アップサイクルの広がりが意味するもの、先進企業オイシックスの狙いとは?
2023.05.08
オイシックス・ラ・大地が「アップサイクル」型の商品開発を積極化している。最近では同商品を開発、販売するフードロス解決型ブランド「Upcycle by Oisix」で、プロントコーポレーションと共同開発した商品「コーヒーから生まれた 黒糖あられ」「コーヒーから生まれた チョコあられ」を発売。
コーヒーは多くの人が日常的に楽しんでいる飲料だが、家庭でコーヒーを抽出した後はコーヒーの豆かす(コーヒーグラウンズ)は、生ごみとして処理されているのが現状だ。
プロントにおいてもコーヒーグラウンズの廃棄には課題を抱えており、Upcycle by Oisixと取り組むことで家庭ごみの削減、外食産業の課題解決の両方に意義があると考えた。
プロントでは取り扱うコーヒー豆にこだわりをもって選定しており、またコーヒーグラウンズには「食物繊維」が含まれている。「このまま捨てたらもったいない」という気持ちから、事業系フードロス削減の形を提示したいと考え、両者の取り組みが始まった。

目次
アップサイクルに取り組むオイシックス
Upcycle by Oisixは、今年1月に「チョーヤの梅酒の梅アップサイクル商品」を発売した。形が崩れて商品にならず、家畜の餌や肥料としていた梅酒の梅を「ドライフルーツ」として発売。「食品製造業」は、まずチョーヤと取り組んだ。今回は「外食産業」のプロントと取り組んだことになる。食のアップサイクルにはまだまだ多くの可能性があるとしている。
オイシックスはミールキットなど自社製品に使われる食材工場に、今まで棄てられていた野菜のアップサイクル専用工場(フードレスキューセンター)を立ち上げた。廃棄した方がコスト安になるにもかかわらず、あえて手作業で、玉ネギの皮(皮と身の境)の部分や、白ネギの青い部分などをカットして自社のミールキットに使っている。
もし、「食品残さはどうしていますか?」と聞かれれば、「バイオマスに使っている」「畑の肥料に使っている」「建築資材に使っている」「動物の餌に使っている」などの答えが返ってくるだろう。
本来は残さを出さずに全部使い切るのが理想だが、人間の都合で切り離された動植物の残渣や賞味期限切れが発生している。
「人間が出した残さは人間が責任をもって消費する」ことが理想だ。オイシックスはその取り組みを真剣に行っている。今回はプロントと組んだ形となるが、両者の強みは他社頼みではなく自ら販売網を持っていること。だから説得力がある。

コーヒーの搾りかすは、乾燥させて「肥料」にしたり、消臭、防虫、猫除け、牛舎の環境を整える、建築資材、プランター原料などに使われたりしていた。セブン-イレブンでは17年からコーヒーの搾りかすを使った「消臭除菌剤」を店舗内の清掃に利用してきた。
その意味では今回は「食用」であることが特徴となる。コーヒーの搾りかすは、水分を含んでいるため放っておくとカビや細菌が繁殖してしまう。回収の仕組みをつくり乾燥させないと原料として使えない。
さらに「食用」にするには衛生管理にコストがかかるのが現状である。それをあえてオイシックスとプロントはお互いに回収の仕組みをつくり実現した。大手メーカーではなかなかできないことだ。

昔の喫茶店ではコーヒーの搾りかすを灰皿に入れたり、トイレの臭い消しなどに一部使われてはいたが、ほとんどが廃棄されていた。家庭でももったいないと思っていたが使い道がなかった。
なぜ「クッキーやビスケット、ケーキ」ではなく「あられ」なのか
「コーヒー味」のクッキーやケーキはなどの洋菓子は市場に多くあるため、今回の商品化に際しては新しいおいしさ、新鮮な驚きをお客に届けたいと考え、日本の伝統菓子である「あられ(和)」と「コーヒー(洋)」との組み合わせで生まれた。
あられはもち米、砂糖、塩を原料にしたシンプルな和菓子。一方、クッキーやビスケットは小麦粉、バター、卵などを主原料としたリッチな洋菓子といえる。
コーヒーグラウンズには食物繊維が含まれているため、ただコーヒー豆残さを菓子に加えただけという無理やりな感じはしない。それに「プラントベース食品」としても時代に合っているといえる。
さらに、国産のもち米は安定供給され比較的価格が安定しているのに対し、小麦粉、たまご、乳製品は価格が上昇している。卵の供給も不安定である。できるだけ買いやすい価格で安定して商品を提供するのであれば前者が適している。


