「食の感動」を届けるために、人の手にこだわる「ハピカン」経営 トリドールホールディングス 粟田貴也 社長兼CEO
2026.10.27

焼き鳥店が迎えた危機からうどんで反転攻勢へ
1985年8月、兵庫県加古川市で炭火焼鳥屋「トリドール三番館」として創業したトリドールホールディングス。2000年11月には讃岐うどんの「丸亀製麺」1号店を同じ加古川市にオープンし、これを主力業態へと育て上げた。16年に持ち株会社制へ移行し、現在は丸亀製麺を中核に、「コナズ珈琲」「ずんどう屋」「晩杯屋」、香港発のライスヌードル店「譚仔雲南米線(タムジャイウンナンミーシェン)」など、国内外で20以上の多様な外食業態を展開する。売上収益は2787億1500万円(26年3月期、連結)で過去最高を更新し、うち丸亀製麺事業が1371億9300万円と50%弱を占める。
トップを務めるのは創業者の粟田貴也(あわた・たかや)氏。飲食業の可能性に惹かれて焼き鳥店を開業したが、27店まで広げたところで鳥インフルエンザによる打撃を受けて事業を再構築、フードコートに出した丸亀製麺を軸に外食大手へと駆け上がった。創業から41年を迎える現在でも、一貫してグループのトップを務める。
省人化が当たり前になった外食業界にあって、「食の感動」を人の手で届けることにこだわり、働く人の幸せ(ハピネス)とお客の感動(カンドウ)を起点に置く「ハピカン」をベースとした「心的資本経営(ハピカン経営)」を掲げる粟田社長に、丸亀製麺の原点から業界の逆張りともいえる心的資本経営の中身、そして世界展開の行方までを聞いた。
グループで多様な業態を手がけている。
「主要業態は、やはり丸亀製麺です。全国至るところに出店していまして、国内だけでも900店弱(2026年9月末段階、以下同)。海外は東南アジアを中心に約360店になります。他に目立った業態では、ハワイをテーマにした『コナズ珈琲』が約60店、ラーメンの『ずんどう屋』が110店を超えてきて、共に(売上高)100億円企業に育っています。『晩杯屋』は50店弱で、これから伸ばしていきたい業態ですね。ただ、まだまだ丸亀製麺の『一本足』に近いところはありますけども」
これほど多彩な業態は、どのような発想から生まれるのか。
「発想というか、丸亀製麺は本当に『製麺所の風情』のようなものを再現したくて作った業態ですし、コナズ珈琲は日本人が大好きなハワイをテーマにしたレストランです。一方で、ずんどう屋や晩杯屋はM&A(企業の合併・買収)でグループに組み込んだ業態です」
創業は焼き鳥店だった。そこから、どのような道をたどってきたのか。
「焼き鳥で最初、商売を始めまして、店を3軒ぐらい持てたらいいかなというところで、(3軒目の意味を込めて)『三番館』と名付けてスタートを切りました。当時、飲食の可能性を非常に感じていました。
『飲食はがんばれば結果を変えることができる』といった思いがありましたし、『飲食だったら自分の人生の結果を変えていける』とも思いました。特に焼き鳥はカウンター越しのお客さまとのコミュニケーションが非常に大切な業態で、自分には向いているんじゃないかと思って始めたんです。焼き鳥店は結構広げまして27店ぐらい、上場の直前まで行きましたね」
だが、その焼き鳥事業が大きな試練に見舞われる。
「上場直前に、鳥インフルエンザが日本を席巻しまして、鶏肉だけでなく、焼き鳥も全く売れなくなった時期がありました。お客さまが激減して、非常に大きなダメージを受けたわけです。振り返れば一過性ではあったんですが、鳥インフルエンザは毎年来るだろうと言われていたので、『これでは上場できない』と判断しました。それで上場計画を白紙に戻して、焼き鳥店の出店を全部止めて、事業の再構築に走ったということです」
再構築の先に、丸亀製麺があった。
「焼き鳥店の事業から多角化へ転換しようとしたとき、その間にたまたま丸亀製麺を1店舗だけ作っていたんです。さらに鳥インフルエンザで大打撃を受けてお金がなかったので、比較的ローコストで出店できるフードコートに狙いを定めました。当時伸び盛りだったショッピングモールのフードコートに丸亀製麺を出しつつ、丸亀製麺だけなら(同じ施設に)1店舗しか出せませんから、その強みを共有しながら、いろんな麺業態を作っていきました」
その丸亀製麺がまさに同社の運命を変えたわけだが、同業態のこだわりとして「目の前で作る」ことがある。どんな意図があるのか。
