ザ・トップマネジメント ヤオコー 川野澄人社長

2024.01.05

「1品単価が既存店売上げを押し上げ、高い伸びが実現、落ち着いてくる今後は会社の力が試される」

――2023年の振り返りと24年の方針について。24年からは新中期経営計画が始まるが、その大方針を含めて。

川野 お陰さまでこの(2023年)11月までの数値では売上げ、利益共に非常に当初想定を上回るような状況で来ている。予想外に1品単価の上昇が業績を引っ張ったなという1年になったと思っている。

来期(24年度)以降、第11次の中期経営計画がスタートするわけだが、対外的な発表を5月以降に行う予定で、まだまとまっていないところもあるが、大きな方向性等についてお話をさせていただきたい。

今期(23年度)で第10次の中期経営計画が終了する。その反省としては、まずテーマとして『「2割強い店づくり」の実現』を立てていた。「2割強くなったのか」ということだが、この3カ年の1店舗当たりの売上げの伸びを見ても、2割までは当然、伸びていないが、特に今期、大幅に伸びたということもあって当初想定よりも1店舗当たりの既存店の売上高の伸びが高かった3年間であったと思っている。

この「2割強いのかどうか」についてなかなか客観的な指標はないわけだが、それでも間違いなく、この3年の中で営業力が付いてきたと評価をしている。

その中で進んだことの1つは、継続的にわれわれがテーマとしていた「ヤングファミリー層の獲得」ということで、価格対応をしながら特に若いお客さまの支持を上げていくということで、「安さ」をテーマに取り組んできた。

これについては、カテゴリーごとの価格政策、例えばひき肉を値頃にしたり、アイスクリームのカテゴリーを安くしたりといったことを皮切りに、「厳選100品」という月々のプロモーションを強化したりした。それらがお客さまに浸透してきて、一定程度、お客さまから価格面についても評価いただけたと思っている。

特に前期(22年度)の後半から今期にかけては、もろもろの商品の値上げが進む中で、ハイ&ローの政策も組み合わせながら、お客さまに安さを感じていただくような手立ては進んできたかなと思っている。

もう1つは、われわれが従来から力を入れているいわゆるSPA(製造小売業)、自社での製造商品。これも今期で言えば自社製のプリンだったり、杏仁豆腐だったりを発売したり、あるいはプルコギなど半調理品、味付け済みの商品をデリカ以外の部門にも供給することがスタートしている。デリカセンターの出荷高も着実に伸びている。この点についても今期までの3年の成果として評価できると思っている。

生産性のところについては、AI(人工知能)の自動発注の導入があった他、またその他もろもろハード面での投資を積極的に行って、ハード面でも生産性をしっかり高められるような対応をした。それからセミセルフレジの全店舗への導入、フルセルフレジの導入をスタートし、レジの生産性に対しても大きく寄与していると思っている。

ネットスーパーはまずは全社売上げの5%を目指す

川野 一方で、課題として残ったところでは、一番の反省は「働きやすさ」のところ。コロナの中で忙しかった、また売上げが大きく伸びたことに対して、当然、省力化、省人化についての投資努力はしているが、なかなか作業的に追いつかない状態が続いてしまった。

売上げが伸びたことは良いことであるが、一方で働く皆さんにとっては非常に忙しい状態が続いてしまった。もっとめりはりのある働き方ができるような、端的に言えばもう少し休みの日数を増やせるオペレーションを今後、組んでいかなければいけない。

それは今後、女性活躍という文脈でも、もう少し職場での働きやすさを作っていかないと、より多くの女性の方が働き続けよう、ここで力を発揮したいという状態になっていかないと思う。これは次の3年(中期経営計画、以下同)の課題として残ったと思う。

商品開発では、プライベートブランド(PB)商品については、値上げ局面もあって、なかなか思ったようなリニューアル、開発ができなかった。いわゆる看板商品、集客につながるような商品開発は、まだまだ課題を残していると考えている。

オペレーション面では、デジタルの活用については、AI(人工知能)の自動発注に着手したばかりという状態。次の3年の中では、デジタルを使って経営を進めていく、あるいはお客さまの体験価値を高めていくことがテーマになってくると思っている。

