コロナの変化に対応するDX(デジタルトランスフォーメーション)とは? 需要喚起段階への踏み込みが鍵を握る

2022.04.21

2020.10.15

エスキュービズムソリューションデザイン部部長エグゼクティブコンサルタント 岩井源太

2050年のカーボンニュートラルな社会実現にその開発リソースを集中するために、ホンダがF1から撤退することを発表した。ことの是非はともかくとして、同じようにリテール企業の多くも同様に未来に向けた判断をしなければならない状況が近づいてきている。

それも2050年という遠い未来の話ではなく、2025年、あるいはもっと近い――たとえば2年後など近しい距離に対しての話である。

DXの世界は、実はその訪れが加速している

コロナ渦によって、われわれが思い描いていた未来は変わってしまった。ニューノーマルに代表される新しい生活様式、接触を是としないあらゆる社会的環境、シチュエーション。在来のタッチパネル型サイネージは「触る」という動作が忌避され、反対に触れないサイネージ機器とも言えるホログラフィックディスプレイが注目され始めている。

海外では、Adobeのレポートでも発表されているように、コロナ渦によって、購買行動がこの半年で当初の見込みから4~6年間分も進んでEC(電子商取引)にシフトした。

いままでのECの成長率を見ると、これは驚異的なことである。少しずつ広がり、リテールの現場を少しずつ脅かしていたECの世界、DXの世界が、この数カ月で一気に跳躍してしまったのだ。

この結果、DXの時代が、私たちが思い描いていたよりもはるかに早いスピードで訪れようとしている。

見えてきた勝ち残るためのモデル

コロナ渦による外出自粛後、リテールの現場、あるいはその人々に商品を提供するメーカーの現場でデジタルシフトは次々と加速している。

たとえば、リアル店舗の滞在時間を短くする購買――ショートタイムショッピングという概念が生まれているが、これらはオンラインの接点がなくては成り立たない。いままでリアルで、どの商品を買おうかと迷っている時間をそのままオンラインで実施してもらい、店舗ではピックアップに特化しようとするものだ。このようなサービスが次々と生まれている。

この結果、接点としてのオンラインは多様化し、さまざまなシチュエーションから参加することができるようになっている。

・ショートタイムショッピングを掲げるカインズの受け取りシステム

コロナ渦前からこの取り組みはなされていた。店舗のリアルタイムの在庫情報、棚ローケーション、そして取り置きなど店舗を軸とした自由な購買、時短購買を実現できることが強みである。

・GEO SPEED

店名の記す通り、事前予約してスピーディにレンタルを実現するサービス。ECサイトで購入申し込みを実施し、店舗のロッカーで実商品を受け取って帰るだけ、という仕組み。リアル商品のレンタルを、オンラインを使ってうまくさばいている例。

・イオンリテール/トライアルカンパニーのレジカート

業界的にコロナ渦でも有意な事業領域であることはもちろん、さらに高い利便性と他者との接触性を排除した、という点でも有用性の高いシステム。会員の登録とプリペイドカード、ハウスカードとの連携がもっと強化されれば、キラーサービスとなる可能性を秘めている。

現在提供されているサービスとしては、モデルを非接触やリアルタイムのデータ分析、サービスに寄せることに成功している企業の方が、さまざまな意味でリダンダンシー(冗長性)が取れており、かつ多様な状況への適合性を高く保てている。

そういった意味で、時代は確かにオンライン化が強く進み、それに応えることが生き残るための必須条件になってきている。

その上で、これからの時代に適合していくことのできる企業とは、次のような企業であるといえる。

・事業モデルとして勝ち残りに向いている企業

たとえば、総合スーパー(GMS)、家電専門店の中でも、生活必需・巣ごもり需要にマッチングした企業。

・サービスモデルとして勝ち残りに向いている企業

オンライン化が進んでいる。既存システムの小規模な改修で、ショートタイムショッピングサービスなどに切り替えができる環境的用意ができている企業。

以上のような企業が強く、また同様に今後生き残っていくモデルへの対応力が極めて高いといえる。

勝ち残るために今、するべきこと

事実上、数年をかけて展開を想定していたシステム企画が偶然潮流を捉えたという場合を除き、コロナ渦によってITシステムの開発、投資は非常に難しい局面となっている。

1つ目は、海外のレポートでも出始めている「OMO(オンライン・マージズ・ウィズ・オフライン)の取り組みが加速している」という点。2つ目は、その結果、正解や打つべき施策の順番が不明瞭になりつつある、という点である。

