原価計算とは?種類や目的、計算のやり方、分類方法などを解説

2023.02.10

製造業を担うメーカーの生産性や、小売業の競争力とも大きく関連するのが、「原価」だ。原価計算は企業の経営方針の決定のためにも重要な役割があるが、種類が多く計算方法も複雑なため、難しいと悩む方も多いだろう。この記事では、原価計算の概要や種類、目的、計算方法といった原価計算に関する基礎知識を解説する。原価計算と原価管理にぜひ活用してほしい。

原価計算の概要

原価計算の概要について解説する。

製品や商品にかかった費用を算出する計算

製造業なら製品を作るうえで、小売業なら販売する商品を仕入れるうえでかかった費用が原価だ。原価計算とは、これらの原価を計算するために行われる。

工業簿記のルールとそれ以外の計算方法がある

元々原価計算は製造業における製品の製造原価の算出のために用いられていた。そのため、製造業における原価計算とは工業簿記上のルールに沿って工業簿記(損益計算書)と連動した原価の計算を行う。さらに計算だけでなく、原価の分類、分析、測定、集計する一連の流れを含めて、原価計算と呼ぶのが一般的だ。

製造業の製造原価に該当しない、多業種でのサービス原価の算出は工業簿記には基づいていない。そのため損益計算書と関連させずに原価計算を行うこともある。

時代や環境の変化とともに新しい計算方法も登場

工業簿記に基づく原価計算法は、1962年に当時の大蔵省(現在の財務省)の企業会計審議会が示した「原価計算基準」に基づいている。一方で製造業の手法の変化、新しい産業やサービスの登場、グローバル化など時代の流れによって社会を取り巻く環境もさまざまに変化した。そのため、近年の環境に対応した新しい原価計算法も誕生している。

原価を構成する3つの要素

原価は、大きく分けて「材料費」「労務費」「経費(その他の費用)」の3つから構成され、合わせて「費目(ひもく)」と呼ばれる。原価計算で用いられる費目を要素別に解説する。

材料費

原価(売上原価)とは以下のものが該当する。

・原材料や部品の購入費用や調達費
・接着剤などの補助材料費
・加工費用や部品組み立て費用
・固定資産として扱わない10万円以下の消耗工具備品費
・小売業における仕入費用

材料費は売上と直接関係にあり、売上が高ければ高いほどそれに比例して多くの材料費が発生する。

労務費

製品製造にかかった人件費とそれに関する以下の費用が該当する。

・現場の人件費
・事務や総務の人件費
・社会保険料
・福利厚生費
・各種手当 など

原価とは異なり売上とは直接関係にない。販売費及び一般管理費は業種によって金額に大きく差がある。

経費(その他の費用)

材料費や労務費に該当しない、以下の費用が該当する。

・外注費用
・減価償却が必要な設備の費用
・水道光熱費
・借入金に対する利息
・投資や災害による滅失など、本業以外での損失
・法人税などの支払い

原価計算で用いる費用の分類方法

原価計算では「直接費」と「間接費」、「変動費」と「固定費」に費用を分類して計算する。

直接費

直接費とは、製品や商品、サービスへ直接的にかかる費用を指す。直接費に該当する例は以下の通りだ。

・製品製造にかかった材料費
・製品製造に携わる人件費

間接費

他製品や商品、サービスにかかっている費用は間接費となる。具体的な例は以下の通りだ。

・ほかの部門にもかかる人件費
・工場建物の減価償却費
・他の製品にも使用する材料費
・会社をPRするための宣伝費用 など

直接費は分類しやすいが、間接費は分類に迷うことも多い。総合的な判断が必要となる。間接費を原価に分類し、割り当てることは「配賦(はいふ)」と呼ばれる。

なお、直接費と間接費と前述の費目を組み合わせた以下の6つの分類が原価計算では多く用いられる。

・直接材料費、直接労務費、直接経費
・間接材料費、間接労務費、間接経費

変動費

生産量や売上の増減によって変動する費用は変動費に当たる。代表的な変動費には材料費がある。

固定費

変動費に対して、生産量や売上が増減しても一定の費用として発生するのが固定費。たとえ売上が0であっても固定費は必ず発生する。労務費や家賃などが該当する。

原価計算の目的区分

企業会計および原価計算基準のふたつの観点から、原価計算の目的が分けられている。それぞれの目的について解説する。

企業会計における原価計算の目的

企業会計における原価計算は、「財務会計目的」と「管理会計目的」に分かれる。

財務会計目的とは、企業の利害関係者(出資者や債権者、経営者など)に向けて、財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)に財政状態を記載し報告するために行われる原価計算だ。財務諸表で製品や商品の原価を明らかにすることで、企業の事業活動における利益を利害関係者へ明確にできる。

