適正在庫とは?安全在庫との違いや、計算方法などを解説

2023.06.16

適正在庫とは、欠品や過剰在庫を防ぎ、企業が利益を出すために必要な在庫量のことだ。販売機会を逃さないように在庫を抱えすぎることや、運送費のコストダウンのためにまとめて発注をして在庫が足りなくなるなど、部門によって適正在庫の認識が異なると利益に繋がりにくい。

この記事では、適正在庫とはどのような状態を指すのか、適正在庫と安全在庫との違い、適正在庫を維持する重要性や計算方法、どのようにして適正在庫が維持できるのかを解説していく。

適正在庫とは?

適正在庫とは、在庫量が欠品にもならず、過剰にもならず、企業が利益を出せる在庫量のこと。在庫数が少ないと欠品になり、要望があったときに出荷や販売ができず、利益を出せない。また、多すぎても管理コストがかかり、廃棄するケースも出てきてしまう。欠品と過剰在庫を防ぎ、企業の利益を最大限出せる在庫数が、適正在庫である。

適正在庫と安全在庫の違い

適正在庫に近い言葉に「安全在庫」がある。安全在庫とは、欠品を防ぐための在庫数のことで、保ちたい在庫数の最低ラインである。安全在庫を設定することで、天候によるリードタイムへの影響、流行による需要の変動があっても販売や出荷対応ができ、欠品を防ぐことができる。

一方で適正在庫は、欠品と過剰在庫を防ぐ在庫量のため、在庫数の下限と上限の両方が定まっているイメージだ。

後ほど説明するが、適正在庫の量を決める計算には、欠品をしないラインを決める必要があるため安全在庫をベースに考えていく方法がある。

適正在庫を維持する重要性

欠品・過剰在庫が発生すると

適正在庫を定めず、欠品や過剰在庫が発生するとどうなるのだろうか。

在庫が欠品してしまうと顧客から要望があった際に販売や出荷ができず、在庫という資産の現金化ができなくなる。販売機会を逃すだけでなく、顧客の購買意欲や会社への信用を失うことにもなりかねない。

また、過剰在庫になるとどうなるか。商品の回転率が下がることで、商品が倉庫に置かれたままになり、品質が劣化する恐れがある。結果的に値引き商品の増加や廃棄、返品せざるを得なくなることも。廃棄や返品には費用が発生する場合があり、在庫を持ちすぎることは損失に繋がりかねないのだ。また、在庫が多く、倉庫での保管スペースがなくなると出荷作業の効率が落ちる可能性もある。

適正在庫の維持は利益を生み、損失を防ぐ

適正在庫を維持することで、販売や出荷すべきときに対応ができると資産を現金化できるため、キャッシュフローの悪化を防ぎ、安定して利益を生み出すことができる。

そして過剰在庫も防ぐことで、余計な廃棄費用や返品費用を防ぎ、商品を劣化させることなく品質を保つこともできる。また、倉庫での適度な作業スペースが保たれ、作業効率にも良い影響を与えるだろう。

適正在庫の計算方法

では、適正在庫はどのように計算をして求めればいいのか。計算方法は4つある。

安全在庫+サイクル在庫

まず、安全在庫を求め、そこにサイクル在庫を合わせた数を適正在庫とする考え方だ。

適正在庫を求める際の基本的な考え方であり、取り入れている業界も多い。

安全在庫は欠品を防ぐ最小値で、需要やリードタイムに変動があっても対応できる在庫量のこと。また、サイクル在庫は、発注から次の発注までの期間で消費される在庫量の半分の量を指す。例えば、2週に一度発注するのであれば、一週間目までに消費される在庫量がサイクル在庫となる。

安全在庫の求め方

安全在庫は主に次の計算式で求められる。一つずつどのような意味があるのか見ていこう。

安全在庫=安全係数(1.65)×使用量の標準偏差×√(発注リードタイム+発注間隔)

安全係数と欠品許容率

この式の安全係数とは、どのぐらいまでなら欠品を許容できるのかという欠品許容率のことだ。欠品許容率が1%の場合、安全係数は2.33、2%の場合は2.06、5%の場合は1.65の数値が使用される。一般的に欠品許容率は5%とされているため、上記の式では安全在庫を求める際に「1.65」の数値を使用している。

欠品はないことが望ましいが、欠品を減らすために欠品許容率を低くしてしまうと、安全係数が増えることで安全在庫の数も増え、過剰在庫に繋がりかねないため注意が必要だ。

使用量の標準偏差

「標準偏差」とは、どれだけデータにばらつきがあるかを示す指標で、ExcelのSTDEV関数を使用することで求められる。今後の需要を完全に予測するのは難しいため、過去の在庫使用量の標準偏差を使用する。

発注リードタイムと発注間隔

「発注リードタイム」とは、発注から納品までにかかる時間のこと。3月1日に発注をして、3月7日に納品された場合、リードタイムは6日となる。

また、発注間隔は同じ商品を発注するまでの期間のこと。次の発注を毎回1週間後に行っているのであれば発注間隔は7日、不定期なら0日で計算する。

安全在庫+需要数

安全在庫に、どのぐらい顧客からの需要があるかの需要数を足して求める方法だ。

需要数は、これまでどの程度、販売・出荷をしたかのデータから考える。例えば前年の1月に売れた量や、1月から3月の間に売れた量の平均値などの一定期間の需要数を求める。そしてその需要数と安全在庫を合わせて適正在庫を計算する。

