研究会採録:米国リテールトレンド最前線 前編 ~ウォルマートに対する各社の差別化戦略~

2024.05.09

2024年4月18日、19日、リテール総合研究所は『スーパーマーケットイノベーション研究会 マーケティング・DX分科研究会』を開催した。

スーパーマーケットイノベーション研究会は、リテールの中でもスーパーマーケット(SM)業態に限定し、持続的成長に向けたイノベーションの在り方を議論し実践する場である。

18日は外部講師に店舗のICT活用研究所代表の郡司 昇氏を招き「ウォルマートに対する食品小売の差別化戦略」について議論した。

米国食品小売の売上高ランキング

米Progressive Grocer誌が、23年に発表した米国食品小売りの売上げランキングは図表①のとおり。トップはこの間、ずっと君臨し続けるウォルマートである。

図表① 2023年時の米国食品小売売上高ランキング

RankCompanyFiscal Year-End Sales(In Millions of Dollars U.S.)
1Walmart U.S.$420,600
2Amazon (online stores and physical stores segments only)$238,967
3Costco (U.S.)$165,294
4The Kroger Co.$148,258
5Walgreens Boots Alliance (U.S retail)$132,703
6Target$109,120
7CVS Health (retail segment)$106,594
8Sam’s Club (U.S.)$84,345
9Albertsons Cos.$77,600
10Ahold Delhaize USA$57,959
12Publix Super Markets$54,500
15H-E-B$38,900
16Dollar General$37,844
21Dollar Tree (incl. Family Dollar)$28,318
257-Eleven Inc. (U.S. only)$21,254
26ALDI USA$20,565
30Trader Joe’s Co.$16,543
37Wegmans Food Markets Inc.$12,300
出所:Progressive Grocer

ウォルマートはいま何に取り組んでいるのか?

ウォルマートは顧客中心のカスタマーセントリックビジネスモデルを掲げ、デジタルで顧客とつながりながら、オムニチャネル型で事業を強化している。

図表② Walmart Customer Centric Business Model

出所:2021年Walmart投資家向け資料をもとに筆者作成

また、WalmartはNRF2024において、新たにAI(人工知能)やドローンを活用した次の7つのテクノロジーテーマ(図表③)を発表した。テクノロジーを活用し、顧客体験の向上や事業領域の拡大に取り組むもようだ。

図表③ NRFでのWalmartの発表風景

出所:伴大二郎氏作成資料より抜粋

米国のリテールはどのような差別化戦略を採っているか?

研究会当日は郡司氏からWegmans、Target、Trader Joe`s、ALDI、Whole Foods Marketなどの各社差別化施策の発表があった。

リテール総合研究所では各社の取り組みを「商品強化軸(付加価値型、EDLP型)とデジタル活用度」の軸で評価し、図表④のとおりマップにまとめた。

郡司氏より説明があった各社の詳細トピックについては後述で補足する。

図表④ 米国食品小売各社のポジショニング

出所:研究会議論内容をもとに筆者作成

Trader Joe`s:PBを軸にした商品強化+接客強化戦略

商品観点では、取扱商品の基準が米国National Organic Program基準(図表⑤)であることや、9割以上がプライベートブランド(PB)商品などオリジナル商品であることが特徴的だ。デジタルの強化はあえてやらず、商品および接客の強化を徹底している。

図表⑤ Trader Joe`s

出所:郡司氏資料

Wegmans:生鮮、惣菜を軸にした商品差別化戦略

商品観点では、自宅でレストランクオリティが楽しめるEZmeals(図表⑥)や、米国ではめずらしい丸魚を販売する鮮魚売場(図表⑦)など、商品価値での差別化に力を入れている。サービス観点では、デリバリー&ピックアップサービスであるmeals2GOに取り組むも、スマホPOS(ウェグマンズ・スキャン)は、22年に撤退するなど、紆余曲折をへている。

図表⑥ WegmansのEZmeals

図表⑦ Wegmansの鮮魚売場

Target:デジタルを活用した買物体験強化+商品差別化戦略

商品観点では、「Targetにとっての食はあくまで利便性獲得手段に近い」「化粧品などのPBは年々増えて順調」と説明。サービス観点では「セルフレジの急拡大(図表⑧)」「アプリ機能強化による利便性の向上(図表⑨)」について説明した。

セルフレジについては単なる導入にとどまらず、レジ横の商品陳列も工夫しながらついで買いを狙う店もある。

図表⑧ Target店舗におけるセルフレジの様子

出所:郡司氏資料

図表⑨ Target社アプリにおける棚陳列マップ

出所:郡司氏資料

ALDI:ディスカウンターのコストリーダーシップ戦略

商品観点では、約9割がPB商品であり、牛乳や卵がウォルマートより特に安いと説明した。コストが安い背景として、オペレーションの効率化施策についても触れた。

例えば牛乳については、倉庫、冷蔵ケース、棚を一体化することで陳列コストを下げている点、レジ作業を効率化するためにバーコードを拡大して読み込み速度を上げる施策(図表⑩)について説明した。

図表⑩ 0.01秒でも業務を迅速に遂行するための取り組み

出所:郡司氏資料

Whole Foods Market:オーガニック、ナチュラル軸の商品差別化戦略

商品観点では、食肉の育て方の表記、シーフード・サステナビリティ格付け、Go Localコーナーでの地場商品強化(図表⑪)など、エシカルな側面について説明した。サービス観点では、アプリ機能、親会社Amazon由来のジャストウオークアウトの事例について説明した。

図表⑪ Go Localコーナーでの地場商品強化

出所:郡司氏資料

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リテール総合研究所は「スーパーマーケット業態のイノベーション」をテーマにした研究会を定期開催しています。

小売業態の皆さまは無料でご参加いただけますので、ご興味ある方はぜひご参加ください。サプライヤー・パートナーの皆さまには運営費の共同負担を目的に、年会費を頂戴しております。

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<スーパーマーケットイノベーション研究会ホームページ>

https://retail-research.co.jp/sm-innovation-society

<リテール関連のご相談はこちらまで>

https://retail-research.co.jp/inquiry

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