している』というのは強味です。人は食事を摂りますから、食品スーパーは絶対的に社会に必要なインフラだと言えます。もちろん、その中で生き残れるかどうかは別問題になりますが、人がいる限り、食品を取扱う業態は存続します。

 そこには、安心感を持って買っていただけるように供給することに対するプライドを持って仕事をしようということを伝え続けています。

 日本の労働人口の中で、小売りで働いている人は多いです。そういう点でも『国に貢献している』という自負はありますし、それだけ多くの仲間がいるということでもあります。だからこそ、『人との輪』が大事だと思っていますし、従業員には、家族はもちろんですが、お客さま、同じ職場で働く従業員など人とのつながりを大切にするように伝えています。当社に入社したのも何かの縁ですし、『立派な社会人』になって欲しいと思います。

 しっかり働き、税金を納める立派な市民、立派な国民になりましょうということです」

 この「立派な市民」「立派な国民」という表現は、いなげやの二代目社長を務めた猿渡栄一氏の言葉として記録されている、目指すべき「いなげやマン」の一節に登場する。本杉社長の発言はこれを踏まえたものだ。

 市民、国民はもちろん、自治体や国家の構成員のことでもあるが、ここでのそれは、もう少し広い意味での共同体、例えば「商圏」も当てはまるのではないかと思えてくる。つまり、商圏の中において、立派な人であろうということである。

 U.S.M.Hの親会社であるイオンには、「小売業は人間産業」という基本理念がある。DXによって店舗、オンライン共に自動化は進むが、人間を相手にしている限り、小売業はどこまで行っても人間産業であり続けるだろう。

 立派な市民、立派な国民であることの重要性を説く「いなげやマン」の思想は、SMを取り巻く環境、さらにSMそのものの形すら大きく変わっていく中でも、変わらずにいなげやの指針であり続けるはずだ。

いなげや本社1階に掲示された猿渡栄一・二代目社長の言葉。「理想のいなげやマン」を説く

お役立ち資料データ

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