アップサイクルで「三方よし」
あられの製造を担当した、株式会社ありがとうは、「自分たちが『食べたい』と思う商品づくりを心掛けています。新たな技術や素材を取り入れ、常に進化し、ありがとうらしいお菓子を求め、新たな挑戦を試みます」という。
「あられにコーヒー豆の搾りかす?」と驚いたと思われるが、オイシックス、プロントのアップサイクルへの思いを取り入れて商品開発を行ったのだろう。私は「伝統食品+イノベーション=未来の商品」であると思っている。
いままでコーヒーメーカーやカフェは「コーヒー豆の搾りかすを食用にする」という発想はなかったと思う。アップサイクルに真剣に取り組んで商品開発を行っているオイシックスだからできたことだろう。オイシックスは商品開発の提案だけでなく、自らアップサイクル商品を継続的に販売している強みもある。すでに30品目ほどを販売し廃棄ロスも発生させていないという(製造過程の一部を除く)。アップサイクル商品で廃棄ロスを出していては意味がない。
商品企画、販売は「オイシックス」、原料提供、販売は「プロント」、商品製造は「ありがとう」とアップサイクルでつながる「三方よし」の関係が築かれた。将来も持続的に取り組んでほしいと願うばかりだ。


広がる「アップサイクルの輪」
プロントとしては、「過去にも、店内の壁面にコーヒーグラウンズ(コーヒー豆かす)を再利用、コーヒーグラウンズからできた植木鉢を開発するなど、サスティナブルな活動に取り組んできたが、人間が食べられるようなアップサイクル製品を模索していた」と語る。
また、全国コーヒー協会は抽出後のコーヒー粉の有効活用を推進したいと考え、一般にこれまで「コーヒーかす」と呼ばれていたものの呼称を「抽出後のコーヒー粉」もしくは「コーヒーグラウンズ」とすることを提案し、普及啓蒙に取り組んできた。Upcycle by Oisixとプロントの新商品開発をきっかけに「アップサイクルの輪」がさらに広がりそうだ。
イノベーションはいろいろな問題を解決する。一社ではできないことは協力すればその思いが実現する。
海外に見るコーヒーグラウンズの活用
海外でもコーヒーグラウンズのアップサイクルが進んでいる。オランダのチーズメーカーはゴーダチーズの表面にコーヒーグラウンズをコーティングした「COFFEE CHEESE」を開発。コーヒーグラウンズのアップサイクルは海外でも高評価を得ているようだ。
チーズの中まで練り込んでいるわけではないので量は少ないが、表面のコーヒーグラウンズはそのまま食べられる。その他、スモークつくる時のチップ(燻製材)にコーヒーグラウンズを使うなどの活用も行われている。


食品残さはまず人が食べることを優先すべき
仏教の教えや食養に「一物全体(いちぶつぜんたい)」という言葉がある。一物全体は「ありのままの姿で分割されていない状態のこと」。食材を丸ごと食べたり、使用したりする。小魚を丸ごと食べること。米や麦、そばなどの穀物を精白しないこと。一方で、多くが人間の都合でおいしい部分だけ、食べやすい部分だけを切り取り残りは捨ててきた。
「食料危機」が迫っている現在ではそれを見直すことも考えるべきだと思う。まず、だれもが食べられるものは全部分食べる、食べ残さない習慣を身に着けることを最優先にしたい。それでも仕方なく出た残さは「アップサイクル」を行う。
優先順位は「人→動物→建築素材」「畑→バイオマス」の順になろうか。最初から焼却、バイオマス、肥料、動物の餌に回すのではなく、人間の都合で出した残さは人間が責任をもって食料として消費すべきであると考える。
寺の宿坊で精進料理を取っている僧侶を見ていると、食器を頭の高さまで持ち上げながら食事している。食べ物を上から見下ろすのではなく、食べ物に敬意を払い対等の高さで食べ物をいただくという意味合いがある。食べ物に敬意を払い大切にすることは、今後、ますます重要になることを皆が意識すべきだと思う。