「こだわりというより、『お客さまの目の前で作ることが大切だ』ということです。品質ももちろん大事なんだけど、やはり、お客さまが単に食べるだけじゃなくて、作る工程を見るという『体験価値』がそこにはありますから。お客さまの興味を引くわけです。そこは絶対に外せないと思っています」
その発想は、どこから生まれたのか。
「香川県で製麺所の行列を見たことがきっかけです。これまで一所懸命いろんなことをやってきましたけど、もっと自分たちの独自の強みが欲しいと思っていました。それで行列を見たとき、『こういう体験価値がいいんだな』『お客さまはこういうものを求めているんだな』と感じまして、それを再現して作ったのが丸亀製麺になります」
メニュー開発では何を大切にしているのか。
「やはりおいしいものを出そうと考えていますよ。味には各社こだわっておられるでしょうが、われわれも負けじと、おいしいものを出そうということでテストキッチンの商品開発部隊がずっと考えています。さらにそのおいしさをお客さまの目の前で作ることが大切で、これは外せません」
チェーンストアになると店の外部に加工拠点を設け、多くの店の分を一気に加工することで店内での作業を減らし、効率化を図るのが一般的だ。特に外食では調理の前工程の作業を外部加工拠点で行い、店内に残す作業をどれだけ減らせるかが効率を左右する。仕込みを別の拠点にまとめれば店の厨房は小さくて済み、出店にかかる投資も、店に置く人の数も抑えられる。味を均一にそろえることもしやすい。
丸亀製麺はその逆を選んだ。粉から生地を作り、店内で製麺し、ゆでて盛り付けるところまでをお客の目の前でやる。作業が店に残る以上、その分人手もいる。粟田社長はそこにこそ、競争力があるという。
「うちは全店、粉からですよ。われわれにとっては大きな競争力だと思いますし、そこが大きな違いになっているのかもしれません。もちろん、品質は大事ですが、私はさらに作るところを見せることに情熱を持ってやっています。もちろん、カボチャのカットなどは店の外部でやっていますが、ほとんどは店の中で仕上げています。全店で粉から作るのは続けるのが大変ですけど、そこは譲れないところですね」
目の前で作るという原則は、丸亀製麺だけのものなのか。
「うちの場合は、他の業態もほぼ一から作っています。やはり目の前で作るということが、わが社にとっては非常に大切なことになっていますから」

働く人の幸せとお客の感動に起点に置く「ハピカン」の枠組み
外食産業では、この数年で店から人を減らす方向の投資が一気に進んだ。注文はテーブルのタッチパネルやお客のスマートフォンに移り、会計もセルフレジが増えている。厨房でも調理工程の店外への移転にとどまらず、調理機器の自動化が進み、また、料理や食器を運ぶ配膳ロボットを置く店がめずらしくなくなった。人手不足と人件費の上昇が続く以上、経営としても店を回すのに必要な人時数を減らすために、省人化、機械化に取り組むのは当然のことといえる。
トリドールは、この流れに対してもあえて逆の道を選ぶ。「ものを売るのではなく、体験価値(感動体験)を売る」との考えの下、属人性が高く、手間もかかる「目の前で作る」ことにこだわり続けている。
「もともと体験価値を提供しようというのが大事でしたし、われわれは『食』を提供するだけでなく、皆さんに楽しんでいただきたいと思っています。私は10代のころから、『外食は最も身近なレジャーである』ということを言い続けてきました。そこに『楽しさ』がなかったらいけないんじゃないかと思います。
何かあったとき、『ちょっとご飯を食べに行こう』といったように、食事にはそういうもの(単に食べるだけではない機能)がある。外食は単に空腹を満たすだけじゃなくて、人の集まりや楽しさといったものが軸としてあるべきだと思っています」
原材料高や人件費高騰、人手不足が続くなか、多くの企業はコスト削減に動く。逆の発想である。
「皆さん、省人化には徹底して取り組んでいるわけですね。それはそれで価値のあることで、この時代の中でやり抜くには必要なことだとは思うんです。
ただ、われわれは体験価値を提供することに重きを置いてきたので、これからもその流れは変えずにいこうと思っています。あえて時代に『逆張り』、というわけではないけれど、これからも人手をかけて店をやっていきたいと思っています」