もう1つ、ネットスーパーについては店舗数を拡大してきたが、まだまだオペレーションの精度が十分高くなく、収益性も現時点ではまだ店舗段階の黒字は数店舗にとどまっている状況。これも次の3年の中でオペレーションを固め、店舗段階でしっかりと収益を生み出せるような状態に持っていかなければいけないと考えている。

――ネットスーパーの現状は。

川野 現状、(ネットスーパー展開)店舗数は22店舗。スタートして徐々に売上げは上がってきて、やはりニーズはあることは分かっている。一部の店舗は店舗段階で黒字化しているが、それでは全店が黒字化するには何が必要かということだが、当然のことながら1回当たりの買物金額、いわゆる客単価が上がってこないと効率が悪い。客単価を上げることが1つ。

それから当然のことながらコストを下げる。配送コストは、いまも比較的多くのお宅に1時間以内で回っている(効率は良い)が、その前のピッキング、パッキングのコストを下げることが課題だと思っている。

1つ目の客単価を上げるためには、例えば品揃えの見直し、あるいは注文のしやすさ。お客さまが商品をかごに入れやすくなるような工夫も含めた、ユーザーインターフェース(UI)の見直しも必要になると思いますし、同時にオペレーション面でコストを下げるために、特にピッキングとパッキングを効率化していくことが、これから進める上でのポイントだと思っている。

――中長期的にはネットスーパーはどうなっていくか。グループ戦略の中でのネットスーパーの位置付けについて、店舗では取り切れないところを取っていくものになるのか、それとも、ある程度ネットスーパーで売上げの塊になっていくのか、中長期の消費者のニーズなども含めて、これからのネットスーパーの想定について。

川野 まず、一般的に宅配のニーズが5%ぐらいあると言われているので、商圏のシェアを上げ、そのうちの5%をしっかり取っていく。目標値としては、まずは全社の売上げの5%を取れるようにすることを掲げている。

そこに加えて、これはより長期に近いところかもしれないが、ご自宅に届けるネットワークができれば、そこに対していまわれわれが扱っていないようなものについても考え得るかなと思っている。例えば、いまは(売場)面積の制約で、(各店の)ワインの品揃えは限られているが、実際にセンターに在庫しているワインは、1店舗に在庫しているワインよりも多い。そういったものもご注文いただけるようにする。

あるいは調理器具はいま、買う店が非常に限られているが、われわれが「豊かで楽しく健康的な食生活」を提案する1つとして、料理が簡単になる、おいしくなるような調理器具をお客さまにお勧めしていく。そういったことでお客様にお届けできる商品を増やしていくことは、将来的にはあり得るかなと思う。

ただ、あくまでやはりメインは、われわれ店舗だと思っている。店舗の魅力を高めることと同時に、店舗と併せてお店に行かなくても楽しめるようなオプションを増やしていくということだと思っている。

ネットスーパーは、規模としては店舗数が増えてきたが、オペレーションをしっかり固めて、黒字化を進めることが、次の3年の課題になると思っている。

賃上げが進み、物価高が緩やかな形で進む「好循環」に期待

川野 次の3年の環境想定をどう考えているのかということでは3つほどある。

1つはやはり長期のトレンドとして高齢化が進んでいく。人口減少で、人手不足が続いてくるということが間違いないと思っている。そういう意味では、やはり省力化、省人化は避けて通れないと思っている。

同時にライフスタイルの変化。高齢化、人口減少、人手不足、それに伴って先ほどの女性活躍という話も絡んでくるが、やはりライフスタイルが変化してきているのは間違いないと思う。高齢世代が増えているということもあるが、働き方も、より長い時間、パートタイムからフルタイムへの働き方の変化が起きてきているのではないかなと思っている。

当然、消費行動もそれによって変わってくると思うし、また引き続き、いわゆる二極化はさらに進んでいくのではないか。現時点でも、やはり年金のみで生活をされているシニアの方は消費を抑える傾向が強くなっている。

一方で、賃上げの恩恵を受けているヤングファミリー、特に大企業にお勤めの方、比較的都心に近いエリアにお住まいの方は、消費の金額がそれほど落ちていない。二極化対応も、より一層、意識的に手を打っていかなければいけないと思っている。

2つ目は、これも人手不足と重なるところがあるが、やはりもろもろコスト高が進んでくるということがある。一番は人件費だが、その他、「2024年問題」の物流費、また建築費がある。今期も非常に上がったが、来期も高止まり、あるいはもう一段上がってくることもあり得ると思う。

