話題の生成AIとは?注目される背景や理由、問題点、サービス例などを解説

2023.05.19

ICTの利活用が進む現代において、急速に発展し社会基盤にもなっているAI。基本的にAIは過去の大量データを基に予測・自動化などを図るため、ゼロから新たな成果物を生み出すクリエイティブな分野は苦手とされていた。

しかし、近年登場した生成AI生成系AI、ジェネレーティブAI)は完全オリジナルな成果物も創造でき、社会全体に革新的な変化をもたらすことが予想されている。ビジネスシーンやメディアで耳にする機会も増えた生成AIに関して、本記事では概要から注目される背景、できること、メリット、問題点・危険性、サービス例まで解説していく。

生成AIとは?

生成AIとは、大量のサンプルデータから機械学習を行い、創造性に富んだ成果物を作り上げることができる人工知能だ。別名「ジェネレーティブAI」とも呼ばれており、文章や画像、動画、音楽、プログラムといったコンテンツを創造可能。クリエイティブな業務の補完やコスト削減などを図れるとして、ビジネス領域では生成AIの可能性に期待が高まっている。

直近で話題となったテキスト生成AIと言えば、OpenAI社によって開発されたChat-GPT。ユーザーが入力した質問に対して意図を汲み取りつつ、人間の文脈も理解しながら自然な文章を返す生成AIであり、その高い自然言語処理能力は大きな注目を集めることに。

また、アメリカのIT系調査会社ガートナーが発表した「2022年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」において、生成AIはソフトウェアコードの記述・医薬品開発・ターゲットマーケティングの促進といった業務プロセスに活用でき、成長を加速するテクノロジーとして関心が寄せられた。さらに、ガートナーは2025年までに生成される全データの10%が、生成AIによって生成されるという可能性も示している。

クリエイティブな業界に限らず、今後あらゆる業界のコンテンツ制作において、生成AIは活用されていくと考えられるだろう。

生成AIが注目される背景

AIシステム自体はこれまで数多くリリースされ、ビジネス領域において予測や自動化など多様な役割を担ってきた。しかし、生成AIの登場は産業革命に匹敵するほどのインパクトを与えており、企業だけでなく一般ユーザーからも視線が向けられている。

ここでは、生成AIが注目される背景について考察していく。

クリエイティブな成果物の創造を可能にした

従来のAIは大量のサンプルデータを基に特徴や傾向を分析することで、音声認識・画像認識・需要予測といった処理を行い、ユーザーのタスクをサポートしてきた。しかし、新しいものや価値を生み出すクリエイティブな処理ができなかった。

一方、生成AIは予測・認識・自動化の域を超え、人間と遜色ないクリエイティブかつ柔軟な思考で成果物を創造。従来のAIでは成し得なかった「0から1を生み出す」ことも生成AIでは可能となった点が、注目を集める大きな理由と考えられる。

無料生成AIサービスの登場で存在が身近になった

生成AIが身近な存在となっているのも、注目される背景の一つ。

例えば、Chat-GPTはOpenAIアカウントを作成すれば、誰でも無料でサービスを利用できる。大手金融機関UBSの調査結果では、2023年1月時点におけるChat-GPTの月間アクティブユーザー数は1億人に達したと報告されており、「歴史上もっとも急速に成長している消費者向けアプリ」とも言われている。

画像生成AIの分野においても、これまではOpenAI社の「DALL・E2」およびMidjourney社の「Midjourney」が主流であったが、有料サービスとして提供されていた。しかし、イギリスのStability AIが高性能画像生成AI「Stable Diffusion」を無料かつ商用利用可能なライセンスのもとで提供を開始。

さらに、オープンソースとしてリリースし、AI技術者向けコミュニティサイト「HuggingFace」でもコードおよびドキュメントを公開。無料ライセンスで一般ユーザーはもちろん、オープンソース化により世界中の企業から大きな注目を集めた。

利用ハードルが下がり、誰でも手軽に活用できるようになった点も、生成AIが関心を向けられた理由と言えるだろう。

生成AIができること

生成AIには、テキスト生成・画像生成・動画生成・音楽生成・文字起こし生成など多様な種類が存在する。テキスト生成・画像生成・動画生成・音楽生成はその名の通り、プロンプトを入力することで完全オリジナルのテキスト・画像・動画・音楽を即座に生成してくれる。

