カニバリゼーションとは?ビジネスにおける意味やデメリット、対策方法などを解説
2023.03.23
カニバリゼーションとは英語で「共食い」を意味する言葉である。ビジネスシーンでは、自社の製品や店舗同士が競合して売上を取り合ってしまうことをいう。カニバリゼーションが起きると自社内で顧客の奪い合いが起き、売上が減少したり競争力が低下したりする。
回避するためには、製品ごとの機能やターゲット層の差別化を図ったり企業内で情報共有を徹底したりする必要がある。カニバリゼーションは戦略的におこなうと売上が上がったり、他社への対抗施策になったりするので、上手に活用したい。
カニバリゼーションとは
カニバリゼーションとは、英語で「共食い」を意味する「cannibalization」からくる言葉である。もともとは、動物が生存のために同じ種族の別個体を食べてしまう行為のことを指す。
ビジネスシーンでは、主にマーケティング業界で使われ、自社の製品や店舗同士が競合し、1つの企業の中で売上を取り合ってしまう現象のことをいう。ある程度フランクな場では「カニバる」と言い換えられることもあり、反対語としては「シナジー」という単語が挙げられる。
カニバリゼーションのデメリット
カニバリゼーションが発生すると、企業の経営そのものに暗雲が立ち込めることもある。このほかにも、カニバリゼーションにはさまざまなデメリットがある。ここからは、カニバリゼーションのデメリットについて詳しくチェックしていく。
顧客の奪い合いで売上が減少する
1つの企業の中で複数の類似商品が展開されている場合、それぞれの商品のターゲット層が重複しているとカニバリゼーションが発生しやすくなる。1つのターゲット層の顧客を企業の中で奪い合うので、どちらの商品も売り上げが伸び悩み、結果的に企業としての売上が減少すると考えられるのだ。
新製品の売上が好調だったとしても、実際は既存の製品を購入していた顧客が新製品を買うようになっただけであり、企業全体の収益に貢献できていないケースもある。
自社の競争力が低下する
自社の製品同士でカニバリゼーションが起こってしまうと、商品の差別化を図るなどの対応を行わなければならない。
本来であれば、そういった対応は同業他社の商品に向けて行われるべきものだが、それを同じ社内の製品に対して行うのは、時間や開発リソースの無駄遣いであるともいえる。その間に他社にシェアを奪われたり、新しい市場を開拓されたりするリスクが生まれて、自社の競争力が低下していく原因にもなるのだ。
カニバリゼーションを回避する対策
想定されていないカニバリゼーションの発生は、企業においてデメリットが大きい。そのため、カニバリゼーションは事前に回避するのが経営戦略的に重要である。そこでここからは、どうしたらカニバリゼーションを回避できるのか、方法を具体的に考えていく。
既存製品とのターゲット層の差別化
カニバリゼーションが発生する原因の多くが、新製品がターゲットとする顧客層や市場が既存の製品と重複していたり類似していたりすることである。そのため、カニバリゼーションを回避するには、既存製品の市場やターゲット層とは異なる対象に設定して新製品を発売しなければならない。既存製品が狙いとしているターゲット層の確認はもちろん、実際に購入している顧客層の分析も重要だ。
また、新製品発売後も想定していたターゲット層が購入しているか、販売実績の確認や分析も入念に行う必要がある。既存製品とのカニバリゼーションが発生しそうな場合には、ターゲット層をずらしたり絞り込んだりして、カニバリゼーションの発生を避けなければいけない。例えば、「20代」としていたターゲット層を「20代の独身者」と絞り込むだけでも、製品のアピールポイントや販売戦略が変わるので効果的である。
企業内の情報共有
特に大きな企業では、複数の部署で並行して新製品を開発していることが多い。それらの部署間で既存製品の情報や新製品の開発経緯などが共有されていないと、似たような製品を開発してしまい、カニバリゼーションが発生する可能性がある。
自らの部署で開発設計した製品やサービスの特徴や販売実績の取りまとめや分析を行うのはもちろん、それらを企業内の他の開発部署と情報共有して、企業全体で足並みを揃えてカニバリゼーションを防ぐ必要がある。万が一カニバリゼーションが発生しそうなことがわかったら、他部署と連携しながらアピールポイントの差別化を図ったりターゲット層を変更したりするなどの改良策を加えたい。
戦略的なカニバリゼーション
カニバリゼーションはデメリットが多く、避けるべき現象である。しかし、戦略的なカニバリゼーションはモチベーションの向上をもたらすこともあり、業績を拡大するための効果的な施策にもなりうる。ここからは、戦略的にカニバリゼーションを利用するためのポイントを、成功例と共に解説していく。
