インクルーシブの意味とは?ダイバーシティとの違い注目される背景などについて解説

2023.06.14

インクルーシブとは、英語で「包括」を意味する言葉である。本記事では近年、教育やビジネス業界で注目されているインクルーシブの意味と、インクルーシブ理念が波及した背景、インクルーシブと混同されやすい言葉について解説していく。

ビジネスにおけるインクルーシブは、インクルーシブ・マーケティングとインクルーシブ・リーダーシップについて知っておくべきである。インクルーシブの意味を正しく理解して、ビジネスに活かしてほしい。

インクルーシブとは

ビジネスシーンでも最近、「インクルーシブ」という言葉を耳にすることが増えた。もともと英語で包括という意味を持つインクルーシブは、教育の世界で注目を集め、その後ビジネスにも波及してきた理念だ。

この記事では、インクルーシブという言葉の意味と、教育におけるインクルーシブについて解説していく。インクルーシブについて理解を深めるために、インクルーシブ理念が波及した背景もあわせて確認しておこう。

インクルーシブの意味

インクルーシブという意味がもともと持つ意味は「包み込む」「包括」などである。現代において、すべての人が尊重して生きられる社会のことを「インクルーシブ社会」という。これは、それぞれが持つ特徴によって異なる個性を持つ人が、互いに尊重しながら生活していける社会のことを指す。「共生社会」と呼ばれることもある。

たとえば、街中や建物の中に段差があると、車椅子ユーザーは移動が困難となる。また、同じ社会で生活するほかの属性の人たちが、「車椅子の人は自由に行動できなくても当たり前」という考えを持ってしまうと、障がいがある人を排除することになる。こういった社会は人々が共生しているとは言い難く、インクルーシブ社会が目指す姿ではない。

インクルーシブ社会において共生すべき対象は、障がいを持つかどうかだけにとどまらない。人種や性別、使用する言語など、あらゆるポイントにおいてすべての人が同じ社会の中で共生することを目指す。インクルーシブという言葉は、名詞形で「インクルージョン(inclusion)」と表記されるケースもあるので、あわせて確認しておいてほしい。

教育におけるインクルーシブ

続いては、インクルーシブという言葉と社会の仕組みに注目が集まるきっかけとなった、教育の分野におけるインクルーシブについてみていこう。

インクルーシブ教育とは、「みんなが一緒に学ぶこと」を目指す教育理念である。一緒に学ぶとはただ単に同じ場にいることだけではなく、一人ひとりに対する適切な配慮が必要となる。

インクルーシブ教育においては、教育現場である学校などでの設備面をバリアフリー化することはもちろん、精神面でのバリアフリー化も重要だ。教育を受ける立場にある存在が、それぞれの属性によって困ることが起きてはならない。

インクルーシブ教育は障がいの有無について焦点を当てて語られるケースが多いが、実はインクルーシブ教育が目指すのは、より幅広い属性の人が同じ教育を受けることだ。また、その場にいる生徒や教師はもちろん、教育を支える社会にいる人たち全員が、多様性を理解して受けいれることが求められる。

インクルーシブ理念が波及した背景

教育をはじめとする現場でインクルーシブ理念が波及した背景としては、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)による「サラマンカ声明」が大きな契機となった。これは1994年に出された声明で、国際社会で取り組むべき教育における世界的な課題として提言されたものである。

その後、2006年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約」でも、インクルーシブ理念は教育における有用なテーマとして扱われている。国際化が進む中で、障がいの有無はもちろん、すべての人が貧困やジェンダーなどに左右されずに平等な教育を受ける「合理的配慮」の重要性が説かれているのだ。

もともと、インクルーシブの理念は1970年代のフランスで生まれたものである。不況や移民の増加により、「ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)」の対象となった人たちへの対策としての意味合いを持ち、福祉政策の理念として広まった。やがて教育の世界でもっとも実現すべき課題のひとつとして認識されたインクルーシブ理念は、教育以外の分野でも広がりを見せはじめた。

インクルーシブと混同されやすい言葉は?