需要数で適正在庫を求める方法は、その年度の特徴や市場傾向により変動があることや、売れない日が続いた場合に過剰在庫になる場合も含めて考える必要がある。

在庫回転率と在庫回転期間

在庫回転率と在庫回転期間を出すことで、現在の在庫が適正かどうかを計算する方法だ。

在庫回転率を見る

在庫回転率は、一定の期間でどのくらい在庫が入れ替わったかを表すもので、在庫回転率を見ることで仕入れてから販売されるまでのスピードかがわかる。数字が多いほど適正在庫を保っていることになり、資産が効率的にお金に変わっていると判断できる。

計算方法は、金額ベースと数量ベースの2つある。

【金額】在庫回転率=売上原価÷平均在庫高

【数量】在庫回転率=出庫総数÷平均在庫数

細かく見ていくと、それぞれ下記で求められる。

売上原価= 期首在庫金額 + 仕入れ在庫金額 – 期末在庫金額

平均在庫高= (期首在庫金額 + 期末在庫金額)÷ 2

平均在庫数=(期首在庫数 + 期末在庫数)÷ 2

在庫回転期間を見る

在庫回転期間とは、商品が入荷してから出荷されるまでの期間のこと。在庫が完全に入れ替わるまでどのぐらいの時間がかかったかがわかる。期間が長いほど入荷から出荷までのスピードが遅く、短いほどスピードが速い。計算は次の通り。

在庫回転期間=棚卸資産÷売上原価

例えば、棚卸資産の合計数が1,000万円で、年間の売上原価が250万円の場合、在庫回転期間は4年となり、在庫が完全に入れ替わるまで4年かかることが分かる。

交叉比率

交叉比率の計算方法

「交叉比率」とはその在庫でどれだけ儲かっているかを表しており、数値が高いほど効率的な商品となる。計算方法は次の通りだ。

交叉比率 = 在庫回転率 × 粗利益率

在庫回転率は、売上原価÷平均在庫高、もしくは出庫総数÷平均在庫数で求める。

粗利益率は、粗利÷売上高で求められる。

交叉比率は高いほど利益になっている在庫だと分かる数値だ。例えば、在庫回転率5×粗利益率20%で交叉比率は100、在庫回転率10×粗利益率20%で交叉比率200の場合、交叉比率200のほうが儲かっている商品だと分かる。

交叉比率から適正在庫金額を算出する

交叉比率を使い、適正在庫金額が算出できる。計算方法は次の通りだ。

在庫回転率 = 交叉比率 ÷ 粗利益率

適正在庫金額 = 売上目標 ÷ 在庫回転率

まず交叉比率と粗利益率から、目標とする在庫回転率を出す。目標の回転率が出たら、売上目標を在庫回転率で割った金額が適正在庫の金額になる。

適正在庫の維持するポイント

適正在庫を維持するにはどのようなことに気を付ければいいのか。4点ある。

需要予測をする

適切な需要予測は、適正在庫を保つために必要なことだ。過去のデータを基にした通常時の需要予測はもちろん、市場の動向、顧客の動向、最新トレンド、統計データなど、世の中でどのような動きがあるのかを把握しておくことで需要予測ができるだろう。BtoBの取引であれば直接クライアントに聞く方法もある。しかしながら、BtoCの場合は正確な需要予測は難しいので、予測が外れた場合にも在庫を調整できるようにするなどの工夫が必要だ。

発注方法は適切か

商品の在庫を発注する方法として「定期発注」と「定量発注」の2つの方法がある。

「定期発注」とは、毎月1日、毎週水曜日など決まったときに発注をする方法。一方で、「定量発注」とは定めておいた在庫数が下回った段階で発注をする方法だ。

「定期発注」では、発注時期は決められているが、どのぐらい発注すべきかの予測を毎回しなければならない。予測の手間はかかるが、季節商品など需要が変動しやすい商品には向いている。

「定量発注」では、発注量が決められており、発注をするタイミングが都度変わる。毎回需要予測をする必要がないため、安定した需要量のある商品に向いている方法だ。入荷する数も変わらないため、在庫補充の手間がかからないといったメリットもある。

適正在庫の維持には、定期発注と定量発注のどちらが自社の商品や需要に対して適切な方法か、見直しをしてほしい。

製造リードタイムの短縮

リードタイムには製造リードタイム、調達リードタイム、物流リードタイムなどがあり、どのリードタイムも短いに越したことはない。しかし、配達にかかるリードタイムなど自分たちで調整が難しいものもある。そこで、まずは自社でコントロールしやすい製造リードタイムを短縮することが大切だ。

製造リードタイムとは、製造の指示があってから現場が製造し、製品として出荷されるまでの時間のこと。製造の各工程作業時間や、各工程間で製品が滞留する時間などのリードタイムを短縮することで、適正在庫が維持でき、販売機会を逃さない。

社内で適正在庫の認識を統一する

適正在庫は、社内の部門ごとに捉え方が異なる可能性がある。「販売機会を逃さないために在庫を抱えておきたい」、「まとめて発注することで運送費を抑えたい」など立場によって適正在庫の感覚は違うため、会社全体で「適正在庫はこのような状態を指す」と在り方を決めておくことが必要だ。

まずは部門ごとに適正在庫に対してどのような考え方を持っているのかを把握し、そこから適正在庫の目標を定めていく。そして会社全体で適正在庫の認識を統一し、各部門の業務にも落とし込めるようにしよう。

自社や商品にあった適正在庫かを見直そう

適正在庫を維持できれば、廃棄費用などの損失を防ぎ、販売機会を逃すことなく利益を生むことができる。適正在庫は商品の種類や企業によって基準が異なるため、発注をする量やタイミング、倉庫の状況、商品の特性、市場の動向など様々な条件を考えながら、計算しなければならない。現在の在庫が適正でないと感じるのであれば、欠品の理由、過剰在庫の理由など原因を探って適正在庫の計算方法や発注基準を見直してみてはいかがだろうか。

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