ドミナント戦略
意図的にカニバリゼーションを引き起こす戦略の1つに、ドミナント戦略がある。ドミナント戦略とは、ある特定の地域に集中して複数の店舗を展開する戦略である。店舗を特定地域に集中させることで、商品などの配送効率を高められるほか、その地域でのシェアを獲得して競合他社を排除する狙いもある。
しかし、店舗数や販売戦略などを適切にコントロールしなければ、カニバリゼーションが暴走して複数店舗が共倒れになってしまう危険性もあるので、注意が必要だ。
自動車業界の事例
ある自動車メーカーは、同じエリアの中に複数の販売店を展開している。店舗によってメインで販売する車種は異なっているが、ほかの店舗で販売している車種も販売できるため、販売店同士のカニバリゼーションが起きている。あえて販売店同士を競わせることによって、販売店のモチベーションを高め、サービスの向上を狙った戦略である。
また、同一エリア内に複数の販売店があるため、顧客はそれらの販売店の中から店舗を選んで車を購入する可能性が高まる。結果として、競合他社を退けてシェアの獲得につながっているのだ。
同一メーカー内の異なる車種についても、ある車種の上位モデルと別の車種の下位モデルの価格や内装が重複している。製品同士で意図的にカニバリゼーションを発生させることで、買い換えの際に顧客が他社ではなく自社の別の製品を購入する選択肢を増やしている。
Webマーケティングにおけるカニバリゼーション
カニバリゼーションが発生するのは、実店舗や実際の商品だけではない。インターネットが普及し、Web上のマーケティングやSEOが重要になってきている近年では、集客ツールの1つとしてWebサイトのコンテンツに力を入れている企業も多い。
そこで気を付けなければならないのが「キーワードカニバリゼーション」である。キーワードカニバリゼーションとは、1つのキーワードで検索したときに自社のコンテンツが検索結果に複数表示される状態のことである。
キーワードカニバリゼーションには露出が増えるメリットもあるが、Googleの検索アルゴリズムによる評価が複数のページに分散してしまい、全体的に検索順位が下がってしまったり、似たようなコンテンツが増えることでユーザーの満足度が低下してしまったりするデメリットもある。
キーワードカニバリゼーションを回避するためには、「1つの記事に入れ込むキーワードは1つ」「類似したキーワードの記事を複数執筆しない」などの対策が必要である。
カニバリゼーションの事例
本来、一丸となって利益を追求するはずの同一企業の中で売上を奪い合うのは、非常に不毛な行為である。カニバリゼーションが起こると、どのような状態になってしまうのか理解するため、まずはカニバリゼーションについて、具体的な事例をピックアップしていく。
いきなりステーキ
「いきなりステーキ」はペッパーフードサービスが経営する、立ち食いスタイルで気軽にステーキを楽しめるチェーン店である。いきなりステーキの業績悪化の要因として、カニバリぜーションが語られれることがある。
2013年に開業してから成長を続け、急速に店舗数を増やしていったが、店舗数を増やしすぎたことによって1つの地域に複数のいきなりステーキが出店している状態になった。結果的に近隣の店舗同士でカニバリゼーションが起こり、顧客を取り合ったために企業としての売り上げが上がらず、多くの店舗が共倒れする形になったと言われている。急速に増えていった店舗数は減らさざるを得なくなり、経営も苦境に立たされている。
ビール業界
缶ビールを販売している業者が、缶ビールを飲まない顧客に向けて、缶ビールよりも低価格でありながら缶ビールの雰囲気を楽しめる発泡酒を新たに発売した。これにより新規顧客の市場流入を期待していたが、実際は今まで缶ビールを購入していた既存の顧客が、より安く買える発泡酒を購入するようになってしまった。
そのため、同一企業の中でカニバリゼーションが発生してしまい、企業や業界全体の売上上昇や新規顧客獲得に繋がらなかった。この事例では、新製品と従来製品との差別化が図られていなかったことや、企業が想定していたターゲット層と実際に商品を購入するターゲット層が異なっていたことが原因であると考えられる。
カニバリゼーションを上手に活用してビジネス上の武器としよう
カニバリゼーションは売上を低下させ、自社の競争力を弱める原因となる現象である。しかし、カニバリゼーションを適切にコントロールしたり戦略的に引き起こしたりできれば、店舗同士で競い合うことでモチベーションを向上させたり、同業他社の競争力を低下させる施策として使ったりすることもできる。カニバリゼーションをしっかり理解して、意図しないカニバリゼーションを防ぐ対策を講じた上で、カニバリゼーションを戦略的に活用してビジネス上の武器としたい。