緊急事態宣言の発令再び、『新型コロナ対応と急速に進んだDX』について考える

2021.01.13

更新:2021.01.15

イオンリテールは年始商戦で販売する商品を前倒しで販売するなど、特定日や時間に集客しない方策を実践している。非接触の決済として、端末を用いて自分で商品をスキャンする「レジゴー」の導入を進めている

年明け早々、1月7日に関東の一都3県に緊急事態宣言が発令されることになった。さらに13日、その範囲は関西の3府県に加え、愛知県、岐阜県、福岡県、栃木県にまで拡大された。

緊張感が高まった昨年の春、4月に出されて以来、再度の宣言発令となってしまった。

春の緊急事態宣言時、外食や商業施設は休業を要請され、人々は不要不急の外出を自粛するように呼びかけられた。結果として、必需品を販売するスーパーマーケット(SM)には多くのお客が訪れることとなり、これらの店の売上げを押し上げることになった。

新型コロナウイルス感染症の予防対策についても、場合によっては入場制限をしながらアルコール消毒や距離を開けるための案内、レジへのシートの設置など、当初手探り状態ではあったものの、次第に各企業の方針は定まっていった。

例えば、イオンは6月に「イオン新型コロナウイルス防疫プロトコル」を制定し、さらに11月に閉鎖空間での飛沫感染防止対策を強化する内容など加えて改定し、内外にその内容を明確化するなどしている。

20年4月の緊急事態宣言で販促のデジタル化が進む

4月の緊急事態宣言下で、最も顕著に変化が起こった分野がチラシをはじめとした販促だった。「3密」を避けなければいけない条件下、「集客」を図ること自体が敬遠された上、そもそも販促をしなくてもお客が来店し、多くの商品を買っていくという状況になったこともあって、チラシを打たないが続出。地域にもよるが、一時期はほとんどチラシがなくなる自体が発生した。

実際、チラシを打つと「混雑を生み出さないで欲しい」といったクレームが入るほど、人々の意識も深刻だった。企業側、お客側双方の意識として、集客につながるチラシを避ける傾向が顕著になった。

その後、少しずつチラシを戻す動きが出てきたが、それでも全体的な傾向としてはサイズの縮小や掲載商品点数の減少、あるいは日替わりなどではなく、数日通しの特売品のみ掲載といったソフトなものになり、さらに感染予防や企業姿勢などの訴えなどの価格以外の要素を打ち出すようなチラシへと、その中身を変えていった。

同時に、価格政策自体も、日替わりの特売やタイムサービスなどは特定の日や時間帯に集客をする仕掛けということで、これも避けられ、常時、もしくはある一定の期間の価格設定にシフトする動きが起こり、いわゆるエブリデーロープライス(EDLP)強化を打ち出す傾向が強くなった。

一方で、チラシがなくなった一方で売上げが押し上げられたことで、企業からは価格も出さなくても売れ、現場作業も楽になっているとの声も上がった。チラシによる売場変更などが現場の大きな負担になっていることは以前から指摘する向きもあったが、強制的にチラシが打てなくなることによって、改めてそれが分かったということだ。

仮に価格を打ち出すとしても、それがEDLPにシフトしているということには、集客を避けるという文脈に加えて、こうした現場への負担軽減という意図もある。ただし、チラシなどの「情報」が全くいらないかといえば、そうではないようだ。実際、一時期、チラシがなくなったことによって、「お得な情報が分からなくて困った」という声も寄せられるなど、依然として情報に対するニーズは存在している。

その意味で、今回の販促の変化で顕著だったのが、販促のデジタルシフトだった。これまでも紙のチラシに加える形で、デジタルチラシやアプリなどを導入する企業は次第に増加している傾向にあったが、緊急事態宣言への対応として、デジタルチラシのみ継続、あるいは再開といった判断をした企業があったことは大きな注目点だった。

企業によっては紙のチラシを全てやめ、アプリなどデジタル販促に思い切って移行してしまう企業も出てきた。そもそも、紙のチラシの場合、どうしても掲載にタイムラグが発生してしまうというデメリットがあった。

その点、デジタルチラシやアプリは紙に比べてリアルタイム性を高めることができることから効果を発揮しやすいということもある。そうした諸々の状況を踏まえ、「根本的に販促を見直すチャンス」との声もあった。結果として、4月の緊急事態宣言によって、販促のデジタル化が進んだといえる。

これは、さまざまな試行錯誤を経ながらも、「過度に集客をせずに、しかしながら売上げを作らなければならない難しさ」を解決する方法が模索された結果である。

「ゆるやかな変化」が一気に「激変」に、待ったなしの対応を迫る

4月の緊急事態宣言は、延長を経て5月下旬に解除されたが、その後も夏の第2波を経ながらお客の買物行動は、緊急事態宣言下にSMの業績を押し上げた「まとめ買い」の傾向を維持し続けている。それは多くのSMの既存店の数値が「客数減」「客単価大幅増」、結果として「売上高増」になっていることからも分かる。

