原材料、コスト高騰の逆風下の商品調達の方向性

2023.05.08

食品の価格高騰が止まらない。直近では小麦の政府売渡価格が改定された。日本では輸入小麦はカナダ、アメリカ、オーストラリアの3国から5銘柄輸入されているが、この5銘柄平均で対前年比5.8%の値上げとなり、1t当たり7万6750円となった。

もともと小麦の価格はマークアップという特殊な方法を採っており、国が一元管理をしている。本来であれば過去1年間の買付価格により算定した価格は1t当たり8万2060円、対前期比+13.1%となるが、これを抑制した形となっている。

早速日清製粉は業務用小麦粉の特約店向け仕切り価格を6月20日より改定すると発表した。これによると強力系小麦粉+235円/25kg当たり、中力系・薄力系小麦粉+135円/25kg当たり、国産も値上げし、国内産小麦100%小麦粉 + 30円/25kg当たりとなっている。

政府売渡価格の値上げが食品の小売価格に与える影響は、食パンは0.5%(1斤当たり1円程度)増、中華そば(外食)は0.2%(1杯当たり1円程度)増、小麦粉は1.4%(1kg当たり5円程度)増と算出されているが、実際には物流費や電気代、人件費増で末端価格はもっと上昇することが考えられ、各業種で値上げが広がることも考えられる。小麦はパン、うどん、パスタ、家庭用小麦粉などさまざまな食品の主原料であるため今後の価格動向に注意が必要である。

「ファクトリーゲートプライス」とは何か

こういった値上げについて調達をするバイヤーなどはまずその背景や理由、仕組みを理解しておかなければならない。もはや単純に商談で「高い」「安い」ということを言っている時代ではない。

調達を「世界各地から店頭に並ぶまで」というように大きく考えるとコストについて修正していかなければならないポイントは幾つもある。小麦の場合、売渡価格が決まっているので国内調達が主になるが、まず国内の物流費をどう考えるか? ということがポイントとなる。

商品は何でも自社部流センターまで運んでもらうということを前提に考えていては何も変わらない。ロットがまとまる商品であれば自社で工場まで取りに行くようなことも考える必要がある。これをファクトリーゲートプライスというが10t車1台で工場まで取りに行くことを前提に考えるとコストは削減できる。問題はロットがそこまで大きくできるかどうかである。

また店舗での発注作業というのも調達コストに大きくかかわる。ヤオコーが本年2月にAI需要予測に基づく自動発注システムを全182店で稼働したと発表した。導入効果として、発注業務に要していた時間を約3時間から約25分と85%短縮し、在庫を15%削減するという。

もともと他社でも在庫型のグロサリーや冷凍食品では自動発注が進んでいたが、ヤオコーは日持ちの短い日配品も自動化した。将来的にはこのシステムをメーカーや物流センターと結んで効率的な生産や輸送につなげ、さらなる生産性アップが期待できる。こういった取り組みはイオンリテールでも行われており、今後他社にも拡大していくであろう。むしろ価格高騰の逆風下では取り組まざるを得ない分野ではないだろうか。

卵不足は長期戦の様相

調達という意味でいうと鶏卵についても少し触れておく必要があるだろう。とにかく現状では鶏卵の流通量が足りていない状態である。その結果全農基準値Lサイズで350円/kgと過去最高レベルの価格となっている。この要因の第一は高病原性鳥インフルエンザのまん延である。3月時点で総飼育数の1割強が殺処分されており、当然流通量も1割以上減少している。

なぜこの半年鳥インフルエンザがまん延したかについては諸説あるが、一説では従来は渡り鳥で鳥インフルエンザに罹った鳥は死んでしまい日本へ渡ってこられなかったが、菌の変種に伴い死なずに渡ってくるようになり、国内で感染が広がっているという。従って全世界的に見ても北半球ではあちらこちらで、南半球でもチリやペルーなどでも発生しており、鳥インフルエンザが世界的な問題になってきている。

アメリカでは卵1ダース700円程度の価格で販売されているようだ。

第二に配合飼料価格が8万円台/tと過去最高値水準が続いており生産者にとってはいまの価格水準でもようやく少し利益が出るぐらいの高い水準となっている。もともと卵の価格にはエッグサイクルというものが存在していたが、もういまの飼料価格水準ではエッグサイクルは崩壊したかも同然である。

第三に量的にわずか数%にも満たないが、最近では日本の鶏卵の品質の高さから輸出が増えている。台湾や香港、シンガポールなどでは高い価格でも販売できるので輸出する企業が増えてきている。

大きくはこの3点により鶏卵価格の高騰と品不足が続いている。この量的不足がいつまで続くかというと、多くの意見では1年から1年半かかり、価格は元には戻らないという見方が大勢である。これまで物価の優等生としてもてはやされてきたが、鳥インフルエンザの世界的な流行を見ると今後は潤沢に調達すること自体が難しくなるかもしれない。

今後の鳥インフルエンザに対する考え方であるが、現在は1つの農場で発生した場合、全羽殺処分されており、東北で発生した時は139万羽が殺処分された。これでは一気に供給不足に陥るので養鶏団体からは「分割飼養」という考え方をする要望が出ている。鳥インフルエンザが発生した場合でも鶏舎単位で処分することを可能とする考え方である。

このためには感染拡大防止の観点から鶏舎ごとの人員や資機材の配置が、完全に独立している必要がある。この分割飼養を行うためにはいま以上に人件費を中心に経費がかかることは否定できない。小売業としても現状の鶏卵の供給量を異常なこととしてあるいは一過性の事として捉えるのではなく、養鶏農家の存続のために理解と協力をしていく事が鶏卵の安定調達につながっていくといえる。

酒税の影響で「値下げ」となるビール

本年10月に酒税が改定される。ビールの酒税は現在の70円(350㎖換算)から本年10月には63.35円となり、現在と比べると6.65円の引き下げになる。

発泡酒の酒税はこれまでと同じ46.99円で変わらず。一方で新ジャンルの酒税37.8円が発泡酒の酒税同様46.99円となり、実質酒税が上がる。これに伴い「新ジャンル」という考え方はなくなる。

さらに26年には酒税格差がなくなり、一律の54.25円となる。これはもともとの酒税が批判を浴びるべきものであってようやくスタンダードに戻るような変化であるが、いずれにしてもビールは値下がりする。

4月25日付けでアサヒスーパードライ(350㎖缶)は10月1日出荷分から価格を引き下げると発表した。具体的な価格は発表されていないが、酒税相当額の値下げになる見込みである。一方で同じスーパードライでも瓶入りは値上げとの情報もあり、注意が必要である。

食品の値上げが続く中、酒税の変更という特殊な要因ではあるが値下げは珍しい品種になる。ただ値下げは値下げである。この機会を大々的に活用しなければならない。これからビール他社でも値下げの話が出てくるかもしれないが、ここでしっかり商品を押さえることが必要になる。

「価格は下がりました」「品切れしました」では調達の意味をなさないのである。これからしっかり販売計画を練り、メーカーと調整し物流確保の計画を練る必要がある。

また、店頭での売場スペースの確保やPOPの準備など準備しなければならないポイントは幾つもあるのでぬけもれなく実施しなければならない。ビールなどは先に述べたファクトリーゲートプライスの考え方に乗りやすい商品である。物流面でも一考するとさらなる調達コストの削減につながるかもしれない。

以上はあくまで一例であるが、調達に際しては商品ごと、前提条件を踏まえさまざまなを要素を考えることが重要になることを、肝に銘じてほしい。

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