売上原価とは?計算方法や業種ごとの考え方、仕訳の方法を解説

2022.11.08

2022.06.24

損益計算表の費用科目に含まれている売上原価は、店舗や事業所などにおける代表的なコストであり、財務管理において重要度の高い項目だ。売上原価は業種ごとに含まれる項目が異なり、考え方も違ってくる。

正しい計算方法とともに業種ごとの考え方、仕分けの方法を身に付けておくことが、適切な財務管理につながるだろう。この記事では、ビジネスにおける売上原価の意味や概要に加えて、計算方法や業種ごとの考え方、仕訳の方法を解説する。

売上原価とは

売上原価の意味や概要、含まれる項目について解説する。

売れた商品に対する直接的なコストを指す

売上原価とは、商品の仕入れや製造に直接かかった費用を指す。業種によって、売上売価に含まれるこまかい項目は異なるのが特徴だ。ただし、売上原価に該当するのは売れた商品に対してかかったコストのみであることに注意しよう。売れ残った商品に対してかかったコストは、売上原価には該当しない。

売上原価は、損益計算書の売上高のすぐ下に記載されている。

売上原価の計算方法

売上原価は「期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高」の計算式から算出できる。

期首商品棚卸高とは、期首の時点で在庫に残っている商品の総額、当期商品仕入高とは当期に仕入れた商品の合計額、期末商品棚卸高とは、期末の時点で在庫に残っている商品の総額をそれぞれ指す。

例:タオルを販売する小売店

タオルの仕入価格…300円

前年度に売れ残ったタオル…200枚

当期中に仕入れたタオル…2000枚

当期末に売れ残ったタオル…100枚

期首商品棚卸高…300円×200枚=6万円

当期商品仕入高…300円×2000枚=60万円

期末商品棚卸高…300円×100枚=3万円

6+60-3=売上原価は「63万円」となる。

売上総利益(粗利)を算出するためにもちいられる

売上原価は、売上総利益(粗利)を算出するためにもちいられる。売上総利益は「売上高-売上原価」で求められ、商品の直接的なコストを差し引いた利益を指したものだ。売上総利益が大きければ大きいほど売上で売上原価が占める割合が小さく、儲けが大きいことになる。

一方、売上総利益が小さい、または発生しない場合は商品が売上原価以下の価値しかなく、コストが多くかかっていることになる。

売上原価は商品の仕入れおよび製品製造に関する直接的なコストのみのため、売上総利益は広告費、人件費などの間接的なコストをふくんだまま算出されるのが特徴だ。たとえば売上総利益は売上原価のひとつに含まれる材料費は差し引かれているが、関節的なコストである広告費、接待費などは含まれたままとなっている。

つまり、売上総利益は製品や商品そのものの価値を算出するのに役立つ指標と言える。経営の方向性を考えるうえでも、売上総利益を正しく算出する、つまり売上原価を正しく算出することが重要と言えるだろう。

業種ごとの売上原価の考え方

売上原価は、商品の仕入れや製品製造に対して直接かかったコストを指すが、何を「直接的なコスト」とするかの考え方が業種ごとに異なってくる。つまり売上原価を正しく算出するには、業種ごとの直接的なコストへの考え方を把握しておく必要がある。

業種ごとの考え方をふまえた、売上原価に含まれる項目を業種ごとに解説する。

製造業

製造業では、以下のように製品製造にかかわるすべての項目が売上原価に含まれる。

・製品の材料の原価

・製造に携わる人件費

・外注費

・工場で使われた機械の減価償却費

・水道光熱費

ただし、製造業では製造に関わるすべての費用としての「売上原価」ではなく「製造原価」という名称になる点に注意が必要だ。これは、同じ物でも工場で製造され完成したものは「製品」、工場から出荷され販売されるものは「商品」となることから由来している。たとえば家電メーカーの工場で製造され、完成した冷蔵庫は「製品」、工場から出荷されて店頭で販売されている冷蔵庫は「商品」となる。よって、製造業では工場での製品の製造にかかわるすべての費用を「製造原価」とし、売り上げた商品にかかったすべての費用と区別しているのが特徴だ。

事業は製造のみで、製品を別の会社に卸している製造業の場合は「製造原価」=「売上原価」として計上する。一方で製品の製造から、商品の小売りまで事業として行っている製造業の場合は、製造に関わるすべての費用を「製造原価」、商品を売り上げるためにかかった費用を「売上原価」として別の項目として計上する点に注意が必要だ。

