日本企業におけるDXの課題とは? 経産省のDXレポートなどを参考に解説

2022.10.27

2022.01.05

現代社会では、5Gやスマートフォンの普及、新型コロナ対策や働き方改革の影響もあり、DXの推進が強く求められている。日本企業においては、DXに関する危機意識やデータ活用不足、既存システムを維持運用する負担などが課題となっている。

本記事では、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」と、その2年後の20年12月に中間報告書として公表した「DXレポート2」などで指摘をされている、DXを推進するに当たって日本企業が直面しやすい課題を解決していく。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの最新のデジタル技術やデータを活用することで、ビジネス上の競争力の維持、向上を図ることを指す。

ただITツールを活用して業務を効率化するだけでは、DXとはいえず、ビジネスモデルや組織の抜本的な改革で、競合に対する競争優位性を築くという点が重要になる。

わが国においても、GAFAを始めとした海外IT企業の影響力が強まる中で、企業の競争力を維持、強化していくため、経済産業省が積極的に国内企業のDX化を推奨、推進している。

IT化との違い

DXはIT化と混同されがちであるが、IT化は今までアナログで行われていた業務をデジタルに置き換えることである。DXもIT化も、生産性や業務効率の向上につながるものであるが、IT化はDX推進のための手段として用いられるものであるため、IT化を行ったからといって一概にDXを推進したとはいえない。

IT化は、業務時間の減少やプロセスの自動化など業務の量的変化を生むが、DXはデジタル技術を活用することで、サービスやビジネスモデルそのものに変革を起こすような大きな変化を伴うのが特徴である。

なぜDXの推進が必要とされているのか

近年はデジタル技術の普及により、大企業から中小企業、零細企業問わずITツールの導入、検討は当たり前のものになりつつある。

しかし、経済産業省が推進しているのはIT化ではなくDXである。単なるIT化ではなく、DXの推進が必要とされているのはなぜか。ここからはその理由を詳しく解説していく。

2025年の崖の回避

経済産業省が設置したDXに向けた研究会が2018年にまとめたDXレポートによれば、現状のままDXを推進できない状態が続くと、システムの老朽化やIT人材不足の拡大などにより、2025年以降1年に最大12兆円の経済損失が生じる可能性が指摘されている

この「2025年の崖」を回避しなければ、世界的なデジタル競争での競争力の低下や、システムトラブルなどのリスクの高まりが危惧される。2025年までを目処に、集中的にDXを推進していく必要があるというわけだ。

市場環境の変化

近年、さまざまな産業において、AIやIoT、クラウドなど、新たなデジタル技術を活用する可能性が広がっている。

それぞれの産業の新規参入者の中には、タクシー配車アプリのUberのような、新たなデジタル技術を活用して従来にはないビジネスモデルを展開するゲームチェンジャーと呼ばれる新規参入者が続々と登場している。

これらに対応して競争力を維持、強化していくためにはDXの推進が不可欠であるといえる。

日本企業におけるDXの現状と課題

18年にDXレポートが発行されて以降、日本企業においてもDX推進の重要性や現状に対する危機感を持つ企業は増加している。

しかしながら、20年12月に公表されたDXレポート2では、多くの企業がDXにまったく取り組んでいないか、取り組み始めた段階に留まる現状が報告されている。

以下では、DXレポートでも取り上げられている、日本企業がDXを推進するうえで直面しやすい課題について言及する。

変革への危機感の低さ

「DXレポート2」では、業績が安定している状況では変革に対する危機意識が芽生えず、危機感が高まったときはすでに業績が不調に陥り、変革に必要な投資体力を失っているという状態を、企業の変革に対する「危機感のジレンマ」としてDX推進が進まない要因として挙げている。

また、独立行政法人情報処理推進機構が作成した「DX推進指標自己診断結果の分析レポート」によれば、DX推進指標の自己診断に取り組み、結果を提出した企業の中でも、95%の企業はDXにまったく取り組んでいないか、取り組み
始めた段階であり、全社的な危機感の共有や意識改革のような段階に至っていない
としており、変革に対する危機感の低さが垣間見える現状を報告している。

