「ドムドムハンバーガー復活」の鍵となった藤﨑忍社長流、「思いやり」経営戦略
2023.06.05
「はみでる!アジフライバーガー」「餃子バーガー」「手作り厚焼きたまごバーガー」…。洋のイメージが強いハンバーガーに日本風の要素を加えた個性的なラインアップが並ぶ。これらの個性的な商品を提供しているのは、ドムドムフードサービスが展開する「ドムドムハンバーガー」である。これら以外にもコラボレーションを含め、新しい発想の下、他企業では見ないような、フレーバーも多様な商品を次々に世に放ってきた。
個性的なハンバーガーチェーンとして存在感を発揮している同社だが、ここに至るまでは紆余曲折があった。長期的な赤字状態から抜け出したのはわずか2年ほど前のこと。そして、その再浮上のキーパーソンが現社長の藤﨑 忍氏であり、背景には従業員体験(EX)の充実をベースに従業員の力を引き出し、顧客体験(CX)の充実につなげていく「思いやり」経営戦略があった。
ドムドムハンバーガーの歴史は古く、もともとダイエーが1970年2月に日本で初めてのハンバーガーチェーンの構築を目指し、東京都町田市に1号店をオープンしたことにさかのぼる。その後、ダイエーグループによる運営が続き、店舗数も増加していったが、近年はダイエーの業績不振や店舗閉鎖などの影響もあって、業績不振や店舗数の縮小を余儀なくされていた。
大きな転機を迎えたのは2017年。7月に事業再生、ホテル・レジャー事業などを手がけるレンブラントホールディングスが子会社などを通じて事業譲受、新設したドムドムフードサービスを主体として事業を引き継ぐ形となった。
店舗数は90年代には約400店に達したが、17年の事業授受発表時には43店にまで減少、ドムドムフードサービスはそのうちドムドムハンバーガー以外のフォーマットを含む36店舗の運営などを譲受した。その後、店舗の整理でさらに店舗数は減少したものの近年は出店を再開。現在の店舗数はフランチャイズ店7店を含む27店になっている。27店の中には東京・銀座でより尖った高価格帯のハンバーガーを提供するドムドムハンバーガーPLUS銀座店といった新フォーマットもある。
また、オンラインでキャラクターの「どむぞうくん」のぬいぐるみやTシャツなどグッズを販売し、こちらも伸びているという。
組織の風通しの悪さを解消し、店に独自性を持たせる
藤﨑社長は、専業主婦からアパレルの従業員に転じ、その後、居酒屋の経営をへて2017年にドムドムフードサービスに入社した異色の経歴の持ち主である。18年8月に社長に就任し、21年3月期には赤字状態が続いていた同社を黒字化。その後も23年3月期まで3期連続で黒字を維持するなど、大きな成果を残している。
藤﨑社長は黒字化までの過程を「従業員の心の満足度を向上が黒字化へのファーストステップだった」と振り返る。
実際、どのように従業員の心の満足度を高めていったのか。藤﨑社長自身は、17年以降のドムドムハンバーガーの再生に際して、商品開発に携わりはじめたことをきっかけに同年11月に入社。社長に就任した18年8月のタイミングは、入社からわずか9カ月後のことだった。
藤﨑社長は当時を振り返り、「入社してからは自分の仕事をしっかりやろうと思ってやっていたが、やっていく中で疑問点が出てきた」と語る。「赤字」という現実を受け、「このままでは再生はできない」という思いの下、自ら役員になることを申し出た。
当時、特に問題だと感じたのは2点。1点目は「組織の風通しの悪さ」。同社の従業員は約300人だが、「親会社、銀行、元の会社から移籍した方などいろいろな方々の寄り集まりということもあって、それぞれ皆さん会社を良くしようと思っている半面、いろいろな関係性もあってものがちゃんと言えていないと思った」(藤﨑社長)。
コミュニケーションも「数字の羅列」にとどまる営業数値の報告だけではなく、もっと意見を言い合ったり、話し合ったりしないと建設的な議論ができないと感じたという。「会議で担当の取締役が『これをやってください』というと、担当者が『分かりました』という。また、スーパーバイザーは数字を報告する。これは全く建設的ではない。『分かりました』といっても具体的にどうするかの話し合いがない。数字についてもペーパーで配られているので、あえてそこで発表する必要はないと思った」(藤﨑社長)
問題に感じた2点目は、「どこに向かっているのか、ドムドムハンバーガーはどうあるべきか、独自性を定めることの必要性」だという。
早速、藤﨑社長はそれら2つの問題の解決に乗り出した。1点目の組織の風通しの悪さを解消するために、会議では自ら率先して数値の報告をやめ、具体的な内容を話すように変えた。さらに「店舗は最前線」(藤﨑社長)ということで、店舗の話をしっかり聞くようにした。さらに話を聞く際も、お願いする際も「やさしく、丁寧に」を心掛けるように各担当にも徹底させた。
2点目の独自性については、まずは「店舗の中で待っているだけでは分からない」と考え、店舗の外に出てコラボレーションやイベントなどを模索し始めた。その際の念頭にあったのは、「ファストフードの固定観念の打破」。
従業員のマインドを変える
この2点の問題の解決に動き出したことは確実に成果を生んだ。冒頭に挙げた個性ある商品の開発などはその最たる例である。
「例えば、スタッフが『丸ごと!!カニバーガー』を提案したときも、取締役会では見た目も、オペレーションも、金額(単品売価で1000円以上)も、全て駄目だと言われた。だけれども私は『やった方が良い』ということで進めた。そこでみんなのマインドも変わった。なおかつ、生のカニに衣を付けて揚げるというファストフードではあり得ないような難しいオペレーションであるため、やってくださる(店舗の)スタッフに対しても『これをやるように』というだけでは駄目で、彼らにもマインドを変えてもらうように働きかけた」(藤﨑社長)
商品を提案する担当者にとっても意欲を向上させるものであるし、店舗の担当者にとっても単に命令されるのとは違う印象を与えるものになるだろう。
藤﨑社長はこれらを踏まえ、「スタッフとお客さまの幸せの気持ちを察して、どうすれば幸せになれるか、満足度が高くなるかを経営に第一に考えるのが『思いやり経営』」と説明する。
それでは、「思いやり経営」によって藤﨑社長が今後目指す姿はどのようなものか。それについては、「『お客さまにとっての』オンリーワンのブランドになりたい」とする。具体的には、お客から「私はこの店舗が大好き」「このハンバーガーが大好き」「このスタッフさんが大好き」などと多数思ってもらえるような姿である。「以前は、お客さまにとってのオンリーワンのバーガーショップと言っていたが、いまは物販もすごく伸びてきているので、『ブランド』と表現している」(藤﨑社長)とのこと。
店の価値は、ハードウェア、商品やサービス、従業員など店を構成する多数の要素の「総体」で決まる。そして、それこそが店の「ブランド」になるといえる。ドムドムバーガーの場合、その中心にEXに据えられていることは重要な点である。
小売・流通専門メディア『リテールガイド』はITmedia エンタープライズと共同で「リテールDX」をテーマとしたイベントを開催します。今回、基調講演に藤﨑氏が登壇します。CXの充実を唱える企業は多いですが、その背景にはEXの充実が欠かせません。ドムドムバーガーを見事に再生させた藤﨑社長が語る実体験に基づく経営論となります。ぜひ、ご注目ください。
▼イベントの概要はこちらから
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