「売上増が見込めないから、その分コストを減らす」ではなく、「あえて人手をかけることで、それによって売上を作っていく」、縮小均衡ではなく、拡大均衡の発想に映る。確かに、投資をしなければリターンも得られない。トリドールはまさに「人」に投資をすることで、その可能性を引き出そうとしている。
それを実現するために打ち出したのが「ハピカン」という枠組みである。働く人の心の幸せがお客さまの感動を生み、それが店の繁盛につながるという循環を、経営の中心に据える考え方だ。何を目指すのか。
「目の前で作るという体験価値、つまり感動を与えていかないといけない。感動がなければ、お客さまの再来店はなかなか叶わないと思っているんですよ。やはり、感動体験を提供することが大切です。
鑑みると、その感動体験を提供しているのは働く人です。その人が楽しくなかったら、なかなか感動体験も再現できないだろうと。まずは働く人がやりがいを持って、楽しく働ける状況を作っていかないといけないと思いました。
感動体験を提供することはずっと前からやってきましたけど、働く人が楽しそうに働けているかというところまでは、まだ十分じゃなかった気がしましたので、今回、ハピカン経営という方針を掲げました」
楽しく働く鍵はどこにあると考えているのか。
「われわれのゴールとしては、『お店が大好きだ』と言ってもらいたい。仕事をする前に、まず店が好きであることが大切かなと。そのためには、やはり仲間でしょうね。同じ店で働く人同士がちゃんと理解し合って、『チームビルディング』がしっかりできているか。そこが非常に大切な部分じゃないかと思います」
拠点が全国に分散する中で、その浸透をどう図るのか。
「各店で取り組んでもらわないといけないので、その取りまとめを任せられる人を『ハピカンオフィサー』として育成していこうとしています。ハピカンオフィサーの呼称は業態ごとに設定していく予定です。まずは丸亀製麺で先行導入し、丸亀製麺では『ハピカンキャプテン』という呼称にしました。それになることを推奨していきながら、その人に店の中で、『ハピネス』(働く人の心の幸せ)や『感動経営』(お客さまの感動)といったことを周知徹底してやっていただく。みんながやりがいを持って楽しく働ける環境づくりをやっていってもらおうと」
「ハピカンオフィサー」は従来の店長に代わる職位となる。これまでの店長について経営陣、マネージャーから指示を受ける統制型マネジメントにあったとし、ハピカンオフィサーはそれに対して権限が委譲された形の自律型マネジメントを実践する存在となる。併せて、店長はどうしても店舗運営に必要な管理業務に忙殺されがちなところ、そういった業務を副店長以下に移管しながら自律型マネジメントの実現を目指すとしている。
店長から「ハピカンオフィサー」になるためには、どのような部分が評価されるのか。
「チームビルディングをしっかりやっていけるか。それに、いま任せている店の成績がしっかり出せているか。そこも非常に大事なことです」
「チームビルディング」についてはなかなか測りにくいように思える。どう可視化しているのか。
「ダッシュボード(指標をまとめて表示する画面)で『ハピネススコア』というものを見ています。AI(自律的に対話や作業をこなす人工知能)が各スタッフに対して携帯電話(スマホ)で音声対話式の質問をして、それに答えていくことで、ハピネススコアが自動的に測れるようになっています。それで、従業員の幸福度が算出されます。
質問は毎日ではなく、3カ月に1回程度のペースで、設問は全13問です。当社のハピネスモデルの4要素として定めている『繋がり感』『貢献実感』『誇り』『安心感』について確かめる設問を設けていて、従業員のハピネスがどれくらい高まっているのかといったことを見ています」
制度づくりは各事業会社に委ねているとのことだが、あえて統一しないのはなぜか。
「1人1人の内発的動機を大切にしていきたいと思っているので、トップダウンは減らしていこうと思っています。事業会社の特色に合わせてしっかり考えてもらいたい。もちろん最終的には私が承認しますが、皆さんほぼ自分たちで考えてくれています。
いずれにしても、定量的な方向に持っていかないと、なかなか広げていくことが難しいと思っています。推し量るだとか、単に人が認める、認めないではなくて、数字としてフェアに出てくることが大切かなと思っています」
