マルチフォーマット戦略の本格化、海外企業との「共通項」を読む

2026.08.13

目下、小売業界は人手不足の影響もあって人件費が上がっている他、そもそもインフレ局面でさまざまな経費が上がる状況にある。なかなか厳しい経営環境にあるといえるが、こと日本において最も深刻な問題といえるのが、人口の減少だ。

人口の減少は人手不足につながる意味でも影響が大きいが、加えて「食」という必需ではあるものの、その1人当たりの需要の量自体は一定である商材をメインに取り扱うスーパーマーケット(SM)にとっては、そもそも売上げの源泉である市場自体が減っていくことを意味する。

限られた市場で売上げを高めていくために何より重要になるのは「シェア」となる。高いシェアを取ることができるフォーマットを作ることが前提となるが、もう1つ、昨今活発化している動きに「マルチフォーマット」の開発がある。

立地と客層に合わせて複数のフォーマットを持ち、「面で地域を押さえにいく」マルチフォーマット戦略を明確に描く企業が目立つようになってきた。ただし、このマルチフォーマット自体は、いまに始まったことではなく、すでに日本でも数十年レベルの歴史がある。ただし、以前の考え方はどちらかというと総合スーパー(GMS)とSMといった「複数業態」を持つ戦略、あるいは同じSMのフォーマットであっても「商圏ごとの性質に対応する」といった側面が強かったように思う。その点、昨今目立つのは明確に「シェア」を取りに行くことを表明した上での戦略であるということだ。

新フォーマットを続々開発するベイシア

代表的な企業の1社にベイシアがある。2026年3月に営業開始30周年を迎えた同社は、直近3年で売上を約600億円積み増し、足元で約3700億円。売上5000億円、長期1兆円を見据える成長フェーズにある。これまでスーパーセンターやSMといった業態を主力としてきた同社が、いま立て続けに毛色の異なる新フォーマットを世に問うているのは、商圏の重なりを恐れて出店を見送ってきた立地にも踏み込み、成長を加速させるためだ。

まず、首都圏の都市部を含む全国展開を視野に入れた「オトナリマート」を26年2月にオープン。標準50〜80坪を想定する小型店で、即食、簡便と「ひとり食」に振り切り、バイオーダーのファストフードカウンターを核に、全国300店体制を見据える。

小型店の新フォーマット「オトナリマート」。標準50〜80坪で全国300店を見据える(1号店の伊勢崎下道寺店、群馬県伊勢崎市)
セルフサービスのオーダー機で頼むファストフードカウンター。即食、簡便と「ひとり食」に振り切った

そして26年6月に開業した「劇安ワンダーランドココトク!」は、ベイシアの屋号すら冠さないディスカウント強化型。品揃えを既存店の半分強――約8500SKUまで絞り込んだが、これは手本とした米国のディスカウントストア(約9000SKU)をも下回る水準だ。パレット陳列やプロセスセンター(PC)の活用によって、構造として既存店比1〜2割安を実現する。

相木孝仁社長は「ベイシアの常識をいったん脇に置き、売場も商品構成もオペレーションもゼロベースで見直した」と語る。ココトク!では客数を1.5〜2倍に増やすことを掲げる。ベイシアもまた、複数のフォーマットを束ねて面で都市部を含めたシェアを取りにいく側に回ったということだ。

屋号から「ベイシア」の表現を外したディスカウント強化型「劇安ワンダーランドココトク!」(ふかや花園店、埼玉県深谷市)
パレットやケースのまま積む売場。SKUを約8500に絞り、構造的に既存店比1〜2割安を実現
ディスカウント業態ではあっても、デリカや鮮魚については一定程度、店内加工も実施。このめりはりがポイント

「グループ最適」へフォーマットを再編するU.S.M.H

イオングループの首都圏のSM連合であるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)も、シェアを意識した方針を採るものの、その事情はベイシアとはやや異なる。具体的には、統合によってグループで抱えることになった商圏が重なる店舗を含むさまざまなフォーマットを束ね直す動きである。

マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東、そして2024年に加わったいなげや。26年に統合したダイエー関東事業の一部とイオンマーケット。SM連合として歩んできた同社は、グループ全体で760店超・売上1兆円超という規模を持ちながら、現状ではその規模を十分に生かす体制にはなっていないとの認識がある。イオンリテール社長を経て25年5月に就任した井出武美社長が掲げるのは「個社最適からグループ最適へ」。各社がそれぞれに抱えてきた数多のフォーマットを、整理し直す段階に入った。

軸は2つある。エリアを「ダウンタウン(東京23区)」「アーバン」「ルーラル」に分け、店舗サイズを「100坪」「300坪」「500〜600坪」に集約していく。マルエツの小型店「マルエツ プチ」は100坪モデルを一手に引き受け、100坪モデル1号店の西横浜駅前店(111坪、横浜市西区)を皮切りに、南大塚二丁目店(127坪、東京・豊島)、東高円寺駅前店(128坪、東京・杉並)と、1店ごとに磨きをかける。

U.S.M.Hの「100坪モデル」を担う「マルエツ プチ」(写真は東高円寺駅前店)
マルエツ プチは青果中心の生鮮強化と即食の集積を強みとして都市部の小商圏を狙う(南大塚二丁目店)

26年3月にマックスバリュ関東がダイエー関東事業、イオンマーケットと統合して生まれた「イオンフードスタイル」は、三田店(約335坪、東京・港)を新フォーマット1号店、代官山店(263坪、東京・渋谷)を300坪モデルとして、都市部に水平展開していく。郊外型のカスミは、500〜600坪モデル開発の実験台として大型の松ヶ丘店(706坪、茨城県守谷市)を使い、「新スタンダードモデル」を立ち上げた。品揃えを約1万4000SKUから8400SKUへ絞り込み、低価格と高収益の両立を狙う。今後、郊外型にはマルエツの大型店も加わる見込みだ。

新フォーマット「フードスタイル」1号店の三田店
フードスタイルは生鮮、デリカを軸にしつつも絞り込みを進めながら価格も前面に出すことで、価格面でも差別化を意識する
高収益を狙う「新スタンダードモデル」1号店のカスミ松ヶ丘店では品揃えを約8400SKUへ絞り、生鮮、デリカの構成比を引き上げた

井出社長は「V=Q/P(価値〈Value〉は品質〈Quality〉を価格〈Price〉で割ったもの)」という式を口にし、生鮮・デリカという「デスティネーションカテゴリー(来店目的になる売場)」で客数と来店頻度を取りにいく。それを背後で支えるのが、PCの再編と、イオングループとの調達、物流、プライベートブランド(PB)商品であるトップバリュ、eatimeのシナジーだ。各社がそれぞれ持っていたPBはこの2ブランドへ集約し、かつ品揃えは絞り込みの方向にある。散らばった資産をフォーマットへ束ね直し、規模の力で磨き直す。それがU.S.M.Hのマルチフォーマットである。

西友買収で都心へ攻め込むトライアル

西友の買収という形で関東の市場の深耕を本格化したトライアルグループは、従前からマルチフォーマット戦略を採っているが、関東を攻め込む中でそれを一段進化させようとしている点が注目だ。主力の大型店に追加する形で、性格の異なるフォーマットを足していく形で、特に関東の場合、買収した西友の店舗を生かした展開となっている。

九州を地盤に、売場面積約4000㎡(約1200坪)に6万〜7万SKUの衣食住をそろえるスーパーセンターを主力に成長してきた同社は、25年7月、約3826億円を投じて西友を完全子会社化した。これにより両社の年商は単純合計で1兆円超、店舗数は600店弱の規模に達した。狙いは明快だ。九州が地盤で東京都には店を持たなかったトライアルが、関東の駅近好立地に強い西友を取り込むことで、最大の空白地帯だった首都圏を一気に手にした。地盤が重ならないため、店を食い合う心配も小さい。

