オムニチャネルとは?メリットや注目される背景を、取り組み事例を交えて解説
2024.07.31
2023.06.01

顧客体験や顧客満足度などの向上を図るべく、多くの企業で導入が進んでいるオムニチャネル。実店舗に限らず、オンライン上における顧客接点の強化も重要視されている現代では、オムニチャネル化は非常に効果的なマーケティング戦略である。
小売業を中心に欠かせない販売戦略となっているオムニチャネルに関して、本記事では基本から注目される背景、メリット、OMO・O2Oとの違い、実際の導入事例まで解説していく。
目次
オムニチャネルとは
オムニチャネルとは、企業と顧客の各タッチポイントを全て連携し、シームレスに商品やサービスの購入を行えるようにして販売促進につなげていくマーケティング戦略である。
ここで言う「チャネル」とは、集客媒体を指すマーケティング用語で、実店舗・新聞・ECサイト・SNS・メールマガジンなどが該当。さらに、ラテン語で「すべての」や「あらゆる」といった意味を持つ「オムニ」を結合することで、オムニチャネルという用語が誕生した。

オムニチャネルの事例は後述するが、例えば大手家電量販店のヨドバシカメラ。同店はECサイトの「ヨドバシ.com」を運営しているが、ネットで注文した商品は店舗で受け取ることができる。
配送日に家で待機する必要はなく、仕事・学校帰りなど好きなタイミングで商品を受け取り可能。同様の仕組みが他店でも展開されているが、店舗受取サービスは送料が発生しないケースも多いため、消費者は出費を抑えることにもつながる。
販売チャネルの違いを意識させず、新たな購買体験を提供可能なオムニチャネルは、顧客の利便性を高めて購買を促進できる有効なマーケティング施策と言えるだろう。
オムニチャネルが注目される背景
オムニチャネルの販売戦略が広く注目されるようになった背景には、スマホの普及が挙げられる。従来は新聞折込チラシ・ポスティング・DM・看板などのオフライン媒体を主として、店舗への来店が促進されていた。
しかし、スマホが生活必需品となった昨今では、消費者の購買行動も大きく変容。サービスの比較検討から購入までが全てスマホで完結し、加えて新型コロナウイルスの感染拡大によるEC市場の拡大も影響して、消費者の店舗離れが進んだ。
また、SNSの台頭によるネット環境の変容も大きな要因の一つ。若年層を中心として、SNS検索で商品・サービスの口コミをチェックすることが当たり前となり、SNSマーケティングに注力する企業も多い。
とは言っても、実店舗にも商品を実物でチェックし、その場ですぐに持ち帰り可能というECサイトにはない大きなメリットが存在。さらに、Withコロナ時代の新たなライフスタイルも定着しつつあり、客足が戻っている店舗も少なくない。
消費者の購買行動が多様化している中では、事業者はオンライン・オフライン問わずさまざまな販売チャネルを構築し、高い利便性で商品・サービスをアプローチしていくことが重要と言える。
オムニチャネルのメリット
ここでは、オムニチャネル化のメリットを解説していく。
顧客体験・顧客満足度の向上につながる
顧客体験・顧客満足度を向上させたい場合に、オムニチャネル化は最適。
例えば、各販売チャネルにおける顧客の購買履歴を統合し、履歴に基づいたおすすめ商品をECサイト上で提案するといった仕組みもオムニチャネルの一種。興味関心・趣味嗜好に沿った思いがけない商品を発見でき、顧客体験の向上に大きな効果をもたらす。
また、近年ではECサイトで注文した商品を実店舗で受け取れる、シームレスな購買体験を提供する事業者が増加しているが、これも消費者の利便性向上に大きく貢献。顧客満足度が向上し、集客や売上アップにもつながると言えるだろう。
適切な在庫管理を行える
小売業を展開する上で、大きな課題となるのが在庫管理。在庫管理には欠品による利益損失はもちろん、余剰在庫による管理コストの増大など、さまざまなリスクが潜んでいる。
そして、複数の販売チャネルを展開する際に気を付けたいのが、商品の「売り違い」だ。各販売チャネルから同タイミングで注文が入った場合、在庫情報を連携できていなければ、欠品による受注のキャンセルが発生するケースも。
その点、オムニチャネルは在庫情報を連携させることが基本であり、適切な在庫管理が可能。利益損失の防止、および欠品に伴う信頼性の低下も防げると考えられる。
ショールーミング対策になる
ショールーミングとは、店舗で商品の価格や性能などをチェックした上で、同じ商品をECサイト上で購入する消費者の購買行動を指す。同じ商品でも、安く購入可能なECサイトへ消費者が流出する恐れもあるため、ショールーミング対策を施す店舗も多い。
