ザ・トップマネジメント カスミ 塚田英明社長
2024.04.15
2024.04.01
3月から約1500品目値下げで客数、客単価、売上げが回復基調、今期はブランデ3号店の出店も計画
――旗艦店フォーマットのBLΛNDE(ブランデ)では有料会員プログラムの「ブランデプライム」の導入を開始したが、いまはブランデではない店でも会員を募っている。その意図は。
塚田 カスミの場合、セルフレジの利用率は全社で69%ある。うちスキャン&ゴー(のスマホPOS)で買物されている方は全社で約6.5%。一方、(有料会員プログラムを導入している)ブランデでは最初からセルフレジしかないため100%セルフレジで、スキャン&ゴーで買物されている方が約38%いらっしゃる。
新店でこの会員を募ったところはやはりスキャン&ゴーで買われる方が大体2桁%を超え、10~15%ぐらいまで行く。だから、その効果は大きい。
この間、いろいろやって学んだのは、ロイヤルユーザーを育てるのはスーパーマーケット(SM)ではなかなか難しい、時間がかかるということ。お客さまの流動性はものすごく高い。
だから、流動性の高い、いわばライトユーザーのお客さまを常に取り込んでいく努力をしなければいけない。むしろライトユーザーの方が、ちょっとしたきっかけで、「あそこにこれがあった」とか、「この値段で買えた」といったことでリピートしてくれる確率が高い。
ロイヤルユーザーになってくれている人は、確かにバスケット単価は高く、それは非常にありがたいのだが、そのお客さまだけで成り立つということはない。だから、実際に新しいお客さまを常に取り込む努力をしなければならないということ。
もちろん、商品も変えなければだめだし、レイアウトも含めた見た目で、店の価値を伝え続けていかないといけない。
――ライトユーザーの取り込みに向けた具体的な施策として、直近ではどのような取り組みをしているか。
塚田 最初にやっていることとしては、まず3月に少し価格をいじった(下げた)。一番お客さまが動きやすいのは「機能的」な価値。まずは、「安い」「お得」「便利」という機能的価値で見ている。「一貫性のあるロープライス」をどうやって作り出すのかが、やはり日常的には大事だなと思っている。
単純に「安い」というだけではなく、もう1回原点に戻って、実際に買われた値段を重視する。例えば定番売価が200円の商品であっても、平均売価が150円ということもある。そうした事実に基づいて売価をちゃんと付ける。それが「いつでも買いやすい価格」ではないのかということだ。
だから1500品目ぐらいを3月に値下げした。その結果、1人当たりのお客さまが買っていただく買上率が前年を超えてきた。それの押上効果が大きく、結果的に売上げが上がっている。
客数は2月と3月で比べると大体5%ポイント弱増えた。1品単価は下がったが、客単価は去年と比べると103.5%ぐらいになっている。値上げもあるが、販売点数がほぼ100%になってきているので、全体の売上げ自体は106%ぐらいのペースで買っていただいている。
――ブランデの開発と共に始まったオリジナル商品の「MiiL(ミール)」の状況は。
塚田 ブランデが(オープンしてから)丸2年が過ぎた。見た目の違い、マーチャンダイジングの違いを出すためにミールを作ったが、そのときから2年間は売上げ動向は別にして、とにかくしっかり売ろうと思ってやってきた。
ブランデで展開するミールは、生鮮を含めて全部で2000弱ぐらいのSKUがあるが、それで売上げの4割ぐらいある。それだけ生鮮、デリカが非常に強い。
はっきり言えば、グロサリーやデイリーの商品は少し模索している。だから安易に作らないように指示している。これが2年間だった。
その2年間、ブランデ(の2店)は去年、1年間を通じてどちらの店も(前年比)120%以上売れた。いまも120%弱ぐらいで伸びている。当初、3年間で計画していた、自分たちが目指すところのお客さま、売上げの手応えが得られるのではないかという状況になってきた。
そういった状況になってきたこともあって、もう1回、ミールの加工品の方は全店展開を前提にしながら、もう一度作り変えることを今年の目標にしている。
――今後のブランデの出店計画は。
塚田 (1号店の出店の後)そもそも3年間は出店するつもりはなかったが、先ほど言ったように、この2年間、当初、3年間でやろうとしていたことがそこそこできたので、今年出したいとは思っている。
――次の出店候補地は首都圏寄りになるか。
塚田 そうだ。姿かたちは1号店の並木店、2号店の研究学園店(いずれも茨城県つくば市)とは違うかもしれない。
――改めてブランデの位置づけは。
塚田 ブランデは、基本的には「カスミではない」ということがある。それで勝負ができるような店にしていかないといけない。「どこにもない店」「いままでにない店」といったところか。
東茂原店はフードスクエア「タイプB」の1号店
――3月29日オープンの東茂原店(千葉県茂原市)は、これまでのフードスクエアとずいぶんイメージが違う。ブランデの要素も入っている。
塚田 東茂原店は、フードスクエアの2つ目のスタンダードにしたい。既存を「タイプA」とすると「タイプB」といったところだ。