今回、トライアルが関東でも展開を開始したフォーマットは、西友の店舗を生かしたものだ。1つは約50坪、取扱約1800SKU、24時間営業の小型店「TRIAL GO」。わずか30人時で1日を回すローコスト運営。最大の強みは、近隣の西友の店舗を母店として同店で製造した商品を運び込む「出来たてに近い惣菜」で、これによってコンビニなどと比べた競争力を持たせようという戦略だ。西友の既存店を母店に据え、そこからトライアルGOをサテライト店として出店を重ねることで関東でのシェアを高めていく道筋である。

トライアルが都市部深耕を図るために開発した小型店フォーマットのトライアルGO。約50坪で24時間営業(写真は西荻窪駅北店、東京・杉並)
近隣の西友店を母店として同店から運び込む出来たてに近い惣菜。30人時で回すローコスト運営でもこうした商品を展開できることを強みとする

加えて西友の一部の大型店を改装し、トライアルの要素と融合させたフォーマット「トライアル西友」は、食品に加えて衣料、住居用品も広範に取り扱う「都市型GMS再生モデル」で、非食品の取り扱いがかなり限定的になっていた西友の非食品についても再強化することで、GMSとしても競争力を高めていこうという戦略の一環といえる。

実際、融合1号店のトライアル西友花小金井店(東京都小平市)は、転換後2カ月で売上が前年同期比約42%増、客数は約36%増と効果を挙げている。郊外を得意のスーパーセンターで押さえつつ、トライアルGOとトライアル西友で都心に攻め込む。もともとの大型店に小型店と都市型の融合店を足していくことで関東のシェアを高めていく方針が明確だ。

西友の大型店を改装した融合フォーマット「トライアル西友」(1号店の花小金井店)
食品に衣料、住居用品も加えた「都市型GMS再生モデル」。花小金井店は転換後2カ月で売上約42%増の成果を残した

人口が減る時代、有望な出店地は限られる中、必然的に自店同士で客を奪い合う「カニバリゼーション」が生じる可能性が高まる。だが、フォーマットが違えばどうか。別フォーマットを出店することで、自社競合を回避しつつ、実は既存フォーマットでは深耕し切れなかった市場にもアプローチすることもできる。役割の違うフォーマットを重ねれば、商圏を面で覆っても客は食い合わず、こぼれる需要まで拾い切れるというわけだ。

各社の打ち手は、方向こそ違えど、同じ一点へ向かっている。ベイシアが標準を残したままディスカウントフォーマットを開発するのも、U.S.M.Hがフォーマットを整理し、集約するのも、トライアルがスーパーセンターに小型店を足して都心へ攻め込むのも、突き詰めれば単一のフォーマットでは取り切れない需要、あるいは客層を、性格の異なる複数のフォーマットで丸ごと取りにいく。つまり、シェアを取りにいく戦略である。そして、ここで重要なポイントは、役割の違うフォーマットは同じ商圏に重ねても食い合わないということになる。

今回、事例として挙げた企業以外にも、例えば生鮮強化型の広域商圏ターゲットの「生鮮市場TOP!」と小商圏ターゲットの「マミープラス」の2フォーマットを磨き、既存店を2フォーマットに転換しシェアを高める戦略を採るマミーマート、標準フォーマットの「ベルク」とは別にディスカウントフォーマットとして「クルベ」を開発したベルク、さらに標準フォーマットの「ヤオコー」とは全く考え方の異なるディスカウントフォーマットとして買収したディスカウント企業のモデルを移植した「フーコット」の展開を開始したヤオコーなど、マルチフォーマット戦略を本格化する動きが目立つ。

海外企業ではシェア向上の定石としてのマルチフォーマット戦略

一方で、このマルチフォーマットは海外ではかなり一般的な戦略でもある。特に米国や欧州においては小売業の寡占化が進む中、特に特定市場でのシェアを高める必要性が高い大手企業にはマルチフォーマット戦略を採る企業が少なくない。