DXに対する危機意識の有無が、DX推進の出発点に存在する課題となっていることが伺える。

DXを推進する人材の不足

総務省が2021年7月30日に出した「情報通信に関する現状報告(令和3年版情報通信白書)」によれば、DXの推進する上での課題を調査した結果、「人材不足」の比率がが53.1%と、諸外国と比較しても日本は断トツで高いという報告がされている。

ただでさえ労働人口の減少が社会問題化している日本においては、デジタル技術に精通してDXを推進できるような人材の確保や育成は大きな課題になっている。

また、人材不足に対する対処法として、日本では「社内・社外研修の充実」「特に何も行っていない」との回答比率が高く、既存の社員で対応しようとする姿勢が伺える。

一方で、米国の場合は「デジタル人材の新規採用」「デジタル人材の中途採用」「関連会社からの異動・転籍」が多く、人材の流動性の高さも、DXに知見のある人材の確保を難しくさせる要因になっているとも考えられる。

既存システムの保守

経済産業省による「デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討」によれば、現在、IT関連費用の80%は既存のシステムを維持管理していくための費用として使われている。

このような状態に陥っている原因の1つに、既存システムの老朽化、複雑化、ブラックボックス化が考えられる。

8割以上の大企業に老朽化したシステムが残存しているとされる。短期的な観点でシステム開発や改修を繰り返した結果、保守、運用費が増大し、技術的負債としてIT関連費用を増大させている一端となっている。

DXを推進させるためには、この技術的負債を解消させ、攻めのIT投資を行わなければならない。

IT人材の不足とベンダーへの丸投げ

わが国では、ITエンジニアの7割以上がベンダー企業に偏在しており、DXを推進するためのIT人材を確保することも課題の1つとされている。少子高齢化が進む中で新人の採用も困難になり、めまぐるしく進化していくIT技術に対応するための人材育成も求められる。

このようにユーザー企業にITに精通している人材が不足していることで、システム開発やDXに関する要件定義からのすべてをベンダー企業へ丸投げになり、これがベンダー企業とユーザー企業のすれ違いやトラブルの原因となったり、開発の失敗や訴訟問題にまで発展するケースも指摘されている。

DXの推進に必要なこと

上述の通り、企業がDXを推進していくためには、さまざまな課題があることが分かった。これらの課題を解決できれば、日本企業のDXをさらに推し進めていけるだろう。そこでここからは、経済産業省が出している「DX推進ガイドライン」を参考に、DXを推進していくためのポイントを簡単に紹介していく。

DXを理解しビジョンを明確にする

DXを推進していくためには、DXでどのように新たな価値を生み出すかや、どのようなビジネスモデルを構築すべきかについて、経営層が明確にビジョンを描き、経営戦略を打ち出す必要がある。

DXのプロジェクトは部門を横断した全社的なプロジェクトになることも少なくない。そのようなときにトップが明確な方向性を示してリーダーシップを取ることで、異なる利害関係を持つステークホルダーの意思統一もスムーズになりやすい

そのためにも、まずは経営層がDXについてより深く理解することが求められる。経営層がDX丸投げするのではなく、強いコミットメントを持って取り組むことで、それらを共有するステークホルダーも明確なビジョンに向けて行動できる。

DX推進の全社的な体制整備

DXは、社内のIT部門に限定される話ではない。しかし、現在の企業では全社的な体制整備ができておらず、情報システム部門がほぼ単独でDX推進部門となっているケースや、各部門の連携がとれておらず、それぞれの部門でそれぞれが実現したいDXについて取り組んでいるケースもある。

また、DX推進による既存システムの刷新は、現場サイドからの反発がある場合もあり、社内の方向性が1つに定まらないこともDX推進の足かせとなり得る。

そのため、前述の通り、DXを推し進めるためには経営層がリーダーシップをとり、社内全部門が一丸となってDXに取り組める体制を整備することが重要である。

既存のシステムを分析・評価してシステムを再構築する

前述のとおり、現在企業内で利用されているシステムのなかには、長年の利用により老朽化していたり、度重なる改修で複雑化、ブラックボックス化したりしているシステムも多くある。