このショールーミング対策の一つとして、オムニチャネルは注目を集めている。オムニチャネルを実現できれば、多様な販売チャネルで顧客を囲い込み、他社ECサイトへの流出を防止可能。
実際、ヨドバシカメラは商品にバーコード値札を取り付け、スマホから「ヨドバシ.com」へ誘導する仕組みを構築した。ECサイト上では商品の口コミも容易にチェックでき、競合他社へ顧客が流出するのを防止している。
業務を効率化できる
オムニチャネル化による販売チャネルの連携は、業務の効率化にもつながる。各販売チャネルが連携されていない場合、在庫管理や受発注、商品発送などのバックオフィス業務も分散されて煩雑化してしまう。
その点、オムニチャネル化で業務やデータの一元化を実現できれば、作業を効率化可能。コストを削減して利益改善につなげたり、人的資本への投資、コアビジネスへの注力など、多様なメリットを享受できるだろう。
OMO、O2Oなどオムニチャネルと近しい概念との違い
オムニチャネルと近しい概念に、OMO・O2Oというマーケティング用語が存在する。ここでは、混同しやすい各用語とオムニチャネルの違いを解説していく。
OMOとオムニチャネルの違い
OMOとは、「Online Merges with Offline」の略称で、直訳すると「オンラインとオフラインの統合」を意味する。オンラインとオフラインの垣根をなくし、データ収集・管理の簡素化やLTVの最大化などを実現することが目的となっている。
例えば、ニトリが展開する「ニトリのリフォーム」と、ビデオコミュニケーションクラウドサービス「LiveCall」を連携させたOMO戦略。ブラウザ上からショールーム専門スタッフとビデオ通話で、実際にリフォームしたい自宅の空間を見せながら、提案や見積もりを受けることが可能。まさしく、オンラインとオフラインを区別しないOMO戦略と言えるだろう。
オムニチャネルもオンライン・オフラインを問わず、販売チャネルを連携するマーケティング戦略であるためOMOと共通する部分は多いが、主体となる視点が異なる。
OMOは顧客体験の最適化・最大化などを目指す顧客視点の戦略だが、オムニチャネルはどのように一貫性のある購買体験を提供していくかを検討する事業者視点の戦略となっている。仕組みを構築する際の視点に違いがあると考えられるだろう。
O2Oとオムニチャネルの違い
O2Oとは、「Online to Offline」の略称で、オンライン上で集客した顧客をオフラインの実店舗へ誘導するマーケティング戦略を指す。例えば、SNSやアプリでお得なクーポンを発行し、来店を促進することもO2O戦略に該当する。
顧客を実店舗へ誘導して購買意欲を促進するO2Oに対し、オムニチャネルは顧客の誘導を行わず、複数の販売チャネルを活用して顧客を囲い込むことが目的となっている。
オムニチャネルの事例
小売業界を中心にさまざまな企業がオムニチャネルを実現し、顧客の囲い込みを行っている。ここでは、実際の事例を紹介していくので、オムニチャネル構築時の参考にしてほしい。
イオン
イオンは2021~2025年度中期経営計画として、主要施策に「デジタル事業の加速」を掲げているが、その実行施策の一つにオムニチャネルの拡大を挙げている。
例えば、イオンのトータルアプリである「iAEON」。本アプリでは「WAON POINT」の利用・付与・照会・交換を行えることに加え、電子マネー・バーコード決済「イオンペイ」を利用した支払いや、お気に入り店舗を登録してクーポン・キャンペーン情報を確認することも可能。店舗とデジタルを統合したシームレスな体験を提供し、顧客の利便性や満足度の向上を図っている。
イオンリテールが展開する「ピックアップ」のサービスも、オムニチャネル戦略の一つ。イオンネットスーパーで購入した商品を店舗で受け取れるサービスで、顧客は下記3つの受け取り方法から選べる。
- カウンターピックアップ:指定のカウンターで商品を受け取る
- ドライブピックアップ:車に乗ったまま商品を受け取る
- ロッカーピックアップ:店内の指定のロッカーで商品を受け取る
ドライブピックアップは従業員が商品を車まで持っていき、助手席・後部座席・トランクなど顧客の要望に応じて積み込むモデル。店内に入る必要はなく、非接触で商品を受け取れるとして、顧客から特に高い支持を得ている。
