トライアルのDX最前線「スーパーセンタートライアル長沼店」は何がすごいのか?
2022.04.12
2020.08.14
積極的にテクノロジー導入を図っているトライアルカンパニーが「関東初のスマートストア」として、スーパーセンタートライアル長沼店を7月3日リニューアルオープンした。当初は5月の予定だったが、新型コロナウイルスの影響で、特に中国の機材の工場が稼働を止めていたこともあって遅れたが、無事リニューアルが完了した。
同社の歩みは、日本のスマートストアの歴史でもあるといえる。いまからさかのぼること2年以上前、2018年2月には本社構内の実験店舗トライアル ラボ店(福岡市東区)において、ウオークスルー型RFID会計ソリューションの実証実験を実施した他、お客が自身で商品をスキャンしながら買物をしていき、カートに装着されたタブレットで決済をする方式の「スマートレジカート」を開発し、福岡市東区に同年2月14 日にオープンしたスーパーセンタートライアルアイランドシティ店に導入。
その後、同年8月31日にはスーパーセンタートライアル鹿島店(佐賀県鹿島市)をリニューアルオープンし、100台のスマートレジカートに加え、売場と連動したデジタルサイネージを76台導入。「買い易くなる(購買意思決定の軽減)」買物体験の提供を目指した。
さらに同年12月13日には新フォーマットとなる「Quick(クイック)」大野城店(福岡県大野城市)をオープン、AI(人工知能)冷蔵ショーケースの実装による欠品商品の自動発注、夜間無人化の実現、キャッシュカードでチャージできるプリペイドカードチャージ機の設置といった3つの技術を初導入した。
同店ではさらに同社初の試みとして約1万2000枚の電子プライスカードを全商品に導入し、需要と供給に合わせて価格設定を行うダイナミックプライシングが可能となる態勢にも挑戦。同時にスマホ専用アプリの「トライアルお買い物アプリ」内に新機能として「スマホでGo」を追加し、スマホで商品スキャンから決済、クーポンの提示なども可能となる機能を付け加えた。
技術開発・技術導入を推進する会社を設立、AIカメラを自前開発
また、組織的にも、「『リテールAI技術を活用し、流通業界を変革すること』をより加速するために」、18年11月1 日にRetail AIを設立。技術者を抱えながらリテールAI 技術の開発・技術導入を行う中でハードウエア、ソフトウエアを自社開発し、店舗への導入までを一気通貫で対応する態勢を整備。さらにそれをトライアルカンパニー以外の企業にも提供するとした。
19年4月19日には同社最大級の売場面積を持ち、フラッグシップ店舗でもあるメガセンタートライアル新宮店(福岡県新宮町)をリニューアルオープン。同社の既存のスマートストアでもAIを活用したカメラは設置されていたが、今回からRetail AIが独自に開発した「リテールAIカメラ」に切り替え、新宮店には1500台が導入された。独自開発によって導入コストを従来と比べ大幅に抑えることができ、大量導入も可能になったという。
同店には他にも電子プライスカード7000 枚、レジカート200 台、サイネージ210台といった多数の設備が導入され、トライアルカンパニー最大のスマートストアとなった。
また、トライアルカンパニー以外の企業への設備の提供では、今年7月、スーパーマーケットのリテールパートナーズ傘下の丸久が運営するアルク到津店(北九州市小倉北区)にスマートレジカートを40台納入(丸久における同カートの呼称は「レジカートシステム」)、7月9日から3カ月の予定で運用の実証実験を開始した。
両社でプロジェクトチームをつくり、売場面積1000坪以上の店も多いトライアルカンパニーと、丸久の400~500坪の店の規模を考えて台数を40台とした。決済には丸久のマルカカードを使用する。
リテールパートナーズの田中康男社長は、「安全に対する投資、システムに対する投資などさまざまなことが負担としてのしかかり、スーパーマーケットそのものがコスト高の経営になってきた。デジタル化を進めなければ、薄利多売の業界そのものがもたない」と語る。また、スマートレジカートの導入は新型コロナの問題が発生したことで注目が集まる会計時の「⾮対面」「⾮接触」の促進にもつながるもので、その意味でも重要性が高まっている。
「来年4月の新店や九州地区の店舗にも拡大していくように、信頼関係を築いていきたい」と田中社長は語るが、計画が順調に進めば、今後、スマートレジカートに加えてAIカメラ、サイネージといったフル装備を来年4月オープン予定のアルク八幡西店(八幡西区、仮称)に導入していく計画だという。
Retail AIの永田洋幸代表取締役/CEOも、「広めていくことで、お客さまの買物体験を変えていくことが大事」と、他社を含めた展開の広がりが重要との認識を示す。
リアイル参加6社の取り組みを集結した旗艦店
そうした流れの中での関東初のスマートストアの登場である。これまでの集大成のような形で、AIカメラやスマートレジカート(同店からは「スマートショッピングカート」の呼称となっている)などのリテールAI技術を1455坪の店舗に集結。
長沼店はトライアルカンパニー、サントリー酒類、日本アクセス、日本ハム、フクシマガリレイ、ムロオの6社が昨年11月に発足させた「リテールAIプラットフォームプロジェクト」の「リアイル」の旗艦店の位置づけも担う。
