オイシックスはなぜ、「アップサイクル」に取り組むのか? 取り組めるのか?

2023.02.13

食品のサブスクリプションサービス(サブスク)を提供するオイシックス・ラ・大地(オイシックス)は、チョーヤ梅酒と共同開発した新商品「梅酒から生まれたしっとりドライフルーツ」を1月26日から販売開始した。

梅との新しい出会いを提案する「The CHOYA銀座BAR」でこの商品を使った「梅づくし」のアフタヌーンティーメニューを期間限定で展開した。

オイシックスはチョーヤのアップサイクル原料を使用する商品の取り組みは初めてだが、フードロスの削減の取り組みを他社、他団体に広げて原料廃棄の削減に積極的に取り組んでいる
「梅酒から生まれたしっとりドライフルーツ」。原材料は梅酒梅(梅、砂糖、酒精、国内製造)、砂糖、ぶどう糖/トレハロース。梅肉をセミドライにし表面に砂糖をまぶした状態。梅酒の梅を十分に感じられる
「The CHOYA銀座BAR」のアフタヌーンティーで期間限定で提供される梅酒の梅を使った料理とデザート。期間中は店内で「梅酒から生まれたしっとりドライフルーツ」の販売も行われる

チョーヤ梅酒は紀州産を中心に国産梅を100%使用、生産者と共に土づくりから取り組み、熟度を高く、香り豊かな梅を厳選して梅酒にしている。梅酒に漬けたあとの梅は製品に入れたり、そのまま販売しているが、製品化できなかった余剰の梅は、家畜の飼料や畑の肥料となっていた。

テーブル, 屋内, 天井, 人 が含まれている画像
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チョーヤ梅酒の企画広報推進部の森田英幸氏は食品残さは今まで畑の肥料や家畜の飼料として使われていたが、人間向けを最優先するべきだとの発言が印象的であった

オイシックスのグリーンシフト戦略は、①農業生産での温室効果ガス削減(同社独自のグリーン基準の導入)、②ラストワンマイルでの温室効果ガス削減(配送車のクリーンエネルギー実証実験開始)、③包装の脱プラ推進(商品パッケージのさらなるグリーン化)、④フードロス削減(従来のフードロス削減の取り組み強化、アップサイクル商品の販売推進)、⑤アップサイクルの取り組みで、オイシックスは、梅酒に使用した後の梅を産地で再び買い戻し、生産者自らドライフルーツに加工することを提案。

産地での雇用を確保しながら事業化することで、生産者の収入やモチベーションも向上し、フードロスの削減も同時に叶えることができた。オイシックス会員向けにテスト販売したところ、好評でリピート率も高く人気商品となったという。

オイシックス・ラ・大地の執行役員グリーンプロジェクト責任者の東海林園子氏。特に「従来のフードロス削減の強化」「アップサイクル食品の販売推進」を目標に活動を続けている
皿の上のデザート
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「梅ドライフルーツ&バター(プレーン)」(左上)、「燻製梅ドライフルーツとチーズのピンチョス」(右上)、「梅ドライフルーツ&ナッツバター」(左下)、「梅の実入りチーズホイップ最中」(右下)。ドライフルーツは乳製品やナッツと相性がいいため梅のドライフルーツともよく合う
手紙
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オイシックスは、これまで「パインの茎チップス」「りんごの芯」「ふぞろいセロリの野菜だし」など54種類のアップサイクル商品を開発し、約71t(2021年7月8日~22年1月12日まで)のフードロスを削減してきた

フードロス削減を継続できるオイシックスの強み

オイシックスに「アップサイクル製品はロスはないか」と質問した。答えは「製造中に多少の廃棄はあるがほぼゼロです」という頼もしい答えだった。

SPA(製造小売業)で価格設定を自らできる「BtoCのビジネスモデル」だからできる強みだといえる。

オイシックスのフードロス削減は前述の「アップサイクル食品の販売促進」の他に、「従来のフードロス削減取り組み強化」の2つの目標を立てている。

従来のフードロス削減の取り組みの代表的なものとして、2021年には「Food Rescue Center(フードロス再生工場)」を建設した。自社で廃棄されている野菜を製品化するという試みだ。

