2024年問題とは|働き方改革で物流業界に起こりうる問題や対策を解説
2024.02.08
2022.09.30
2024年問題とは、働き方改革関連法の適用に伴い物流業界で懸念されているさまざまな問題をいう。
働き方改革では、時間外労働の制限や割増賃金の引き上げ、有給休暇取得の義務化など、一見労働者にとって労働環境が改善されるメリットばかりに見える。しかし物流業界では、働き方改革関連法によって人手不足や利益減少が見込まれている。これらの問題や対処すべき方法について詳しく解説する。
2024年問題とは
2024年問題とは、2024年4月1日に適用される働き方改革関連法に伴い、物流や運送業界で懸念されるさまざまな問題を言う。
働き方改革関連法自体は、2019年4月から順次施行されている。労働基準法や労働安全衛生法、労働時間等設定改善法、労働契約法、パートタイム労働法などがあり、働く人が安心かつ安定して働けるよう労働環境を整え、多様で柔軟な働き方ができるようにする法律である。
2024年には、医師や建設業、運送業の時間外労働の上限規制が適用されることになっている。
時間外労働の制限による問題
2024年に開始される働き方改革関連法の改正では、時間外労働の上限が規制されドライバーは年間の時間外労働は960時間までとなる。
2024年3月までは、事業で自動車運転が必要な業界や建設事業、医師などは、時間外労働の上限規制が猶予されていた。しかし、2024年4月1日からは物流業界のドライバーを含んだこれらの業界や職種にも適用されるのだ。
時間外労働の上限規制は、大企業においては2019年4月から、中小企業は2020年4月からすでに施行されている。
物流で深刻な変化が起きる可能性がある
他業種の時間外労働の上限規制は、年間720時間までと定められている。960時間の物流業界では、240時間多く残業ができることになる。
また他業種では年間の時間外労働だけではなく、月の残業時間100時間未満、2〜6か月では平均80時間以内、残業が月45時間を超える月は6か月までなど細かく定められているが、運送・物流会社にはない。
つまり、年間960時間の時間外労働を超えなければ、担当する業務によって1週間やひと月あたりの労働時間が長くなっても問題ないのだ。
しかし、物流業界は通常期と繁忙期での労働時間の差が大きく、約2割の運送業者がひと月あたりの労働日数を20日で計算しても年間960時間の時間外労働を超えてしまうことになる。今まで960時間を超える時間外労働を行っていたドライバーは、2024年から収入が減少するおそれがある。
さらに月60時間を超える時間外労働をした者には、賃金を割増にしなければならず、運送・物流会社は人件費が大幅に膨らんでしまうだろう。
また同一労働を行うものには同一の賃金を支払う必要があるため、非正規雇用のドライバーにも正社員と同等の賃金を支払わなければいけないのだ。
2024年の法改正により、運送や物流会社では深刻な変化が起きることが懸念されている。
働き方改革とは
2019年から順次適用されている働き方改革関連法の主なポイントについて、それぞれ詳しく見ていこう。
時間外労働の上限が規制
先ほど詳しく説明したように、時間外労働の上限が規制される。2024年3月31日までは、建設事業・自動車運転の業務・医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業は上限規制は猶予期間になるため適用されない。
しかし2024年4月以降、自動車運転の業務においては特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働上限は、960時間までに規制される。ただし以下の条件は免除される。
・時間外労働と休⽇労働の合計が月100時間未満
・2〜6か⽉平均80時間以内
・時間外労働が⽉45時間を超えられるのは年6か⽉まで
時間外労働に対する割増賃金の引き上げ
月60時間を超える時間外労働は、割増賃金を支払わなければいけない。大企業ではもともと月60時間を超える労働時間に対して50%以上の割増賃金の支払い義務があったが、働き方改革関連法の改正により中小企業でも2023年4月1日以降、月60時間を超える労働時間に対して50%以上の割増賃金を支払わなければいけないとされている。
フレックスタイム制の普及
2019年4月1日に施行されたフレックスタイムの拡充。それぞれのライフスタイルに合わせてより働きやすくするために、労働時間の調整可能な期間が3か月まで延長された。