デジタルシフトの加速により、ゴールポイントまでの距離は変わらないものの、要求されるスピードは何倍にも早くなってしまった。その結果、「今後1年でECを刷新し、3年後にオムニシステムを導入、各種のシステムの刷新を2024年度に実施する」などといった長期的なタームでは、決定的な商機を失う可能性すら発生し始めている。

たとえ会社が独自の商品を開発・販売し、そして自社以外でまともな情報が掲載されていなかったとしても、もはやデジタルの世界でその情報を探し出すことは難しいことではない。

オフィス家具のメーカーとして有名な某社公式サイトでは、商品の情報は決して多くはない。しかし、小売店のECサイトや一般の利用者が書いているレビューはその何倍もの情報をユーザーに与えている。

では、この情報で感化された人々は、どこで商品を購買するのか。購買までに、どのような体験をしていくのかを考えてみるべきである。

会社がメーカーであればいい。結果的に買ってもらえる。だが、小売店であった場合「自分が利用する側であればどうなのか」を、一切のバイアスなしに考えてみるべきである。

もしもブラウザで検索すれば大多数のユーザーは大手モールでの購買に走るに違いなく、小規模なECサイトなどは見向きもされない。「この程度でよい」と思っていたオンライン接点はほとんどの場合、致命的なまでに情報が不足している。集客力では負け、利便性のあるサービスでも到底かなわない。

唯一にして最大の強みであったはずのリアル店舗も外出自粛の流れを免れない。

では、何をしていくべきなのか。

大手の提供するオンラインの接点は、「欲しいと思った瞬間」から「後」に特化している。全てのサービスが購買に向けて整えられており、購買した「後」の、届くまでの体験をしっかりと設計しているからこそ、ユーザーはそのサイトを利用している。

ユーザーの購買体験の「購買」だけを獲得することはもはや不可能であり、小売店が勝ち残るためには、そのもっと「前」の需要喚起というレベルから対応を求めるべきときとなっている。

たとえば、多彩になった顧客接点を生かすために、ユーザーレビューやショップ従業員のコーディネートから直接EC購買を導線として用意したり、SNSや動画などからそのままEC購買に連携させたりなど、お客が需要を喚起し、興味を持った「瞬間」に、適切な購買導線を提供できる仕組みを提供していくことがこれからの時代には欠かせない。

「気になった瞬間に」「気になった場所で」そのまま購買できることが重要となる。

その場所が店舗であれば、それはいままでどおりの購買である。だが、これからはそれだけではないと考えるべきである。在来は、「気になった瞬間にユーザーが正しく購買サイトにたどり着けるようにする」ということが重要だったが、もはやたどり着くこと、案内させることは困難となっている。ユーザーは大手モールに必ず流れるからだ。

これに対抗するためには、「需要を喚起した瞬間に、ユーザーを逃すことなく購買させる」、その仕組みと仕掛けによる、「ユーザーを逃さない」という体験設計が必要になってくる。

そのための「ユーザーに欲しいと思わせる」ための情報と、「その感化の受け皿としてのデジタル接点」が必要になる。

幾つか事例を挙げたい。

・エスキュービズムが実施した動画コマース

動画のインターフェースで、動画のアピール力を生かし、商品イメージを強く伝えた上で、単なるCMではなくそのまま商品購買へつなげる。

・エスキュービズムが実施したVRコマース

VRインターフェースで、理想の店舗をオンライン上に出店。理想の購買体験を顧客に提供した商品購買を実施する。

これらのように、「感化させ喚起した瞬間に購買に結び付けるための仕組み」が何よりも今後、デジタル・リアルを問わず求められると考えている。

販売の方法と販売のための仕組みづくり、そして多彩な営業戦略に応えるプラットフォームづくりが今後、強く求められていると考える。

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