カーボンニュートラルとは?求められる理由や企業の取り組み事例まで解説

2023.01.04

2022.10.14

日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すとしており、カーボンニュートラルに取り組む企業も多い。

本記事では、「カーボンニュートラル」とはどのような取り組みで、なぜ今求められているのか。また、日本や他国の取り組み、企業の取り組みについて紹介していく。

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、二酸化炭素など、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量と、吸収量のバランスをとることだ。カーボンニュートラルの取り組みは世界各国で実施され、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」の目標を掲げている。

日本政府は2010年10月に、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにすることを宣言した。この「ゼロにする」というのは、全く温室効果ガスを排出しないのではなく、排出量から森林等による吸収量を引き、結果としてゼロにする、と言う意味だ。そのためには温室効果ガスの排出量削減に加えて、吸収量をアップさせなければならない。

日本では、特に燃料の燃焼や、電気や熱の使用に伴って排出されるCO2が温室効果ガスの8割以上を占めていることから、エネルギー分野でカーボンニュートラルに特に取り組んでいくことが重要視されている。

しかしながら「温室効果ガス」は、二酸化炭素のことだけを指しているわけではない。メタン、一酸化二窒素、フロンガスのことも含めて「温室効果ガス」であり、削減が求められている。

カーボンニュートラルが求められる理由・背景

地球温暖化による異常気象

なぜカーボンニュートラルを実行しなければならないのかというと、地球温暖化の問題が大きく関係し、私たちの生活にも影響を及ぼしているからだ。1850年〜1900年ごろの工業化以前と比べると、世界の平均気温は2020年の時点で、既に約1.1℃上昇。このままではさらに気温が上昇し、異常気象や気候変動が起こると考えられる。

2020年だけでも世界で次のような異常気象が発生している。

日本・・・7月豪雨

アメリカ カリフォルニア州・・・森林火災

アメリカ コロラド州・・・9月観測史上最高気温を観測した3日後に降雪

中国・・・長江流域での継続的な大雨が発生。家屋が約2万千戸損壊し、約220万人が避難

北極圏・・・海水面積の年間最小値が史上2番目の小ささを記録

アルゼンチンなど・・・記録的な少雨で深刻な干ばつが発生

このように2020年だけでも記録的な大雨や、最高気温を観測した後に雪が降ったりと、異常気象や気候変動が発生している。このまま何もしなければ動物や植物の減少や、農作物にも影響が生じることになり、私たちの生活環境も変化せざるを得なくなる。

パリ協定による2050年カーボンニュートラル

パリ協定」とは2015年に第21回国連気候変動枠組条約締約国会議のCOP21で合意された温室効果ガス削減に関する国際的な取り決めのこと。1997年の「京都議定書」の後継である。パリ協定の特徴として、先進国だけでなく途上国も温室効果ガス削減の対象となっている。

「パリ協定」では、温室効果ガス削減に関して次の世界目標が定められた。

・世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする

・そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

引用:今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~ 

カーボンニュートラルに向けた海外の取り組み

世界各国で取り組まれているカーボンニュートラルだが、それぞれどのような取り組みがされているのだろうか。アメリカ、EU、イギリス、中国の取り組みの一部を紹介する。

アメリカ

アメリカでは特に運輸部門に力を入れており、EV等のクリーン自動車の普及に注力している。2021年8月には、乗用車などの燃費、排ガス規制の強化のために、2030年に新車販売の50%をクリーン自動車とする大統領令に署名した。EV充電インフラも、2030年までに50万基の整備目標がある。また、建物は新築、既築共に家電の省エネ化を進め、建物のエネルギーや家電等のエネルギー効率基準を見直している。

EU

2035年以降のガソリン車の新車販売禁止や、エネルギー税を数量ベースから熱量ベースに変更するといった取り組みを示している。特に、建物のエネルギー効率指令改正案は、建物のエネルギー効率を高めるための省エネ改修投資を促し、経済成長と気候変動対策を両立させることを目指すものだ。EUが推進する「グリーンディール」という気候変動対策の中でも重点が置かれている。

イギリス

脱炭素化した電力で経済社会の電化を進める。加えてEV化、省エネ推進、低炭素燃料への転換、CO2回収などに取り組んでいる。ほぼすべての建物に省エネ基準の適合を義務付け、2020年4月から住宅用、2023年4月から非住宅用で、省エネ率の低い物件の賃貸が禁止される。また、電力部門ではビジネス・エネルギー・産業戦略省のBEISが2021年10月に公表した「Net Zero Strategy:Build Back Greener」の中で、2035年に脱炭素化し、2030年に5ギガワットの水素発電を進めるとしている。