管理会計目的とは、製品の適正価格や販売計画、予算編成など経営管理のために行われる原価計算だ。原価を算出することで理想の原価と実際の原価が比較できるため、原価を通じて自社の課題を把握し、コストダウンや業務効率化、生産性の向上につなげられるだろう。

原価計算基準における原価計算の目的

原価計算基準によって定義された原価計算の目的には、以下の5つがある。

・財務諸表目的
・価格計算目的
・原価管理目的
・予算編成目的
・経営計画目的

財務諸表目的とは企業の利害関係者への報告を目的とした原価計算で、企業会計における財務会計目的にあたる。

以下4つの目的は、企業会計における管理会計目的を細分化したものと言えるだろう。価格計算目的とは適切な販売価格算出のために行われる原価計算だ。原価管理目的は経営の管理者それぞれに対して原価資料を提供するために行われる。予算編成目的は企業の営業目標となる予算返済のために行われる原価計算だ。経営計画目的は経営の基本計画設定のために行われる。

原価計算の種類と計算方法

原価計算を目的別に分けたときの種類と特徴を解説する。

標準原価計算

標準原価計算とは、製品の理論上の原価である標準原価(目標原価)を求めるための原価計算だ。理論用の原価とは、今までの実績を踏まえ理想的な状況で対象製品の生産や仕入を行ったときの原価を指す。

実際原価計算

実際原価計算とは、実際の事業活動を通じてかかる原価である、実際原価を求めるための原価計算だ。計算方法によってさらに以下に分類できる。

・全部原価計算
売上原価、原材料の期中仕入、在庫、外注加工の変動、運搬費、販売管理費など、すべての原価要素を網羅的に計算する方法だ。実際原価計算で算出した原価と標準原価計算で算出した目標原価を比較し、達成できているかの確認のために行われることが多い。

例:
製品販売代金が5,000円
製品材料費が2,000円
労務費が100,000円の場合の全部原価計算
製品100個を売り上げた場合

売上高…5,000×100=500,000円
材料費…2,000×100=200,000円
労務費…100,000円
原価…200,000円+100,000円=300,000円
1個あたりの原価…300,000円÷100=3,000円
原価率…300,000円÷500,000円=60%

・直接原価計算(部分原価計算)
原価にかかった費用を固定費と変動費に分類し、変動費のみを原価として原価計算を行う方法だ。売上原価と販売管理費に含まれる変動費部分のみを計算する直接原価計算は、部分原価計算と呼ばれる。

例:
製品販売代金が5,000円
製品材料費が2,000円
労務費が100,000円の場合の直接原価計算

売上高…5,000×100=500,000円
材料費…2,000×100=200,000円
(労務費…100,000円は固定費のため原価計算に含めない)
原価…200,000円
1個あたりの原価…200,000円÷100=2,000円
原価率…200,000円÷500,000円=40%

直接原価計算は、損益分岐点売上高を計算しやすいメリットがある。固定費 ÷ 粗利率(100%-原価率)の計算式に当てはめると「100,000円(固定費である労務費)÷(100%-40%=60%)=損益分岐売上高は166,666円」。固定費を改修するには166,666円の売上が必要、かつ越えると利益が出ることが分かる。

・個別原価計算
製品ひとつずつ、または1単位ごとに原価を集計し計算する方法だ。特注品や受注生産品など、個別に製造される携帯の製品の原価を求める場合におもに用いられ、原価計算を製造指図書ごとに行うのが特徴である。

・総合原価計算
製造原価を生産量で発生した原価計算期間別に按分し、製品の原価を求める方法だ。大量生産品など、標準化された製品の継続生産などの場合の原価計算法として採用されていることが多い。

原価計算の手順

原価計算は「費目別原価計算」「部門別原価計算」「製品別原価計算」の順で進められることが多い。

費目別原価計算

項目別に原価計算期間の材料費、労務費、経費を分類する。さらに直接費と間接費に分けて記録と集計をする手順を指す。

部門別原価計算

費目別で計算された製造間接費を部門に配賦する手順。組立部門、梱包部門、検査部門などで分類される。

製品別原価計算

製品一単位の原価を製品の種類・種別で計算する手順を指す。

原価計算で適正価格や利益を把握し経営に活かそう

原価計算の概要や種類、目的、計算方法を解説した。原価計算を正しく行うことで、適正価格や利益が把握できる。自社の経営状況や方向性の理解につなげよう。

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