移動平均法とは?原価計算方法、総平均法との違いなどを解説

2023.01.05

2022.10.31

棚卸資産の原価や売上原価を正確に管理することで、企業の利益の把握にもつながる。売上原価の算出方法のひとつに「移動平均法」がある。

移動平均法を用いることで、より精度の高い利益の算出ができる一方、計算が複雑化するなどの注意点も把握しておく必要がある。この記事では、移動平均法の概要や原価計算方法の例、総平均法との違いとともに、メリット・デメリットを解説する。

移動平均法の概要と計算方法

移動平均法の概要と例題を元にした計算方法を解説する。

移動平均法とは

移動平均法とは、原価全体を在庫の個数で割って平均単価を算出し、商品ひとつに対する原価を求める平均原価法による計算方法のひとつだ。移動平均法では、棚卸資産となる商品の仕入れを行うたびに算出した平均単価を売上原価として、期末の棚卸資産の評価額に設定する。

仕入れのたびに平均単価を算出するため、より精度の高い売上原価や棚卸資産の評価額の算出につながるのが特徴だ。また、期末だけでなく期中の棚卸資産評価にも活用できる。

仮想通貨の計算方法としても使われている

移動平均法は適切な棚卸資産評価や売上原価の把握だけでなく、リアルタイムで平均原価を算出できることから、仮想通貨の計算方法としても使われている。仮想通貨を購入するたびに移動平均法によって算出すると、より精度の高い購入額や利益などの把握につながるためだ。

なお仮想通貨取引による利益は、所得として扱われる。仮想通貨の計算方法には、移動平均法のほか総平均法も用いられるが、一度採用した計算方法は原則3年間変更ができないため注意が必要だ。

移動平均法の公式と計算方法

移動平均法では、以下の公式を使用して平均原価を算出する。

平均単価=(受入棚卸資産取得原価+在庫棚卸資産金額)÷(受入棚卸資産数量+在庫棚卸資産数量)

受入棚卸資産取得原価=その時受け入れた仕入れの金額、在庫棚卸資産金額=その時点での在庫金額が該当する。

例:期首を5月1日、毎月1日に仕入れを行った場合の移動平均法での算出方法

4月1日:仕入れ200個・単価100円・仕入原価20,000円

5月1日:仕入れ60個・単価130円・仕入原価7,800円

6月1日:仕入れ120個・単価90円・仕入原価10,800円

・5月1日時点での移動平均法による計算 ※4月の在庫を100個とする

(5月仕入額7,800円+4月在庫20,000円)÷(5月仕入個数60個+4月在庫個数100個)=173円

5月1日時点での売上原価の平均単価は173円となる。

・6月1日時点での移動平均法による計算 ※4月5月の在庫を260個とする

(6月仕入額10,800円+4月5月在庫27,800円)÷(6月仕入個数120個+4月5月在庫個数260個)=101円

実際には売上が上がる=商品が売れるため在庫が月の途中で減ることになる。在庫の減少分は「在庫棚卸資産金額」「在庫棚卸資産数量」から差し引いて算出できる。

平均単価を算出後は、以下の公式から移動平均法による期末の棚卸評価額が算出できる。

期末棚卸額 =「期末棚卸数量×直近で算出された移動平均単価」

商品有高帳を使った移動平均法の計算方法

仕入れや売り上げに応じて在庫の状況を記録する「商品有高帳」の記載時にも、移動平均法は活用できる。

たとえば商品有高帳に「10月6日 商品100個を単価500円で仕入れた」「10月7日 商品200個を単価600円で仕入れた」と記載する場合、10月7日に単価が変わる仕入れを行っているため移動平均法で平均単価を算出することになる。

公式に当てはめると、(10月6日仕入額50,000円+10月7日仕入額120,000円)÷(10月6日仕入個数100個+10月7日仕入個数200個)=平均単価566円

よって、商品有高帳の払出単価は、10月6日時点の「500円」ではなく、移動平均法によって算出した10月7日時点の「566円」で記載することになる。

移動平均法と総平均法の違い

平均原価法には、移動平均法のほかに総平均法がある。移動平均法と総平均法両方の特徴と算出方法を知ることで、状況に応じて適した方法で利益や原価の計算ができるようになるだろう。総平均法の概要や計算方法を解説する。

総平均法とは

総平均法とは、期末や期首などある一定期間にまとめて原価の平均を算出し、棚卸資産の評価額を設定する計算方法だ。平均原価法上では移動平均法と計算方法は同じだが、計算の回数が大きく異なる。