同プロジェクトは、人口減少による小売業界の市場縮小や140兆円規模の市場のうちの約3割のコストが最適化されない「ムダ・ムラ・ムリ」の存在など、さまざまな社会課題に直面している中で、小売り、卸、流通、メーカー、冷蔵ショーケースメーカーの各プレーヤーが連携し、AIによって得られたデータを活用していくことで流通業界の構造改革による社会課題の解決、消費者の購買体験の向上など、「流通情報革命」を起こすことを共通の目的として発足したものだ。
長沼店におけるリアイル参加各社の取り組みは次のとおり。
サントリー酒類…酒カテゴリーおよび併売カテゴリーにおける売上分析、人流データなどを基にした、スマートショッピングカート、サイネージを活用したスマートかつ楽しい買物体験とライフスタイルの提供
トライアルカンパニー…トライアル長沼店の運営及びリテールAI技術の研究・提供
日本アクセス…洋日配カテゴリーにおけるクーポンを発行し、スマートショッピングカートのタブレットに表示する、非接触をキーワードとした購買体験の提供
日本ハム…商圏に合わせたライフスタイル提案とお客の好みに合わせたダイレクトマーケティングを実施
フクシマガリレイ…AI冷蔵ショーケースの設置およびリテールAI技術の外販
ムロオ…リテールAI技術を活用したメーカー、小売り、卸の共同配送センターの設置
なお、リアイルに参加を希望する企業も増えているという。
「スマートショッピングカート」は「レジなし」より有効
カートに付属するタブレット端末でお客が自ら商品をスキャンしながら買物していき、最後は会計のボタンを押してレーンを通るだけで会計を済ませられるスマートショッピングカートは、トライアルカンパニーのスマートストアを象徴する存在といえる。
通常のレジを通る必要がないため、お客にとってはレジ待ち時間の削減につながる他、店側にとってはレジの人時の節約につながり、人手不足解消にも寄与する。アマゾンゴーのように「ジャストウオークアウト(ただ店を出るだけ)」といったある意味究極の「レジなし」の形ではないが、これを実現するためのカメラや重量センサーなどさまざまな設備投資の大きさなどを考えると、普及させるのにはちょうど良い形式ということもできる。
さらに、タブレット端末があるため、売場でスキャンした商品に応じたレコメンド機能やその場で使えるクーポンの表示といったこともできる。長沼店で導入された最新のモデルでは新たにレシピ機能が追加された他、細かな部分として見え方などUI(ユーザーインタフェース)の改善も図った。レシピ機能は、売場でスキャンした商品情報に合わせたレシピが提案されるというもの。レシピは惣菜チームと共同で自社制作したという。
もちろん、メーカーとしても、スキャンした商品に基づいてタブレット端末上で提案ができたりすることは魅力となる。「そもそも、私たちはカートがお客さまのためのものであると思う一方で、もう一方ではメーカーさんのメディアになると思っている。メーカーさんといっしょに併売しやすいクーポンを(買物途中にカートで)提案しているので、ついで買いを促していきたい」(永田CEO)。分析を行うことで、メーカーとしても、仮説ではなく、地域性も含めたより相性の良い組み合わせや提案などを検証できるというわけだ。
Retail AIとしては、スマートショッピングカートの導入によって、小売業の人件費の多くを占めるレジ人件費のうちの20%を削減することが目標。その分を、欠品を減らす取り組みやカスタマーサービスに振り分けることで充実を図っていく意向だ。長沼店を含め、トライアルグループではすでに20店舗に導入が進み、合計約2500台が稼働している。
オープン2週間でカート使用率40%を超える
トライアルカンパニーには24時間営業の店が多いが、長沼店を含めスマートショッピングカートを使用可能としているのは9時~21時まで。この展開時間内の使用率は次第に高まりつつあり、1号店のアイランドシティ店では50%を超えているという。長沼店でもリニューアルオープン後2週間強で40%を超える水準にまで高まっているが、新型コロナウイルスの影響もあってか高まるペースは早いと考えられるという。
お客はまず、トライアルカンパニーのプリペイドカードを作り、課金しておく。
来店したら、スマートショッピングカートのタブレット端末からログインする。その後、商品をスキャンしながら買物をしていき最後は会計のボタンを押し、レジの一角に設置されたレーンを通るだけ。残高が足りない場合、カートに不足と表示されているため、レーンを通る前に課金する。
現在はレーンの前に人がいて、スキャン忘れをサンプルでチェックしている。これについてもカート内に量りを設置するなどさまざまな方法でスキャン忘れを防ぐ方法を実験中で、さらに簡単な運用を目指している。
決済手段は自社のプリペイドカードのみに限定。他の決済手段の導入も検討したが、いまのところ広げる予定はない。他の決済手段の場合、手数料の負担が大きいことから導入が見送られた。