製造業では、製造原価を求めるために「製造原価報告書」を作成する。製造原価は以下の手順で算出する。

・期内で製品製造にかかったすべての費用を合計して「当期総製造費用」を算出

・期首時点で仕掛品や半製品(加工の途中であるもの)を加える

・期末時点での仕掛品や半製品は除き、「当期製品製造原価」を算出

・当期製品製造原価に期首時点で未出荷の製品と、期末時点で在庫となっている製品を除き「製造原価」を算出

小売業

小売業ではプライベートブランドや自社工場を持っている場合を除き、基本的に製造工程が発生しない。そのため売上原価として計上されるものは、商品の仕入れ原価が中心となる。売上原価に含まれるコストは少なくなる一方、接客を行う販売員や広告費などの販売費および一般管理費といった、間接的なコストの割合が高くなる傾向にあると言えるだろう。

飲食業

飲食業では、料理を材料から調理する工程が発生する。そのため、以下の項目が売上原価に該当するのが特徴だ。

・顧客に提供する料理の材料費

・アルコールやジュースなどの飲料の仕入れ原価

・廃棄食材や売れ残り

なお料理を材料から調理する工程は「製品を製造する」工程と考え、調理を担当する従業員の人件費も売上原価に含める場合がある。一方、調理を担当する従業員も、接客などを担当するほかの従業員と同じ人件費=販売費および一般管理費とすることもある。調理担当者の人件費に対する考え方が企業によって異なる点に気を付けよう。

サービス業

サービス業においては、顧客に提供するものが実物ではなくサービスとなる。そのため、特定サービスを提供するために発生した外部の人件費である「外注費」がおもな売上原価となる。美容院におけるシャンプー、エステサロンにおけるスキンケア用品など、直接仕入れて顧客へ販売する商品がある場合は、小売業と同じく商品の仕入れ原価も売上原価に含まれる。

サービス業における自社の管理部門の人件費が売上原価に含まれない根拠は、管理部門の従業員の業務が多岐にわたるためだ。自社の管理部門の従業員は、顧客への特定サービスの提供だけでなく、事務や営業などの業務にも携わっていることが多い。そのため、販売費および一般管理費に該当すると考えられている。

サービス業の場合は売上原価に該当する項目が少ないため、売上総利益が高くなる傾向にある。一方、販売費や一般管理費などの間接的なコストの割合が大きくなるのが特徴だ。

売上原価の仕訳方法

売上原価を出すためには、製品および商品に関する取引の内容を仕訳し、売上原価に該当する項目から算出する必要がある。おもな売上原価の仕訳方法を解説する。

三分法

三分法とは「仕入」「売上」「繰越商品」の3つの勘定科目を使って仕訳をし、売上原価を算出する方法だ。

・期中に仕入れた商品…仕入勘定

・販売した商品…売上勘定

・決算整理の際の在庫商品…繰越商品勘定

日次的な記帳処理と決済整理が簡素なため、効率よく仕訳ができる方法と言える。

売上原価対立法

売上原価対立法とは「商品」「売上」「売上原価」の3つの勘定科目を使って仕訳し、売上原価を算出する方法だ。

・仕入れた商品…商品勘定

・販売した商品の原価を商品勘定から売上原価勘定に振り替える

・売上代金を売上勘定で処理する

・商品勘定=期末の商品在庫、売上原価勘定=売上原価の金額となる

決済時の処理が不要、かつ期中でも売上原価をいつでも把握できるのがメリットだ。一方他の仕訳方法にくらべて仕訳がやや煩雑となる。

分記法

分記法とは、「商品」「商品売買益」の勘定項目を使って仕訳し、売上原価を算出する方法だ。

・期中に仕入れた商品…商品勘定を用いて資産として計上

・商品を販売した際は商品勘定と売価の差額を、商品売買益勘定として収益に計上

・商品勘定の数字=仕入れ原価の額となる

商品の取引が発生するごとに、仕入れ原価と売買益をつねに把握できるのがメリットだ。売上総利益をスピーディかつリアルタイムに把握できるため、経営戦略や方向性を考えるうえでも役立つだろう。ただし取引ごとの記帳が煩雑なため、取引をする商品の品目が多い場合には向いていない。

総記法

総記法とは商品の仕入れ時と売上時どちらにも「商品」の勘定科目を使って仕訳する方法だ。仕入れ原価と売価が混在しているため、決算整理前の残高試算表の商品勘定は貸方残高にも借方残高にもなる。また、決算整理が必要となる。

総記法では商品勘定のみで処理をするため、簡易的に記帳ができる。ただし、仕入れ原価と売価が混在するため、期中の売上や経営、財政の状況は把握できない。実務で使用されることはほぼないと言えるだろう。

売上原価まとめ

売上原価の概要や計算方法、業種ごとの売上原価の考え方、仕訳方法を解説した。売上原価は製品または商品の直接的なコストを指すが、どの項目を売上原価と含めるかは業種によって考え方が異なる。業種ごとの売上原価の考え方をふまえて、正しく算出および仕訳をすることが、適切なコストコントロールにもつながるだろう。

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