ライフの新フォーマット「ビオラル」丸井吉祥寺店を事業視点で分析する
2022.04.21
2021.01.05
アズライト代表 榎本博之
BIO-RAL(ビオラル)とは、ドイツ語の「BIOLOGISCH(有機の)」と英語の「NATURAL(自然)」からなる造語であるが、販売されている商品すべてがオーガニックでもなく、ナチュラルに限定されているわけではない。
都内には、マクロビオティックなどの自然食料品店は数多く事業を展開しているが、定義づけを厳密にしすぎると、どうしてもターゲットが絞られてしまい、マーケットのすそ野が広がりにくい。
今回のビオラル出店は、オーガニックやナチュラル、ローカルの要素を加えて、ライフ自体の事業フォーマットと認知度向上による新規顧客のすそ野という、2つの拡大が大きな目的といえる。
ビオラルでは、「オーガニック」「ローカル」「ヘルシー」の3本の柱を立てており、青果部門においてもその柱に沿った商品構成を組み立てている。オーガニックでは、茨城県の久松農園とハーブスマン’sを中心に、ローカルは「東京育ち」のキャッチフレーズで都内JAとの連携、付加価値商品として「レストランの野菜たち」シリーズを展開している。
品揃えは訪店時では、オーガニック約50SKU、東京育ち約40SKU、レストランの野菜たち15SKU程度であった。その他に、冷蔵ケース内に、オイシックスのヴィーガンミールキット「Purple Carrot(パープル・キャロット)」シリーズを始め、スプラウトやモヤシが約10SKU、オーガニックの水煮が約15SKU、果物類が10SKU程度となっている。その他に、オーガニックのドライフルーツやナッツの量り売りを行っている。
売場面積は、全体で82坪であり、青果においてもかなり制約のあるレイアウトで展開されている。平台はステージ型の多段式で2台あり、トップが東京育ちとレストランの野菜たち、奥がオーガニックである。
通路幅が確保しにくく、回遊のしにくさは否めない。柱周りのスペースも活用しながら、数多くのアイテムをコンパクトにまとめて展開し、マーケットのようなライブ感を持ったにぎやかさが印象的である。
惣菜と連動したレイアウトにもなっており、関連購買や横串し展開が期待されるところだが、訪店時にはそのような取り組みや仕掛けは確認できなかった。近畿圏の靭店(大阪市西区)では、青果アイテムを使用した惣菜メニューの提供など、横串し展開があったが、関東での今後の動きに注目をしていきたい。
丸井吉祥寺店は多店化への布石となり得る
今回、売場スペースの制約の問題からか、生鮮部門では青果だけが配置され、鮮魚や精肉は冷凍アイテムを中心とした構成で、売場としては限定的にとどまっている。
そのため、食事を用意するためのデイリーユースには対応できず、惣菜を中心とした即食対応、目的購買、商品紹介や情報発信を主とするアンテナショップ的な機能が来店目的と考えられる。
その前提で考えると、現状の品揃えは、商品紹介や情報発信の側面が強く、固定客の確保につながるリピート需要をどのように創造するかが今後の課題になってくる。価格も全体的に高めで設定されており、他店で販売するレギュラー品と比較して2割くらい高めとなっている。
将来的にビオラルを100億円規模のビジネスに成長させる目論見があることから、このフォーマットでの多店舗展開が推進され、認知度の向上と共に、すそ野の拡大は当然期待できるが、収益バランスをどのように確保していくのかが気になる。
売場の現状分析からの仮説ではあるが、青果においては、委託販売や消化仕入れなど、自社仕入に限らない販売方法も展開として考えられる。近年、ショッピングセンター内で出店が目立つ専門店の産直形式の委託販売であれば、出店のスピードアップは図りやすくなる。
ビオラルでは、どのようなビジネスモデルを意識してフォーマットを固めていくのかは興味深い。産地開拓も不可欠であり、売場での訴求まで一貫した価値創造をどのように進めていくのか、トライアンドエラーは続いていくと考えられる。このような進取果敢な取り組みは、最近のライフコーポレーションの特徴でもあり、強みともなっている。
さらに、今回のような百貨店での出店への可能性を見いだせれば、新たな出店余地が拡大することになる。これまで、カルディコーヒーファームや北野エース、成城石井などが展開していたスペースをはじめ、デパ地下での惣菜+食品販売といった、今回の丸井吉祥寺店での取り組みをベースにした展開も当然視野に入れているだろう。これまで進めている既存店舗内のコーナー化に加えて、これまでのスーパーマーケット(SM)事業とは切り口が異なる取り組みが増えてくるのではないか。
商品構成については、自社による「ビオラル」ブランドの拡充と育成はもちろんであるが、他社との連携、協業も含めて、柔軟性を持ちながら組み立てを図っていくだろう。オーガニック系の事業者には販路開拓に苦労しているところが少なくない。オーガニック事業者にとっても、ビオラル事業との連携、協業は渡りに船であり、ウィン・ウィンの関係が広がってくれば、商品供給の多様化、安定化に貢献する。
近畿圏の靭店は、近隣に出店した新店とのすみ分けの流れで生み出された経緯があり、売場スペースも300坪近くと、SMとしての売場の組み立てがやりやすい面がある。その観点で考えると、なかなか合致するような条件は少なく、出店スピードは高まらない。
その点で、今回の丸井吉祥寺店の展開は出店スピードを加速するための取り組みの一貫となり得るものであり、狭い売場での買い上げをどのように高めていくかという、新たなチャレンジともなる。
購入頻度の高いアイテムが多い青果部門ではあるが、商品や生産者の訴求にだけに限らず、他部門との連携が安定的な需要獲得の鍵となる。まずは、隣接する惣菜との連動をどのように図るかがポイントであろう。