フードテックとは?注目される理由や背景、具体的な取り組み事例などを紹介
2024.07.31
2022.04.28

テクノロジー技術の発達によって食品の分野でも大きな変化が起きている。フードテックの活用は、さまざまな食品を育てる環境や食料確保、生産性などにおける課題を解決する鍵となる。フードテックが注目、活用される理由とは何か、また具体的なフードテックの事例などについて詳しく説明する。
目次
フードテックとは何か
フードテックが最近注目されている。フードテックとは、Food(フード)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせて作られた言葉で、最新のテクノロジーを食の分野で活用し、新たな食品を作り出したり調理法を生み出したりすることだ。また、農業や酪農への活用や、消費者の食へのニーズや動向を分析するためのデータ収集や解析にも利用できる。
フードテックは2025年までに、世界中で約700兆円規模の市場になるといわれている。また、持続可能な開発目標(SDGs)の中にフードロス対策も盛り込まれており、フードテックはこのフードロスにも一役買うテクノロジーになると期待されているのだ。
フードテックはなぜ注目されるのか
フードテックが注目される理由について見ていこう。食のマーケットは人々の生活に密着したものであり、今度もニーズが高まることはあっても、落ちることはない分野である。
世界各国で重要、かつ需要の拡大が見込まれているが、食のマーケットを維持していく上で幾つかの深刻な課題も抱えている。フードテックの活用は、そのさまざまな課題を解決する有効な策として、世界中が期待を寄せているのだ。
人口増加による食糧不足
フードテックは、世界の人口増加による食糧不足解消につながると期待されている。日本では人口は減少傾向にあるが、世界の人口の視点で見ると2015年の世界人口が約73億8000万人だったのに対し、2030年には約85億5000万人に到達、その先も増加傾向と予測されている。
ヨーロッパなどの人口は減少に転じるといわれているが、生活水準が高い北米や世界総人口の約6割を占めているアジア諸国などでは、これからも人口は継続的に増加し続ける見込みなのだ。
人口増加により食料が不足するのではと懸念されている上、地球温暖化などによる気候変動も大きく、いままでのように作物が育たず収穫量が減ってしまう恐れがある。その点で、フードテックが食料の生産を安定させ、収穫量が向上するのではと考えられている。
飢餓問題
飢餓問題にもフードテックの技術が活用できる。国連によると、飢餓に苦しむ人は世界中で8億人以上いるとされる。この数は人口の9人に1人に当たり、多くは発展途上国などの人々である。人口増加が見込まれる国も同じく発展途上国が中心であることから、飢餓問題はますます深刻化するだろう。
これは十分なお金がないために栄養のある食品を購入できないだけではなく、保冷や保存の設備が整っていないため安心して食べられる食料が減ってしまうことも原因の1つである。フードテックにより栄養バランスの良い食料や長期保存ができる食料などが開発されれば、飢餓問題の解決につながるはずである。
フードロス
SDGsの目標にもなっているフードロス解消についてもフードテックに期待がかかる。一部の地域で深刻な飢餓問題が起きている半面、先進国などではフードロスの問題も増加している。テクノロジーにより大量生産できるようになった食料は、小売店などで売れ残った場合、最終的には廃棄される。日本でもコンビニやスーパーマーケットなどの食品廃棄が問題視されるようになったが、あまった食品の廃棄は構造的な問題も含め大きな課題として横たわっている。
地球上に飢餓とフードロスという真逆の問題があり、食のバランスが保たれていないことが分かる。世界中の人の食糧を均衡に少しでも近づけるために、フードテックの技術に期待が寄せられている。
人手不足
食材の生産や流通過程、外食産業など、食にまつわる業界ではしばしば人手不足が指摘される。特に農業や漁業、酪農などでは生産者の高齢化、跡継ぎ問題などがある。また、食材を加工する工場や流通、外食産業などでは、以前から人手不足が懸念されている。
フードテック技術によってロボットやAI(人工知能)などを導入することで人手不足を解消したり、少人数で事業活動を行えるようにしたりすれば、労働者の負担を軽減し、効率良く食材を生産できるようになる。
ベジタリアンへの対応
世界中には動物性のものを摂らない食生活を採択する菜食主義の人がいる。乳製品などは食べるベジタリアン、それらも含め動物性の食品を一切摂取しない人々をビーガンと呼ぶなど程度によってさまざまな呼び方があるが、こうした菜食主義の人が食べられる植物性のタンパク質の開発などもフードテック技術の活用だ。
今後もさまざまな食習慣に対応できるような食材をフードテックが開発するだろう。