これは、「食」に特化したワンストップショッピングの店であるSMの強みが出た結果でもある。緊急事態宣言下では「3密」を避けるために買物頻度や人数を減らすことも提言されたが、それが結果としてよりワンストップ性の高いSMへとお客を集中させた。さらに緊急事態宣言下で多くが休業していた外食の需要も取り込みながら、巣ごもり需要をある意味総取りするような形となった。

一方で、新型コロナ登場前の日本の小売業の状況を思い出せば、生産性の低さなどが指摘され、ここのところずっと人手不足が続いていた。少子高齢化が進み、マーケット自体が縮小する中にあっても、店舗数は増加傾向を示し、結果として多くのプレーヤーによる「オーバーストア」が続いていた。

必然的に価格競争も激しくなり、さらなる生産性の低下を招くという状態で、まさに「生き残り」を懸けた競争が続いていたといえる。さらにそうした中にあっても「小売業界、SM業界はずっと同質競争をやって、低価格競争をやってきた。その結果、何が起こっているのかというとみんな利益が上がらなくて、生産性が低いと言われている」(岩崎高治・ライフコーポレーション社長)。

さらに特にSMなど必需品を販売する企業は、底堅い需要に支えられているがゆえに売上げが急速に減ることはなく、サミットの服部哲也社長の言葉を借りれば、ある意味、「ゆガエル」になっていた。

その点では、急速に進化するデジタルテクノロジーをどのように経営や店舗運営に取り入れるかという「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の必要性が叫ばれる一方で、実際にDXを具体化する動きはゆるやかであったといえる。

それが今回の新型コロナの登場によって、一気に変わることになった。経営や店舗運営に大きな制約が課されることになったからだ。それは日本中、さらに言えば世界中のあらゆる企業にいえることだが、これほどまでデジタルテクノロジーの導入を急速に、強く迫られることはこれまでなかったのではないか。

感染リスクを鑑み、混雑を避ける、効率的な買物を実現するために、よりスムーズに買物ができるような売場づくり、さらに極力接触をせずに買物ができるようにするための非接触型の決済などが求められ、実際、セルフレジ、キャッシュレス決済、さらにチラシやレジの代わりとなるアプリの活用など、これまでも導入が進んでいた技術の導入が一気に進んだ。

困難な中にあっても、学びを生かしながら小売業を変える

一方で、SMの売上げが押し上げられ、好業績を生んだ背景には、テレワークなどがしづらい環境下、感染リスクにさらされながら現場で働く従業員の存在がある。もともと慢性的な人手不足で、人海戦術になりがちな店舗オペレーションをいかに効率化するかはSMにとっても大きな課題ではあったが、感染リスクの低減などより具体的な対策の必要性と共に、すぐにでも対策を打たないといけないレベルの課題となった。

その意味でも、DXによって生産性向上を同時に進めながら現場の負荷を減らすことが一層求められるようになった。電子棚札やAI(人工知能)発注システム、あるいはデータ分析など、こちらもデジタルテクノロジーが貢献できる部分での導入がスピード感を持って進められている。また、セルフレジやキャッシュレス決済はお客にとって非接触を実現することにつながるだけでなく、従業員にとってもオペレーション面での負荷軽減につながる取り組みとなる。

オーケーは1月8日、首都圏一都3県に対する緊急事態宣言を受け、日々勤務をする従業員への感謝の気持ちとして店舗・本社従業員約1.8万人に対して第特別手当の支給を決定。昨年4月、5月、7月、10月に続く5回目で、週40時間契約社員(正社員・パートナー社員)に1万円、週20時間未満契約社員5000円を支給。5回累計の総額は約7.2億円となる

将来からいまを振り返ったとき、「『コロナを機に日本の小売業界が変わった』と言われるようにしたい」とライフコーポレーションの岩崎社長は言う。

その点、コロナ禍の困難な中にあっても、企業は次第に学んでいったといえる。そしてそれは、お客も同様であろう。今回の緊急事態宣言に際しては、一部保存の利く食品などの売上げが上がるといったことが起こったものの、前回ほどの買い占め状態や混乱は起こっていない。せめて学びを生かし、小売業が新たな形になるきっかけであったといえるようにしたい。

コロナ禍によって、お客が必需品に対する節約意識を高めているというアンケート結果がある。「今後景気が悪化し、節約志向が高まって価格競争になる」とみる業界関係者も多い。

いま好調を維持するSMだが、その意味では好業績によって得た利益をしっかりと次世代を見据えた投資に回すことが重要である。実際、多くの経営者はすでにそう考えているだろう。

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