リテンションとは?人事領域における意味や具体的施策などを解説

2023.06.14

人材の流動化、慢性的な人材不足などの社会的背景から、近年注目を集めているリテンション。リテンションとは、人事領域では「人材の確保」を意味し、社内の優秀人材や若手・中堅社員の離職を防ぐ施策を指す。今回は、リテンションの重要性やメリット、具体的な取り組み施策について解説する。

リテンションとは?意味は?

リテンションとは、直訳すると「維持」や「保持」という意味を持つ言葉である。企業活動においては主に、人事とマーケティングという2つの領域で使われており、捉え方が異なる。まずは、2つのリテンションの意味についてそれぞれ確認していく。あわせて、特に人事領域において、リテンションが重要視されている理由や背景についても解説する。

人事領域におけるリテンション

人事領域で使われるリテンションは、「人材確保」という意味を持つ。人材確保とは、社員が離職することなく、組織にとどまっている状態を指す。つまり、社内の優秀な人材や若手、中堅社員の流出を防いだり、継続して組織内で活躍してもらったりするための取り組みが、人事領域におけるリテンションである。

マーケティング領域におけるリテンション

マーケティング領域で使われるリテンションは、「顧客維持」という意味を持つ。顧客維持とは、既存顧客との継続的な関係性を維持していくことを指す。つまり、既存顧客が自社の商品やサービスから離れていかないように講じる施策が、マーケティング領域におけるリテンションである。具体的な取り組みとしては、商品購入後のアフターフォローの充実や、Webサイトの改善など顧客満足度を高める施策が挙げられる。

企業の売上を高めるためには、新規顧客獲得よりも既存顧客の維持に注力した方が低コストかつ効率的である。そのため、利益確保の戦略としてリテンションマーケティングが重要視されている。

人事領域におけるリテンションの重要性

人事領域において、近年高い注目を集めているリテンション。その背景には、現在日本企業が直面している人材の流動化と、少子高齢化による慢性的な人材の不足が挙げられる。

これまで日本企業では、年功序列や終身雇用の制度が採用され、従業員にも定年まで1つの企業に勤めることが正しいという考えを持つ人が多かった。しかし、昨今では、転職に対するネガティブなイメージが払拭され、スキルアップやキャリアアップなどのポジティブなイメージが定着しつつある。実際に正社員の転職数も増加傾向にあり、人材の流動性は高まっているといえる。

一方、少子高齢化などによる労働人口の減少から、慢性的な人材不足や人材獲得の難しさを実感している企業も増えている。

つまり、現在の日本の労働市場は、優秀な人材であればあるほど、転職も容易に行える状況であるといえる。そのため、組織が安定的な成長を図るためには、獲得した人材や既存の人材の定着率アップを図ることが必須課題となっている。

こういった現状から、給与や労働環境の改善など、従業員がその組織に在籍し続けたいと思えるような施策を講じることが、企業にとって重要課題であるとされているのである。

リテンションの種類

人事領域におけるリテンションには、「金銭的報酬」「非金銭的報酬」の2種類がある。それぞれについて具体的にみていこう。

金銭的報酬

金銭的報酬とは、文字どおり従業員に金銭的価値のある報酬を与えることを指す。金銭という目に見える形で労働の対価を従業員に還元し、働くモチベーションを高める施策だ。給与アップ、ボーナスやインセンティブの支給、持ち株制度(ストックオプション)などが具体例として挙げられる。

金銭的報酬は企業にとっては比較的導入が容易であり、一定の効果が見込める点がメリットとして挙げられる。しかし、金銭的報酬の提供には限界があり、得られる効果も一時的であるケースが多いのは難点といえるだろう。

さらに、人材の流動性が高まっている昨今では、優秀な人材に他社がより高額な給与やインセンティブを提示するケースも考えられる。そのため、金銭的報酬の付与だけでは、リテンション施策としては不十分であるといえる。

非金銭的報酬

非金銭的報酬とは、金銭以外の報酬を従業員へ与えることを指す。従業員が仕事へのやりがいを見出し、快適に働き続けられるようにするための施策である。具体的には労働条件や労働環境の改善、福利厚生の拡充、評価制度の見直しや希望部署への異動、再配置などが挙げられる。

人材の流動性が高まっている現状ゆえ、昨今では優秀な人材ほど、キャリア拡大や理想のライフスタイルの実現など、金銭以外の条件を企業に求める傾向がある。

制度の改訂などが必要なため、金銭的報酬と比較すると導入ハードルはやや上がる。しかし、長期的な定着率を上げるためには、非金銭的報酬を積極的に取り入れることが効果的といえる。

リテンションを強化するメリット

企業の安定成長のために欠かせないといわれているリテンション施策。では、取り組むことにより、具体的にはどのようなメリットが見込めるのだろうか。詳しくみていこう。

採用・教育コストの削減

企業が人材を採用するためには、広告掲載料、人材紹介手数料などの金銭的コストや、面接、応募者対応等の時間的コストがかかる。また、採用後その人材が自社内で活躍するためには、ある程度の教育が必要となる。教育にも、当然ながら時間的なコストやマンパワーがかかる。

