バリューチェーンとは?意味や例、バリューチェーン分析とともに解説

2022.10.05

2022.08.30

ニーズの多様化やEC事業の拡大などが影響し、ただモノを購入し所有するだけでなく、「モノの機能」や「モノを購入することで得られる体験」などの付加価値も求められるようになった。自社の強みや新しい付加価値の発見につなげられるのが、バリューチェーンだ。

この記事では、バリューチェーンの概要やサプライチェーンをはじめとした似ている言葉との違い、バリューチェーン分析のメリットや方法、さらに業界別のバリューチェーン活用事例を解説する。

バリューチェーンの概要や構成要素

バリューチェーンとは

バリューチェーンとは、消費者の手元に製品や商品が届くまでの流れを「価格の連鎖」としてとらえ、各業務やプロセスのどこで、どのくらいの付加価値があるかに着目した概念を指す。語源となった”Value”には「価値」、”Chain”には「鎖」という意味があり、日本語では「価値連鎖」とも呼ばれる。

バリューチェーンは、アメリカの経営学者でハーバード大学経営大学院教授でもあるマイケル・E・ポーター氏が、1985年に出版した「競争優位の戦略(Competitive Advantage)」内で提唱された概念だ。

付加価値とは、製品や商品、サービスそのものにプラスする価値を指し、顧客や消費者の満足度にも左右する要素を指す。具体的な付加価値の例には以下のものがある。

・縫製が丁寧/ベテランの技術者のみが手掛ける/納期が早い/品質が一定/品質が高水準/商品のバリエーションが豊富にある/商品の仕様変更ができる/使いやすい/操作性が高い/デザイン性が高い/限定販売/ハンドメイド商品/完全受注生産品/有名ブランドやメーカーとコラボ など

これらの付加価値の分析のために、バリューチェーンがもちいられている。

バリューチェーンの構成要素

マイケル・E・ポーター氏はバリューチェーンのフレームワーク構造についても提唱している。バリューチェーンのフレームワークの手順は以下の通りだ。

・バリューチェーンにおける一連の事業活動を「主活動」「支援活動(副次的活動)」「利益(マージン)」の3つに分類する

・主活動とは、製品や商品の生産から消費者への供給まで直接的にかかわる行動。たとえば「製造」「調達」「出荷」「販売」「マーケティング」などが該当する

・支援活動(副次的活動)とは製品や商品の生産から消費者への供給まで、間接的にかかわる行動。「全般管理」「人事」「労務」「開発」などが該当する

バリューチェーン分析とは

バリューチェーンを構成する「主活動」「支援活動」を「利益」と紐づけ、落とし込んでいくフレームワークがバリューチェーン分析だ。バリューチェーン分析によって、自社の事業活動を段階的に整理することで視覚化でき、どこで何の活動が利益を生み出しているか、つまり付加価値があるかを把握できる。

バリューチェーンと似ている言葉との比較と違い

バリューチェーンと似ている言葉に「サプライチェーン」がある。さらに、サプライチェーン以外にもバリューチェーンとは異なる視点から事業活動の連鎖を表現した言葉もある。サプライチェーンをはじめとした、バリューチェーンと似ている言葉との比較や違いを解説する。

サプライチェーンとの違い

バリューチェーンと似ている言葉に、「サプライチェーン」がある。サプライチェーンとは、生産から消費者まで製品や商品が届くまでのプロセスを連鎖にたとえた流れを指す。語源は”Supply”「供給」”Chain”「鎖」で、「供給連鎖」とも呼ばれている。

バリューチェーンが生産から消費者まで製品や商品が届くまでの一連の事業活動のなかで付加価値に注目しているのに対して、サプライチェーンは「生産」「製造」「調達」などの各プロセスを経て、モノやお金の流れに注目している点が異なる。また、バリューチェーンは主活動、支援活動まで注目する範囲を広げているが、サプライチェーンは主活動に含まれている。

バリューチェーンとサプライチェーンは、双方で影響し合う関係を持つ。たとえば、サプライチェーンを見直し、無駄な工程を省くことで業務の効率化やリードタイムの短縮につながる。その結果、生産から消費者まで届く工程が変化するため、付加価値の内容が変化するだろう。

サプライチェーンとバリューチェーンはお互いに連動していることを踏まえておくと、事業活動に合う対応へ調整しながらのマネジメントが実現する。

デマンドチェーンとの違い

生産から消費者の元へ製品や商品を届ける「供給」を担うサプライチェーンに対して、「需要」を担っているのが「デマンドチェーン」だ。デマンドチェーンとは、商品開発や生産へ活用するための、需要情報を収集するために市場や顧客へアプローチする事業活動を指す。