スマートショッピングカートの導入にはさまざまな効果が期待されるが、意外な効果として、来店頻度が上がることがある。データでは月4回程度の来店が5回程度になったという。福岡のあるエリアでの調査では、他店からお客がシフトしたこともデータから見えてきた。「スマートカートは楽。特にレジ待ちしなくてよいというのは大きい」(永田CEO)とみている。新型コロナの時代ということもあって、レジにおける接触ポイントが少なくなったことも好意的に捉えられるだろう。
また、これも意外ではあるが、高齢者の使用率も高い。「スマホなどを使っているからこそ、参入障壁が低くなったと思う。買物でもタブレットが広がり、あまり使われていなかったお客さまもだいぶ慣れたことが大きい」(同)
AIカメラで欠品削減、商品開発への活用も
天井や什器などに無数に設置されたAIカメラも、トライアルカンパニーのスマートストアを象徴する代表的なハードウエアだ。前述のとおり、新宮店からRetail AIが独自開発した自前のものを採用しており、既存6店舗では計2400台が稼働中。長沼店では688台のAIカメラが導入された。
人物カウントや商品認識などの小売りに特化したAIを搭載していて、商品棚の欠品情報や店内の人の流れをデータ化し、分析。欠品を起こしにくい棚割りの追求といった取り組みをメーカーなど取引先と協力して実施している。
欠品の検知は、主に色の変化で把握する。たとえば、バナナは黒い什器に並べられているため、バナナの黄色と什器の黒色の比率で、バナナの在庫量が分かるというもの。商品を重ねて積み重ねている在庫の把握についても、重なりを把握できるようにカメラ設置の角度など変えることで分析が可能だという。
欠品の分析は、特に生鮮、惣菜を含む回転率の高い分野を重点的に管理している。「特に夕方の欠品の問題が大きいが、カメラを導入することによって補充が可能となり、お客さまの機会ロスを軽減させることができる」(永田CEO)
取引先とは「MDリンク」と名付けられた基盤上で情報共有。棚ごと、時間ごとに状況を見ることができるため、その情報をベースに棚割りなどカテゴリーマネジメントだけでなく、商品自体の分析もできる。
分析の一例を挙げると、「ボリューム率」と「PI(Purchase Index)値」を比較。たとえばボリューム率が高いままでPI値が低い場合、「売れていない」ということで、「商品に問題があるのではないか」となる。メーカーにとっても、実態が突き付けられることになるが、逆に「これまで分からなかった買物の正しいデータがみられるようになった」と好意的に捉えられているという。
パンメーカーの商品のリニューアルに共同に取り組んだ成功事例もある。実験データを踏まえ、あえて競合企業と使用シーンのターゲットと価格帯を変え、新たな使用シーンを開拓するため、量目などを変えて試売をしながら検証。結果、ヒット商品になり、そのメーカーとしても数百億円レベルの売上増につながった。
「アンケートではなく、しっかりお客さまの購買、生活に合わせて何を売るかということは、私たちのようにメディア(店舗)を持っているリアルだからこそ検証できる」と永田CEOは強調する。
最終形は、製造から一気通貫で無人化した店
店舗も増え、さまざまな成果が上がっているトライアルカンパニーのスマートストアだが、今後の方向性はどのようなものを想定しているのか。新型コロナウイルスの問題を経て改めて、DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が叫ばれる中、永田CEOにスマートストアの最終形について聞いたところ、次のような答えが返ってきた。
「そもそも、スマートストアとして、『いかに無人にするか』ということが最終的なビジョンとしてある。しかも、それはたとえばアマゾンゴーのように決済だけなど、BtoCだけでなく、本当はBtoB、つまり、製造から無人にしないといけない。あくまで仮説だが、ロボティクスが発達し、AIが発達し、生産段階からバリューチェーンを一気通貫で無人化できることが未来のスマートストアだと思う」
同時に、永田CEOはデータ活用の重要性を強調する。新型コロナウイルスの影響で、生活スタイルが大きく変わったことで、「過去のデータは使えなくなった」という。「だからこそ、私たちのように簡単にデータが取れることが大事。すぐにデータを取って、すぐに検証できる形でなければ、これからのコロナ時代には生き残れない。すぐ出てくるデータを、いかにうまく活用できるようにしていくかが、当面の大きな課題だ」と永田CEOは力を込める。
【無料】参考資料はこちら▼
スーパーセンタートライアル長沼店概要
所在地/千葉県千葉市稲毛区長沼町71
リニューアルオープン日/2020年7月3日
営業時間/24時間(サービスカウンター9時30分~22時、カー用品9時30分~22時、ドラッグ9時~23時)
駐車台数/379台
店舗面積/1455坪
店長/中垣庄二
商圏人口/1km圏5345世帯1万2942人、2km圏1万8842世帯4万5901人
アイテム数/5万5735SKU
テナント/鮮魚(ニューフィッシュ田中)
Retail AI概要
代表者/代表取締役 永田洋幸
本社所在地/東京都港区浜松町1-30−5浜松町スクエア9F
設立/2018年11月
事業内容/AIカメラなどのリテール向けIoTハードウエアおよびソフトウエアの企画・開発・設計、店内お客さまデータ・棚データなどの分析、分析結果を活用したコンサルティングサービスの提供、ショッパーマーケティングサービスの提供