商品の値段については、一定程度は続くと思うが、為替も少し円高に動いてきていることもある。商品の値段がどこまで上がり続けるのかということについては、来期の上期については1品単価の上昇は、前年比で見たときには続くものと思うが、徐々に落ち着いてくることもあるかなと思う。

賃上げが進み、物価高が緩やかな形で進むといった好循環が生まれるということが、美しい形だと思うので、当社としても賃上げをしっかり行いながら、お客さまに支持されるような価格設定をしていきたいと思う。

3つ目は、先ほどデジタルのお話をしたが、さまざまな技術、特にITに関わる技術が進んでくるので、そこを使えるか使えないかが、特に中期的に見たときには大きな課題となってくる。自動発注はもちろん、より省力化、省人化につながるようなテクノロジーの使い方、技術の導入をこの3年の中では積極的にやっていく必要があると考えている。

コストが下がる要素は少ない、来期も「攻めの商売」

――1品単価の上昇は多くの企業で見られる傾向だが、ヤオコーの場合、既存店の客数も継続的に伸び続けている。この要因をどう分析しているか。また、これを伸ばし続けるためにはどのような要件が必要と考えているか。

川野 客数が伸びている要因としては、純客数の伸びよりも来店頻度の伸びの方が高いという数字が出ている。これは一律には捉えられないと思っている。

シニアの割合が高いの「北」のエリアについてはどちらかといえば、客数、つまり来店頻度はそこまで伸びずに、むしろ1品単価は上がっているが、買上点数を絞って消費を増やさないという傾向が非常に強くみられる。

やはり、エリアに合わせた商売をしていくしかないと思う。北のエリアでは客数を増やすというよりは、お客さまに本当に合った商品をしっかりとそろえ、買上点数をしっかりと確保するような施策が必要になってくると思う。

同時に、北のエリアはチラシの感度が南のエリアよりも高い。それは(シニアが)時間的にも自由度があるということかもしれないが、チラシの日にチラシの商品をお買い求めになる。そういう意味ではハイ&ローもうまく使いながら、他社ではなく当社に来ていただく手立てが必要になると思う。

「南」のエリアについては、大きくいえばわれわれのセグメントでいう「テリョーリ(手料理)」、比較的年代が若いファミリー層については、いわゆるEDLP(毎日低価格)の政策で、ひき肉が安い、アイスが安いといったことが確実に効いていると思う。ハイ&ローというよりはEDLPの政策、あるいは月間の「厳選100品」といった企画の中で、いままで買い回っていた、他のチェーンもご利用だったお客さまにヤオコーへの来店頻度を増やしていただく取り組みを続けることかなと思う。

加えて、やはり価格だけだとファン作りは難しいので、より商品を磨いていくことは、当然重要な手立てになると思う。やはり、「ヤオコーでこの商品を買うんだ」「この商品を買いたい」といわれる商品をいくつ増やせるかというところが1つ。もう1つは、以前から取り組みをしている「企画」の充実。具体例としては、最近では「十五夜」の企画があったが、その他にも「イタリアフェア」、あるいは「離島フェア」といった企画に対しては確かな手応えがあるので、企画を充実していく。

先ほど既存顧客の来店頻度が上がっていると言ったが、同時にわれわれの買物ランクでCランク、Dランクの買物頻度が低い方も確実に増えていて、それらの方の買物動向を見るとやはり企画の日、あるいは「際」の日に来店している。「ハロウィーンだからヤオコーに行く」とか、「クリスマスだからヤオコーに買いに行く」、あるいは「恵方巻きの日はヤオコーに行く」というお客さまが増えているということも、データ上、見えている。引き続き、イベント、企画を充実させていくことが客数の対策になると思う。

――来期の見通しは。

川野 今期が高過ぎたのでよく分からない(上期の既存店客数前年比102.9%、同売上高前年比107.0%)。ただ、商圏シェアでみると、地域差があるが、まだ平均しても20%ぐらいで、まだ越えられないハードルではないかなと思っている。いま、1品単価頼みのところがあるので(同1品単価前年比106.0%)、これが落ち着いたときに、本当に会社の力が試されると思う。

いずれにしても、今期は1品単価の上昇が全体の売上げを引っ張った。この1品単価の上昇基調は、来期も一定程度は続くと考える。その意味ではしっかりと来期も「攻めの商売」をし、トップラインを上げていく。