コロナ禍におけるテレワークやフレックスタイムの導入、交代制の出勤などで働き方を大きく変えた企業も少なくない。業界によっても差があるが、現代の流れを見ても比較的フレックスタイム制は普及してきていると言えるだろう。
同一労働同一賃金
2020年4月から適用された同一労働同一賃金は、雇用形態に関わらず、同じ労働をする者は同じ賃金を支払うとされる制度である。賃金だけではなく、福利厚生や教育、研修を受ける機会なども正規・非正規に関わらず平等にするよう定められている。ただし、この制度には法的な拘束力はなく罰則もない。
有給休暇取得を義務に
2019年4月1日に施行された働き方改革法で、有給休暇の取得が義務化された。企業は従業員に対して年5日は有給休暇を取得させなければいけない。有給休暇を取得させなければいけない対象の従業員は以下になる。
・入社後6か月経過している正社員・フルタイムの契約社員
・入社後6か月経過している週30時間以上勤務するパートタイマー
・入社後3年半以上経過している週4日出勤のパートタイマー
・入社後5年半以上経過している週3日出勤のパートタイマー
有給休暇取得は義務のため、違反した場合は罰則がある。違反者1人に対して30万円までの罰金を支払わなければいけない。違反者が10人いた場合は300万円と、違反者が多いほど罰金の金額は上がっていく。
勤務間インターバル制度の普及
勤務間インターバル制度とは、前日の勤務終了から次の勤務開始までの間に一定以上の時間の休憩を設けることである。運輸業界のドライバーの勤務間インターバルは、これまで8時間以上確保することとされていた。しかし2024年の改正に向けて見直しが検討されており、9時間以上を義務とし、11時間以上を努力義務に制定される可能性がある。
ドライバーが安全に業務を遂行するためには、インターバルは必要不可欠だ。しかし長距離で物を運ぶ業者では、勤務間インターバルが今まで以上に長くなるとドライバーの不足や売上の減少につながる可能性がある。
高度プロフェッショナル制度導入
高度プロフェッショナル制度とは、年収1075万円以上の要件を満たした専門的で高度な職業能力を持つ労働者に対して、労働時間の制限を撤廃する制度を言う。対象となる者には、時間外勤務や休日勤務を行う場合の割増賃金の支払義務は適用されず、従事した時間ではなく成果で評価される。
アナリストやコンサルタント、研究開発業務、公認会計士・弁護士などを含む19の業種が指定されている。
従業員の労働時間の把握
2019年4月1日から客観的な従業員の労働時間の把握が義務付けられた。客観的とは、タイムカードを使った記録やパソコンなどの電子計算機のログインからログアウトまでの時間の記録などを言う。
労働時間を把握することで、企業はサービス残業をなくし適切に時間外労働手当を支払はなければいけない。また、労働時間そのものを短縮する流れにつながる制度である。
産業医制度の強化
2019年4月の働き方改革法の中に産業医・産業保健機能の強化が含まれている。産業医とは、従業員が健康で快適な環境で業務を行えるよう医学的・専門的な立場から助言や指導を行う医師である。
産業医は、長時間に及ぶ時間外労働による過労死の防止や従業員のメンタルヘルス、また怪我や病気による治療と仕事の両立など、企業が抱えるさまざまな問題に専門家として関わる。常時50人以上の労働者を使用する企業では、産業医の選任は義務付けられているが、これからもっと普及していくだろう。
物流における2024年問題の課題
物流業界における2024年問題の課題は、さまざまなものがある。懸念される課題を的確に把握して、できる対策を今から検討していく必要があるだろう。
トラックやバス運転手などドライバーの収入減少や収入自体の減少
2024年の働き方改革法改正により、ドライバーの収入が下がることが懸念される。時間外労働は上限が年間960時間に規制されるため、それ以上の勤務を行っていたドライバーは働けなくなる。
時間外労働の割増賃金は引き上げられるが、もともとトラックドライバーの年間の収入は全産業の平均よりも約1〜2割低くなっている。残業代が減れば、さらに収入が減るケースが増えるだろう。
またドライバーの仕事の収入が減ると、別の仕事に転職を考える者が増えることも考えられる。さらに高齢ドライバーの引退などで、ドライバー自体が不足する可能性もある。
運送会社・物流会社の利益減少
ドライバーに支払う時間外労働の割増賃金が増えると、運送会社や物流会社の人件費が上がる。またドライバー1人あたりの年間の時間外労働が減るため、今までと同じ配車や輸送サイクルを維持できなくなる可能性がある。