神奈川県海老名市の配送センターの一角に「フードレスキューセンター」を造り従来のフードロス削減のための作業所を新設した

同社は、「フードロス削減の取り組み」について次の観点で推進している。

「つくる」。ふぞろい、規格外の販売促進、廃棄カ所のアップサイクルによって22年3月期に約100t削減した。

「売る」。サブスクモデルを活用した、畑と食卓の需給データ一マッチング。流通におけるフードロスは、オイシックスは0.2~0.3%だという。

「食べる」。「Kit Oisix」や「ちゃんとOisix」など食材の使い切りサービスの提供により、家庭での食材の廃棄(Kit Oisixの活用により)約3分の1まで減少させた。

「つくる」「売る」「食べる」と3つに分類してフードロスの削減を明確にしている。これは、製造小売業(SPA)であるからできることだ。

フードレスキューセンターでできることは次の3つ。

①Kit Oisixの原料を加工品に活用。豊作、ふぞろいなど、食べられるが畑で捨てられている食材を加熱、冷却の組み合わせによる「食材の食感・保存コントロール技術」で、カット野菜や加工原料に活用している。

②つる、皮、へたなど従来は非食部分をアップサイクル商品への転換。

③品質保持期限の延長。傷みやすい生野菜やカット野菜など長持ちしない商品は、包装技術と温度管理による「品質保持期限延長」で、さらなるフードロス削減に貢献。

年間310t(アップサイクル120t+フードロス削減商品190t)のフードロス削減を実現し、フードレスキューセンターを活用することで、3年間で1000tのフードロス削減を目指す。明確な数字目標のもとに取り組んでいるわけだ。

廃棄ロスの活用、アップサイクル商品はコストがかかるためあまりやりたがらない。オイシックスはそこにあえて踏み込んでいることになる。

いままで廃棄されていた食材
「カット工程」廃棄されるネギの青い部分と外皮が一部残る玉ネギ。玉ネギの外皮(茶色い部分)と白い部分との間に、外皮が一部含まれた部分がある。それは今までは廃棄されていた。その外皮を一枚一枚包丁で取り除き可食できるようにする作業
ネギも青い部分は捨てられていたが、刻んで加熱することでキットの食材やソースに使われる。これも手作業だ
「加熱工程」。カットされた食材は速やかにジェットオーブンを使い加熱。食材ごとの温度と時間を設定して加熱処理している
パスタと野菜
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加熱済みの玉ネギは少し焦げ目がついている状態。殺菌効果もあるが、玉ネギは加熱すると甘味が増す
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「包装工程」。ロス加工作業は機械を使わず手作業。ここは年間310tのロスを商品化している工場。真空パック工程では自動計量、自動真空パックの機械と手動の機械。2台の真空パック機を使っている
「冷凍工程」。エタノール冷凍機械4台で瞬間冷凍を行っている。写真は瞬間冷凍された加熱済みの玉ネギとネギ。鮮度の良いものを加熱して瞬間冷凍したものをキットの食材やソースに使っている
ミールキットになった、先程の玉ネギ、青ネギ。小袋に入れられて提供されている。デザートのリンゴは皮付きで提供

オイシックスのアップサイクルの取り組みは、基本的にコストアップにつながる取り組みである。企業としてはなかなか取り組みづらい部分もあるだろう。実際には廃棄した方がコストも低く、効率的である。しかし、オイシックスはあえて取り組んでいる。

「つくる」「売る」「食べる」の段階で明確にフードロス削減の目標をつくって達成に努力している点は重要だ。コスト重視だけではないこうした取り組みには、どのような可能性が考えられるか。1つ指摘できるのは、その企業姿勢がお客にアピールするものであるということである。

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