パーパス経営とは?意味や注目される背景、メリット、取り組むための手順を解説
2023.06.14

社会情勢や経済状況の変動を受け、経営のスタイルも変動している。昨今注目されている経営スタイルのひとつが「パーパス経営」だ。パーパス経営を取り入れることで多くのメリットが得られる一方、注意点があることを覚えておこう。本記事では、パーパス経営の概要や注目される背景、メリット、導入する手順、注意点を解説する。これからの企業の方向性の決定やパーパス策定に、ぜひ役立ててほしい。
目次
パーパス経営の概要
パーパス経営の概要やパーパスと似ている概念の違い、ビジネスにおけるパーパスの考え方について解説する。
パーパス経営とは
パーパス経営とは、自社の存在意義や社会での役割、貢献を明確にした「パーパス」を策定し、パーパスを軸としたうえで企業経営を進めることを指す。従来の株式資本主義の経営スタイルから、社会や人材を重要視する経営スタイルへ転換されているのが特徴だ。
パーパスとは英語の”purpose”から来ていて、もともと「目的、意図、意思、志」といった意味を持つ。パーパスが経営の考え方としてはじめて登場したのは、2018年アメリカの大手投資運用会社であるブラックロックのラリー・フィンク氏が「パーパスの重要性」を提唱したのがきっかけと言われている。その後2019年にはアメリカの大手経済団体であるビジネス・ラウンドテーブル氏が「企業のパーパスに関する声明(Statement on the Purpose of a Corporation)」を発表し、株式資本主義から人・社会を重視する経営スタイルへの転換を訴えたことで、パーパスを軸とした経営スタイルが確立された。
パーパスとMVVの違い
パーパスと似た言葉に「MVV」がある。MVVとはMission(ミッション)、Vision(ビジョン)、Value(バリュー)の3つを合わせた言葉だ。
・Mission(ミッション)…企業が存在する意味、果たすべき役割、使命
・Vision(ビジョン)…企業の将来目指す姿、構想、未来像
・Value(バリュー)…企業として大切にしている価値観や行動指針
パーパスとMVVは似ている言葉だが、ふたつの違いがある。ひとつは「社会的な意義と社会への貢献」を盛り込む必要性だ。パーパスでは自社の社会での役割や社会貢献について明確にしなければいけないが、MVVでは盛り込まれないこともある。
もうひとつは「時間軸」だ。パーパスは企業の現在の存在意義や役割を言語化したものに対して、MVVは将来や未来の企業イメージを言語化したものになる。
ビジネスにおけるパーパス
ビジネスでは、「企業の存在意義」「企業が社会に果たす役割」「企業の現在の志」がパーパスとして言語化される。パーパスを設定することで、自社が社会での役割や価値を果たすために、どのように事業を経営すべきかを考えやすくなるだろう。
パーパスを軸にしたパーパス経営を行うことで、企業経営の方向性が分かる、事業活動や社会貢献活動の推進につながるといった効果が得られる。
パーパス経営が注目される背景
パーパス経営は近年提唱された新しい経営スタイルであるものの、日本国内でも経営スタイルとして導入している企業も増加している。パーパス経営が注目されるようになった背景を解説する。
SDGsとサステナビリティ経営の浸透
パーパス経営に取り組む企業が増加したきっかけのひとつに、SDGsとサステナビリティ経営が企業に浸透したことがある。2015年の国連サミットで、持続可能な社会を実現するために、SDGs(持続可能な開発目標)が採択された。
SDGsには2030年までに達成するべき17の世界目標が設定されていて、個人レベルだけでなく企業レベルで取り組むべき目標もある。さらに日本でも政府により「SDGsアクションプラン」が設定された。これらの流れを受け、日本の企業もSDGsの目標達成を踏まえた「サステナビリティ経営」に取り組む企業も多くなった。
サステナビリティ経営を実施するには、自社の社会的な意義や役割を明確にし、事業の方向性を定める必要がある。そのため企業においてパーパスの設定が重視されるようになったと言えるだろう。
DXの推進
ITツールやデジタル技術を導入し、企業の仕組みや業務のやり方を変革、改革する「DX」が推進されている。日本企業が従来の仕事のやり方を変えずにいると、国内外での競争力が失われ大きな損失につながる「2030年の崖」が発生すると言われている。2030年の崖を回避するためにも、日本では国をあげてのDX推進が実施されている。
DXについてくわしくはこちら(DX推進など関連記事をリンク)
ところがDXを推進しようとしても、ITツールやデジタル技術の導入のみで満足してしまい、変革や改革まで進まない企業も多い。DXを推進させるためには、自社のDXの目的を明確にしなければいけない。そのためにもパーパスを明確にすることが、DXを導入する企業には求められている。
ミレニアル世代の台頭
ミレニアル世代とは1980年代~1990年代半ばに誕生した年代のことだ。2025年以降より労働人口の半分がミレニアル世代になると言われており、将来の企業活動や消費活動の中心的な年代となる。
ミレニアル世代はバブル崩壊や就職氷河期を経験している世代のため、「社会に貢献したい」という気持ちが強い。さらに生まれたときからデジタル機器やインターネットが身近にあるデジタルネイティブ世代でもある。
パーパス経営はミレニアル世代の共感や支持を受けやすい経営スタイルでもあるため、企業の利益向上や成長のために、パーパス経営が注目されている。
パーパス経営のメリット
パーパス経営を実践することで得られるメリットを解説する。
企業の競争力強化、永続的な発展や成長が見込める