代表的な企業としてテキサス州を中心に高いシェアを持つH-E-Bは、古くからマルチフォーマットを展開する企業として有名だ。同社発表で売上高500億ドル(約8兆円)超、アメリカではテキサス州のみ、他メキシコに合計455店超を出店する同社はまさにドミナント出店戦略を体現しているような企業といえ、自らを「マルチフォーマット小売業者」と呼ぶ。

同社の場合、標準的なSM(日本よりかなり大型で、フード&ドラッグの形を取る)に加え、高付加価値の商品を取り扱う旗艦店の位置付けの「セントラルマーケット」、非食品の品揃えを充実させた「H-E-Bプラス!」、さらにより低価格を強化した「ジョーヴィーズスマートショップ(Joe V’s Smart Shop)」を展開(他にエスニックを打ち出したとフォーマットやメキシコ事業のフォーマットなどもある)。典型的なマルチフォーマット戦略を採っている。

それぞれ、セントラルマーケットはホールフーズマーケット、H-E-Bプラス!はウォルマート、ジョーヴィーズスマートショップはアルディ、もしくはコストコといった企業の主力フォーマットとの共通項が多く、それら競合からシェアを確保するために開発された側面もあるとみられるが、重要なことはそれによって「商圏内で各フォーマットのすみ分けを図りつつ、シェアを高める狙い」が明確だということだ。そして、その背後には寡占化が進んだ大手企業同士の、激しいシェア争いがある。

テキサス州で高いシェアを持つH-E-B。標準店はフード&ドラッグの大型SMだが、メニュー提案などサービス面も充実している
セントラルマーケットは1994年、オースティンからの展開。内装や売場の演出も含め、高付加価値の商品が引き立つような売場づくりとなっている。大商圏の旗艦店の位置づけ
ジョーヴィーズスマートショップは2010年から展開。アイテムの絞り込みや、コンテナ単位の陳列などより手がかからない方式を採用することでディスカウントを強化している。一方でレディトゥクックなどの簡便商品や惣菜、ベーカリーなどもある程度しっかり展開するなどめりはりを付ける。ベイシアのココトク!の方針と近いといえる

また、カナダで高いシェアを誇るロブローも、マルチフォーマットによってさまざまな需要を捉えていることが特徴だ。同社は小売事業で639億カナダドル(約7兆4000億円)の年商を挙げていて、直営、フランチャイズを合わせ、多様なフォーマットを展開する。

例えば、ヴァンクーバーの市街地を歩くだけでも、出来たて惣菜などが際立つ付加価値の高い売場づくりの「シティマーケット」、低価格を強調したディスカウントフォーマットである、その名も「ノーフリルズ(余分なものはなし)」、また、アジア食品を取り扱うSMを買収する形で展開することになった「T&Tスーパーマーケット」といった性質の異なるフォーマットをそれぞれ同一商圏内で成立させているさまを見ることができる。

都市型フォーマットの「シティマーケット」では惣菜などが前面に出ている他、レディトゥクックの商品、もちろん生鮮も充実。付加価値の高いミールソリューション型の店舗となっている
ディスカウントフォーマットの「ノーフリルズ」は黄色を主体とした店内。これは同社の低価格PBの色と共通だ。ノーフリルズはフランチャイズによる運営であることも特徴
アジア食品を主力に取り扱うT&Tスーパーマーケット。ロブローとは全く異なる売場である一方、ロブロー店舗にT&Tコーナーを設けるなど連動を図っている

こうした海外企業の場合、フォーマットごとにすみ分けをすることで、「もともと高いシェアをさらに高める」という戦略の方向性が浮かび上がる。日本で本格化するマルチフォーマット戦略をレビューすると、日本においても市場が縮小する中で次第に寡占化も進み、結果としてより「シェア」の重要性が高まってきたことを表しているように感じられるのである。

お役立ち資料データ

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