マテリアリティとは?意味や重視される背景、決定の手順、企業の取り組み事例を解説

2023.04.14

持続可能な社会の実現のために、SDGs(持続可能な開発目標)を事業の方向性や計画に取り入れる企業も増加傾向にある。その中で重視されるようになったのが「マテリアリティ」だ。企業として、マテリアリティへの取り組みを検討している担当者の方のために、マテリアリティの概要と重視される背景、さらに小売業における各企業のマテリアリティの取り組み事例を解説する。

マテリアリティとは

マテリアリティの概要と由来について解説する。

マテリアリティの概要

マテリアリティとは、企業や組織にとっての「重要課題」を指す。企業や組織が取り組むべき課題を決定し、優先順位を付け重要度の高いものがマテリアリティとして設定、公表される。

マテリアリティの由来

マテリアリティはもともと企業の業績判断の指標である財務指標や財務報告といった、企業の業績や利益、経営状況の公表のために使用されていた。誤情報や情報の欠落によって投資家や株主への意思決定に悪影響をおよぼさないために、情報をマテリアルと捉えたところから由来している。

近年では、業績や利益などの財務指標だけでなく、企業の社会や環境問題への取り組みをはじめとした非財務指標の公表のためにもマテリアリティが活用されるようになった。

マテリアリティが重要視される理由

企業の価値判断材料として財務指標だけでなく非財務指標も重視されるようになったことを受け、マテリアリティの指す概念の範囲はより広くなった。マテリアリティへの取り組みを積極的に行う企業も増加傾向にある。マテリアリティが重要視されるようになった理由を解説する。

企業の価値や指標を可視化して公表するため

企業や組織の価値を決める判断材料のひとつとして、企業や組織の課題への取り組みや達成度合いがある。ただし、これらの要素は具体的な指標がなく数値として可視化ができない。マテリアリティとして設定すれば、重要課題や具体的な取り組み、達成度合いを定量化し、可視化できる。投資家や株主などのステークホルダーに対して、マテリアリティを公表することにより、投資をはじめとした経済的な意思決定の判断材料として活用される。

非財務指標も企業の価値へ影響するため

前述通り元々マテリアリティの対象となるのは、利益や事業計画などの財務指標だった。近年よりマテリアリティが重要視される背景にあるのが、企業の価値を決める指標は財務指標だけでなく、非財務指標も含まれるようになったことだ。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を考慮し、投資先を決定する「ESG投資」も投資家や起業家の間で重要視されている。

ただ利益を出すというだけでなく「従業員が生き生きと働ける」「社会や環境に対する取り組みを行っている」などの非財務指標を可視化し、提示するためにもマテリアリティが活用されている。

SDGs(持続可能な開発目標)との結びつきを公表するため

企業の価値を決める材料として非財務指標が用いられる背景にあるのが、持続可能な社会への取り組みを企業も求められるようになったことだ。人類が大きな経済発展を遂げた一方、地球の気候の非常事態や自然環境の汚染や破壊、貧困や栄養不足によって脆弱な環境下に置かれる人々などの問題が発生している。これらの問題に取り組むために設定されたのが、SDGs(持続可能な開発目標)だ。

SDGsは個人だけでなく、社会的責任を果たす企業としても取り組むべき目標とされている。SDGsへの具体的な取り組みや達成度を可視化させるうえでも、マテリアリティが重視されている。

マテリアリティ決定の手順

企業や組織によって抱えている課題や状況は異なるため、当然マテリアリティも異なる。自社のマテリアリティを決定するための手順を解説する。

バリューチェーン全体での環境や社会に関する課題を探す

バリューチェーンとは、消費者の手元に商品が届くまでの各プロセスにおいて、どこにどのような付加価値があるかに着目した概念。まずバリューチェーン全体から、環境や社会に関して発生している課題を探し、リストアップする。

バリューチェーンに関して詳しくはこちら、として以下の既存記事をリンクする

リストアップした課題を評価する

リストアップした課題を、「ステークホルダーに対する影響度」「持続可能性に対する影響度」のふたつを評価軸に、どの程度の重要度に達しているかを評価する。

評価を元に優先度をつける

評価を基準にして課題の優先度をつける。優先度の高い課題=マテリアリティとなる。マテリアリティはただ決定した課題の内容だけでなく、課題解決のための具体的な取り組みやプロセスも合わせて公表するのが重要だ。