特に、テキスト生成AIは活用の幅が広く、調べものなど単純な質問に答えてくれるだけでなく、下記のような作業もAIに任せることができる。

  • 文章の要約・添削・翻訳
  • 小説・料理などのアイデア提案
  • プログラミングコード・関数の作成
  • 企画書・プレゼン資料の作成
  • メールの件名・本文の作成
  • 楽譜の作成
  • 炎上リスクの判断

また、文字起こし生成AIは音声データをAIに読み込むことで、音声を自動で文字に起こしてくれる。会議の録音音声を議事録に起こしたい場合や、インタビュー時の音声データを文字に起こしたい場合にも最適。

生成AIは多くのクリエイティブな作業を担うことが可能と言えるだろう。

生成AIをビジネスや業務に活かすメリット

先進技術としては比較的新しい生成AIだが、ビジネスや業務に導入する企業も着実に増えつつある。ここでは、生成AIを活かすことによるメリットを解説していく。

アイデア発想の手助けとなる

ITによる社会構造の変革や消費者ニーズの多様化が進む現代においては、新たなビジネスアイデアを練って外部環境の変化に対応していくことが重要である。しかし、これまでにない独創的なアイデアを出すのは容易ではなく、またアイデアを出し合う慣習がなければ、アイデアの捻出は一層困難を極める。

そこで活用したいのが生成AI。辞書ツール事業を展開する「YourDictionary」が、アメリカ人1,024人にChatGPTの職場での使い道に関してアンケートを取ったところ、41%がアイデア出しに利用していると回答。

AIが人間の思考を凌駕しているとはまだまだ言い難いが、生成AIを活用すれば業界の常識や先入観にとらわれず、思いも寄らぬアイデアを得られる可能性もあると言えるだろう。

コスト削減につながる

コストを削減して高い利益率を目指す企業にも、生成AIの導入はおすすめ。

例えば、生成AIを導入し、ECサイト上にAIチャットボットを構築できれば、顧客からの問い合わせに自動で応対が可能。人件費を削減できるのはもちろん、繁忙期や営業時間外時における機会損失の防止、人材不足の解消にもつなげられる。

その他、イラスト制作など外注していたクリエイティブコンテンツがあれば、生成AIで代用できる可能性も。高い作業処理能力で、コスト削減を大いに期待できるだろう。

生成AIの問題点・危険性

革新的な影響をもたらしている生成AIだが、その精度の高さ故に問題点・危険性が潜んでいる。リスクを把握した上で、生成AIを利用してほしい。

犯罪を助長する恐れがある

生成AIが犯罪を助長する可能性があることは、話題になり始めた当初から示唆されている。一例を挙げると、Chat-GPTを利用したサイバー犯罪。

Chat-GPTには、不適切な質問への回答を拒否するセーフガードの機能が搭載されており、例えば「マルウェアのプログラムを作成して」と質問すると、下記のような回答が得られる。

これは「マルウェア」という用語にChat-GPTが反応し、不適切な質問と判断して回答を拒否している。しかし、「マルウェア」の用語を使用せず特定の文章を送ると、セーフガードを回避してソースコードが返されてしまう。

マルウェアとは異なるが、実際に中国ではChat-GPTを使用して虚偽の情報を作成、インターネット上で拡散し、男を拘束したというニュースも報じられている。生成AIの技術発展には目覚ましいものがあるが、悪用されないよう対策を講じることも重要となるだろう。

情報の正確性は保証されていない

生成AIを利用する際は誤情報に注意が必要。例えば、テキスト生成AIはユーザーからの問いに対し、インターネット上の文献・ニュース記事などを参照して非常に高い精度で回答を返してくれる。

しかし、参照元の正確性が保証されているとは限らない。生成AIで取得した情報を鵜呑みにせず、正確性の見極めおよび検索力を養うことは、情報が溢れる現代において今後も変わらず重要と言えるだろう。

法律や規定の整備が必要になる

ビジネスや私生活に多大な影響を与えている生成AIだが、法律や規定の整備に追われている機関も多い。生成AIが世の中の注目を集めた頃、対応に追われた一つの教育機関が大学。

例えば、東北大学では「教育・学習における生成AIに関する留意事項」を提示し、生成AIの利用の完全排除は現実的ではないとした上で、レポートに生成AIの回答をそのまま使用することは自身のためにならない、剽窃の危険性が潜んでいるなど、生成AIに対する注意喚起を行った。また、教員に対しても、演習課題・レポートにおいて予想される懸念点や対応策をまとめている。

