BPRとは?意味や進め方などについてDXとの違いや事例などを交えて解説

2023.01.25

近年、少子高齢化による人材不足の解消や働き方改革を推進すべく、注目を集めているのがBPR。製造業からサービス業、地方自治体まで幅広く取り入れられている考え方で、業務の効率化や生産性の向上など、導入すると多様な利点を享受できる。

本記事では、BPRの基本からDX・業務改善との違い、導入メリット、取り組みの進め方、事例まで網羅的に解説していく。

BPRの意味とは?

BPRとは、ビジネスプロセス・リエンジニアリング(Business Process Re-engineering)の略称で、企業の業務プロセスや組織体制、システムなどを抜本的に見直し、再構築していく取り組みを指す。

1990年初頭、アメリカのマサチューセッツ工科大学教授マイケル・ハマー博士が、長期的な不況によって衰退した企業を建て直すための改革として、BPRの原型とされる考え方を提唱。その後、経営コンサルタントのジェイムス・チャンピーとの共著『リエンジニアリング革命』が多くの企業に影響を与えてベストセラーを博し、BPRという用語は世界的に広まった。

昨今では、政府のDX推進や環境の変化に強い組織作り、競争優位性の確立などの観点から、BPRの重要性が見直されている。また、業務の効率化を図ることで労働環境を整備し、ワークライフバランスを整えて働き方改革を推進する、人件費の削減につなげるといった点からも、BPRは注目されていると考えられる。

BPRとDXや業務改善との違い

ここでは、BPRと混在しやすい用語であるDXと業務改善との違いを解説していく。

BPRとDXの違い

DXとは、「AIやIotなど最新のデジタル技術を活用してビジネスや組織を変革して、競争力の維持・向上を図る」という概念。経済産業省が2018年に発表した「DX推進ガイドライン」にて、レガシーシステム化の進行やIT人材不足などに起因し、2025年以降1年で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるとして、DXの推進が本格化。今やビジネス領域において、トレンド的に使用されている。

業務や組織を再構築していく点から、BPRとDXは同義と捉えられるケースもあるが、実際の意味合いは異なる。

まず、DXは最新のデジタル技術を活用し、抜本的に事業構造を変革していくことを目指す。一方で、BPRはプロセスの観点から業務フローや組織構造などを根本的に再設計し、パフォーマンスの改善につなげていく。

BPRはプロセス、DXはビジネスモデルというように、変革する対象が異なる点が双方の大きな違い。DXを進めていく一環として、BPRによる業務変革が行われるとも考えられるだろう。

BPRと業務改善の違い

業務改善とは、業務の課題を抽出して解決し、効率的な作業環境の構築や経営を安定させていくために行う施策である。多様な業界で人手不足の深刻化や長時間労働の是正などが進められている中、業務改善に注力する企業も多い。

業務を見直す点では、BPRと業務改善に大差ないが、業務を再構築する範囲が異なる。BPRに関しては業務プロセス全体を見直して再構築していくが、業務改善は業務プロセス全体をそのままとし、業務の一部を改善して無駄をなくしていく。

システムで例えるなら、システムをリプレイスして業務フローを抜本的に改革するのがBPR、カスタマイズを施して細かな業務の無駄を省いていくのが業務改善と言えるだろう。

BPRのメリット

ここでは、BPRを推進していくことによるメリットを解説していく。

業務の効率化および生産性の向上を図れる

後ほど詳しく述べるが、BPRは検討・分析・設計・実施・評価のステップをもって施策を推進していくのが基本となっている。この過程で、業務フローや組織体制の見直しを実施し、課題を把握。

業務の効率性や生産性の向上を阻害するような要因を抽出し、改善していけるため、全社的に業務プロセスを最適化できると考えられるだろう。

人的コストの削減につながる

BPRの導入では、業務フローを再構築して無駄な業務を省いていけるため、必然的に人的コストの削減につながる。コストを削減して収益を改善できれば、コアビジネスや新規事業に資金を充てられるのはもちろん、さらにBPRの推進を加速して生産性の向上や人的コストを削減していくなど、好循環を生み出すことも可能。

BPRは会社の発展に大きくつながる取り組みと言えるだろう。

労働環境の改善により従業員満足度が向上する

前述の通り、BPRは働き方改革を促進する目的でも、導入が進められている。BPRは長時間労働を是正して働きやすい環境を整備できるだけでなく、従業員の満足度を改善してモチベーションをアップさせ、間接的に生産性の向上を見込める。