タイプAは、いわゆるオーソドックスに青果があって、ぐるっと回ってデリカ、ベーカリーで終わるパターン。通常の新店を出す場合や、ドミナントでも、やはり最初に出たSMとしてはレイアウトなどオーソドックスな形でお客さまに認知してもらいたい。さらにその立ち位置の店を仮に改装したとしても、分かりやすいレイアウトで行きたい。
タイプBはまず、レイアウトが違う。入口から入ったところに解放感があって、奥にかけて生鮮素材、セリフテリを含めた出来合いのデリカがひと通り(片側の売場だけで)そろう構成にしている。
お店がそのエリアの中に少ないときにはタイプAで出そうと思っているが、東茂原店は、本部のある茨城県からは離れているものの、茂原市では5店舗目になる。
一番古い店は30年前、1994年にオープンしている店が近くにもある。そこからスタートしてさまざまな形のお店を出させてもらっている。それぐらいのエリアなので、認知はあるし、エリア内シェアでも27~28%ある。
そうなると新しくカスミを出すときに、同じSMを出すと「カスミができた」と思われるだけ。さらに1年半前に(地元企業の)ハヤシさんの店を引き継いでそれもカスミになっている。
そういう意味で言うと、「いままでと違う」ということを、やはり商品とサービスだけでなく、見た目としても認知してもらいたい。そうならないと商圏が被るだけで、お客さまにとっては何の利便性もプラスにならない。
商品を変えたり、サービスを充実させたりすることは当然あるが、やはり見た目で「違う」ことを見せることがこのお店のポジショニングを明確にすることだと思う。
外観、内装、サイン、照明などハード的な見た目の与件と、あとはマーチャンダイジングの品揃え。ミールを特に生鮮は多用している。
あとは売り方を変えたい。品揃えに加え、売り方も変えないと、お客さまが「見た目が変わった」と思ってくださらない。そういうことをやりながら、被る商圏の中でこの店の立ち位置をはっきりさせていく。
当然ながら、少し広い商圏からお客さまを呼びたいこともあって、このタイプBを作ることにした。
――既存店のレイアウトは入口から青果、鮮魚、精肉の順番であることが多いが、東茂原店では青果、精肉、鮮魚の順になっている。
塚田 青果は一番販売点数が多いし、鮮度も一番分かりやすいので、野菜、果物を大事にしたいということで最初の磁石として作った。本来は、その後は壁回りが磁石になっていくが、やはり、青果がずっと続くと間延びもする。
だから、正面(奥)の鮮魚に向かって間に精肉を入れて、野菜と肉で料理のメニュー提案ができそうなものを近くに置いた。それで正面は完全に鮮度感で魚を訴求したいということがあった。
――惣菜(デリカ)を鮮魚の隣に入れたことによる惣菜にとってのメリットはあるか。
塚田 やはり、いまのお客さまの買い方は、生鮮の、特に素材の商品は夕方以降、売れなくなっている。ぐんと下がる。だから、料理をされる方の買物行動は、昼過ぎで終わってしまう。そこから本当に必要なものだけを買われるお客さまが多くなっていく。
当然ながらデリカは昼に上がり、夜に向かって上がってくる。そうなると、デリカが主通路の最後にあると、(反対側の入口などから入って)生鮮を通らずに真っすぐ買物をされる。
だからやはり、(生鮮食品売場の)通路を通ってもらいながら、デリカを買っていただきたい。これはデリカのチャンスロスの話や、ついでに何かを買ってもらいたいという話ではなく、やはり食の豊かさや楽しさは、当然ながら生鮮素材の中の一部にあるはずだと思う。
だから、そことリンクさせることで、そういうことを想起してもらいたいということがあって、あえて隣に持ってきた。
今期、最注力の分野はインストアベーカリー
――インストアベーカリーは惣菜と離れた反対側にあるが。
塚田 ベーカリーは「機能」として、デザートや酒のテイスティングの機能の一部として位置付けた。こうしたことも含め、新しい考え方で位置付けていきたい。
こういう機能を作れば、近隣の人も、機会があるときにはこの店に来たいと思ってもらえるようのではないかということもある。情緒的な形だとか、見た目の違いとか、さらに見えないところも含めたコミュニケーション、プロモーションといったことでの(既存店との)「違い」を出さないといけない。
だからドミナントで出すときの新しいフードスクエアは、やはりいままでと違う店にしたい。
――ベーカリーの今後の方針は。
塚田 ベーカリーのパン自体は、ブランデと姿、形についてほぼ近いものを導入している。売り方については、(ブランデ同様、対面販売を導入している)東茂原店のスタイルとセルフのパターンとの2つで、いま考えている。だから商品の品質については同じものを使い、お客さまの選び方、買い方を変えていくということになる。
ベーカリーは今期、一番力を入れて強化しようと思っている。われわれなりに加速させたい。いま内部的にもいろいろなことを少しずつやって、手応えのあったところから変えていこうとしている。
スクラッチから作っている商品も中にはあるが極力減らしていて、冷凍生地など幾つかのパターンを活用するようにしている。
商品の出来は、(スクラッチか冷凍生地かよりも)販売時間や組み合わせの仕方などの影響の方が大きい。対面であれば商品が崩れないし、適時で出せるといったメリットがある。