リテンションが低い企業の場合、常に採用活動を行う必要があったり、せっかく教育した人材が離職してしまったりと、年間を通じて多大なコストを要する傾向がある。

リテンション施策に取り組み、人材の定着率アップが実現できれば、採用や教育にかかるコストの大幅な削減が期待できる。さらに、離職率が下がれば、働きやすい環境であることが採用市場でアピールできる。これにより、優秀な人材の応募、採用がしやすくなる点もメリットとして挙げられる。

従業員満足度の向上

リテンションに取り組み、従業員に必要な報酬の提示を行うことは、従業員満足度の向上に直接的に結びつく。従業員満足度が向上すれば、企業への帰属意識やモチベーションアップし、生産性の向上や組織の活性化も期待できる。

知識やスキル、ノウハウの蓄積

従業員の離職が頻発する企業の場合、知識やノウハウが組織に蓄積されにくい。また、その従業員が有するスキルや人脈、培ったノウハウや社内の機密情報などが社外に流出するリスクも高まる。

リテンション施策を実施し、人材の定着率アップが図れれば、このようなリスクは回避できる。また、個人だけでなく会社全体としてのノウハウやスキルが蓄積することで、商品やサービスの品質向上や、新たな事業展開がしやすくなるというメリットも見込める。

リテンション強化に向けた具体的な施策

リテンションをより強化するために、企業はどのような施策を行うべきなのであろうか。ここからは、リテンション強化に向けた具体的な取り組みについて解説していく。

労働条件の適正化

給与体系や人事評価などの適正化を図ることは、リテンション強化施策の最も重要な項目の1つであるといえる。従業員にとって給与や賞与などの金銭的な報酬は、労働の対価であると同時に、企業が自身をどう判断しているかという指標となる。自分の行った仕事が正しく評価されていると感じられなければ、当然ながら従業員の離職リスクは高まるだろう。

つまり、透明性が高い人事評価制度を構築し、役割や貢献度に即した適切な報酬を提供する仕組みを作り上げることが大切であるといえる。数字や成果など目に見えるものだけでなく、プロセスや努力など、可視化しにくいポイントも多角的に評価に取り入れられると、より従業員の満足度やモチベーションアップにつながるだろう。

ワークライフバランスの推進

従業員が働きやすい就業環境を整え、ワークライフバランスを推進することも効果的な施策である。出産や育児、介護の家庭的な事情などから、柔軟な働き方を求める従業員は近年増加傾向にある。フレックスタイム制や在宅勤務の積極的な活用や時短勤務の導入、長時間労働の抑制などにより、従業員がストレスなく働ける環境を実現することが重要である。

従業員の成長を支援

従業員のスキルアップやキャリアアップ支援を行うこともリテンション強化に有効である。

新しい知識やスキルを獲得するための研修や教育のチャンスを企業側が適宜提供するなど、成長意欲のある従業員を支援する取り組みを行うのもよいだろう。定期的な面談や専用の相談窓口を設置し、従業員の希望を汲んだ配属を実施、さらに描くキャリアパスに合わせたジョブローテーションを行うのも効果的な施策である。

また、上昇志向の強い人材の流出を防ぐため、キャリアカウンセリングの実施や社内公募制度の導入など、キャリアアップを支援する環境を整えることも重要だ。企業が自身のやる気を後押ししてくれる環境は、従業員の強い目的達成意識を引き出し、モチベーションや帰属意識の強化に繋がりやすくなるといえる。

社内コミュニケーションの強化

労働条件や給与と並び、従業員のエンゲージメント向上に重要な要素が、社内の人間関係である。人間関係が良好でない組織や、風通しの悪い組織では、当然ながら、長く働きたいと思う従業員は少ないだろう。

そのため、企業は社内コミュニケーションを円滑にするための施策に取り組む必要がある。たとえば社内SNSの導入や、社内イベントの実施など、従業員間の信頼関係の強化や、組織の結びつきが感じられる取り組みを行うとよいだろう。従業員の意見を吸い上げるために、定期的にヒアリングやアンケートを行うことも効果的といえる。

同部署はもちろん、部署を横断したコミュニケーションの機会を設け、風通しがよく、良好な人間関係を保った組織を構築することが重要である。

おわりに

転職市場の激化、労働人口の減少など、今後優秀な人材の確保はさらに困難になっていくことが見込まれる。こういった状況の中でも、企業が安定的に成長を遂げていくために、従業員の定着率を高めるリテンション施策はさらに重要になるといえるだろう。

リテンション強化において重要なのは、トップダウンではなく、従業員の要望や意見を吸い上げた施策を行うことである。自社の従業員が何を求めているかをしっかり把握し、エンゲージメントやモチベーションを向上させる施策に積極的に取り組んでほしい。”

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