その他、職場の高い透明性により従業員の離職率低下も期待でき、人事の採用活動にかかるコストまで削減可能と考えられるだろう。

BPRの進め方やポイント

ここでは、BPRを進めていく5つのステップと、そのポイントを解説していく。

検討

最初に行うのが「検討」のステップ。本ステップでは、業務プロセス・組織体制・システムなど、BPRで改革を行いたい項目ごとに目的と目標を設定する。例えば、オンプレのシステムをクラウド化することで、運用コストを削減する、データ共有を容易化して生産性を向上させるなどが挙げられる。

BPRの目標は定量的・定性的に設定することが重要。定量的な目標設定は客観性が高く、改革が大きく進むケースもあるが、組織全体が疲弊して成果を得られなかったというケースも。あえて定性的な目標を設定し、施策に取り組む企業も多いようだ。

こういった目標設定が明確ではない場合、予実管理を行えない、PDCAを回せないといった問題が生じるため、闇雲に施策を進めるのは得策ではない。具体的な目標を設定することで、プロジェクトの改善点も見つかりやすく、成功率が高まると考えられる。また、目標は経営層で共有し、齟齬が生じないよう認識のすり合わせを行うのも重要だろう。

分析

BPRの目標設定後に行うのが「分析」のステップ。業務プロセスを可視化し、各プロセスを根本的に見直していくステップである。

現段階のプロセスにおけるボトルネックの工程はどれか、廃止すべき工程はないかなど、弱みを把握。また、業務プロセスの強みも洗い出し、以降のステップで戦略的に活用していく。

BPRの分析ツールとしては、ABC分析やBSCが有効。例えば、ABC分析の活動原価計算という計算方法を用いれば、製品やサービスを創出する際に間接的に発生し、見落としがちな間接費を適切に管理可能。各業務プロセスにおけるコストや資源の動きを明確化し、コストの観点からBPRの効果を測定できる。

現状の業務プロセスの分析が甘ければ、課題を解決できず、余計なコストが発生するだけなので、時間をかけて慎重に分析を進めていきたい。

設計

「設計」のステップでは、「分析」のステップで抽出された課題をもとに、BPRで再構築する業務プロセスの実行計画を策定する。実行計画で決める主な事項としては、下記の通り。

  • プロジェクトの体制
  • プロジェクトのシナリオ
  • プロジェクト期間
  • 段階的な成果目標設定

予算に応じて設計を行っていくが、当然予期せぬ事態も発生し得るため、適切なリソース管理は重要。

また、課題が複数存在する場合は優先順位をつける。優先順位の高い課題から着手していくのが基本であるが、人的リソースが不足している企業に関しては、重要度の低い課題をアウトソーシングで改善していくのも1つである。

実施

ここまでの準備ステップを終えれば、実際にBPRの施策を実行していく。最初はスモールスタートでリスクを抑えつつ、成功体験を積み上げていくことが1つのポイント。得られたノウハウを次の施策へ活かし、プロジェクトのスピード感を高めることにもつながる。

ビジネスプロセスが大きく改革される施策のため、導入段階からミスが増える可能性も高い。従業員のミスをフォローできる体制を整え、業務フローを定着させていくことが重要と言えるだろう。

また、BPRの取り組みを成功させるためには多くの時間を要するので、「設計」のステップで定めた段階的な成果目標を達成できているか、定例会議を行うことも効果的。進捗状況を確認してプロジェクトの現状を把握しつつ、問題点があれば軌道修正も適宜行っていきたい。

モニタリング・評価

最後に行うのが、新しいビジネスプロセスのモニタリングおよび評価の実施。当初想定していた効果を得られているか、従来のビジネスプロセスと比較して成果が出ているかなど、BPRの取り組み結果を評価していく。

成果が基準値に満たない場合は、原因分析を行って現状を把握。問題に至った過程を知り、新たな解決策の立案および実行に移る。

業務の効率性や従業員・顧客満足度の評価、売上の向上など、すぐに結果を得られない測定項目もあるため、中長期的にモニタリングを続けていくことも大切と考えられるだろう。

BPRの事例

ここでは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「民間企業等における効率化方策等(業務改革(BPR))の国の行政組織への導入に関する調査研究」をもとに、BPRの取り組み事例を紹介していく。