これらの既存システムを放置していると、維持管理費がかさむだけでなく技術的負債を抱えることになる。

これらを改善し、DXを推進するにはこういった既存システムを再構築しなければならない。そのためには既存システムを機能ごとに分析、評価して、どの機能を刷新しどの機能を削除するか検討していくことが必要である。

また、システムの再構築の際はそれぞれの既存システムをそのまま更新するのではなく、経営戦略や業務に合せて全社的な業務プロセスを改善し、全体最適化を目指す必要がある。

DXの効果的な取り組み事例

ここからは、実際の日本企業が取り組んだDXの中で効果的なものをピックアップし紹介していく。

これらの企業は、経済産業省が東京証券取引所と共同で選定した「DX銘柄」に選ばれている。企業価値の向上につながる仕組みを構築し、優れたデシタル活用の実績が表れている企業である。

株式会社小松製作所の取り組み:DXスマートコンストラクション

株式会社小松製作所では、「モノ(機械の自動化・自律化)」と「コト(施工オペレーションの最適化)」両面からDXを推し進めている。

ドローンでの測量やICT建機による施工など、施工を部分的にデジタル化する「縦のデジタル化」だけでなく、施工の全工程をデジタル化させる「横のデジタル化」を目指す。

施工を最適化させるシミュレーションアプリやダッシュボードアプリなどの開発、導入によって、リモートでも建設現場の状況を把握できるようになった。

東日本旅客鉄道株式会社の取り組み:チケットレス化の推進

東日本旅客鉄道株式会社は、利用客が移動のために行う検索、手配、決済をオールインワンで行える「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を構築して、「シームレスな移動」「総移動時間の短縮」「ストレスフリーな移動」を目指している。

20年3月から、JR北海道やJR西日本とともに、東北、北海道、上越、北陸、山形、秋田の各新幹線で「新幹線eチケットサービス」を提供開始した。

予約情報の管理、認証を行うセンターサーバーを構築し、クラウド技術を活用したシステムである。新幹線自動改札機に交通系ICカードをタッチすると予約情報が照会され、改札機が開閉されるため、新幹線をチケットレスで利用できる。

日本瓦斯株式会社の取り組み:DXによる業務効率化

日本瓦斯株式会社は、LPガス事業において顧客のガス消費データをリアルタイムで取得するシステムを開発することで検針を自動化させた。

さらにそのデータをハブ充填基地や車両等と連携させるデジタルツイン技術によって、ガス充填やボンベ配送のタイミングを最適化させている。

また、ガスボンベの行き先の自動振り分けシステムなど、自動化による業務効率の向上を進めている。

その他、スマホアプリや受発注システムなど顧客や取引先とのコミュニケーションのデジタル化やペーパーレス、キャッシュレスを推進したり、完全デジタル営業所を開所したりしている。

中外製薬株式会社の取り組み:AI創薬への取り組み

中外製薬株式会社は、DXで「創薬」「開発」「製薬」「Value Delivery」「成長基盤」の改革を目指している。

中でもAIやロボティクスなどを活用したAI創薬への取り組みでは、抗体プロジェクトに機械学習を用いて最適な分子配列を得るAI創薬支援技術を開発した。

また、機械学習を用いた病理画像の自動認識などによって、研究プロセスを効率化させている。

課題を把握することがDX推進の第一歩

DXは企業の競争力を高めたり、業務の効率化やコスト削減を推進できたりと、企業にとっても重要かつメリットの大きい取り組みである。

しかしながら、従来の業務体制を一新させたり、新たな価値を創造したりする大きな変革が伴うため、経営層のためらいや現場からの反発など、DX推進を妨げる要因も少なくない。

そんな中でDXを推進し、競争力を維持、強化していくためには、まず自らの企業がDXの推進に対してどのような課題を抱えているのかを把握する必要がある。DXに関する課題は、企業の業種や経営層、企業風土などによっても変わってくるため、ここで挙げられた課題が必ずしもすべての企業に当てはまるとはいえない。

しかし、課題を正しく把握できれば、その解決方法もはっきりするため、DX推進につなげられる。

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