――東茂原店は冷凍食品売場を内側に持ってきて、酒を壁面で展開している。他企業では冷凍食品を壁面に持ってきて、酒を内側に持ってきているケースも多いが、あえて酒を壁面にした意図は。
塚田 SMが専門性をどこで高められるのかということについて、ブランデなどで学んだことがある。(ブランデでは)ワインの(売上高)構成比が3割あったり、クラフトビールの構成比が3割あったりというのは、空間作りができていることが重要な要素になっている。やはり、全体を買物しているときに、そこでの空間作りができていないと必要なものしか買わない。
食の豊かさとか言いながらも、全体として提案し切れていないということもあるし、そういう意味で言うと別にアルコールだけでなく、そういう空間を作った上での専門性が、お客さまにもヒットするのではないかということもあって、あえて大きく取った。
酒は品揃えの幅を広げると売上げの構成比が高まったり、その中身も缶酎ハイや第三のビールなどばかりではない販売につながったりしていることは確かだ。
また、そういうものが売れると(他部門も)違うものが売れる。あとはやはり生活催事のときに、お客さまに来てもらえる店になる。
一方、冷凍食品は通常の買い回りの商品の中の1つとして選んでもらいたいということで(内側で展開している)。
――タイプBの商品構成はどのようなイメージか。
塚田 ブランデの商品が多いように見えるかもしれないが、実際の商品構成上はナショナルブランド(NB)が7割くらい入っている。ブランデは入口から出口まで全部、同じサービスレベルだから成り立つ。
だから、ブランデの商品を単に入れ込むだけではだめで、(ブランデのようなサービスがない店でも)機能するものだけを選択して入れた。「買いやすさ」は絶対(必要)の要素だ。
単にこだわった商品を入れて、「ちょっと他と違うぞ」ということではなく、いままでの品揃えの延長で、その選択肢の幅が少し広がった商品は置くが、ブランデの商品だけにしようということではない。
品揃えは東茂原店で約1万1000だが、タイプBでは1万1000~1万2000ぐらいが多分、標準になる。いままでは品揃えの幅を広げようとすると、例えば1万3000~1万5000ぐらいまで広がっていたはずだが、そんなことにはならない。
――それでもブランデの要素が目立つ。「ブランデと標準的な店との間」といった位置づけか。
塚田 ブランデはコンセプトが全く違う。ただ、ブランデの良さを既存店にどう生かすかは最初から課題だった。それを狙っている。
ハード部分、品揃えと売り方。だから売り方も、東茂原店では実は対面の精肉を展開していないが、裏に作業場を持っていて、店内で肉を切っている。
人手不足のさらなる深刻化を見込み、「自前でできること」を整備
――精肉の店内加工の作業場は今後のフードスクエアの新店では設けていく方向か。
塚田 多分、設ける。やはりセンターで作るものは当然あるが、土浦のセンターは(活用開始から)約45年経っている上、キャパシティの限界もある。だから、当然そこでできるものについては、そこで作れば効率も良いし、品質のぶれもなく良いのだが、やはり季節催事で必要なものだとか、特に牛肉や生食、味付けなどコンシューマーパックだけでは済まない商品があって、それらはセンターでは対応できない。そのためにも設ける。
――フードスクエアでは対面販売の機能など専門性を高めるために精肉のコンセッショナリー(コンセ)を導入しているケースが多い。今後、コンセはどうなっていくか。
塚田 当然、人手が足りなくなってくればコンセが成り立たなくなることはあると思う。やはり、働く人が少なくなって確保しにくくなっていることは確かで、カスミの中であれば、全体の仕事の中でできる。
どこの企業も多能化を進めていると思うが、その考え方の一環で精肉もやるということになる。「コンセに頼らなくても済むようにしないといけない」と考えざるを得ない状況になってしまったということだ。それも含めて、自分たちでできることを増やしていかないといけない。
実際、茨城県は人口も減っているし、高齢化も進んでいることもあって、外注している業者が、人が集まらないので辞めさせてほしいというケースが実際にある。こういうことが続くようになると大変だが、そのとき自分たちでそれができるのであれば対応できる。例えば朝これをやったら、次にこれをやるといったような形でできるわけで、そのためにいま、さまざまな仕組みを変えようとしている。
例えば日配の商品をD+1からD+2に変えた。取引先さまも、物流の問題もあってD+1で持ってくるのは難しくなってきている。カスミとしても当然、D+1だと入ってきたものをすぐ出さないといけないので効率が悪い。
D+2にして計画的に仕入れをすることで、相手のコストも安定するかもしれないし、われわれとしても1日分、余裕があればもっと配送の積載率を高めたりできる。
ドライグロサリーも、週の真ん中を休便にして週に6日配送していたものを、いま5日に変えるなど、もっともっとそういうことが進むと思う。品物を出すという行為などは、誰でも部門関係なくできるようになっていく。そういうことを考えていかないといけない。