パーパス経営は、自社の競争力強化、永続的な発展や成長が期待できる。パーパスによって自社の存在意義や社会での役割を明確にすることで、社内外へ企業の指針や方向性を示すことも可能だ。そのため、従業員も何をすべきかが分かり、行動できる。従業員も同じ方向を向いて業務にあたるため、組織がまとまりやすくなるメリットが得られるだろう。
組織がまとまれば仕事のパフォーマンスが上がるだけでなく、自社だからこその存在意義や役割も明確にできるため、競合他社との差別化や優位性の維持にもつなげられる。
ステークホルダーから支持を得やすくなる
企業を取り巻く顧客、従業員、株主、投資家などのステークホルダー(利害関係者)が存在する。パーパスによって自社の方向性や事業指針を明確にすれば、ステークホルダーからの共感や支持を受けやすくなり、応援やサポートを受けやすくなるだろう。その結果高いブランディング効果が得られるなどのメリットがある。
イノベーションが生まれる可能性がある
パーパスによって従業員の業務の方向性や考えがまとまると、組織力が上がり、意見や提案、アイディアが出やすい土壌ができる。その結果新商品やサービスの開発、既存商品やサービスの改良、業務フローの改善、ビジネスモデルの変更などのイノベーションが生まれる可能性がある。
意思決定にスピード感が出る
パーパスによって事業の方向性や企業の理念を明確にし、従業員も理解していれば意思決定のスピードが上がるメリットがある。パーパスを明示していれば、従業員が業務上での判断基準を明確にできるためだ。意思決定のスピードが上がれば、業務のスピード感が出るためビジネスチャンスを確実につかみやすく利益につなげられる、業務が効率化するなどのメリットが得られるだろう。
従業員エンゲージメントが高まる
パーパス経営は従業員のエンゲージメントの向上も期待できる。従業員が企業の存在意義や社会での役割に共感し、自分が働く目的や意義と結びつくと仕事へのモチベーションや会社への帰属意識も向上するためだ。従業員もやりがいや意欲を持って業務に取り組めるようになるため、企業の成長にもつなげられる。
パーパス経営へ取り組む手順
パーパス経営は社会情勢の変化により重視されているだけでなく、取り組むことで多くのメリットも得られる。パーパス経営に取り組むための手順を解説する。
自社の状況を分析する
自社におけるパーパスを明確にするために、まずは自社が置かれている状況や取り巻く環境を分析、整理しよう。状況や環境の分析や整理は、自社の歴史や歴代の理念を棚卸する、または各ステークホルダーごとの評価を参考にするといった方法がある。たとえば顧客、投資家、従業員それぞれでの自社への評価を分析、整理したうえで、自社が発している商品やサービス、ブランドの方向性やメッセージ性と照らし合わせると、自社とステークホルダーの指標や考えが一致しているか、ズレがないかが分かるだろう。
パーパスを言語化する
自社の状況や環境を分析後、具体的な自社の役割や方向性が把握できたらパーパスとして言語化しよう。パーパスの言語化には、経営層で言葉を考える、現場の従業員がそれぞれで言葉を考える、などの方法がある。参加者が多ければ多いほど良いアイディアが集まりやすい一方、プロジェクトとしてまとまりにくくなる。自社の状況や規模に合わせて最適な方法を選ぶようにしよう。
パーパスを共有しやすいものとするために、「分かりやすい言葉で言語化する」「自社の経営理念、業務内容とリンクさせる」「社会貢献を実感できる内容にする」といった点に注意が必要だ。
パーパスを事業や組織運営へ反映させる
パーパスを取りまとめ言語化した後は、事業や組織運営へ反映させる取り組みを行う。パーパスを策定しただけでは、パーパスを行くとした事業運営ができないためだ。パーパスを踏まえて、ビジネスモデルや事業の方向性を検討し、事業へ反映させよう。
組織運営にパーパスを反映させるには、マネジメントポリシーとパーパスを結びつけるなどの方法が有効だ。パーパスを事業や組織運営へ反映させることで、一貫性のあるパーパス経営が実現できるだろう。
日々の業務でパーパスを意識できる工夫を取り入れる
パーパスを策定したものの、日々の業務でパーパスを意識できていなければ企業の運用や経営にパーパスは活かされない。特にパーパスとして策定した内容は比較的スケールが大きいことが多いため、日常的な業務では意識しづらいということも多いだろう。
ミーティングでパーパスを取り上げる、従業員のフィードバックの機会にパーパスと接続された行動について振り返る、パーパスに関する行動指針を策定し、運用する、パーパスに関する行動を行った従業員に対して表彰を行うといった、「パーパスを自分事化する」ための取り組みを導入しながら、パーパス経営を実践していこう。
PDCAを回す
パーパス経営はPDCAサイクルを回すのが重要だ。運用して気づいた課題などを洗い出し、改善を行うことでよりパーパスを実現したうえでの経営が実現する。
パーパス経営の注意点
パーパス経営は、パーパスを策定しつつも実態が伴わない「パーパス・ウォッシュ」が起きないように注意しなければいけない。パーパス・ウォッシュが発生するとステークホルダーからの共感や支持が得られなくなり、顧客や投資家からの評価が下がる、従業員が業務や企業の考え方に疑問を抱いてエンゲージメントやモチベーションが下がる、といった弊害が起きてしまう。
パーパスを策定しただけでなく、事業や組織運営に取り入れ、実行するのが重要だ。
パーパス経営は企業の競争力強化や成長にもつながる新しい経営スタイル
パーパス経営の概要や、注目されるようになった背景、パーパス経営のメリットや導入の手順、注意点を解説した。パーパス経営はSDGsへの取り組みやDX推進、ミレニアム世代の台頭により今後も注目、評価される経営手腕と言える。パーパス経営を取り入れることでステークホルダーの支持が得られるだけでなく、業務上でも多くのメリットが得られる。パーパスを明確にし、実務や業務でも意識できる環境を整備し、パーパス経営を進めよう。