GX(グリーントランスフォーメーション)とは?経産省のGXのリーグと併せて解説
2022.10.05
2022.08.16
長年、世界規模の課題として挙げられている地球温暖化。二酸化炭素・メタンといった温室効果ガスの排出は、地球温暖化を加速させ、環境問題や健康被害など各方面に影響を及ぼしている。
IPCC第6次評価報告書によると、今後も温室効果ガスの濃度が上がっていくと、今世紀末までに地球の温度は3.3〜5.7℃上昇するとのこと。各国が地球温暖化への危機感を示している中、日本も経済社会システム全体の変革を目指して、GXの推進を図っている。
本記事では、GXの基本情報から経済産業省が設立したGXリーグの詳細まで、解説していく。
GX(グリーントランスフォーメーション)とは?
GX(グリーントランスフォーメーション)とは、地球温暖化など環境問題を引き起こす温室効果ガスの排出をなくすため、グリーンエネルギー・脱炭素ガスに転換して、経済社会システム全体の変革を目指す戦略である。
経済産業省は2020年10月、温室効果ガスの排出量から、植林・森林管理などによる吸収量・除去量を差し引き、2050年までに全体で排出をゼロにするカーボンニュートラルを提唱した。さらに、2021年4月には、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減する地球温暖化対策計画を閣議決定。
このような脱炭素社会を目指すため、推進されているのがGXだ。カーボンニュートラル・地球温暖化対策計画を実現するには、企業およびステークホルダーの協力が必要不可欠。企業のビジネスモデルや戦略を変革し、環境を保全して経済の回転を良くする、経済を活性化して環境を改善していくという、経済と環境の好循環が求められている。
GXが注目される背景
GXは日本に限らず、世界中で注目を集める取り組みである。ここでは、GXが注目される背景を解説していく。
地球温暖化の深刻化
昨今、世界中の環境問題は肥大化しており、海洋汚染・大気汚染・森林破壊などさまざまな問題が取り上げられている。その中でも、地球温暖化は深刻化すると、砂漠化・ハリケーンといった異常気象、穀物生産量の減少、健康被害、水位の上昇など、自然環境や人間社会に悪影響を及ぼす。
これらは経済発展の停滞も引き起こすため、環境問題の解決なくして、サステナブルな社会の実現は困難とも言える。実際、政府もグリーン社会の実現に向けて、20兆円規模のGX経済移行債(仮称)の発行を検討。環境問題が深刻化している様相を捉えられる。
世界的に脱炭素化が進む
2021年4月時点において、世界125ヶ国・1地域で、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことが表明された。当該国・地域におけるCO2排出量は、世界全体の37.7%を占めているため、実現すれば環境問題解決への大きな躍進となる。世界最大のCO2排出国である中国に関しても、2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指している。
諸外国の具体的な施策を見ていくと、EUは再生可能エネルギーの導入加速を図るべく、約35兆円もの金額を投じることを表明。さらに、EUの一部である欧州委員会はヨーロッパ100都市に関して、カーボンニュートラル化を2030年までに実現する方針を策定。
本プロジェクトへは、EUの377都市が参加申請を行ったとのこと。プロジェクトの参加都市には助成金も提供し、カーボンニュートラル化を進めていく。
アメリカに関しても、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを表明。加えて、2035年までに発電部門の温室効果ガスの排出ゼロ、2030年までに洋上風力による再生可能エネルギー生産量を倍増、2030年までに国土と海洋の30%を保全することを目標に掲げている。
世界的にカーボンニュートラル化の取り組みが加速していることも、日本がGXに力を入れるようになった1つの要因と言えるだろう。
GXリーグとは?
