ゼロエミッションとは?意味や求められる背景、自治体や企業の取り組み事例なを解説

2023.06.02

ゼロエミッションとは、1994年に国連大学が提唱した、企業の活動や毎日の生活の中で排出される廃棄物をゼロに近付けていこうという考え方である。経済成長や人口増加に伴う世界的なゴミ問題や地球温暖化の深刻化により、地球環境を守り持続可能な開発を続けていくために推進されている。

ゼロエミッションは、政府や自治体だけではなく、さまざまな民間企業も取り組んでいる。資源は有限であり、地球環境の保護は地球に生きる我々の急務である。ゼロエミッション実現のためにできることから取り組むべきだろう。

ゼロエミッションとは

ゼロエミッションとは「emission」(排出)と「zero」(ゼロ)という英語を合わせた単語である。この構想は、1994年に国連大学によって提唱され、世界中で取り組まれている。まずはゼロエミッションについて理解を深めるため、意味やその定義、メリットや解決すべき課題などを解説していく。

ゼロエミッションの意味を簡単に説明

ゼロエミッションは、企業の活動や毎日の生活の中で発生する廃棄物をできるだけゼロに近付けていこうという考え方である。

ここで挙げられる廃棄物とは、ゴミだけではなくCO2を主とする温室効果ガスやフードロスなども含まれる。実際には、あらゆる活動において廃棄物を完全にゼロにすることは難しいため、特定の産業で出た副産物や不要物、廃棄物をリサイクルなどによって別の産業が有効活用することで、処分しなければならない廃棄物をゼロに近付けていく。

なぜゼロエミッションを推進するのか

高度経済成長に伴って社会は大量生産・大量消費型へと変化してきた。そのためゴミの廃棄量も増大し、数十年後には日本のゴミ埋め立て処分場がいっぱいになってしまうという予測もなされている。

日本だけではなく、世界規模でも環境問題は深刻であり、地球温暖化による異常気象や海面上昇などに歯止めがかからない。これらの問題を解決し、持続可能な開発を進めるためには、CO2を始めとする温室効果ガスの削減や脱炭素などによる循環型社会の構築が不可欠である。

ゼロエミッションのメリット

ゼロエミッションを推進していくと、環境破壊から地球を守る対抗策となるだけではなく、さまざまなメリットがある。まず1つはエネルギー効率の向上だ。今までは廃棄物として処分していたものを有効活用させることで無駄が減り、同じコストでより多くの成果を得られるようになる。

また、ゼロエミッションを達成するための新たな技術や設備の開発・整備に対して、日本を含む世界各国が投資している。リサイクルや再生可能エネルギーなどの分野においても新たなビジネスチャンスが生まれるため、景気や経済への効果も期待できるだろう。

ゼロエミッションの課題

ゼロエミッションを実現させるためには、解決しなければならない課題も多くある。例えば、廃棄物を加工する際などに現状よりも多くのエネルギーを消費してしまう可能性がある点が挙げられる。

また、再生可能エネルギーをはじめとしたゼロエミッションの技術は、まだ開発段階であるものも多く、それらを利用するためには従来の技術よりもコストがかかる。これらの課題を解決するために、企業や政府が互いに連携し、積極的に取り組んでいく必要がある。

政府や自治体によるゼロエミッションの具体的な取り組み

ゼロエミッションを推進するため、政府や自治体もさまざまな取り組みをおこなっている。ここからは、政府や自治体がおこなっている具体的な取り組みについてチェックしていく。

ゼロエミッション東京戦略

ゼロエミッション東京戦略とは、2019年に東京都が宣言した「ゼロエミッション東京」の実現に向けた具体的な取り組みやロードマップのことである。平均気温の上昇を1.5℃に抑えることや、そのために2050年までにCO2の排出量を実質ゼロにすることを目標に掲げ、「エネルギーセクター」「都市インフラセクター(建築物編)」など6つの分野、全14政策の体系で取り組んでいる。

また、ゼロエミッション東京を実現させるために、再生可能エネルギーの基幹電源化による100%脱炭素化や再エネ由来CO2フリー水素の本格活用を推し進めている。

エコタウン事業

エコタウン事業とは、経済産業省と環境省が「先進的な環境調和型のまちづくりの推進」を目的として平成9年度に創設した制度である。地方自治体が作成した「エコプラン」に独創性や先駆性が認められ、他の自治体のモデルになると判断されれば、経済産業省と環境省から共同承認され、財政支援が受けられるものだ。

現在承認されている地域は26地域である。

<エコタウンの承認地域>※2011年10月時点
北海道、北海道札幌市、青森県、秋田県、岩手県釜石市、宮城県鶯沢町(現:栗原市)、千葉県・千葉市、東京都、神奈川県川崎市、長野県飯田市、富山県富山市、愛知県、岐阜県、三重県四日市市、三重県鈴鹿市、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、香川県・直島町、高知県高知市、愛媛県、福岡県北九州市、福岡県大牟田市、熊本県水俣市”

