SCM(サプライチェーンマネジメント)とは?メリットや事例などを交えて解説

2022.12.15

2022.01.07

統合的な物流システムを構築して、原材料の調達から商品が消費者のもとに届く一連の生産、流通プロセスを管理することをサプライチェーンマネジメントと呼ぶ。

企業や組織の垣根を超えて、生産、流通プロセスの全体最適を継続的に行うことは経営において重要であるが、近年はESGやSDGsなどの浸透もあり、環境問題や社会問題への配慮、貢献といった視点も求められつつある

本稿ではサプライチェーンマネジメントの概要やメリットをまとめるとともに、これからの時代に求められるサプライチェーンマネジメント、そして、サプライチェーンマネジメントへの取り組みを行っている4社の事例を紹介する。

サプライチェーンマネジメントとは

サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management、SCM)とは、複数の企業間において統合的なシステムを構築することにより、プロセス全体の効率化と最適化を実現するための経営管理手法のことをいう。

サプライチェーンマネジメントは、一般的に「SCM」と略され、商品の開発から販売まで一連のプロセスがコンピューターなどで管理される。

そのため、在庫過剰や設備の稼働率向上など、経営の効率化やコストの削減効果などが期待できる仕組みだ。

また、サプライチェーンマネジメントによる恩恵は、企業だけにとどまらない。顧客側にとっても、迅速かつ適切なタイミングで商品の受け取りが期待できるというメリットもある。

サプライチェーンマネジメント3つのメリット

下記では、サプライチェーンマネジメントを導入する主なメリットを3つ挙げて解説していく。

在庫管理の最適化

サプライチェーンマネジメントを導入する1つ目のメリットがとして、在庫管理の最適化が挙げられる。

製造段階から販売まで、各工程の流れが可視化されることにより、最適な在庫数を把握、管理できるようになるからだ。

特に経営活動を進める中で、在庫管理は重要な要素である。

余分な在庫を抱えていれば、当然管理するためのコストが発生し、利益を圧迫する大きな要因になりかねない。

一方で、十分な在庫を抱えていなければ需要期に十分な販売ができず、大きな機会損失となる恐れがある。

企業がより高い収益を獲得するとともに、コストを最小限に抑え、利益率を最大化させるためにも、サプライチェーンマネジメントによる在庫管理の最適化は大きな意味を持つ。

人的リソースの最適化

サプライチェーンマネジメントを導入する2つ目のメリットとして、人的リソースの最適化がある。

企業経営において「ヒト」以外にも「モノ」「カネ」「情報」などが、重要な経営資源としてあるが、中でも最も重要な要素が「ヒト」である。

特に近年は、少子高齢化などの影響に伴い、人手不足に陥る企業は少なくない。

そこで、サプライチェーンマネジメントを導入することにより、各工程間の情報が集約されるため、どの工程で重点的に人的リソースを割けばいいのかが明確になる

それに加えて、優先順位の低い工程や最小限の人員で対応できる工程が把握できれば、人的リソースの最適化が期待できるだろう。

物流に伴うコストの削減

サプライチェーンマネジメントを導入する3つ目のメリットは、物流に伴うコストの削減だ。

サプライチェーンマネジメントを導入することにより、リアルタイムで商品の販売情報を把握できるためである。

例えば、リアルタイムで商品の販売情報を把握できると、配送業者は、配送先の在庫状況に適した数量、タイミングでの配送が可能となる。

その結果、コストを最小限に抑えたむだのない配送が実現できる。

このように、物流時の一連の流れが最適化され合理的に行われることにより、物流に伴うコストの削減が大きく期待できる。

ESG、SDGs時代におけるサプライチェーンマネジメント

近年、ESGやSDGsなどの浸透もあり、利益の追求だけでなく、環境問題や社会問題に対する取り組みの重要性が高っている。

ESG、SDGs時代において、今後どのようなサプライチェーンマネジメントが求められるのだろうか。

ここからは、ESGとSDGsの概要を解説すると共に、これからの時代に求められるサプライチェーンマネジメントについて解説していく。

ESGとは

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取った造語である。

企業が長期的に成長するために、ESGの環境、社会、ガバナンスの3つの観点を取り入れることが重要だと、世界中でその考えが広がりを見せている。

事実、世界持続的投資連合(GSIA)によると、2020年の世界ESG投資額は、18年から15%増加となる35.3兆ドル(約3900兆円)を記録した。

このことからも、ESGの重要性が高まっていることを認識できる。

SDGsとは

SDGs(エスディージーズと読む)は、Sustainable Development Goalsの略称で、持続的な開発目標を意味し、2030年までの目標として、17のゴールと各ゴールを具体化した169のターゲットが設定されている。

SDGsは発展途上国のみならず、先進国においても積極的に取り組むべき問題だと捉えられており、わが国でもその取り組みが広がりを見せている。

日本政府もSDGs採択後に「SDGs推進本部」を設置するなど、SDGsのゴール達成に向け、率先して取り組む姿勢を示している。

 ESG、SDGs時代に求められるサプライチェーンマネジメント

これまでの企業経営は、利益追求を第一に行われてきた。

しかし、利益追求を第一とした企業経営により、環境破壊や気候変動をはじめ、マイナスの影響を与えているという事実もあり、その問題から目を背けることはできない。

このような背景もあり、前述のとおり近年は財務面だけでなく、環境問題や社会問題などに対しての配慮や対策が重要視される傾向が高まっている。

それでは一体、ESG、SDGs時代において、具体的にどのようなサプライチェーンマネジメントが求められるのか。

2つの具体例を踏まえながら、解説していく。

クリーンなエネルギーの活用

クリーンなエネルギーを活用することは、ESGの環境に対する観点、SDGsにおいて目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」および目標13「気候変動に具体的な対策を」に対して大きな貢献が期待できる。