マテリアリティの妥当性を決める

マテリアリティとして決定した課題が、マテリアリティとして妥当かどうかを適切なプロセスを通じて行う。取締役会での報告など、ステークホルダーに配慮した場での決定が妥当と言える。

小売業における各企業のマテリアリティへの取り組み事例

小売業では、すでに多くの企業がマテリアリティの決定と解決のためのさまざまな取り組みを行っている。自社のマテリアリティ決定のヒントにもなる、小売業における各企業のマテリアリティへの取り組み事例を紹介する。

イオンモール株式会社

イオンモール株式会社では、以下の5つの分野のマテリアリティを設定している。

・地域とのつながり(文化の保存・継承、少子化・高齢化社会)

・地域・社会インフラ開発(持続可能かつレジリエントなインフラ開発、生産消費形態)

・環境(気候変動・地球温暖化、生物多様性・資源の保護)

・ダイナーシティ・働き方改革(健康と福祉、多様性・働き方)

・責任あるビジネスの推進(人権、贈収賄)

それぞれのマテリアリティ解決への取り組みとして、2030年に目指す姿(KPI)と2050年に目指す姿(KGI)のふたつの目標を設定している。たとえば少子化・高齢化社会のマテリアリティ解決への取り組みとして、2030年には子ども向けサービスと認知症サポーター数の充実した社会、2050年にはキッズ、シニア含むすべての人が快適に暮らせる社会を目指すとしている。

セブン&アイホールディングス

セブン&アイホールディングスでは、以下の7つをマテリアリティに設定している。

・お客様とのあらゆる接点を通じて、地域・コミュニティとともに住みやすい社会を実現する

・安全・安心で健康に配慮した商品・サービスを提供する

・地球環境に配慮し、脱炭素・循環経済・自然と共生する社会を実現する

・多様な人々が活躍できる社会を実現する

・グループ事業を担う人々の働きがい・働きやすさを向上する

・お客様との対話と協働を通じてエシカルな社会を実現する

・パートナーシップを通じて持続可能な社会を実現する

自社の商品やサービスの安全性や従業員の生きがい、働きやすさなどのビジネス的な課題解決要素と、社会や環境への課題解決要素の両面を重視し、課題を設定している特徴がある。

株式会社ファミリーマート

株式会社ファミリーマートでは、以下の5つの分野でマテリアリティを設定している。

・環境配慮を通じた「地域と地球の未来」への貢献(環境マネジメントシステムの継続的改善、食品ロスの削減、気候変動の緩和と適応、持続可能な資源利用と環境汚染の防止

・人に寄り添う地域活性化拠点としての進化(地域社会の発展・活性化、災害対策・被災地支援、次世代の健全な育成、NGO/NPOへの支援・協働、自治体との連携)

・「便利で豊かな生活」を実現する安全・安心な商品・サービスの創出(生活を豊かにする商品・サービスの提供、デジタル推進による利便性の向上、お客さまの声への迅速な対応)

・お取引先とともに持続可能なサプライチェーンを追求(公正・透明な事業活動の推進、

安全・安心な商品/サービスへの責任、責任あるサプライチェーンマネジメントの構築/持続可能な原材料調達の推進)

・働きがいのある組織風土・人づくり(社員とwith Sustainability!活動、ダイバーシティ&インクルージョン、人財育成の取り組み、健康、安全で働きやすい職場環境)

いずれのマテリアリティも、対応するSDGsの目標とともに公表されているのが特徴だ。

マテリアリティは企業が社会的責任を果たすうえでも重要な項目

マテリアリティの概要や重要視される理由、企業のマテリアリティの事例を解説した。財務だけでなく非財務指標も企業の価値を決める判断材料として活用されている。マテリアリティへの取り組みを行うことは、企業としての価値が上がるだけでなく、企業の持つ社会的責任を果たすうえでも重要だ。

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