具体的な運用などは各社に任せられているものの、「ハピカンオフィサー」制度自体はグループ全体に導入する意向で、同社としてまずは基幹業態の丸亀製麺からの開始を決定。心的資本経営を発表する席上で、粟田社長が従来の店長の年収が500万円前後のところ、丸亀製麺で導入する「ハピカンキャプテン」では最高2000万円を想定していると語ったことは大きな話題となった。
「ハピカンキャプテン」には階層を設けていて、一番下の「ハピカンキャプテン」から順に「スターハピカンキャプテン」「エクセレントハピカンキャプテン」「グレートハピカンキャプテン」へと上がっていく形となっている。これら全てを合わせた育成人数の目標として、粟田社長は昨年秋の導入時点から3年で300人を掲げている。
「現状、ハピカンキャプテンは5名誕生していますが、まだこれからです。年収2000万円は最上位の『グレートハピカンキャプテン』の段階ですので、出現はまだまだこの先になっていくと思います。もちろん、全員が最上位を取れると思っていませんが、トップの年収2000万円のメンバーが数人出てくれたら良いと思っています。
そのためのハードルは、決して低くないですね。自ら動き出して、ハピネスを作り、感動を生み出すというのは、なかなか難しいですから。それができる人は大したものだと思います。そういう人を、これからどんどん擁立していこうということです。ただ、ゴール、目標ができたので、皆さん、そこに向けて一所懸命やってくれていると思います」
一方で、ここまで話を聞いてくると意外ではあるが、実は決してDX(デジタルトランスフォーメーション)自体には後ろ向きではない。
「お客さまと相対する場面では、やはり人がちゃんと前に出てやっていこうと。一方で、お客さまと相対しないバックオフィスの作業は、徹底してDXに取り組んでいます。例えば今日の売上げがどれくらいになるかを、AI(人工知能)を使いながら予想する。まだ、完璧ではないですけど、そこに向けてやっていますし、あらゆるものをデジタル化して効率が上がるようにています。
(商品を作って提供することに)人手をかけないといけない分、どこかでコストダウンしないといけない。それはお客さまと相対しないところでしっかりとコストダウンをしていこうと思っています。発注や在庫の管理といったバックヤード(店舗の裏方)の作業ほど、効率化できる余地は大きいと思っています」
広がる海外展開、数年で国内の店数を上回る勢い
丸亀製麺が主力とはいえ、多くのグループ会社がさまざまな業態を展開する一大グループに成長している。粟田社長が日々どのような数値を気にしているのかを聞いた。
「一番見ているのは、やはり全体の売上高と、業態ごとの売上高というところです。やはり、『伸び盛り』の業態もあれば、停滞期もありますので、それぞれにアイデアというか、改善案を出しながらやっているのが現状ですかね。
1つの業態でやるのが一番効率はいいんでしょうけど、分散していくことで、何かあったときにということがあります。1つの業態へ依存しすぎないという意味でも、分散には意味があると思っています。いろんな業態を持っていると、時代に合わせながらいろいろなポートフォリオの組みようがあります。とはいえ、丸亀製麺が圧倒的なボリュームがあるのですが、少しずつ(他業態を)伸ばしていけたら良いかなと思います。
あとは同等に海外です。あと数年のうちには海外の方が、店舗数が多くなると思います。海外はフランチャイズが多いので(店舗の)売上でなくロイヤルティ収入の形ですが、(26年3月期の)売上収益2787億1500万円のうち1018億9500万円は海外事業が挙げています。
特に東南アジアが一番攻めやすいというか、われわれには一番合っているのかなと思いますが、もちろんアメリカも一所懸命やっていますから、これからも伸ばしていきたいと思います」
海外については約30の国と地域に進出している。展開状況はどのようなものか。
「丸亀製麺がメインになりますが、世界のパートナーといろいろ考えながら、出られるタイミングで出して行こうということでやっていますが、東南アジアはかなり順調です。インドネシア、フィリピン、ベトナムに数多く店を出しています。どこも好調ですが、やはりパートナーの力はかなり大きいですね。インドネシアのパートナーはかなり優秀です。力の入れ方というか、パートナーとの相性で伸び方は変わってきます。