経済産業省は、GX実現に積極的に取り組む産学官金が一体となり、経済社会システム全体の変革のための議論・新たな市場創造の実践を行う場として、GXリーグを設立した。
GXリーグが目標とする経済社会システム全体の変革では、企業の意識・行動変容が生み出した価値を、新たな市場の創造を通じて提供し、生活者の意識・行動変容を促す。さらに、企業の成長・生活者の幸福・地球環境への貢献も同時に達成させる、循環構造の実現も目指す。
GXリーグ参画企業に求められるもの
カーボンニュートラルを実現するためには、施策に先行して取り組む企業が、その他の主体と協働しながら経済社会システムの変革を進める必要がある。そのためにも、GXリーグに参画する企業に求める取り組みとして、下記要件を定めた。
- 自らの排出削減の取組
- サプライチェーンでの炭素中立に向けた取組
- 製品・サービスを通じた市場での取組
自らの排出削減の取組
まず必要となるのが、目標の設定および戦略の策定。2050年カーボンニュートラルに賛同し、整合性の取れた2030年の排出量削減目標設定、および中間地点での目標設定を実施。目標の達成度合いに関しては毎年公表し、進捗を確認する。また、日本がNDCで表明した2030年46%削減の貢献目標より、排出量削減目標を引き上げ、野心的に挑戦を行う。
サプライチェーンでの炭素中立に向けた取組
自社に留まらず、サプライチェーン上の各主体にカーボンニュートラルを呼びかける。サプライチェーン上流の事業者に対しては、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、排出量削減の取り組み支援を能動的に実施していく。
また、製品・サービスのCO2量を可視化するCFP表示などを行い、サプライチェーン下流の生活者に対しても、CO2排出量削減行動の気付きを共有。付加価値を提供して意識の醸成を図り、カーボンニュートラルの実現につなげていく。
サプライチェーン上における炭素中立の取り組みに関しても、2050年カーボンニュートラルと整合的な2030年削減目標を設定し、目標達成に向けたトランジション戦略を作成する。
製品・サービスを通じた市場での取組
生活者・教育機関・NGOなどと、市民社会と気候変動の取り組みに関する対話を実施し、対話を通じて得られた気付きを自社の経営・ビジネスモデル・戦略に落とし込む。
そして、自ら革新的なイノベーションの創出に挑戦し、新たな製品・サービスを通じて温室効果ガスの削減につなげる。また、同様にイノベーションに取り組むプレイヤーと協働しつつ、カーボンニュートラルの実現を目指す。
温室効果ガスの排出量削減や吸収により、得られたクレジットを利用してカーボン・オフセット製品を市場投下し、グリーン市場の拡大を図ることも施策の1つ。その他、自社でグリーン製品を購入し、生活者の需要を創出。市場のグリーン化を図ることも、製品・サービスを通じたカーボンニュートラルへの取り組みとされている。
GXリーグの主要プロジェクトとは?
GXリーグは、下記3つのプロジェクトを主体として取り組みを進めていく。
- 2050CNのサステイナブルな未来像を議論・創造する場
- CN時代の市場創造やルールメイキングを議論する場
- 自ら掲げた目標に向けて自主的な排出量取引を行う場
2050CNのサステイナブルな未来像を議論・創造する場
GXリーグの参画企業を含め、官学民の幅広いステークホルダーでワーキンググループを構成。生活者に対して、2050年カーボンニュートラルのサステイナブルな未来像を示し、経済社会システムの変革に向けた移行像を明確化する。
例えば、生活者視点でサステイナブルな経済社会システムのあり方や、2050年カーボンニュートラルにおける各産業・企業の役割を議論し、GXを推進していく。
CN時代の市場創造やルールメイキングを議論する場
前述のサステイナブルな未来像を踏まえて、ルールメイキングの議論を進める。そして、先端技術の社会実装および事業化を推進することで、市場の創出と生活者への価値提供を加速させる。
例えば、CO2フリー製品の表示のあり方を議論することを機会として、IoT・センサーなどを活用した測定手法の高度化を図り、サステイナブルな社会の実現を促進する。
自ら掲げた目標に向けて自主的な排出量取引を行う場
2030年における高い排出量削減目標を自ら掲げ、目標達成に向けて毎年取り組み状況の報告と、中間地点における達成状況の評価を実施する。
目標を超過達成した量に関しては、国がクレジット化。目標に未達の場合は、カーボン・クレジット市場からクレジットを調達する。
以上、3つのプロジェクトがGXリーグでは推進されているが、国は参画企業に対するインセンティブも用意。GXリーグ参画企業の賛同項目や、取り組み内容をとりまとめて公表した後、金融市場および労働市場において、新規商品・サービスの開発を促進。
参画企業のGX推進に必要な資金・労働力を調達することで、オープン・イノベーションによる新たな価値の創出を支援し、経済社会システム変革の加速を図る。