中国

2021年10月に国務院が「2030年前カーボンピークアウト目標達成に関する行動計画」を公表。石炭の消費を段階的に削減することや、風力・太陽光発電所の建設の加速、水力発電所の増設、原子力発電所の建設を進めることなどの方針を示した。また、EVの普及を気候変動対策の中心として取り組んでいる。消費者への購入助成措置や、自動車メーカーへの導入割当制度を実施。今後、新車の電動化率を100%とし、そのうちEVを新車販売の半分程度、約2000万台に拡大する目標を掲げている。

カーボンニュートラルに向けた日本政府の取り組み

日本でもカーボンニュートラルに向けて様々な取り組みがされている。

地域脱炭素ロードマップ

国と地方が共に取り組む脱炭素に移行していくための対策・施策のこと。5年間かけて政策を総動員し、国も地方の取り組みに資金や情報、人材から支援していく。

目標は、2030年度までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域を作り、自家消費型太陽光や省エネ住宅、電動車などの重点対策を全国で実施すること。全国で多くの脱炭素ドミノとなり、2050年を待たずして脱炭素の達成を目指していく。

改正地球温暖化対策推進法の成立

地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」が2021年5月26日に成立した。2050年までのカーボンニュートラルの実現を法律に明記し、政策の継続性・予見性を高める。また、地域の再生可能エネルギー導入の促進、企業の排出量情報のオープンデータ化をし、脱炭素への取組を加速させていく。

グリーン成長戦略

「2050年カーボンニュートラル」を「経済と環境の好循環」につなげるための産業政策。

技術革新を通じ、成長が期待される14の産業において、高い目標を設定し、現状の課題と今後の取組も明記。予算、税、規制改革・標準化、国際連携など、様々な政策を総動員していく。

脱炭素事業・経営への出資

環境省では、脱炭素事業に意欲的に取り組む民間事業者等を支援するため、財政投融資を活用した株式会社脱炭素化支援機構の設立を準備している。補助金ではなく、資金供給する官民ファンドだ。国から株式会社脱炭素化支援機構への出資額は2022年度で最大総額200億円。

カーボンニュートラルにつながる企業の脱炭素の取り組み事例

カーボンニュートラルに向けた各企業の脱炭素の取り組みを一部紹介していく。

セブン&アイグループ

セブン&アイグループでは、2019年5月に「GREEN CHALLENGE 2050」という環境宣言を発表。次の4つのテーマに分けて、取り組んでいる。

・CO2排出量削減

・プラスチック対策

・食品ロス・食品リサイクル対策

・持続可能な調達

【主な取り組み】

・太陽光パネルの設置

2022年2月末時点での8,821店舗に、太陽光発電パネルを設置。2020年度実績で年間約4万3千トンのCO2排出量削減を実現した。

・店内の正圧化

店内の気圧をコントロールし、入口のドアから入る外気を抑制している。空調効率を改善し、セブンイレブン1店舗あたり、年間約1.2トンのCO2排出量削減となる。

・スマートセンサーの設置

スマートセンサーをセブンイレブンの約2万店舗の分電盤に設置している。電気が「いつどこでどう使われたか」を店舗と本部の双方で可視化し、無駄をなくす取り組み。

・ペットボトル回収機の設置

ペットボトルを回収する機械を一部店舗に設置し、「ボトルtoボトル」という循環型リサイクルの仕組みを構築している。nanacoと連携させたポイント付与サービスも実施。参加型でのリサイクルを推進している。

・水素エネルギーの利活用

コンビニ併設の水素ステーションの展開や、水素で走る燃料電池小型トラックの導入をしている。

ローソン

ローソンでは2019年に長期目標として環境ビジョン、「Lawson Blue Challenge 2050!」を策定。次の4つに対し様々な取り組みを行っている。

・CO2排出量削減

・食品ロス削減

・プラスチック削減(容器包装プラスチック)

・プラスチック削減(レジ袋)

【主な取り組み】

・環境配慮モデル店舗をオープン

全国各地に環境配慮モデル店舗をオープンし、省エネ機器の効果検証などを行っている。例えば「ローソン館林木戸町店」では国産杉材を使用した直交集成板を、店舗の内装や建物の構造に使用。断熱性が高いため、空調設備の負担軽減につながっている。 