ゼロエミ・チャレンジ

ゼロエミ・チャレンジとは、経済産業省が日本経済団体連合会や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構と連携して、「革新的環境イノベーション戦略」のテーマや脱炭素社会の実現に向けたイノベーションに挑戦する企業をリストアップして発信していく取り組みである。企業リストはTCFDサミットで公表されたり、投資家に情報共有されたりする。

現在は約600社以上の企業がリストアップされている。リストに掲載されれば企業イメージも向上するし、企業、投資家、政策立案者等の対話の場を設定してもらえるので、ビジネスチャンスの拡大が期待できるだろう。

ゼロエミッション車の普及促進

ゼロエミッション車とは、走行時に二酸化炭素や窒素酸化物などの排出ガスを出さない自動車のことである。電気自動車や燃料電池車、電動自転車などがこれにあたる。経済産業省や東京都、大阪府、愛知県名古屋市など、国と自治体がゼロエミッション車の購入や充電設備を設置するための費用を補助し、ゼロエミッション車の普及を促進させている。

ゼロエミッションに関連した企業の取り組み事例

ここからは、企業が取り組んでいるゼロエミッションに関連した取り組み事例を紹介していく。

イオン

イオンは2018年に「イオン脱炭素ビジョン」を策定し、「店舗」「商品・物流」「お客さまとともに」という3つの視点から店舗で排出する温室効果ガスを実質ゼロにするための取り組みをおこなっている。

イオンで排出されるCO2の約9割は電力由来のものであるため、店舗屋上に太陽光発電システムを設置したり卒FIT電力の買い取りを強化したりすることで、国内で運営するショッピングセンターや総合スーパーでの使用電力について再生エネルギーを導入し、2030年までに使用電力の50%を再生可能エネルギーに切り替える目標を立てている。

そのほか、資源循環型社会の実現を目指し、使用済みペットボトルを使用するノウハウを構築したり、店頭での資源回収活動をおこなったりと、さまざまな活動をおこなっている。また、顧客がライフスタイルを脱炭素型に転換していくための商品やサービスも展開している。

アサヒビール

アサヒビールは、酒類や飲料など、多くの水を使って製品を製造しているメーカーだ。限りある資源を適切に利用し、持続可能な水源利用を推進するため、水の使用量を削減すると同時に各工程からの回収水や膜処理水を活用して効率よく水を使用している。また、「アサヒの森」という社有林を管理し、涵養をおこなっている。これは国内のビール工場が使用する量以上の水を涵養して地球へ還元している計算となる。

アサヒビールとニッカウヰスキーの全工場において、副産物や廃棄物の100%再資源化も達成した。仕込みの工程で発生する麦芽の穀皮は家畜の飼料、汚泥は有機肥料、アルミ屑はアルミ缶などに再利用されている。ビールの醸造後に残るビール酵母は、アサヒグループ食品が製造する胃腸・栄養補給薬の原材料などになっている。

TOTO

TOTOは、2013年3月に国内のTOTOグループ全製造事業場でゼロエミッションを達成した。2021年度現在もゼロエミッションは継続中である。

国内の事業場等で排出される廃棄物全体の30%が陶器屑と汚泥であり、それらをリデュース・リユース・リサイクルという3Rの視点から減量化・再資源化に取り組む。製造工程で排出される陶器屑は道路や歩道の舗装骨材になり、汚泥(粘土)は原料に戻してから再利用される。また、再生可能エネルギー電力を導入したり、工場に太陽光発電設備を導入したりしてCO2の排出を削減している。

ローソン

ローソンは、2025年までに「1店舗当たりのCO2排出量2013年対比15%削減」、2030年までに「同50%削減」を目標として掲げており、達成のためにCO2を冷媒したノンフロン冷凍・冷蔵システムや店舗照明のLED化、太陽光発電システムの導入などに取り組んでいる。要冷機器のすべてをノンフロン機器にする取り組みは、ローソンが初めてである。さらに、環境に配慮した技術を集めたモデル店舗を設置し、省エネ効果を検証してさらなる省エネを目指す。

廃棄物削減の観点からは、食品ロスを削減するためにリデュース・リユース・リサイクルの取り組みを推進している。2021年度の食品リサイクル等実施率は、法定目標値の50.5%を上回る65.5%だった。店舗で排出された使用済みの油は、家畜の飼料用添加剤やバイオディーゼル燃料、石けんなどに再利用される。

おわりに

我々人類が自然と共存しながら今後も発展を続けていくためには、持続可能な開発の推進が求められる。ゼロエミッションの実現には課題も残っているものの、国や企業が積極的に取り組んでおり、目標の達成に向けて着実に近づきつつある。

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