もろもろのコストは上がる要素はあっても、下がる要素は非常に少ない。下がるとすると電気料が原油価格、あるいは為替が落ち着くと若干下がってくるが、それ以外についてはあまり下がる要素がないという中では、トップラインを上げて最終的な利益につなげていくことが、今期と同様に来期の大方針になると思っている。

二極化時代、真ん中の「中途半端な価格帯」の見直しに着手

川野 次の3年で何をやっていくかということでは、大きく「商品・販売戦略」「運営戦略」「育成戦略」「出店・成長戦略」という4つの領域で計画を立てている。

まず商品・販売面については、やはり顧客別の対応をしっかりときめ細かくやっていこうということが第1だと思う。やはり二極化も進み、また、ライフスタイルの変化。高齢の2人暮らしの方、高齢の単身の方、あるいはファミリーの方。それもシニアなのかミドルなのか、あるいはもっと若いヤングの年齢層なのかによっても消費のスタイルが違う。

さらにヤング、ミドル、シニアの構成費の違いもある他、大きく分けて群馬県、埼玉県北部を中心とした「北」のエリアと、東京都、あるいは神奈川県を中心とした「南」のエリアの購買動向、ライフスタイルが違うということが見えてきている。

地域のお客さまに合った、大きく分けて北と南、さらに細かくお店ごとのお客さまを見て商品の構成を変えていく、あるいは提案の中身を変えていくことを、よりきめ細かくやっていく必要があると思っている。

顧客スタイルという点では、当然、メインに買物される時間帯も違う。フルタイムで働く方が増えてくるということで、夕方以降の出来たて販売などはよりニーズが高まってくると思う。顧客別の対応ということでは、時間帯別にどう売場をつくっていくのか、お客さまのニーズにお応えしていくのかということについても当然、これから対応していくべきところだと思うし、まだまだチャンスがあるところだと思う。

商品面においても、そのセグメント別にどう見るか、あるいはそのお客さま別にどう見るかということで、やはり二極化があるため、低価格のライン、ここはしっかり押さえていかないといけない。そういう意味ではライフコーポレーションと共同開発する(低価格PBの)「スターセレクト」のラインが改めて大事になってくると思っている。

逆に、真ん中の価格帯は非常に「中途半端な価格帯」になっているので、この価格帯の商品をどう見直していくのかというのも、次の3年の中でのテーマになってくる。

それで、「ちょっと良いものが欲しい」というお客さまへの対応ということでいうと、当社の強みでもあるセミアップだったり、健康対応の商品だったりについて引き続き力を入れていこうと思っている。

PBでは健康ラインの「Yes!YAOKOハピネス」をラインアップに加えた

――来期方針の方向性に「生鮮再構築」を挙げているが、具体的なものは。

川野 これまでの3年の中での取り組みでは、鮮魚部門で「豊洲まつり」等を行って、非常に効果が挙がったことがある。その裏側にはやはり魚の加工技術がある。単に丸魚を売るだけではなく、商品知識は当然、必要だが、そこに手を加えて加工して、例えばそれを盛り合わせにしたりとか、あるいは開きにしてお客さまが買いやすいような状態で販売したりといった技術を磨いていく。

精肉についても同様で、加工品を日配に渡してその分、お肉の部門は手が空いた中で、もっと牛肉の手切りの技術を磨いていく。このように技術を磨くことに力を入れてきている。

次の3年も、外に任せられる、センター化できるような作業についてはセンター化をしていきながら、お店で価値を生むことに集中をしていく。それが再構築の意味しているところだ。

もう1つ、商品面ではSPA型の商品開発ということで、デリカセンターの機能をしっかりと使って原料から商品を作り、そこで差別化につなげ、同時に製造者としての利益も取れるようにしていくことが必要だろう思っている。

ポテトサラダが一番良い例だと思うが、以前は皮むき済みのジャガ芋を仕入れていたわけだが、これを泥付きのジャガ芋を仕入れ、洗浄、ボイルして皮をむく工程を自社でやるように切り替えることで、食味も良くなったと同時に原価が下がると、そこでの利益も確保できる。こういう取り組みを他の領域でも1つ1つ作っていきたいと思っている。

