アップサイクルとは?リサイクルやリメイク等との違い、業種別の企業の事例を紹介
2023.06.15

近年、地球規模での環境の変化や資源の枯渇が問題となり、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に基づいた企業経営が求められている。そのようななかで「アップサイクル」という言葉を耳にする機会も増えてきた。当記事ではアップサイクルの概念を明確にし、その求められる背景やメリット・デメリットについて解説していく。
また、業種ごとにおけるアップサイクルの導入事例や、今後の課題もあわせて紹介する。
目次
アップサイクルとは何か
「アップサイクル(upcycle)」とは、廃棄物や不用品に新しい付加価値を加えて、再活用することを指す。ただ再利用するだけではなく、アイディや工夫によって商品的価値を高めることがアップサイクルといえる。そのため、アップサイクルは「創造的再利用」とも呼ばれる。
循環型経済の一環として資源の廃棄を減らし、自然環境への負荷を軽減する効果が期待され、アップサイクルは持続可能社会を構築するための重要な考え方として、ビジネスやライフスタイルの分野で近年注目を集めている。
アップサイクルと似た用語
アップサイクルは持続可能社会や環境の分野で頻繁に使われる言葉だが、この分野にはアップサイクルと類似する概念が複数存在し、日常的に使用されている。
ここからはアップサイクルと似た用語について解説する。
ダウンサイクル
「ダウンサイクル(downcycle)」とは、古くなった製品や材料を再利用する際に、より低品質な製品や材料に変えることを指す。使わなくなったタオルを雑巾にしたり、古くなった服を作業着にしたりすることは身近なダウンサイクルの一例だ。ダウンサイクルは、アップサイクルとは対照的な概念として扱われることが多い。
ダウンサイクルは再利用の手段としては有効だが、再利用された製品の品質が低下するため、持続可能性においてはアップサイクルほどの効果は望めない。
リサイクル
「リサイクル (recycle)」は、廃棄物を分解・加工して、新しい製品や材料に再利用することを指す。具体的には再利用可能な廃棄物、たとえばプラスチック、ガラス、紙、金属などを回収し、それらを粉砕、溶解、精製などの過程を経て、新しい製品や材料を作り出すことをリサイクルという。
また、リサイクルのプロセスは、アップサイクルやダウンサイクルの一部となる場合があることも留意しておきたい。
リユース
「リユース(reuse)」とは、使用済みの製品や材料を同じ目的で繰り返し使うことを指す。アップサイクルでは新たな価値の創出が伴うが、リユースはその製品を本来の状態・目的で再利用する。
例としては、中古品の販売や購入は典型的なリユースの考え方だ。そのほかにも、中身を使用した容器を回収・洗浄し、新たに充填して使用するリターナブル容器のシステムもリユースにあたる。
リデュース
「リデュース(reduce)」とは、消費や廃棄物の削減を目的とした行動や取り組みのことを指す。
具体的にはレジ袋や包装用品の使用量を減らす、使い捨て製品の使用を控える、詰め替え用品を買うなど、廃棄物の発生自体を抑制する行為が挙げられる。
リデュースは、アップサイクル、ダウンサイクル、リサイクル、リユースと並ぶ、廃棄物削減のための重要な手段の一つである。
リメイク
「リメイク(remake)」は既存の製品に手を加え再活用したり、イメージの違うものに作り直したりすることをさす。
リメイクはアップサイクルは近しい文脈で用いられる概念であるが、アップサイクルの方がより「価値があるかどうか」という点が重視される。また、アップサイクルの方が、リメイクと比較しても以前とは見た目や用途が、より異なる商品となるケースが多いとされている。
リメイクの例としては、古くなった家具の塗り替えや穴の空いた洋服に当て布をしてイメージを変えることなどがあげられる。
アップサイクルが求められる背景