さらに、GXリーグに参画し、一定の取り組みの実施が認められた企業に対しては、政府補助金での要件化、政府調達、その他各種制度で優遇措置などを検討。野心的な目標を掲げ、先駆的な取り組みを実施する参画企業への後押しも、インセンティブとして検討されている。
GXに取り組むメリット
事業者がGXに取り組むことで、どのようなメリットを得られるのか、解説していく。
企業のブランド力強化につながる
環境保全につながるGXの推進は、対外的にも好印象を与える取り組みであり、企業のブランド力強化を大きく期待できる。企業ブランディングは認知度・マーケティング効果の向上を生み出し、売上アップを見込めるケースも。
また、就活生・転職者からの評価も高くなり、人材確保の促進につながる。ブランディングに共感した人材が集まれば、企業の理念と合致しやすく、離職率の低下も大いに見込めるだろう。
コストを削減できる
GXの推進は、温室効果ガスの排出量を減らす取り組みであるため、エネルギー量の削減が必要となる。エネルギー量の削減は、コストの削減にもつながるので、利益率の改善を期待できる。
また、日本における再生可能エネルギーの導入コストは、低下しつつあるのも押さえておきたいポイント。資源エネルギー庁が発表した「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」によると、2019年時点における再生可能エネルギーの発電コストは、事業用太陽光発電で13.1円/kWh、風力発電で11.3円/kWh程度とされていた。
その一方で、2030年には事業用太陽光発電で5.8円/kWh、風力発電で6.6円/kWh程度の水準となる見通しが立っている。再生可能エネルギーが一層導入しやすくなり、GX推進と同時にコスト削減を図れるだろう。
GXの取り組み事例
脱炭素社会に向けて、先進的にGXを推進する企業は世界に数多く存在する。ここでは、GXの取り組み事例を見ていこう。
マイクロソフト
マイクロソフトは2020年1月、毎年のCO2除去量が排出量を上回る状態である「カーボンネガティブ」を、2030年までに実現することを目標に掲げた。さらに、直接的・間接的に排出してきたCO2の環境への影響に関しても、2050年までに完全排除を目指す。
自社で行う具体的な施策としては、下記を挙げている。
- データセンター運用のエネルギー低減
- 炭素除去につながる建築技術の開発
- 再生可能エネルギーの使用
- データセンター周辺地域の生態系保護
取り組みの流れとしては、再生可能エネルギーを活用し、持続可能なデータセンターを運用。そして、クラウド上で、顧客企業の二酸化炭素排出量データを分析できる「Microsoft Sustainability Calculator」や、進捗把握・改善を支援する「Microsoft Cloud for Sustainability」を提供する。
その他、クラウドサービスで得られた収益を炭素除去関連スタートアップへ投資、大気中のCO2からの燃料合成に係る技術の開発支援なども実施。クラウドを主軸に、カーボンネイティブの実現を目指している。
ホンダ
大手自動車メーカーのホンダは、2021年に「環境負荷ゼロ」の循環型社会を目指し、「Triple Action to ZERO」を掲げた。これは「カーボンニュートラル」、環境問題への原因となる物質を排出しない、もしくは負荷が少ないエネルギーを指す「クリーンエネルギー」、製品の再資源化を指す「リソースサーキュレーション」の3つを1つに集約したコンセプトである。
さらに、2050年にはホンダの関わる全ての製品と企業活動に関して、カーボンニュートラルを実現すると宣言。その一環として、2022年4月には「四輪電動ビジネスの取り組みについて~電動化に向けた進捗と将来への事業変革~」を発表した。同様にGXを推進する企業群や官・学とも協働しながら、実現を目指す。
日清食品グループ
日清食品グループは、持続可能な社会の実現および企業価値の向上を目指し、環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を策定した。本戦略では、「資源」と「気候変動」をテーマとして問題に取り組んでいく。
GXにもつながる気候変動問題に関しては、下記を目標とした。
- グリーンな電力:廃棄物発電電力を利用してCO2排出を30%削減
- グリーンな食材:植物由来原料の活用でCO2排出を15%削減
- グリーンな包材:バイオマスECOカップの導入でCO2排出を15%削減
カーボンニュートラルな特性を持つバイオマスECOカップについては、2019年12月から導入を開始し、2021年度中に全量の切り替えが完了した。先行的にGXに取り組む好例と言えるだろう。
GXのまとめ
深刻化する環境問題は経済の発展に大きな悪影響を及ぼし、無視できないものとなっている。政府はカーボンニュートラルを実現すべく、民間企業に対して呼びかけを行っているが、根本的なビジネスモデルや戦略を変革するGXの推進は、やはり民間企業にとってハードルが高い。
経営者が環境問題解決の重要性を再認識し、高い決断力で企業の変革を進めることが極めて大切。この機会に、脱炭素社会に向けてできることから挑戦してみて欲しい。