移動平均法は仕入のたびに計算し平均単価を算出するが、総平均法は決まった期間内にのみ計算する。そのため、全体的な計算回数が総平均法の方が少なくなるのが特徴だ。

総平均法での計算方法

総平均法で平均単価を算出する公式は以下の通りとなる。

期末棚卸額 = (期首棚卸額+期中取得棚卸資産の評価額)÷(期首棚卸数量+期中取得棚卸資産数量)×期末棚卸数量

例:3月決算時の商品の期末棚卸額

4月1日:前期繰越80個(単価40円)、残数80個

6月15日:仕入20個(単価30円)、残数100個

7月1日:売上50個、残数50個

9月1日: 仕入60個(単価20円)、残数110個

3月31日時点での平均原価

(80個×40円+20個×30円+60個×20円)÷(80個+20個+60個)=31.25円

期末棚卸評価額

31.25円×110個=3,437.5円=3,437円

その他の棚卸評価額算出方法

移動平均法と総平均法以外の棚卸評価額算出方法を解説する。

先入先出法

先入先出法とは、「古い在庫商品(先に仕入れた商品)から先に出していく」ことを前提とした棚卸評価額算出方法だ。

例:

10月1日:仕入200個(単価105円)

10月31日:仕入150個(単価110円)

11月15日:売上150個

11月15日に売れた商品は、10月31日ではなく10月1日の仕入れ分から払出をするため、150個×単価105円=払出単価15,750円になる。

後入先出法

後入先出法とは、先入先出法とは逆に「最後に仕入れた商品から先に出していく」ことを前提にした棚卸評価額算出方法だ。先ほどの例にあてはめると、10月1日分ではなく10月31日の仕入れ分から11月15日の売上分を払出することになるため、150個×単価110円=16,500円となる。

一般的には消費期限や在庫の鮮度を考慮し、在庫の払出も古いものから行われるため棚卸評価額の算出も先入先出法が使われていることが多い。

ところがインフレーション時など、短期間での仕入単価に変動が生じているときには、最新の在庫価格を反映しないと正確な棚卸評価ができないことがある。市場の価値と在庫の価値を一致させたいときには、後入先出法が使われるのが特徴だ。

移動平均法のメリット

移動平均法のメリットを解説する。

リアルタイムでの平均単価や棚卸資産評価額が把握できる

移動平均法は、最新の平均単価や棚卸資産評価額が把握できるのがメリットだ。仕入や販売などの経営方針や戦略も、市場の状況やトレンドに応じた柔軟な対応ができるようになる。より適切な在庫管理や利益向上にもつながるだろう。

平均単価や評価額の精度が上がる

移動平均法ではない算出方法の場合、前年度の担当者や実績などから感覚的な評価額につながることがある。

また、仕入のたびに単価が変動する商品に感覚的な評価が加味されると、正確な評価ができず、ずれが生じてしまうリスクもあるだろう。移動平均法を導入することで、より正確な平均単価や評価額の把握ができるのもメリットといえる。

移動平均法のデメリット

移動平均法はメリットも多い一方、デメリットもある。覚えておきたい移動平均法のデメリットを解説する。

担当者への負担が大きくなる

移動平均法は仕入れのたびに計算を行うため、精度の高い平均単価や棚卸評価額の算出につながる。一方で、計算する回数が多くなるのが特徴だ。在庫管理や現場の担当者の計算作業の負担が大きくなる可能性が高い。

移動平均法を取り入れる際には、あらかじめ業務負担軽減のためのシステムを導入する、人員配置を考える、などの対策が必要となるだろう。

商品が多くなると複雑になる

移動平均法は、取扱商品の数が多ければ多いほど計算が複雑になる。その結果、計算ミスなどが発生する可能性も高くなるだろう。ミスが頻発することで、精度の高さやリアルタイムでの金額把握につなげられる移動平均法のメリットが得られなくなってしまう。

取扱商品の数や種類によっては、移動平均法ではなく総平均法を活用するなど、柔軟な対応が求められるだろう。

移動平均法による原価管理の必要性

移動平均法や総平均法などを用いて原価管理をすることで、人件費などの仕入れ以外のサービス原価や損益分岐点の把握につながる。また原価の無駄などの課題の発見や、市場やトレンドを取り入れた適切な売価の設定も実現できるだろう。

原価管理は計算などの手間がかかる一方で、健全かつより利益率の上がる経営には必要不可欠な業務といえる。一部システム化するなど原価管理業務を効率化することが、成果を最大限発揮できる経営につなげられるだろう。

移動平均法は最新の原価や棚卸資産の評価に適した方法

移動平均法の概要や計算方法、総平均法をはじめとしたほかの計算方法との違い、移動平均法のメリット、デメリットを解説した。

移動平均法はリアルタイムでの原価や棚卸資産の把握につながる一方、計算回数が増えるため現場の負担やミスの増加となる可能性もある。計算を簡単かつ正確にできるシステムの導入を検討するなどして、業務の効率化と負担軽減を行ったうえで移動平均法を活用しよう。

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