ここからは、近年においてアップサイクルが求められている背景を、資源・環境・廃棄物の観点から解説する。
資源の問題
現代社会においては地球上に存在する天然資源の消費が加速しており、特に先進国を中心にその使用量が大きくなっている。このような状況下で、限られた天然資源を有効に活用し、持続可能な社会を実現することが求められてきた。
アップサイクルの製品は廃棄物を再利用することで、新たな価値を生み出し天然資源の消費抑制効果が期待できる。
環境の問題
環境問題が世界的に取り上げられるようになってから、アップサイクルの製品が注目されるようになってきた。アップサイクルは、廃棄物を再利用することで新たな製品を作り出すため、ゼロから製品を製造する場合と比較して製造工程で発生するゴミや二酸化炭素排出量が少なくて済む。
また、アップサイクルによって生産された製品は一般的に環境に配慮された製品が多く、世界的な環境意識の高まりによりいっそう注目が集まっている。
廃棄物の問題
現代社会においては行き場のない廃棄物の処理が大きな課題となっているが、廃棄物を再利用することはリサイクルや処分にかかるコストを削減することにつながる。また、使わなくなったものからアップサイクルによって製品を作り出すことで、廃棄物の量自体を減らすことが可能となる。
廃棄物を減らしてコストを削減できるアップサイクルの考え方は、製品を提供する企業のみならず行政や消費者の側からも支持する声が多くあがっている。
アップサイクルのメリット・デメリット
資源を消費せず環境負荷の低いアップサイクルには、さまざまなメリットがある。だが同時にいくつかのデメリットが存在することも確かだ。
ここからはビジネスにおけるアップサイクルのメリットとデメリットを解説する。
メリット①:エネルギーやコストを抑えられる
製品に関するエネルギーやコストを抑えられることは、アップサイクルの大きなメリットといえる。
アップサイクルでは、廃棄物や不要な素材を再利用するため新たな素材を生産する必要がない。そのため原材料を採掘したり、生産するために必要なエネルギーやコストを抑えたりできる。またアップサイクルなら、廃棄物の処理にかかるコストも大幅に削減が可能だ。
メリット②:企業のイメージアップにつながる
アップサイクルは、企業が環境問題に対して取り組んでいることを世間に対してアピールできる。
環境に優しい製品を提供することで、企業の社会的責任や環境保護に対する取り組みが認知され消費者からの支持も得られやすい。
またアップサイクルによって作られた製品は、一般的にデザイン性や付加価値が高いため、競争力の向上にも貢献できる。
デメリット①:材料の安定供給が難しい
アップサイクル製品を作るには、再利用する素材が必要だ。しかし、素材自体の安定した供給が難しい場合もありえる。
たとえば、再生プラスチックを作るためには使用されたプラスチックを回収・分別する必要があるが、回収率が低い場合やプラスチックの品質に問題がある場合も考えられる。また、そもそもアップサイクルに適した素材が十分に存在しないと、ビジネスとしては立ち行かなくなってしまう。
廃棄物は排出される量が一定ではないため、原材料としての確保や製造の予定をたてるのが難しいこともデメリットだ。
デメリット②:廃棄ゼロではない
アップサイクルは素材を再活用し物の寿命を延ばせるが、廃棄そのものをゼロにはできない。また、アップサイクル製品も不要になれば廃棄物となってしまう。
廃棄ゼロ(ゼロエミッション)を目指すためにはアップサイクルとは別に、資源を使い捨てず循環していくことを前提とした「循環型デザイン」のビジネス設計が必要となってくるだろう。
業種別アップサイクルへの取り組みと事例
2023年現在、国内外でアップサイクルに取り組む企業が増えており、さまざまな製品やビジネスモデルが誕生している。
ここからは業種ごとにアップサイクルへの取り組みや事例を紹介する。
アパレル産業のアップサイクル事例

