バスケット分析とは?意味や方法、事例、実践するメリットなどを解説

2023.05.12

消費者ニーズが多様化・高度化していく昨今では、事業者は消費者行動を紐解くため、日々データ分析を行っていくことが重要である。小売業のマーケティング戦略として有効なクロスセルの促進や、最適な売り場作りを行う上で、多くの事業者が実践している手法がバスケット分析だ。

本記事では、バスケット分析の概要から実施するメリット、具体的なやり方まで解説していく。

バスケット分析とは?

バスケット分析とは、消費者の購買データを分析し、一緒に購入されやすい商品の組み合わせを導き出すデータマイニング手法である。

小売店やECサイト上における消費者の買い物かごを「バスケット」という一単位で扱い、同時に購入される商品を分析。商品間の相関関係を把握することで、クロスセルの促進や店内レイアウトの最適化、キャンペーン企画の立案、在庫管理などに役立てられる。

バスケット分析の代表事例「おむつとビール」

バスケット分析は、代表的なマーケットバスケット分析事例である「おむつとビール」をきっかけとして、広く知れ渡るようになった。アメリカのドラッグストアで販売データの分析が行われた結果、金曜日の夕方に男性の消費者がおむつとビールを多く併買していることが判明。

本データから、「子供のいる家庭において、おむつの買い出しを頼まれた仕事終わりの父親」という消費者像が浮かび上がった。さらに、おむつとビールを並べて陳列したところ、実際に売上の向上につながったとのこと。

おむつとビールは一見すると相関性がなく、人間が併買の可能性を見出すのは困難と言える。しかし、バスケット分析によるデータマイニングを用いれば、商品の意外な相関関係も発見できると言えるだろう。

バスケット分析に必要なデータ

バスケット分析を実施するには、下記のようなデータが必要となる。

  • 1会計ごとの販売明細
  • 商品・商品ジャンルごとの販売データ
  • 店舗全体の売上データ

POSシステムやECサイトに蓄積される売上データを用いれば、バスケット分析は実施可能。基本的な商品の購買データしか活用しないため、新たにシステムの拡張を行う必要性はほとんどなく、容易に分析を行えるのも本手法の魅力と考えられるだろう。

バスケット分析のメリット

ここでは、バスケット分析を実施するメリットを解説していく。

押し売りによる顧客との関係性悪化を防止できる

顧客に別商品の購入を促すクロスセルは、顧客単価の向上を見込めるセールス手法として、多くの小売店で活用されている。しかし、顧客の視点に立たず、売り手視点の商品提案で誤ったクロスセルを実施すると、顧客に押し売りと捉えられ、マイナスの印象を与えてしまう可能性もある。

その点、バスケット分析を実施して顧客が望む商品をアプローチできれば、押し売りと捉われにくく、関係性の悪化を防止可能。潜在ニーズを掘り起こしつつ、顧客視点では相関性の高い優良な商品の発見につながり、「また訪れたい」と思ってもらえる店舗にもなるだろう。

効果的な販促キャンペーンの実施につながる

バスケット分析は、キャンペーン企画の立案にも有効。例えば、「対象商品を購入した顧客限定で、商品Aの価格が10%OFF」といった同時購入キャンペーンを実施する場合、バスケット分析により商品の相関性を把握できていれば、同時購入を促進して効果的な販促を行える。

キャンペーンと併用することで、新規顧客・リピーターの獲得や顧客ロイヤリティの向上、他社との差別化など、多様なメリットを享受できるだろう。

顧客単価をアップさせて営業コストを削減できる

前述の通り、バスケット分析は相関性のある商品を同時に購入してもらい、顧客単価を向上させて売上アップを期待できる。新規顧客に営業をかけて売上を向上させるより、高い営業効率で売上アップを見込めるのも、バスケット分析の大きな特徴。

コストを削減しつつ、売上の改善を図りたい場合にもおすすめの手法と言えるだろう。

アソシエーション分析とバスケット分析の違い

バスケット分析と同義で利用されるケースもあるデータマイニング用語が、アソシエーション分析だ。アソシエーション分析とは、事象間の関連性やパターンを分析するデータマイニング手法であり、バスケット分析はアソシエーション分析の1種の手法という位置づけである。

バスケット分析とアソシエーション分析の違いとしては、着目する事象が挙げられる。消費者の購買行動に着目するバスケット分析に対し、アソシエーション分析は購買行動以外の事象にも着目。

例えば、自社の運営するサイト内でユーザーがどのようなキーワードを複合して検索しているかや、サイト回遊率を上げる関連記事の組み合わせを分析するなども、アソシエーション分析の1つ。小売業界でしばしば活用されるバスケット分析だが、アソシエーション分析は小売業界以外でも用いられるケースが多い。