台湾には直営で出ていまして、台北を中心に60店以上に増えています。アメリカも西海岸に直営で出していまして、いま約20店舗です。良く売れていますが、まだまだ店数が少ない。もっと増やしていきたいのですが、物件が見つかりづらいですし、まだ日本ほど手慣れていないのでいろいろな意味で難しさもありますので、もっともっと勉強を積まないといけないと思っています(他にイギリス、韓国、カナダ、UAEなどにも出店)」
海外で丸亀製麺を上回る規模に育っている事業が、18年にM&Aでグループ入りしたライスヌードル店「譚仔雲南米線(タムジャイウンナンミーシェン)」と「譚仔三哥米線(タムジャイサムゴーミーシェン)」を運営するTam Jai International Co. Limitedである。
「香港がメインですが、売上的にも高いです。買収の場合、自分たちだけではなかなか時間がかかるところ、海外の繁盛店を持つところと組むことで規模を拡大してけるということもあり。海外の業態は丸亀製麺など一部を除いて買収した企業が持っていたものが多いです」
タムジャイは日本でも現地企業の譚仔日本を通じて「譚仔三哥米線」を店舗展開している。その意味では単に海外での事業展開にとどまらずに、海外の業態を日本でも展開するという流れにもなっている。
実はトリドールの海外展開には15年ほどの歴史がある。2011年3月にアメリカのハワイ州ワイキキに丸亀製麺をオープンしたのが第1号で、ブランド名「MARUKAME UDON」としての出発だった。
「ハワイの1号店がきっかけとなって、海外を一気に展開してきましたかね。ハワイはいま2店舗です。小さな島ですから、そんなに増やせるものでもないんですが、そのハワイの1号店が、いまだに世界一の売上高を誇っています」
グローバル展開が進展する一方で創業時に手がけた焼き鳥は、いまも「とりどーる」の名で残る。毎日店内で串を打ち、炭火で焼き上げる本格炭火焼鳥店である。主要な原材料である鶏肉の影響を受けやすい業態だが、丸亀製麺が主力業態になっているいま、焼き鳥に対してはどのように向き合うのか。
「焼き鳥としてはそれほど大きな夢は掲げていません。鶏肉は一定量を取り扱っているんですが、(とりどーるは)全体で10店舗ぐらいしかなく、むしろ、丸亀製麺で出しているかしわ天の方が、圧倒的にボリュームがある状況です。
鳥インフルエンザがあってからは、この業態を伸ばしていくよりは、もう少し違う方向で行こうじゃないかということでやってきました。ただ、最近また少しずつ出し始めていますが、昔ながらの炭焼きでやっていますので、少しずつですね。むしろ居酒屋業態では、いま『晩杯屋』を強化しています」
晩杯屋は前述のようにM&Aで17年にグループ入りしたフォーマットで、子会社のアクティブソースが運営している。09年8月に東京・武蔵小山に1号店を開いた立ち呑みチェーンで、創業者の「誰でも気軽に一人で呑める店が欲しい」という想いから誕生したという。晩杯屋の強みはどんなところにあるのか。
「やはり『安さ』と『気軽さ』ですね。1人でふらっと行っても、時間を楽しめてしまうところですかね。時代が大きくさま変わりしてきて、例えば10年ぐらい前までなら駅にビルがあれば下から上まで『大箱居酒屋』が入っていたものです。
人にとって格好のコミュニケーションの場であることが、居酒屋の存在意義であり醍醐味だったと思うんです。いまは(パワーハラスメントと受け取られる可能性もあって)部下を誘うにも気を遣いますし、(新型コロナウイルスによる影響で)大人数で飲み歩く機会が減りました。
その背景には『ちょい飲み』文化があると思います。そこまで飲まない、ちょっと食べてちょっと飲むという場の方が、いまのし好に合致している。そう考えたときに、晩杯屋はいいのではないかと。値段も安くて、時間的な束縛感もないので。そういうところからのM&Aということですね」
特に飲食業界にとっては、コロナ禍の影響は大きかった。
「やはり、生活形態が変わりましたね。あの時代はお酒を飲むこともはばかられた。われわれにも(酒類提供への)行動規制がかかって店を開けられないなど、いろいろなことが起こりましたよね。1つの時代の節目でした。いまの段階ではもう(コロナの影響は)ありませんが、本当に暮らし向きが大きく変わったというのはやはりありますね。
