スーパーアプリとは?メリットや国内外のスーパーアプリの取り組み例を交えて紹介
2023.06.16

スマホアプリには、ゲーム・コミュニケーション・ショッピング・生活など多様なジャンルが存在する。おおよそ特定のジャンルに絞って提供されているスマホアプリだが、ジャンルにとらわれず、顧客満足度やユーザー体験を向上させる複数のサービスで構築したアプリが、昨今では注目を集めている。
それがスーパーアプリと呼ばれるアプリ形態だ。本記事では、スーパーアプリの概要から注目される理由、ビジネス的なメリット、国内外の事例まで解説していく。
目次
スーパーアプリとは?
スーパーアプリとは、さまざまなアプリを1つのアプリ上に統合し、実装・提供されるサービスを言う。例えば、チャット・決済・EC・SNS・音楽・チケット予約・配車サービスといった日常生活で利用する多様な機能がスーパーアプリには集約されており、ユーザーはシームレスにアプリを活用できる。
スーパーアプリを構成するサービスに明確な定義はなく、一見すると関連性のないサービスが実装されているようにも見える。しかし、実際はユーザーが分かりやすく、またやりたいことを心地良く実現できるよう、ユーザー体験に重きを置いて設計されているのが大きな特徴。ユーザーとしては複数のアプリをインストールする必要がなく、利便性も高いとして支持を得ている。
スーパーアプリの発祥は中国。中国ではスマホアプリのビジネスモデルが一気に拡大し、その中でスーパーアプリが多くのシェアを獲得。中国のビジネスモデルに倣い、アジアの新興国各国もスーパーアプリの提供を始め、大きく普及していった。
スーパーアプリとミニアプリの違い
スーパーアプリと混同しやすい用語として、ミニアプリが存在する。ミニアプリとは、スーパーアプリのプラットフォーム上で起動するアプリを指す。
例えば、スーパーアプリ上で実装される決済機能、メッセージ機能といった各サービス群がミニアプリに該当。つまり、スーパーアプリは複数のミニアプリを集約したサービスと言える。
アプリストアからインストールする必要はなく、スーパーアプリを通じてミニアプリのサービスは提供される。
スーパーアプリが注目される理由や背景
スーパーアプリが注目される理由としては、利便性の高さが1つに挙げられる。単一のサービスのみ実装されているアプリは、ユーザーにとって操作が煩雑になりにくい反面、下記のような課題も存在する。
- 目的ごとに複数のアプリのインストールが必要になる
- アプリごとにID、パスワード、クレジットカード情報などの登録が必要になる
- スマホのストレージ容量を圧迫する
- スマホ画面上のアプリアイコンが増えて見にくくなる
もちろん、アプリはASO対策・プロモーション・説明文やスクショの整備など、さまざまな施策が相まってユーザーからインストールされるため、一概にコンテンツの充実度がユーザーのアプリインストールに直結するとは限らない。
しかし、1つのアプリに多様なミニアプリを実装することで、ユーザーは個人情報を管理する手間や、複数のアプリを立ち上げる・閉じるといった手間を省くことが可能。スーパーアプリは、単一のサービスのみ実装するアプリより高い利便性を持ち、ユーザーのアプリインストールに大きく影響すると考えられる。
また、昨今ではiPhone・Androidの両OSで数多くのアプリが日々リリースされているが、ユーザーがダウンロードするアプリは当然ながらごくわずか。
フラー株式会社が作成した「モバイルマーケット白書2020」によると、2020年における日本人の平均アプリ所有数は103.4個。そのうち、実際に利用しているアプリ数は38.5個で、約37%となっている。
カテゴリ内でのアプリ間競争に限らず、スーパーアプリの登場により、カテゴリ外でも競争は激化。高い利便性および充実したコンテンツで、ユーザー体験の向上につながるようなアプリを実装することも、インストールしてもらう上では非常に重要な指標と言えるだろう。
スーパーアプリのメリット