具体的には、二酸化炭素や有害な物質を排出しない、風力発電や太陽光発電による電力の増加などが求められる。

その他、物流においてむだのない最適な配送ルートの実現や、ハイブリッド車の導入なども重要となるだろう。

生産および物流の高度化

生産および物流の高度化を実現することは、ESGの社会に対する観点、SDGsにおいて目標8「働きがいも経済成長も」および目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」への貢献が期待できる。

生産および物流の高度化を実現するための一例として、ネット販売の需要増加に伴うドライバー不足への対応が挙げられる。

人材活用の見直しや、生産や輸送を前倒しで行うなど、各企業において生産および物流を高度化するための対応を見せている。

今後は、最新のAI(人工知能)技術を活用した取り組みも増えていくだろう。

サプライチェーンマネジメントの取り組み事例

花王株式会社

花王株式会社(花王)は、サプライチェーン全体のトレーサビリティ確保や、資源保護、環境保存や安全、人権などの社会的課題の解決に貢献するため「調達に関わるサプライチェーンESG推進ガイドライン」をウェブサイトにて公開した。

具体的な取り組み内容として、取引先に社会的責任と環境への配慮を求めた「サプライチェーンESG推進に向けたお取引先との取り組み」と、花王が調達原料を行う上でより大きな課題を特定する「ハイリスクサプライチェーンの特定と本質的解決に向けた取り組み」の2つの取り組みを行うという。

この2つの具体的な取り組み内容は下記のとおり。

サプライチェーンESG推進に向けたお取引先との取り組み

取引先に、花王の「調達基本方針」「調達先ガイドライン」の理解を求めた上で、持続可能な原材料調達に向けた活動を実践する。

具体的な活動内容については、取引先とのトレーサビリティの確保や、取引先に対して第三者監査の実施、デジタル技術を生かした情報共有システムの構築など、全部で7つの項目が掲げられている。

ハイリスクサプライチェーンの特定と本質的解決に向けた取り組み

花王では、ビジネス、エリア、ESGの3つの視点をもとに、ハイリスクサプライチェーンの特定を行っている。

ハイリスクサプライチェーンに特定されたものに関しては、毎年の見直しに加え、現場との対話を行うことによりリスクを把握。

把握したリスクについては、取引先およびNGO(非政府組織)と共に課題の本質解決に向けた活動に取り組んでいき、進ちょくの確認、公表を行っていくという。

リコーグループ

リコーグループ(リコー)は、日本のみならず、米州や欧州をはじめ世界各国に21の主要生産拠点を持つ。

そんなリコーのサプライチェーンマネジメントに対する取り組みについて、ここでは2つの事例を紹介する。

グローバル在庫可視化ツールGlobal Inventory Viewer(GIV)の開発

リコーは、世界各国にある生産拠点の在庫状況を可視化するために「GIV(グローバル在庫可視化ツール)」というシステムツールを開発。

GIVの開発により、各拠点の在庫状況を滞ることなくモニタリングでき、適切な在庫管理を実現するための対策が可能となった。

その結果、在庫の低減や品不足の防止、在庫の偏りを抑えることに成功した。

デジタル技術の活用でQCDのレベルアップおよび環境負荷低減の推進

QCDのレベルアップを図るために、販売、製造データの連携活用や、最先端のロボットや自動設備の導入を行っている。

QCDとはQuality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の頭文字を取ったもので、製造業において欠かすことができない重要な要素である。

また、QCDのレベルアップを図ると共に、環境負荷を低減するために再生エネルギーの活用や製造設備の省エネ化、さらには、エネルギー消費を抑えた生産方式を導入などといった取り組みも併せて行っている。

株式会社ヤオコー 

株式会社ヤオコー(ヤオコー)は、サプライチェーンマネジメント最適化への取り組みの一つとして、卸売業者からメーカーへの返品を削減する取り組みを行った。

これまでヤオコーでは、物流センターの中で出庫期限が切れた商品に関して、卸売業者からメーカーへの返品が必要であった。

フードロスへの関心が高まる中、この問題を重く見たヤオコーは、各部署や他社に協力を依頼し、鮮度管理基準について全てのカテゴリーで「3分の1ルール」から「2分の1ルール」への変更を実施。

その結果、物流センターでは、わずかながら在庫日数の増加はあったものの、鮮度撤去の作業数と、イレギュラー入庫依頼およびその対応が減少するという結果につながった。

また、この取り組みを行ったことにより、ヤオコー内および物流センターでフードロスへの意識が高まり、店舗で販売期限が切れた商品をフードバンクなどへ提供するなど、新たな取り組み実施にもつながった。

キユーピー株式会社

キユーピー株式会社(キユーピー)は、トラックドライバーの人手不足をはじめ、物流環境が厳しい状況にある中、物流の効率化に着手。

取り組みの一つとして、配送までのリードタイムを十分に確保するために「翌々日配送」を行った。

これにより、欠車や配送遅れなどのトラブルを軽減するとともに、ASN(事前出荷明細情報)の作成が可能となった。

また、ASNデータを作成する際の単位を「パレット」から「車」もしくは「届け先」に変更することで、作業時間の短縮にも成功。

その他にも、検品する荷物と検品しない荷物の納品を分けたり、納品物の格納先を統一したりするなど、数々の取り組みを行った。

こうした数々の取り組みにより、検品作業時間を30分から6分へ大幅な削減、納品時のエラー数がゼロになるなど、大きな成果が得られた。

サプライチェーンマネジメント:まとめ

先進企業のサプライチェーンマネジメントの取り組みでは、環境への配慮が見られ、その重要性は今後より一層増していくと考えられる。

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