・ノンフロン(CO2冷媒)冷凍・冷蔵システム

2010年度からフロンを排出しない「ノンフロン(CO2冷媒)冷凍・冷蔵システム」の導入をスタートさせた。地球温暖化に影響のあるフロンの代わりに、自然界に存在する二酸化炭素やアンモニア、水など、自然由来の冷媒を使用した要冷機器を採用。2022年2月末時点では累計約4,600店舗に導入している。

・オフサイトPPA

店舗の敷地外の太陽光発電所で発電した再生エネルギーを店舗に送るオフサイトPPAを導入。三菱商事が新設する太陽光発電設備からの再生可能エネルギーをローソン約3,600店舗向けに供給していく計画がある。

ソフトバンク

ソフトバンクでは、2030年までに自社の事業活動、電力消費等で排出される温室効果ガスを実質ゼロにする「カーボンニュートラル2030」に取り組んでいる。それだけでなく、取引先などで排出される温室効果ガスの排出量を含めた「サプライチェーン排出量」を2050年までに実質ゼロにする「ネットゼロ」にも取り組んでいる。

【主な取り組み】

・実質再生可能エネルギーによる電気へ切り替え

子会社のSBパワー株式会社が供給する実質再生可能エネルギーによる電気へ切り替えを進めている。2019年度実績で、平均的な一般家庭の約25万世帯分の約68万トンのCO2を排出。この電力の半分以上を携帯電話基地局で使用していたが、2020年度には基地局が使用する電力の30%、2021年度には50%以上の実質再生可能エネルギー化を達成した。2022年度には70%以上と切り替えていく。

佐川急便

佐川急便では、CNG(天然ガス)トラックやハイブリッドトラック、電気自動車などの環境対応車の導入や、モーダルシフトの推進を実施。また、台車や自転車を使用するなど燃料消費の抑制から脱炭素に取り組んでいる。

【主な取り組み】

・環境対応車の導入

排気ガスに含まれる大気汚染物質や、温室効果ガスの排出の少ない「環境対応車」を導入している。1990年代から導入を開始し、年々増加。2020年度末では14,489台を保有している。

・サービスセンターの設置

サービスセンターを拠点とし、台車や自転車を使用した集荷・配送を実施。全センターではトラック約1,500台分の抑制につながっている。

・集配用電動アシスト自転車「TRIKE CARGO」

業務用電動アシスト自転車「TRIKE CARGO」を2020年8月より本格的に導入している。「TRIKE CARGO」は従来の4倍の150kg、軽トラック積める量の1/3の荷物を乗せることができる。

・モーダルシフトの推進

鉄道、バス、乗合タクシーといった地域の輸送業者と連携をし、営業運行中の列車やタクシーで貨物と人を同時に運ぶ「貨客混載」に積極的に取り組んでいる。

イオン株式会社

イオンでは、CO2排出量の約9割が電力によるため、店舗使用電力を削減することと、再エネルギーに転換していくことで、2030年までに店舗使用電力の50%を再生可能エネルギーに切り替えるとしている。例えば、日本国内の店舗で使用する2020年度の年間約71億 kWhのうち、50%を再生可能エネルギーに切り替える。また、店舗の屋上等に太陽光発電システムの導入や、PPAモデルの導入を拡大。卒FIT電力の買い取り強化、各地域での再エネ直接契約を推進している。

イオンでは「店舗」、「商品・物流」、「お客さまとともに」の3つの視点で脱炭素に取り組み、中でもお客さまが脱炭素型ライフスタイルに転換できるようなサポートを行っている。例えば以下のような取り組みだ。

・「住まいの省エネルギー対策商品」を展開

「イオン」「イオンスタイル」の124店舗で、脱炭素に貢献する「住まいの省エネルギー対策商品」として、太陽光発電システムや蓄電池、遮熱性能を有した外壁塗装などを定額制で販売。60回まで手数料無料の分割支払いができる。

・お客さまの余剰再エネを活用するサービス

太陽光発電設備とEVの両方を持っているお客さまの余剰再エネを活用するサービスを2022年度より開始予定。家庭で発電した再エネを、自身のEVに充電した状態で来てもらい、モール内に設置したV2Hを介して余剰再エネを放電。電力量に応じてイオンからポイントが進呈される。

国・地域・企業で取り組むカーボンニュートラル

カーボンニュートラルへの世界の取り組みや日本国内の取り組みについて紹介してきた。温室効果ガスの排出は世界で大きな問題であり、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルは世界各国で取り組まれている。日本でも2050年という近い未来に温室効果ガスの排出量が実質ゼロとなるよう、国、地域、企業で様々な取り組みが進められている。この機会に脱炭素に取り組む企業事例をさらに調べてみてはいかがだろうか。

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