ここでは、スーパーアプリを利用するビジネス的なメリットを解説していく。
アプリをアンインストールされにくい
ユーザーがアプリをアンインストールする理由はさまざまだが、アプリに目的の機能がなく、定期的に利用することがなくなった際にも削除する傾向にある。しかし、1つのプラットフォームを起点として多様なサービスを展開できるスーパーアプリは、ユーザーの利用目的も多く、一度インストールすると削除されにくいのが大きな特徴。
利用頻度が下がったとしても、削除されずスマホ上に残り続けていれば再び利用される可能性はあるので、企業側にとっては機会損失の防止につながると言える。
ユーザーの獲得ハードルが下がる
ユーザーがスマホアプリの利用を開始する上では、アプリのインストール・会員登録といったハードルが存在する。各サービスが独立したアプリで提供されている場合、ユーザーはそれぞれで所定の初期操作を行う必要があり、複数のサービスを利用してもらうハードルは一気に上がると言える。
その点、スーパーアプリでは実装するサービスごとにインストール・会員登録などを行う必要がないため、ユーザーの負担を軽減可能。単一のサービスを実装した既存アプリに比べると、ユーザーの獲得ハードルは低いと考えられるだろう。
新たなサービスを展開しやすい
スーパーアプリでは、新たなサービスを展開しやすいのも大きなメリットである。新サービスをリリースする場合、スーパーアプリ上にミニアプリを実装するだけで済み、別途新規アプリを準備する必要はない。
また、既存ユーザーを新たなミニアプリへ誘導することも可能であり、集客コストを削減できるのも魅力と言えるだろう。
開発工数を抑えられる
通常、アプリを新規開発する場合は企画・設計・実装・テストと多くの工程を踏む必要がある。しかし、スーパーアプリであれば、一からアプリを新規開発する必要はなく、スーパーアプリのフレームワーク上にミニアプリを実装すれば良いため、開発工数を削減可能。
コストを抑えつつ、事業展開したい企業にもおすすめと考えられるだろう。
スーパーアプリの海外事例
海外の企業もスーパーアプリを開発・リリースしており、多くのシェアを獲得しているサービスも存在する。ここでは、スーパーアプリの海外事例を紹介していく。
WeChat(ウィーチャット)とは、メッセージ機能とSNS機能を統合した中国発のメッセンジャーアプリである。Tencentが発表したデータによると、WeChatのアクティブユーザー数は月間11.3億人で、中国で使っていない人はほとんどいないとも言われている。
中国版のLINEとも称されるWeChatだが、ミニプログラムと呼ばれる仕組みを実装しているのも大きな特徴。ミニプログラムは前述のミニアプリとほぼ同義で、ニュース配信・EC機能・ゲーム・サブスクリプションサービス・チケット予約など、多様なサービスをユーザーは利用できる。
また、「WeChatPay」と呼ばれるモバイル決済機能も搭載。「WeChatPay」は中国国内のほとんどの店舗で利用可能であり、その他オンライン決済・公共料金の支払い・割り勘・個人間送金・投資まで幅広い用途で活用できる。
WeChatは中国の基礎インフラを担うスーパーアプリと言えるだろう。
Alipay
Alipay(アリペイ)とは、中国消費者の生活に密着した決済アプリとして、高い人気を誇るサービスである。公式サイトの情報によると、2018年の中国におけるモバイル決済金額のうち、Alipayが占める決済額シェアは54%に到達。モバイル決済大国の中国において、なくてはならない存在となっている。
さらに、Alipayはスーパーアプリとして、携帯電話料金のチャージ・シェアリング自転車の利用・タクシー配車・地下鉄乗車・SNSなどの生活に欠かせないサービスも使用可能。日本でもAlipayを導入する店舗は増加しており、今後の動向に注目したいアプリと言える。
GoJek