さらにドライバー不足に陥れば、人手が足りずに従来と同じ量の仕事を受注できなくなり、運送・物流会社の利益の減少が懸念される。
荷主の支払運賃の上昇
人件費が増加し運送・物流会社の利益が減少すれば、荷主が支払う運賃の値上げにつながる可能性もある。
ドライバーの人手不足とは対照的に、コロナ禍の事情もあわせてインターネット通販やフードデリバリーなどで物流量は増加の傾向が続いている。ニーズがあっても運送会社や物流会社が対応できず、それが運賃に反映され上昇することも考えられるだろう。
2024年までに行うべき対策
2024年までに行うべき対策を紹介する。今から2024年に向けて改革を行い事業活動の整備をすれば、大きなダメージを受けずに新たな働き方改革法に合わせた業務を行えるだろう。
労働環境や労働条件の見直し
ドライバーが働きやすい環境や労働条件を整備しよう。2024年4月からはドライバーの労働時間が減り、収入も減ることが考えられる。労働環境や条件が改善されれば、2024年以降も継続して働きたいと思うドライバーが増えるはずだ。
賃金面や労働時間などの問題の解決に取り組むだけではなく、フレックスタイム制または時短勤務や多様な働き方ができる体制を整えることも大切である。また、住宅補助や食事手当、特別休暇など福利厚生制度も充実させよう。
人材の確保
労働環境や労働条件を整えたら、今から人材を確保していくべきだろう。運送会社や物流会社は、人手不足は利益に大きく影響する。正規や非正規に関わらず多くのドライバーを抱えていれば、一人ひとりの業務の負担も減らせる。
ITによる輸送効率の向上
ITを導入して輸送効率を上げることも重要な課題である。デジタル化を進めれば、ドライバーの勤怠管理や配車、輸送計画などもスムーズに行えるため、生産性の向上につながる。ITシステムを取り入れる場合導入コストがかかることもあるが、業務を効率化できるため、長い目で見て有益な投資といえるだろう。
具体的に業務に役立つ技術をいくつか紹介する。
勤怠管理システム導入
勤怠管理システムは、ドライバーの勤務時間を正確に把握したり不正を防止したりするために役立つ。2024年問題の対策として、超過勤務になる場合にアラームで知らせるなどの機能があると便利だろう。勤怠の集計ができ、給与計算システムとも連携できるものならば、管理部門の担当者の業務の負担も減らせる。ドライバーという多様な働き方に対応できるシステムを選ぼう。
配車や輸送計画のデジタル
配車や輸送計画ができるシステムを導入すれば、スピーディーに最適な配車や輸送計画が出せる。また積付の計画や輸配送の進捗をチェックし管理するシステム、輸送に必要な運賃の計算もできれば業務をトータルで管理できる。
さらにトラック予約システムを使えば、ドライバーの待機時間を減らせるうえ入退館の受付をスムーズに行うなど、業務に必要な人件費を減らせるだろう。
伝票や送り状などのデータ化
輸送伝票や送り状などの作成、印刷、管理ができるシステムも必要だろう。すべてのデータを統一化することで、業務の効率化が図れる。手書きの書類やFAXなど、形式の異なる紙の文書を管理する煩雑な手間が省ける。
2024年問題は早めの取り組みを
2024年問題まですでに2年を切っている。物流や運送業界に大きな変化をもたらすといわれている働き方改革法の詳細を的確に把握し、早めに対策を取るようにしたい。ドライバーの労働環境や労働条件は今から整えていくことで、ドライバー確保にもつながる。
また業務のデジタル化を検討し、業務の効率化や生産性の向上が期待できるシステムを順次導入していくといいだろう。2024年以降も安定して事業活動ができるよう、物流会社や運送会社は早めに取り組みを始めてほしい。
編集長竹下の視点
モノを販売する小売業にとって、物流は切り離せないものであることから、「2024年問題」は大きな関心ごととなっている。そもそも運ぶ機能自体が限られる状況の中、従前のような体制が維持できないということで各社さまざまな努力をしているが、同時に競争相手も含めた形で業界挙げての協業体制も生まれ始めている。
日本スーパーマーケット協会、全国スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会の業界3団体が連名で、「食品スーパーマーケット 物流の適正化・生産性向上に向けた自主行動計画」を発表し、業界挙げての取り組みにしようと動き出しているのも、もちろん、環境問題など長期的な課題に対する意味合いもあるが、「2024年問題」はこの取り組みを大きく推進させるきっかけとなった。