――デリカセンターの活用ということで、センターからの供給商品の出荷が増えていくと思うが、直近の新店、松戸上本郷店(千葉県松戸市)では冷惣菜を始めインストアでの調理を増やして、強化したが、今後、次期中期経営計画に向けてデリカ部門のインストア加工の政策はどうなるか。

川野 まだ具体的にはなっていないが、ただ少なくともいま、既に着手しているのは、まず、いま製造する人手が足りていない状態なのでデリカ部門、特に惣菜担当の正社員の人数を増やして、配置をすることを始めている。しっかりと製造能力を付けて、(需要が高まる)夕方の製造能力をもっと上げていこうといったことをいま進めている。

23年11月28日オープンの松戸上本郷店は、ヤオコーが次の旗艦店に向けて開発している商品の要素を一部、実験している。店内加工の商品も多い

人手不足に対してはとにかく省力化、省人化

川野 運営面については、とにかくこれから人手不足が続いていく中では、やはり省力化、省人化が大事になってくると思う。今期、自動発注の領域を拡大して、精肉部門の加工品を日配部門に移管をして、自動で発注ができるように変更したわけだが、そこも非常に省力化の効果としては大きな効果が上がっている。このように自動化の領域を広げていくことが1つあると思っている。セルフレジについても一定の効果が見えているので、セルフレジの導入も継続をしていこうと思っている。

――「物流の2024年問題」について、現状どの程度対応できているか。残る課題は。

川野 (日本スーパーマーケット協会の企業同士で)研究会を立ち上げて、業界全体でまず、物流の負荷を下げようということは一段、進んだ認識。その上で2024年問題への対応が十分かというと、正直見えないところもある。

例えば、生鮮の物流がどういう形になるのかについては、まだわれわれには見えていない。リードタイムが長くなってしまうのかなど、その辺の影響はまだ測り切れていない。これは実際にそういう状況になった中で、どうそれを打開できるのかが、手を打っていくところになると思う。

今後の物流効率化ということでは、特に当社の場合は専用の物流センターがあるので、物流コストでいえば、配送コストということでは積載率がどれくらいか、どれくらいの便が走るのか、センターの運営コストではハンドリングコスト、センターの在庫の負荷、それからお店の配送といったところだと思うが、今後、自動発注の精度がより上がってくればセンターの在庫量をもっと減らすことができ、ハンドリングコストももっと下げることができると思うし、センターへの配送の積載率をもっと上げることができるのではないかと思っている。

われわれ自身の自動発注のデータが、センターの適正在庫にもつながって、それがより川上のセンターへの物流の効率化ということにもつながってくる。この流れを次の3年では作りたいと思う。

今期、草加物流センター(埼玉県草加市)を新たに立ち上げたわけだが、まだまだ当初の見込みに対して十分効果が上がっていない。この草加物流センターの活用も含め、物流全体の効率化を、この3年の間では進めていく必要があると思っている。

積載率を上げたり、配送の距離を短くしたり、配送の回数を減らしたり、あるいはセンターの在庫を減らしたりということと同時に、お店の作業軽減につながるオペレーションを組んでいく。

お互い矛盾することもあるわけだが、いかに両立させるかということについても、次の3年の中で取り組むべきテーマだと思っている。運営についてもう1つ、これは世界的な課題だが、省エネ、リサイクルについては継続して取り組んでいく。2030年に向けて当社も目標を設定しているので、CO2の削減、プラスチック削減、またフードロスの削減について、リサイクルも含めてきちっと取り組んでいこうというところが運営面。

連結売上高1兆円見据え、企業を支える人材、リーダーを育成

川野 育成戦略ということについては、やはり「働きやすさ」の実現、「ヤオコーで働きたい」という魅力を作っていかないと、活力のある会社になっていかない、活力のある会社として存続し続けられないということになる。働きやすさの実現、具体的にはしっかりと休みが取れるような態勢を組んでいく。それには省力化、省人化もセットになるわけで、ここは力を入れて進めていきたい。

また、お客さまに対して「健康」をうたっているわけだが、社員の健康づくりについても進めている。ここも、まずはしっかり休める、めりはりのある働き方ができるということが一丁目一番地だと思うが、それに加えて食習慣、運動習慣、あるいは休養、睡眠の質を高めるといったことについても、社員を巻き込んだ取り組み、あるいは啓蒙活動等をしながら、みんなが元気に働き続けられる環境づくりを進めていきたいと思う。