おもなデマンドチェーンには、市場調査やアンケートなどの調査、口コミや購買情報の収集を中心としたマーケティング活動、需要や顧客を拡大させるための営業活動などがふくまれる。デマンドチェーンは、市場や顧客の需要を正確にとらえることで、顧客提供価値を最適化する目的を持っている。

エンジニアリングチェーンとの違い

エンジニアリングチェーンとは、企画構想、製品設計、工程・設備設計、生産準備、保守保全までの製造プロセスの連鎖を指す。製造業において重視される製造プロセスで、構築されたエンジニアリングチェーンによって製品や企業の価値が左右される。”Engineering Chain Management”の頭文字をとり、「ECM」と呼ばれることもある。

なおエンジニアリングチェーンは、バリューチェーンにおける主活動に含まれる。

バリューチェーン分析のメリット

バリューチェーン分析を用いることで、付加価値という切り口から一連の事業活動を分析できる。バリューチェーン分析によるメリットを解説する。

利益の最大化につながる

バリューチェーン分析により、事業活動において付加価値を出しているプロセスを明確にできる。付加価値を出しているプロセスや活動とは、自社の強みや得意分野に該当する。逆に付加価値があまり出せていないプロセスや活動は、自社の弱点ということが分かるだろう。

強みや得意分野には経営資源を集中させることで製品や商品、サービスの付加価値を高められる。一方弱点分野は見直しをすることで新しい価値の創造ができる可能性があるため、企業の利益の最大化につながるだろう。

長期的な経営戦略に役立つ

バリューチェーン分析により自社の強みや弱点を把握すると、市場で生き残るための長期的な経営戦略に活用できる。競合よりも優位につく競争力も身に着けられる点もメリットのひとつだ。

競合の分析もできる

バリューチェーン分析は、自社だけでなく競合他社の事業活動の分析にも活用できる。競合の強みや弱点、さらに改善点も把握できるため、今後の動向を予測しやすい。さらに、自社と競合両方の分析を行うことで、自社を客観的に分析でき当たり前だと思っていた付加価値に大きな価値があることに気づいたり、競合との価値の差別化をはかったりする上でも活用できる。

コストの削減

バリューチェーン分析によって、どの活動で付加価値を生み出しているかだけでなく、付加価値にどれだけのコストがかかっているかも把握できる。部署や活動ごとで分析すると、無駄なコストも分かるため、事業全体のコストの削減や、コストの再分配、最適化にもつながるだろう。

バリューチェーン分析の方法

バリューチェーン分析は、以下の流れに沿って行う。

・自社の付加価値を洗い出す

・自社の事業の現状を洗い出す

・コストを分析する

・強みと弱みを分析する

・経済資源の評価をVRIO分析で行う

流れに沿ってバリューチェーン分析の方法を解説する。

自社の付加価値を洗い出す

まず現状で把握している自社の持つ付加価値を洗い出す。

自社の事業の現状を洗い出す

自社の事業にかかわるすべての活動を洗い出す。活動に該当するものの具体例は以下の通り。

・「企画・開発」

・「製造」

・「調達」

・「物流」

・「マーケティング」

・「営業」

すべての事業活動をリストアップしたら、「主活動」と「支援活動」に分類する。主活動と支援活動に分類したら、洗い出しを行った付加価値と照らし合わせて、事業における自社の付加価値の振り返りをしておこう。

コストを分析する

活動ごとにコストと収益率を数字に出し、評価をする。一緒に担当者や担当部署も明記しておくと、視野的に分析しやすくなるだろう。複数部署が関与している場合は活動比率も明記する。コストの発生要因や、コスト同士の関連性なども書ければ明記しておくと、より正確なコストの分析につなげられる。

強みと弱みを分析する

洗い出した事業活動それぞれの弱みと強みを分析する。自社だけでなく競合他社の強みと弱みも一緒に分析し、競合他社よりも優位なもの、逆に不利なもので分類すると、強みや弱みが把握しやすい。正確に分析をするために客観的に把握する、できるだけ多くの人からの意見を取り入れるのが重要だ。

経済資源の評価をVRIO分析で行う

VRIO(ブリオ)評価をもちいて経済資源の評価を行う。VRIO評価とは、「Value(価値)」「Rareness(希少性)」「Imitability(模倣可能性)」「Organization(組織)」の4つのテーマごとに独自の強みや弱みを分析するフレームワークを指す。自社の経済資源を4つのテーマから把握することで、付加価値の創出のために資源を使う経営戦略が生み出せる。