その他、ピックアップの類似サービスとして、イオン九州とイオンリカーは2022年11月より「AEON de WINE」の店舗受取サービスを、九州7県のイオングループ185店舗で提供を開始した。「AEON de WINE」で注文したワインを、近くの店舗で時間を指定して受取可能。店舗で取り扱いのないワインを注文できることに加え、イオングループの配送ルートを活用するため、顧客はワイン1本から送料無料で受け取れる。
多様な商品を展開するイオンだが、複数のチャネルを構築し、商品を受け取りやすく利便性の高い新たな購買体験を提供していく。
IKEA
大手家具メーカーのIKEAは、オムニチャネル化によるタッチポイントの強化に取り組んでいる。IKEAは原宿・渋谷・新宿に都心型店舗を展開し、顧客のニーズに合わせた商品を取り揃えているが、大型店舗に比べると売り場面積が狭くてラインナップも少ない。
そこで、IKEAオンラインストアやIKEAアプリ、注文書を作成することで後日配送の手続きを行えるサービスの提供を開始。近くに大型店舗がない場合でも、豊富な販売チャネルにより、IKEAの多様な商品を購入可能となった。
また、IKEAは大きな家具も販売しているが、その場では購入せず家で検討する顧客も多い。後日IKEAの商品を購入する顧客に対しても、ECサイトをはじめとしたIKEAの多種多様な販売チャネルは好評である。
さらに、IKEAは店舗やオンラインストアで購入した大型家具の受け取りを、通常配送より安い価格で利用できる「商品受取りセンター」も展開。2023年3月時点で全国に18拠点開設しており、IKEAの商品が一層身近な存在になるようオムニチャネル化を進めている。
ユニクロ
ユニクロはアプリを中心として、オムニチャネル施策を複数展開している。ユニクロのお取り寄せサービスでは、店舗にない商品をオンラインストアから取り寄せ、店舗で購入可能。店舗で目当ての商品やサイズがないとき、オンラインストア特別商品が欲しいときなどに、顧客から重宝されている。
また、各商品タグにはバーコードが記載されており、アプリでスキャンすると、オンラインストア・店舗の在庫状況を簡単に確認できる。同時に、スキャンした商品の口コミやコーディネートもチェック可能で、買い物時の参考にできるのも魅力だ。
ユニクロのライブ配信サービス「LIVE STATION」も、顧客から人気を集めるコンテンツの一つ。顧客はライブ配信を見ながら、気に入った商品があれば、その場で購入可能。質問やコメントも行うことができ、双方向コミュニケーションで顧客ロイヤリティの醸成にもつながる。
資生堂
資生堂はあらゆるタッチポイントでビューティー体験を提供すべく、各プラットフォームを連携させるオムニチャネル化を進めている。
例えば、資生堂のWebカウンセリングでは、パーソナルビューティパートナーによる無料のカウンセリングを自宅で受けることが可能。来店せずとも、美容のプロからスキンケアやメイクアップの提案を受けられるとして、平均80%以上の高い満足度を維持している。
また、ビューティーコンサルタントが化粧品や美容法を紹介するライブコマース「SHISEIDO GLOBAL FLAGSHIP STORE」も定期的に配信。ビューティーコンサルタントとリアルタイムでコミュニケーションを取りながら、顧客は紹介される商品を購入可能となっている。
さらに、2021年には化粧品専門店との連携を強めるためのECプラットフォーム「オミセプラス(Omise+)」をリリース。店舗での買い物と同様に、購入金額に応じて還元される「Beauty Keyポイント」を貯められるだけでなく、店舗のスタッフとチャットでやり取りすることもできる。
オンラインでもオフラインと同等の買い物体験を実現していると言えるだろう。
無印良品
無印良品は、ネットストアとリアル店舗を連携させたオムニチャネルサービスを提供。オンラインで購入した商品を店舗で受け取る「店頭受け取りサービス」を展開している。
また、無印良品の公式アプリ「MUJI passport」では、店舗での買い物履歴やポイント、オススメ商品情報を提供する。また、アプリのバーコードを提示すれば、「MUJIマイル」を貯めることもできる。アプリを通じて、オンラインとオフライン双方での顧客体験を統合し、よりパーソナライズされたサービスを提供する。
オムニチャネルのまとめ
オムニチャネル化を実現させるためには、さまざまなチャネルを連携する必要があり、相応の人的リソースやコストを要する。しかし、昨今のデジタル社会において、オムニチャネルの考え方は無視できない存在となっている。
特に、日常生活にスマホが欠かせない中では、オンラインとオフラインを連携して利便性を高めていくことが極めて重要。オムニチャネル化で顧客との関係性を深化させ、顧客体験や顧客満足度、売上の向上などにつなげてほしい。