当然、そういう取り組みを通じて女性、シニア、あるいは外国人も含めて、多様な方々が「ヤオコーで働くことは楽しい」「働き甲斐がある」と言ってだけるような環境をこの3年の中で作っていきたいと思っている。まずは「働きやすさ」になると思う。

もう1つ、育成でいえば、連結の売上げで見ると今期でも6000億円近い着地になると思うが、次の3カ年、それからその先を見据えると「連結での売上高1兆円」が見えてきている。そういう中で、「1兆円」の企業を支える人材、それもリーダーをしっかりと育っていかなければいけないということは、特に大きな課題として持っている。

5年後、10年後、あるいは15年後、20年後の幹部、具体的には「誰が部長をやるのか」といったことも意識をしながら、次世代リーダーの育成ということについては取り組んでいきたいと思っている。

また、専門領域の人材育成ということも大きな課題だ。例えば物流の領域、あるいはデジタルの領域、加えてSPA。製造にはまた違うノウハウが必要になる。製造領域の人材をどう育てていくのかといったことも含め、人材育成。それもグループとしての売上高1兆円に向けた人材育成ということは、この3年の中でも真剣に取り組むべきところだと考えている。

ビジネスモデルを「昭和」から「令和」モデルへと転換

川野 最後、出店・成長戦略では、継続的に旗艦店のチャレンジを続けている。やはりこれは当社のMD(マーチャンダイジング)を前に進める、進化させる上では、必須の取り組みだと思っている。旗艦店でのチャレンジ、そしてやったことに対して反省をして、それを改良していく。これを継続する必要があると思っている。

また、これは出店・成長に入れるかどうかはともかくとして、「グループとしての機能の強化」が必要になってくると思っている。

お陰さまで(ディスカウントフォーマットの)フーコットも順調にお店が増えている。(同じくディスカウントフォーマットの)エイビイも1店舗1店舗、店舗数を増やしている。

そういう中で、グループとして共通に押さえなければいけないところ、例えば出店、あるいは店を造る建築などはグループ全体で見ていかなければいけないと思う。当然、人事についても、グループでの人事政策という視点は必要になってくると思う。

これもグループとしての「売上高1兆円」を見据えた上で、機能をどう強化をしていくのか。内部統制、ガバナンス、コンプライアンスといった領域についても、やはりグループ全体できちんと見ていく必要があると思う。グループ機能の強化についても、この3年の中で取り組まなければいけないと捉えている。

――いまの競合環境をどう見ているか。中長期的な出店ペースは。

川野 競合環境については、やはり非常に厳しいと思っている。先ほど二極化と言ったが、低価格志向は間違いなく強まると思うし、その層が増えてくると思っている。そういう意味ではやはりディスカウント領域での競争は避けて通れない。

ヤオコー単体でもそこに対する対応を「価格コンシャス」でやりながら、(グループ企業の)ディスカウントの業態もより深めていかなければいけないと思っている。価格の競争では、いかにオペレーションコストが下げられるかという勝負になるので、どういうモデルを持っているのかという勝負だと思っている。そこについては、エイビイのモデルは十分競争力があると思っている。

成長性では、やはりディスカウントの業態は、広域からお客さまを呼んで高い売上げを実現しないとなかなか成立しないモデルなので、その意味ではヤオコーの出店ペースほどの出店というのは難しい。1年に1店舗、2店舗というペースをしっかりと維持しながら、ヤオコーが6店舗、7店舗に対してフーコットやエイビイが1店舗といった割合でエリアを押さえるような出店ができればと思っている。

これからの3年で、やはり大きなテーマとしては、当社を含めて多くの企業がそうだと思うが、やはり昭和的な仕事のやり方、制度、それから昭和のライフスタイルを前提としたビジネスの構造になっていたと思う。

これから本格的に人口減少が始まる、あるいはさまざまな技術進歩が進んでいく、お客さまのライフスタイルも変わっていく中では、いまの時代に合わせた、いわば「令和のモデル」に大きくモデルチェンジをしないといけないというタイミングだと思う。

そういう意味ではこの3年間が今後、当社が成長していく、あるいは日本が変わっていく中で、大きなモデルチェンジを迫られる、しなければいけないタイミングになっていくと思う。当社も次の3年で「昭和のモデル」から、しっかりと「令和のモデル」にモデルチェンジをしていこうという思いでいる。

お役立ち資料データ

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