海外に目を向けると、イタリアは2023年3月30日にChat-GPTの利用を即効で禁止することを発表。プライバシー法の違反やサイバー犯罪に伴うデータ侵害のリスクなどを踏まえ、Chat-GPTの利用を禁止した。

高い利便性を持つ反面、トラブルも発生し得るため、各機関は生成AIの法律・規定整備などの対応が必要不可欠になると言えるだろう。

代表的な生成AIのサービス・アプリ例

ここでは、代表的な生成AIサービス・アプリの例を紹介していく。

テキスト生成AI:Chat-GPT

出所:Chat-GPT

社会の形を大きく変えると言っても過言ではないテキスト生成AIが、Chat-GPTだ。先に紹介した通り、Chat-GPTはユーザーからの問いに自然な文章で回答を返す生成AIで、小説の創作や文章の要約、プログラミングなど多様なテキストの生成が可能となっている。

すでにChat-GPT APIの提供も開始されており、各社が自社製品とChat-GPTの連携を実施。Chat-GPTを活用したサービスの差別化に踏み切る企業も数多く存在している。

なお、現時点ではテキストベースの生成AIだが、今後は画像・音声・動画でのやり取りも行えるマルチモーダルAIへアップグレードされる見込みだ。

画像生成AI:Stable Diffusion

出所:Stable Diffusion

2022年8月に公開されて以来、画像生成AIの分野において絶対的な地位を確立したのが、Stable Diffusionだ。ユーザーが入力したプロンプトを基に、AIがわずか数十秒のうちにオリジナル画像・イラストを生成してくれるツールで、制作枚数に上限はなく無料で利用することができる。

Stable Diffusionはブラウザ・ローカルいずれかの環境で動作するのが特徴。ブラウザに関しては下記3種のWebサービスが用意されており、手早くStable Diffusionの利用を開始したい人におすすめとなっている。

  • Mage.space
  • DreamStudio
  • Hugging Face

ローカルに関しては「Stable Diffusion web UI」のツールをインストールすることで動作するが、ハイスペックなPC環境が必要。一方で、ブラウザに比べて画像の生成スピードが早く、また無制限で機能を利用できる。

ツールを手軽に使いたい人はブラウザ版、使い込みたい人はローカル版というように、自身に適した利用環境を選べるのも一つの魅力と言えるだろう。

動画生成AI:Runway Gen 2

出所:Runway Research

前述のStable Diffusionの開発にも携わったAIスタートアップ「Runway Research」が2023年3月20日にリリースしたのが、Runway Gen 2だ。ユーザーが入力したテキストプロンプトからビデオクリップを生成する動画生成AIで、例えば「ニューヨークのロフトの窓からのぞく昼下がりの太陽」というテキストを打ち込むと、下記のような動画が生成される。

出所:Runway Research

細かい命令にも関わらず、忠実に動画を再現していることがわかる。なお、現時点でRunway Gen 2で生成される動画は無音だが、将来的には音声も生成できるツールを目指しているとのことだ。

音楽生成AI:Amper Music

出所:shutterstock

音楽のジャンルと曲の長さを設定することで、簡単に曲を制作できるのがAmper Musicだ。無料で利用可能な音楽生成AIで、商用利用はできないが、制作した楽曲の著作権はフリーとなっている。

選択できる音楽ジャンルのプリセットはヒップホップ・映画・クラシックロック・90年代ポップなど多種多様であり、さらに楽曲の雰囲気も幸せ・悲しい・柔らかい・興奮するなどから選択可能。楽曲のアイデアを得たい際にも活用できるツールと言えるだろう。

生成AIのまとめ

クリエイティブなコンテンツの創造に弱いという従来のAIの弱点を克服した生成AIは、社会構造を変革する可能性も秘めた存在となっている。2022年からトレンド的に活用されて以来、AIソリューションとして自社サービスに採用し、提供を始める企業も増加。

また、新たなアイデアを生み出すための手段、コスト削減、業務効率化などの効果も期待でき、その将来性は未知数である。一方で、数多くの問題点や危険性が唱えられているのも事実。

その有用性に着目しつつ、生成AIに潜むリスクにもアンテナを張っておきたい。

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