ビジネスの世界でも語られるようになってきたインクルーシブ理念だが、実は混同されやすいいくつかの言葉がある。企業経営において発言をする中では、ビジネスに深く関わるキーワードの意味と用法を正確に理解しておくことは欠かせない。

ここでは、インクルーシブとダイバーシティ&インクルージョンの意味と用法の違いに焦点を当てよう。また、インクルーシブとノーマライゼーション、インテグレーションについても同様に確認していくので、理解を深めるために、ぜひ参考にしていただきたい。

インクルーシブとダイバーシティ&インクルージョン

インクルーシブと似た意味で使われ、ときに混同されやすい言葉に「ダイバーシティ&インクルージョン」がある。「ダイバーシティ」とは、「多様性」をあらわす言葉である。だが、教育やビジネスなどさまざまなシーンにおいて、近年では単に多様性があるだけでは十分ではないと考えられるようになってきた。

つまり、多様性があるのは当然のこととして、なおかつそれを受け入れることが重要であるという考え方だ。そのため、ダイバーシティにインクルーシブの名刺形である「インクルージョン」を加えた「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方が広まってきたのだ。

また、「ダイバーシティ&インクルージョン」に、さらに「公平」「公正」という意味を持つ「エクイティ(equity)」を加えた「DEI」という言葉も使われるようになってきた。目まぐるしく移り変わる多様性のある世界でビジネスを成功に導くためには、どんな理念を重要視したらよいのか、改めて確認しておくべきである。

インクルージョンとノーマライゼーション

「ノーマライゼーション」もインクルージョンと混同されやすい言葉である。ノーマライゼーションは、充実した社会保障が整備された国として知られる北欧・デンマークで登場した理念だ。社会省で知的障がい者施設の担当者が提唱した、障がい者も、一般の市民と同等の権利と生活が保障されるべきだという考えである。

つまり、ノーマライゼーションは障がい者という立場での平等性を説く限定的な考え方である。障がい者に限定せず、すべての人を対象とするインクルージョンとは異なる点を確認しておきたい。

ただし、社会の中での多様性を認めて受け入れるべきだというポイントに関していえば、インクルージョンとノーマライゼーションは共通した課題を持つ言葉である。いずれも現代社会では優先して対応していくべき課題だと認識しておけば問題ないだろう。

インクルージョンとインテグレーション

続いては、インクルージョンと「インテグレーション」の違いである。インテグレーションとは、「統合」をあらわす言葉だ。ある母集団である「マジョリティ」の中に、マイノリティの枠組みを組み込み同一化するという考え方を持つ。そのため、母集団の中で個々の異なる属性が受け入れられ、互いに尊重されている状態を目指すインクルージョンとは異なる。

現在、国際社会の中でより目指すべき姿であると認識されているのはインクルージョン理念であることを念頭に置いて、両者の違いと共通点を確認しておくべきであろう。

ビジネスにおけるインクルーシブ

それでは次に、ビジネスシーンにおいて、インクルーシブの持つ意味や考え方について確認しておきたい。ここでは、「インクルーシブ・マーケティング」と「インクルーシブ・リーダーシップ」について紹介する。いずれも、世界で注目されるインクルーシブという理念に基づき、ビジネスシーンにおいて活用されている手法である。

新しいイノベーションの創出を目指すなら、企業経営をする中で自社に取り入れるべきインクルーシブ理念について、さらに理解を深められるきっかけになるであろう。

インクルーシブ・マーケティング

「インクルーシブ・マーケティング」は、マーケティング分野における概念のひとつである。これまで見落とされてきた少数派の意見や視点に注目する点が特徴だ。多様性を価値あるものとして受け入れることで、商品やサービス開発に活かしていくのだ。売上が伸び悩んでいる商品やサービスにおいて、新たな購買層を獲得する際などに有効な手法として注目されている。

インクルーシブ・マーケティングは少数派にスポットを当てるというより、これまで注目されなかった少数派の意見にも注目することで、新たなニーズを発見するという意味合いが強い。具体例としては、これまで化粧をする対象として考えられていた女性だけではなく、注目されることがなかった男性を対象としたスキンケア・コスメティック用品などが挙げられる。

インクルーシブ・リーダーシップ

「インクルーシブ・リーダーシップ」も、多様性を受け入れていく新たな時代のビジネスシーンにおいて注目すべき考え方だ。従来のリーダーシップとは一風変わった視点を持つ考え方である。

これまで考えられてきたリーダーシップとは、力のあるリーダーが下部組織のメンバーを力強く牽引して事業を推進していくというものだ。だが、インクルーシブ・リーダーシップでは、多様性を重視する。つまり、リーダーが組織のメンバー一人ひとりの能力を引き出し、アップさせて組織運営に活かしていこうとする考え方だ。

組織改変には苦労と痛みが伴うものだが、新たな取り組みを検討している場合には、インクルーシブ・リーダーシップの理念と手法を取り入れてみるのもよいだろう。

インクルーシブの意味を理解してビジネスに活かそう

国際化が進み、多様な属性の人たちの活躍が求められる時代となった現代。すべての人が互いを尊重し合い、共生して輝くためには、インクルーシブ理念の導入と推進が欠かせない。それは、インクルーシブ理念が広がる契機となった教育シーンだけではなく、ビジネスシーンでも同様である。インクルーシブの意味を深く理解して、自社の経営にも積極的に活かしていただいきたい。

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