トライアルと西友の経営統合が完了、西友の新社長に楢木野仁司が就任、年内には首都圏での小型店出店も開始

2025.07.02

総合小売業のトライアルカンパニー(トライアル)などを傘下に束ねるトライアルホールディングスは7月1日、西友の全株式取得を完了したと発表した。同時に新経営体制として西友の新社長に楢木野仁司・トライアルカンパニー取締役会長が就任することも発表。大久保恒夫・西友社長は同社の取締役副会長に就任。また、永田洋幸・トライアルホールディングス社長は西友会長に就任し、ホールディングスの社長と兼務する。

経営統合完了を発表する永田洋幸・トライアルホールディングス社長(右)と大久保恒夫・西友社長。大久保氏は副会長に就任する(株式会社トライアルホールディングス記者会見)

株式取得を受けて7月2日に開催された記者会見では西友との経営統合の完了を受け、今後の戦略方針として①既存店の強化、②新規出店、③収益性の向上、④リテールメディア展開の4つの軸を中心に進めていくことも併せて発表された。

また、統合に際して定めたビジョンとして「買い物を面白く、暮らしを豊かに。」、そのためのスローガンとして「STAND TOGETHER(共に立ち向かって行こう)」も発表。

西友の新社長に就任する楢木野仁司・トライアルカンパニー取締役会長(右)。統合のスローガンである「STAND TOGETHER(共に立ち向かって行こう)」の前で(株式会社トライアルホールディングス記者会見)

「西友のSとトライアルのTという形で頭文字を取ってSTAND TOGETHER。私たちが考えている流通情報革命をトライアルと西友で一緒になって進めていこうという考えで定めた」(永田洋幸・トライアルホールディングス社長)

西友の新社長に就任にする楢木野氏は現在59歳。学生時代にアルバイトのプログラマーとして入社し、その後、システム部門の責任者、店長、支店長などを務め、12年にトライアルカンパニーの2代目社長に就任している。社長を6年務め18年に同社の会長に就任し、直近はトライアルの店舗を束ねるトライアルストアーズの社長を兼任するなど店舗運営を担うオペレーションラインの経験が長い。同氏は「もともと地域性などいろいろな補完要素が非常に多く、統合の意味は高いと見ている」と改めて強調する。

今後の戦略方針の具体的な取り組みとしては、まず、①既存店の強化ではトライアルおよび西友での商品の相互展開を進める。西友のプライベートブランドである「みなさまのお墨付き」を今年の秋口から全国のトライアル店舗でも展開する予定。「全国でネームバリューがあり、価値の高い商品。製造メーカーとの増産計画の打ち合わせ等も今後具体機に始めていく」(楢木野氏)

②の新規出店では、西友の地盤である関東圏でのTRIAL GO(トライアルゴー)の立ち上げが代表的なものとなる。トライアルゴーは、スーパーセンタートライアルやメガセンタートライアルなどの大型店とは異なる都市部の小型店として現在では福岡エリアを中心に実験的に展開しているが、西友の店舗や製造拠点を活用することで今年の年内をめどに関東での本格展開を開始する意向。西友の既存店を母店とし、近隣にサテライト店として出店することでエリアシェアを高め、関東でのドミナントを形成していく。

「九州での実験展開がかなり手応えのある状況になってきたので、今回、西友の店舗の中に製造拠点、製造母店を造り、出店を進めていきたい。いままで苦手でもあった都心部の店が、西友といっしょになることで、新たな道筋を立てることができる」(楢木野氏)

都市部における小型店としては歴史的にコンビニが多数出店している他、スーパーマーケットでもマルエツ プチやまいばすけっとなどが出店を強化するなど、競合他社も熱い視線を向ける。楢木野氏はトライアルゴーの差別化要素として、①同社が強みとする子会社の明治屋が開発する職人監修の惣菜を拠点や母店から出来たてに近い状態で提供する体制、②決済のセルフ化や棚のリモートでのモニタリング技術の強化などによる30人時で運用できるローコストオペレーション、③店内のサイネージを用いたリテールメディアという3点を挙げる。

「以前にチャレンジしたスマートストアのトライアルクイックは利益を創出できずに閉店したが、背景には『おいしいもの』を提供するという要素が欠けていたことがある」(楢木野氏)。母店などからの供給は非常に重要な要素であるということだ。

トライアルゴーについては、将来的には関東圏以外への出店も視野に入れているという。

③の収益性の向上では、生産性の高いトライアルゴーの展開や、お互いのプロセスセンター(PC)、セントラルキッチン(CK)などの拠点を統合するなど最適化することで稼働率を上げることによる生産性向上などが挙げられる。

④のリテールメディアについては本格展開のフェーズを想定する。これまでもメーカーとの共同マーケティングを通じて独自のCM素材制作、店舗連動などを行うことでブランドの売上拡大とシェアアップを実現してきたという。これまでの取り組みを踏まえ、西友が保有する関東圏の店舗を含め中部エリアの87店、関東エリアの195店へ徐々に拡大を目指す見通しだ。

「私たちが考えるリテールメディアは、ワントゥワンでお買物中に商品の良さを伝えることにある」と永田社長は強調する。マス広告ではなく、店内のサイネージを活用することで、まさに「買物中」のお客に伝えることに大きな意味があるとする。

やはり西友の地盤である関東圏での今後の展開に注目が集まるが、今回の経営統合完了に際し、副会長に就任する西友の大久保社長は次のようにコメントした。「2021年3月から西友の社長として経営改革を進めてきた。『価値を創造することによって営業利益を上げる。その上がった営業利益を前向きな投資に回して、会社を大きく成長させよう』と改革を進めてきた。順調に成果が上がって、次のステップに向かえる状況になってきた。今回、トライアルが株主になったが、これは西友と最適な組み合わせだなと思って、大変うれしく思う。私は、いままでの西友の良さをトライアルに引き継いでいくことによって大きな成果を挙げられると思っているので、それに精いっぱい協力したい」

西友の店舗を母店として惣菜を製造する上では、単純に明治屋の商品の製造を加えるだけだと、むしろ製造商品が増えてしまうことになるが、その点については楢木野氏は次のように説明する。

「すでに食改革のチームが味見をしながら棚卸しをしている最中。当然、被るものもあるので、価値の高いものに寄せていくこともあるし、母店を製造拠点として供給する商品群はカテゴリーごとに整理をしていく。いままでにない新しい商品も投入する予定。われわれ(トライアル、明治屋が)開発した商品が西友に並ぶことも想定している」

西友では今年すでに3店を新規出店し、今後下期にも出店予定がある。その意味では今後始まるトライアルゴーの出店はもちろん、西友の商品構成がどのように変化していくかも大きな注目点となる。

西友は都市部に惣菜を製造する機能を持つ店舗を多く抱える。これを生かす形で、トライアルゴーの出店を追求していく。今後は展開商品の最適化模索の中で、西友の展開商品の変化にも注目だ(6月5日に新規オープンした千葉市中央区の西友千葉中央店の惣菜売場)

また、今回の発表ではトライアルの特徴でもある端末付きの「Skip Cart(スキップカート)」やカメラの西友への導入の見通し、現在、西友が導入する楽天ポイントの今後については現時点では未定ということで具体的な発表はなかった。

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