製造業C社

製造業C社は市場環境の変化により、中核事業の業績が急激に悪化したことを受け、新たに中期経営計画を策定。連結経営の強化や構造改革への取り組みなど、事業構造を転換させていく基本戦略を打ち出した。

ビジネスプロセスを改革していく上で、C社が着目したのがコスト面。競合企業より販売費・一般管理費率が高かったことから、業務効率化の推進と組織力の強化を図り、コストの低下につなげようと重点的に取り組んだ。

業務の効率化に関しては、グループ全体の間接業務を効率化すべく、シェアードサービス会社を設立。総務業務・人事業務の比較的定型的な業務を集約し、標準化することで効率化に結びつけている。また、業務内容によってはアウトソースも活用し、さらなるコスト改善につなげた。

組織力の強化に関しては、社員一人ひとりの能力向上に注力。さらに、企業体制の改編を機に、グループ企業を同一社屋に集約して人材交流を強化。ビジネス上の協力関係が生まれ、なおかつ相互のカルチャーの取り入れも促進されたことから、間接機能組織におけるシナジーも生まれた。

グループ企業内でも業務品質の水準にばらつきがあり、アウトソース先も個々に決定していたC社だったが、シェアードサービス化によりグループ全体の間接業務の効率化を実現した。

サービス業D社

サービス業D社は業績不振を改善すべく、BPRの取り組みを開始した。過去にTQCの取り組みをトップダウンで実施していたが、社内の職種が多く進みにくかったため、自然消滅という形で活動は止まってしまった。

同じ失敗を繰り返さないよう、BPRの取り組みではトヨタ生産方式に関する専門的なコンサルティングを行うコンサルタントと契約。TQCの取り組みでは全社で施策を試み、失敗に終わってしまったので、今回は3~4人の小集団活動から開始した。

また、国内の複数ある拠点の共通業務を一緒に行い、業務を集中化。間接業務など事務の集中化に関しては、本社でグループ会社の会計・受発注業務を一括して行った。

このような業務体系を取ることで、各グループ会社の現場で対象業務に投入されていた人材を削減。加えて、材料の購買といった調達も効率化することが可能となった。

BPRに取り組んだ結果、業務効率化を実現して投入時間の短縮や人件費の削減に成功。小規模な取り組みから始め、リスクを抑えつつ成果につなげた好例と言えるだろう。

佐賀市

佐賀市は市債残高が急激に増加しているという財政的な困難を解決すべく、BPRで既存事業・計画の見直し、共同化、業務プロセスの変更を実施した。

既存事業・計画の見直しでは、公共事業が財政を圧迫していたため、事業費総額を徐々に減らしつつ無駄な事業・計画の停止を実施。例えば、新焼却炉の建設を新たな事業として進めていたが、前回の焼却炉を建設した15年前の知識をもとに、300億円の予算で計画が組まれていた。しかし、正式に専門家を採用し、設計を根本的に見直して無駄を排除したところ、周辺工事も含めて200億円で建設が完了した。

共同化では、周辺自治体と共通の業務を一緒に行うことで、各々の負担を軽減。佐賀市は下水処理施設の処理能力に余裕があったため、周辺自治体の大和町と諸富町の汚水を受け入れ、代わりに建設事業の負担金を受け入れてもらうことに。結果、約80億円の節減に成功した。

事業プロセスの変更では、佐賀市役所に総合窓口を設置。従来、佐賀市役所は3月、4月の繁忙期において、住民が2時間以上待たされるケースや窓口をたらい回しにされるケースが相次いだ。

しかし、総合窓口で住所変更届・戸籍の届出・国民健康保険・国民年金・児童手当・乳幼児医療などの手続きを一括して行うことで、住民の負担を軽減。待ち時間は繁忙期であっても20分以内まで減少し、たらい回しにされるケースも少なくなった。

また、住民からの高評価や他の自治体からの視察が相次ぎ、職員に良いフィードバックもできたため、従業員満足度の向上にもつながった。

BPRのまとめ

企業の成長力を捻出する上で、重要となるのがコスト削減。コストを見直す方法としては、人件費の削減などさまざまであるが、対処療法的な方策は一過性の効果しか得られない。

その点、BPRの取り組みはビジネスプロセスを根本的に改革するため、難易度こそ高いものの、長期的な成果を見込める。積極的なBPRの推進で、競争が激化する昨今でも生き残れる企業を目指してみてほしい。

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