業種別バリューチェーン分析の活用事例

バリューチェーンは業種や業界によって活動内容や付加価値が異なる特徴がある。自社と同業種のバリューチェーン分析に活用事例を見ることで、自社の新しい強みや付加価値の気づきにもつながるだろう。

業界や業種別の企業のバリューチェーン分析の活用事例を紹介する。

トヨタ自動車

トヨタ自動車は2016年に発表した「コネクティッド戦略」にて、既存のバリューチェーンの維持と拡大は継続しつつも、「ICT(情報通信技術)を活用してマイカー以外の移動をシームレスにつなぐ」概念であるMaaS(Mobility as a Service)への取り組みを加速させる意向を。

カーシェアリング、ライドシェア、サブスクリプションサービスと近年ニーズが拡大している分野へのサービス展開により、トヨタ車の運用のほかメンテナンスや保険、リースなどの自動車関連分野でのバリューチェーンの確保も期待できる。

東京ガスグループ

東京ガスグループは、LNG(液化天然ガス)の調達や輸送、都市ガスの製造と供給とライフラインであるエネルギーの提供と関連する事業活動を自社で行っているのが特徴だ。

安定的なLNGの調達、強固なインフラ整備、地域密着型の営業体制を整えることで「快適な暮らしの実現」という付加価値を提供している。効率的な運輸手法を採用することで、地球環境への貢献やエネルギーコストの削減など環境面での付加価値も創出している。

ほけんの窓口グループ

来店型の乗合保険代理店「ほけんの窓口」保険ショップを全国に展開、運用しているほけんの窓口グループ。

バリューチェーンは「調達」「顧客管理」「相談会」「アフターセールスサービス」「店舗開発・提携」「人的資源管理顧客」の6分野にわたり、とくに相談会と人的資源管理顧客の2つのポイントを強化しているのが特徴だ。顧客のニーズ確認と商品選択のプロセスを支える付加価値の提供につなげている。

アサヒグループホールディングス

アサヒビールやアサヒ飲料をはじめとした、食と飲料の総合メーカーがアサヒグループホールディングスだ。2016年よりESGへの取組み強化をかかげ、経営の方向性を「サステナビリティ経営」と定めた。

環境、人権、アルコール関連などの重行課題に対応する方針や体制の整備や、PDCAサイクルを構築している。「気候変動への対応」として、バリューチェーン全体におけるCO2排出量ゼロの達成に向けた「アサヒカーボンゼロ」の取り組みを実施。ほかにも多くの持続可能性への取り組みによる付加価値を創出している。

スターバックスコーヒー

アメリカ発祥の世界最大級の規模を持つコーヒーチェーンが、スターバックスコーヒーだ。自社のミッションと価値の創出として”Our Mission and Values”を掲げている。「お互いに心から認め合い誰もが自分の居場所と感じられるような空間づくり」「現状に満足せず新しい方法を追い求める」「誠実に向き合い、威厳と尊厳をもって向き合える瞬間を大切にする」など、「人々の心を豊かにする」をミッションに、コーヒーやサービスを通じて多くの付加価値を顧客へ提供している。

ファミリーマート

コンビニエンスストアチェーン大手のファミリーマートでは、各種資産や強みを活かした事業活動により「リアルの店舗」「人と知見」「商品と情報のインフラ」の価値を向上・最大化させることで自社の持続可能な成長を目標設定している。

また、事業を通じて社会課題の解決やSDGsの達成へも貢献している。バリューチェーンを示した「価値創造モデル」では、「外部環境」「インプット」「事業活動と重要課題への取り組み」「アウトプット」「アウトカム」の各フェーズでの活動や付加価値を提示している。

ニトリホールディングス

自社家具の製造および販売を手掛けるニトリホールディングスでは、「住まいの豊かさを世界の人々に提供する。」企業ビジョンを実現するための「2022年1,000店舗、2032年3,000店舗」達成のための経営戦略を実施。

2018年~2020年は「海外高速出店と成長軌道の確立」、2021年~2022年は「グローバルチェーン確立に向けた経営基盤再構築」をおもな戦略にかかげ、グローバルチェーンを土台としたより高い付加価値の提供を実践している。

バリューチェーンは企業の競争力維持や利益の最大化の重要要素

バリューチェーンの意味や概要、サプライチェーンをはじめとした似ている言葉との比較、バリューチェーン分析のメリットやデメリット、方法を解説した。バリューチェーン分析を行うことで、自社のサプライチェーン、事業活動における強みや弱点、課題の把握にもつなげられる。さまざまな企業のバリューチェーンの事例も参照しつつ、自社のバリューチェーン分析を行い、競争力や利益の最大化を実現しよう。

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