バスケット分析の指標

バスケット分析は4つの指標を基に、データの相関性を数値化していく。ここでは、商品Aと商品Bの相関性を分析することを例として、各指標の詳細を解説していく。

支持度

支持度とは、全ての顧客のうち、商品Aと商品Bを同時に購入する顧客の割合を示したものである。支持度は下記計算式で算出される。

支持度 = 同時購入者数 / 購入者全体数

支持度が高いほど、商品Aと商品Bの相関性は高いと言える。

信頼度

信頼度とは、商品Aの購入者のうち、商品Bも同時に購入した顧客の割合を示したものである。信頼度は下記計算式で算出される。

信頼度 = 同時購入者数 / 商品A購入者数

期待信頼度

期待信頼度とは、全ての顧客のうち、商品Bを購入した顧客の割合を示したものである。期待信頼度は下記計算式で算出される。

期待信頼度 = 商品Bの購入者数 / 購入者全体数

後述のリフト値で利用される数値だが、期待信頼度が高ければ、商品Bが人気の商品であるということも把握できる。

リフト値

リフト値とは、期待信頼度に対する信頼度の割合を示したものである。リフト値は下記計算式で算出される。

リフト値 = 信頼度 / 期待信頼度

リフト値では、商品Aが商品Bの購買をどの程度促進しているかを把握可能。数値が高いほど商品Aと商品Bの相関性は高く、同時購入される割合も高いと言える。

バスケット分析のやり方

ここでは下記購買データを基に、商品Aと同時購入されやすいのが商品B・商品Cのどちらであるか、実際にバスケット分析を行ってみる。

  • 購入者数全体:100人
  • 商品A購入者数:60人
  • 商品B購入者数:50人
  • 商品C購入者数:30人
  • 商品A+B購入者数:20人
  • 商品A+C購入者数:15人

これらの購買データから4つの指標を算出すると、下記のようになる。

商品A+B商品A+C
支持度20 / 100 = 20%15 / 100 = 15%
信頼度20 / 60 = 33%15 / 40 = 38%
期待信頼度50 / 100 = 50%30 / 100 = 30%
リフト値33 / 50 = 0.6638 / 30 = 1.27

商品A+Cのほうがリフト値は大きいため、商品Aと同時購入されやすいのは商品Cとわかる。

なお、リフト値が1未満である場合は、単独購入されやすいという意味に。商品A+Bのリフト値は1未満なので、商品Aと商品Bは単独購入されるケースのほうが多いと読み取れる。

バスケット分析を実施する際の注意点

データマイニング手法の中でも比較的容易に実施できるバスケット分析だが、注意すべき点も存在する。ここでは、注意点の詳細を解説していく。

売れ筋の商品は分析対象から除外する

バスケット分析では、売れ筋の商品を分析対象から除外することが1つのポイントである。売れ筋の商品は、商品同士の相関性に関係なく購入される可能性が高いため、消費者の購買行動を読みにくい傾向にある。

例えば、たばこ・ミネラルウォーター・マスクといった商品は購入者層が幅広く、また季節やキャンペーンに売れ行きが左右されにくいので、分析対象から除外すべきと言えるだろう。

商品の組み合わせを意識して分析する

バスケット分析は、組み合わせを意識して分析を行うことも重要。理由としては、分析の組み合わせにより、結果も変動するためである。

例えば、「ピーナッツ」という個別商品を基点に分析を行う場合、どの商品と相関性が高いのか、商品ごとに詳細な結果を取得可能。しかし、母数が小さく誤差も生まれやすくなるので、複数回分析を実施して精度を高めていくことが大切と言える。

それに対し、「おつまみ」など商品カテゴリーごとの組み合わせであれば、母数が大きく精度の高い分析結果を得られる。しかし、商品カテゴリーごとの相関性など、大まかな傾向しか取得できないのがデメリット。

「ピーナッツ」と相関性が高いのは商品A~商品Fのどれなのか、商品の組み合わせで分析を行うのか、「おつまみ」と相関性が高いのはカテゴリーA~カテゴリーFのどれなのか、カテゴリーの組み合わせで分析を行うのかなど、分析の目的に応じてバスケット分析を実施することが重要と考えられるだろう。

バスケット分析のまとめ

店舗の売上を向上させる上では、消費者行動や心理状態を読み解き、適切なマーケティング施策を講じることが重要である。しかし、人間の頭の中で消費者の行動パターンを分析し、施策に落とし込むことは困難。

その点、バスケット分析では、比較的収集しやすいデータを活用して消費者行動を探ることが可能である。バスケット分析をはじめとしたデータマイニング手法で、売上向上のための可能性を抽出し、マーケティングに役立ててほしい。

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