昔は個性というよりもむしろ人といっしょにいることの安心感の方が高かった。そこに大箱居酒屋などがちょうど合ったと思いますが、いまはSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)があって、人とのコミュニケーションの形もだいぶ変わってきました。
そんなことを考えるとやはり、時代の変わり目にいろんなことが起きて、それでいまがあります。時代に適合していくことが大切かなとは思いますね」
主力の丸亀製麺は、業態の性格が創業以来変わっていない。酒類を扱う考えはないのか。
「一時、都心店で実験をしたのですが、結果として全然、売れませんでした。お客さまはお酒を求めていないということですね。『お酒は関係ないな』ということで、いまは一切取り扱っていません。やはり、うどんをさっと食べて帰られて、客単価も800円ぐらいです。そこがちょうど、お客さまの居心地のいい価格帯じゃないかなと思います」
ただし、そこで重要なことは「うどんを食べよう」と思ったときに、その選択肢に確実に入ることだ。そのときに、「店内で、目の前で粉から作っている」ことは大きな強みとなる。
「どこかに食べに行こうと思ったときに、やはり頭の中で想起される業態でなかったら勝てないんです。うどんを食べようと思ったときに、『じゃあ、丸亀製麺に行こう』となっていくのが理想で、そこを目指しているのは事実ですね。それに向けて、これからも努力しないといけないと思います」

飲食は「分かりやすい」からこそ、やりがいも実感しやすい
飲食業の可能性を感じ、焼き鳥店を創業してから40年超。改めて粟田社長に、飲食業を経営する上で最も大切にしていることを聞いた。
「例えばうどん一杯でも、『今日はちょっとうどんでも食べて帰ろうか』といったように、何かあったときなど、食は人の営みと連動している思うんです。そういうことを大切にしていきたいですし、せっかく来ていただくんだから、ちゃんと人が『どうぞ』とお出しするのが有意義だと思っています。
ただ、私は、ロボットはロボットでどんどん発達して広がっていくべきだとも思っています。これからの人手不足は絶対ですから。外食全般が沈むわけにはいきません。そういうものを活用しながら、外食をしっかり支える必要性があると感じています。
外食が元気であることがベースにあって、その中で、われわれは人手をかけてやりますというだけのことです。人をかけられないのが現実ですから。全部が沈んでしまってはいけません。外食がしっかりあって、その上にわれわれがやらせていただいている、ということです。
自分がなぜ、飲食をやっているかと考えると、やはり飲食は『分かりやすい』ということがあります。お客さまの目の前で商品を手づくりして、でき立てを提供、お金もいただけるし、『おいしい』『まずい』というリアクションもあるし。この世界観の中で経済が回ってしまうわけです。
だから、『自分がいま何をやっているのか』『誰のためにやっているのか』が本当に分かりやすい。だから、やりがいをものすごく感じられるし、お客さまに良いサービスが提供できると明日も来てくれるわけです。私自身、非力な自分でも一所懸命やれば常連さんが増えて、売上が上がるという学生時代の実体験があります。喫茶店という小さな世界ではありましたが、『この業界は、こんな自分でも一所懸命やれば結果が返って来る』と。これは大きなやりがいですよ。
飲食は目の前で全部経済がぐるっと回る、本当に分かりやすい、やりがいのある世界だと。だから、心をしっかり持ってやれば、お客さまはどんどん増えていくし、結果も変えていける。これが飲食です。他の業界はこれほど実感が持てないように思います。自分次第で、幾らでも変えていける。自分の人生すら私は変えてきましたから。
それが、私たちがいま訴えている『ハピカン』経営の考え方です。『人の力は無限』ということを『ハピカン』経営で実践していきたいと思っているんです」
「ハピカン」という独自の枠組みに基づいて「心的資本経営」という、これも非常に独自性の高い経営手法を実践していく同社。その根底には粟田社長の「人の力は無限」という言葉がある。省人化が進み。AIが進化する中で、改めて「人」の価値が問われている時代、飲食業界に限らず、全産業にとっても、この言葉が問いかけるものは大きい。