アパレル業界は、アップサイクルへの取り組みが活発に行われている業種だ。古くなった衣類を繋ぎ合わせて新しい服を作る例や、廃棄されたパラシュート布、消防ホース、ビニール傘などからバッグや財布などを作る例などアップサイクル製品の種類もさまざまだ。
そのなかでも、廃タイヤから製品を作る「SEAL」はアップサイクルブランドを代表する成功例だろう。また、アパレルセレクトショップのBEAMSでは、自社倉庫のデッドストック品から作られるアップサイクル製品のブランド「BEAMS COUTURE」を展開し人気を博している。さらにLouis VuittonやGucciといった世界的なハイブランドでも、アップサイクル製品が積極的に取り入れられている。
食品産業のアップサイクル事例

食品業界でも、アップサイクルを取り入れる動きが盛んだ。食材宅配のオイシックス・ラ・大地では、商品の製造過程で出る野菜の皮やへた、芯などを「Upcycle by Oisix」シリーズの2次製品に加工して販売、フードロスの削減に貢献している。
同様の動きは食品業界全体で起こっており、パンの端や酒類を作る際に出る副産物、形の悪い野菜などを素材にしたアップサイクル食品が数多く販売されている。
印刷・製紙業のアップサイクル事例

印刷・製紙業界では紙の原料となる森林を保護する観点から、アップサイクルには積極的に取り組んでいる。製紙業では廃紙から新しい高品質な紙を作る技術や、廃プラスチックなどの異素材から合成紙を作る技術が次々と実用化されている。
また、凸版印刷株式会社のように、化粧品メーカーの研究・開発工程で発生した原料くずをインクの色材料に使った「ecosme ink(エコスメインキ)」としてアップサイクルしている例もある。
製造・建築業のアップサイクル事例

日本の製造・建築業界もアップサイクルに積極的に取り組んでおり、リサイクル素材の使用や再生資源の利用を促進する動きが活発化している。建築廃材や枕木、造船古材などをアップサイクルして家具を製造するブランドや、古民家の建材に最新の建材を掛け合わせ、日本の気候に最適化された家を提案する企業の例もある。
また、大手ゼネコンの大林組は、災害廃棄物のがれき残渣を使った「アップサイクルブロック」を生産。防潮堤などの盛土材料として利用し、がれきの最終処分量の減少や被災地の早期復興に貢献している。
その他業種のアップサイクル事例

ここまで紹介してきた以外の業種業界でも、アップサイクルを取り入れる動きが盛んだ。
文具メーカーのコクヨでは廃棄衣料品をノートカバーやツールポーチなどにアップサイクルしている。また、島村楽器は修理不能な楽器をアップサイクルし、スタンドライトや家具の素材として販売している。
全日本空輸株式会社では「ANAアップサイクルプロジェクト」を展開。廃棄される飛行機の客席カバーをルームシューズにしたり、整備士の作業服をバッグにアップサイクルしたりなど資源の有効活用と廃棄物の削減に取り組んでいる。
このようにアップサイクルの動きは、業種や業態をクロスオーバーしながら広く世の中に浸透しつつある。
アップサイクルの課題
廃棄物を活用するアップサイクルの考え方には、否定的な見方もある。本来であれば廃棄物そのものを減らしていくことが大切であり、廃棄物が資源になるのであれば廃棄の常態化へとつながる危険性が考えられる。
アップサイクルは現状に対する対応の一つであり、根本的な解決ではないことは忘れてはいけないだろう。
アップサイクルが新たなビジネスの可能性を生み出す
アップサイクルは廃棄物や不用品を再活用し新たな価値を生み出すことで、環境保護と資源の節約に貢献するだけではなく新たなビジネスの可能性も生み出せる。
2023年現在、アップサイクルは商品開発やデザインの分野でも活発化し、循環型経済を促進するビジネスモデルとして注目を集めている。将来的にはアップサイクルによるビジネスがますます拡大し、新たな産業を生み出すかもしれない。
これからは、アップサイクルをはじめとした時代のニーズやトレンドを読み解きながらビジネスの展開を考えるていくべきだろう。”