GoJek(ゴジェック)とは、インドネシアのベンチャー企業が提供を開始したアプリである。当初はタクシーの配車サービスを搭載したアプリとしてリリースされたが、その後はスーパーアプリとして機能を拡張。
フードデリバリー・映画のチケット購入・請求書決済・ハウスキーパーの手配といったミニアプリを新たに搭載し、利用者を集めている。インドネシアに在住する上では欠かせないアプリだ。
スーパーアプリの国内事例
海外で広がりを見せているスーパーアプリだが、日本でも同様の動きが見られる。次に、国内におけるスーパーアプリの事例を見ていこう。
LINE
メッセンジャーアプリとして日本では名高いLINE。メッセージのやり取り・音声通話・ビデオ通話が無料であるだけでなく、国内外・キャリア問わず利用できる点も魅力となっている。
従来はメッセージ機能を中心としていたLINEだが、現在では下記のようにミニアプリも充実している。
- LINE Pay
- LINE 家計簿
- LINE 予約
- LINE ゲーム
- LINE MUSIC
- LINE ギフト
厳密にスーパーアプリとは明示されていないが、LINEアプリをプラットフォームとしてミニアプリを呼び出すという、スーパーアプリの構造をすでに実現したサービス。LINEは今や、日本人の生活基盤を成していると言えるだろう。
PayPay
スマホ決済サービスの中でも高いシェア率を誇るPayPayは、スーパーアプリへの進化を促進すべく、2020年10月よりミニアプリ機能の拡充を目的とする「PayPay Accelerator Program」を開始した。
本プログラムでは参加企業に対し、PayPayによる技術的支援とビジネス面におけるメンタリングサポートを実施。加えて、開発者向けツール「PayPay for Developers」上でミニアプリに関するオープンAPIの提供も始めた。
スタートアップ企業の先進的な技術、および斬新なアイディアとのシナジーにより、ユーザーの生活を豊かにするスーパーアプリ化を促進するようなミニアプリの提供を目指していく。
2022年12月時点で利用可能なミニアプリとしては、下記の通り。
- PayPayフリマ
- Yahoo!ショッピング(日用品)
- PayPay資産運用
- PayPay銀行
- PayPayほけん
- ポイント運用(PPSCインベストメントサービス株式会社)
- お金を借りる(PayPay銀行)
- Uber Eats
- ふるさと納税(さとふる)
- スマホ充電(ChargeSPOT)
- テイクアウト(松弁ネット・吉野家)
- 出張カーメンテ(Seibii)
- お買い得商品
- TOHOシネマズ
- シェアサイクル(HELLO CYCLING)
PayPayの主軸と言えるスマホ決済サービスに加え、パートナー企業のサービスとも連携しながら、ミニアプリの拡充を行っている。
資生堂
資生堂は従来、店舗やECサイトなど販売チャネル・ブランドごとに会員サービスを提供していたが、それらを1つのOne IDに集約したメンバーシップサービス「Beauty Key」の提供を2022年9月より開始した。
「Beauty Key」では、デジタル会員カードやポイントプログラムを導入しているだけでなく、自宅で肌分析が可能に。肌の分析結果を毎日記録しつつも、一人ひとりに合ったアドバイスを受け取ることができる。
また、居住地域や毎日の天気・季節に合ったワンポイントアドバイスも配信。ユーザーは時間・場所を選ばず、シームレスなカウンセリングを受けることが可能となった。
スーパーアプリのまとめ
LINEやPayPayなど、日本で人気の高いスマホアプリが先駆けて実装している通り、スーパーアプリはますます注目を集めている。消費者の利便性を高めてユーザー体験を向上させられるのはもちろん、機会損失の低減、開発工数を抑えられるといったメリットも享受できる。
ミニアプリの導入は着実に進められているが、日本のスーパーアプリ市場はまだまだ発展途上。新事業の展開や既存事業の拡大を図りたい企業は、スーパーアプリにも一度目を向けてみてはいかがだろうか。