食料の安全に対する意識の高まり
食品の加工、生産過程での異物混入や、細菌による食中毒、さらには輸入食材の残留農薬、産地の偽装など食に関するさまざまなトラブルが発生するが、こうしたこともきっかけとなって、人々の食料の安全に対する意識が高まりを見せている。
生産地や生産者の顔が見え、安心して口にできる食料を求めるという意識も継続的に高まりを見せている。
そうした食の安全の確保に技術を活用する動きも、フードテックの1つである。製造過程のオートメーション化や製造過程で異物の判定ができるシステム、食品の成分を分析できるツールなどの開発などがそれに該当する。
フードテックに対する日本と世界各国の意識の違い
フードテックに関する関心は世界レベルで年々高まっている。アメリカでは、自国のフードテック分野の競争力を強化できるバイオテクノロジーなどの技術を輸出管理の対象にしている。
また、農林水産省のレポートによれば、各国のフードテック分野への投資額を見ると2019年でアメリカ9574億円、中国は3522億円、インド1431億円、英国1211億円などとなっているが、日本は97億円しかフードテックには投資していない。

ただ、2020年農林水産省と産学官が連携しフードテック官民協議会を立ち上げたるなど、今後は日本でもフードテック技術の研究・開発が進んでいく兆しが見えている。
フードテックが参入する領域
フードテックが参入している具体的な領域について見ていこう。日本でも実はさまざまなテクノロジーが食の産業にすでに導入されている。フードテックという言葉を知らなくても、身近にあるフードテックを使った食料やサービス、システムなどを使っているかもしれない。
ロボット
食品の製造や加工、外食産業での注文受付や商品提供、皿洗いなど、以前は人力で行っていた作業をロボットが行うようになっている。
食品工場などでは、ロボットを使うことで、人件費を抑えて生産性を上げられる。また人手不足の外食産業も少ない人数で、サービスを提供できるようになる。
工場などではロボットをすでに導入しているところも多いが、外食産業や小売業の場合、顧客のさまざまな要望に対応する必要があるため、ロボットの活用はまだまだの面もある。一方で外食産業の一部では配膳、あるいは小売業でも商品の陳列や管理面での活用が一部企業で始まっていることも確か。
今後改良を重ねていけばさまざまな面でロボットを使うところもさらに増えていくだろう。
代替ミート
フードテックにより、代替ミートが作られるようになった。代替ミートは動物の肉ではなく、小麦や大豆、自然由来の油、水などを使い肉のような食感を楽しめる食材だ。代替タンパクとしてベジタリアンの栄養確保にも適している。低糖質で肉よりも低カロリーな点がダイエットや健康管理などにも適していると人気だ。
また代替ミートは、食料不足の解消にも役立つと期待されていて、牛、豚、鶏に続く「第4の肉」とも呼ばれている。
植物栽培
フードテックの技術によって、天候や気温などに左右されずに安定して植物を栽培できる植物工場も作られている。ビニールハウスなどとは違い、LEDや培養土などを太陽光や土の代わりに使う。
工場内部の状態を管理できるので、天候や害虫などの影響を受けずに安定した量の食料を栽培できる。また寒冷地や砂漠など本来なら植物の栽培には適していない地域でも、植物工場があれば生産が可能になる。
また、栽培時に使う「水」を節約するという面でも期待されている。
新しい食品の開発・製造
代替ミート以外にもフードテック技術を用いて新しい食品の開発や製造も行われている。例えば食材の栄養素を粉末にしてドリンクやクッキーなどに混ぜ込んだり、小麦などを使わずに野菜だけを原料に衣を付けて天ぷらを作ったり、1粒のグミに1日に必要な栄養素を凝縮させたりなどの技術は、すでに取り入れられている。
生産性の向上
フードテック技術を使うことで、食料や食品の生産性を向上させられる。AIなどを使えば、工場の機械の自動運転、ドローンを使った農薬散布や水やり、ビニールハウスや農地を一元管理し温度や湿度の確認や異常検知が行える。
作業する人の負担を軽減し、不安定な気候でも安定した生産ができるようフードテックが管理してくれる。
細胞の培養
フードテックを使い細胞培養を行う。細胞培養とは、動植物の食べられる部分の細胞だけを抽出して、培養する技術だ。動物の幹細胞を培養し増やして作った培養肉や野菜などを作ることで、本物と変わらない味や食感を楽しめる。
衛生管理がしやすく環境にも優しいので、今後さらにフードテックの参入が広がるのではと期待されている分野である。ただし、かなりのコストがかかる点が課題だ。
スムーズな受発注と配送
生産者と小売店、小規模な飲食店などを直接結んでのオーダーなど、ビジネスマッチングや仕入れや配送といった側面での活用も期待される。理想は必要なときに必要な食材を必要な量だけすぐに受発注し、配送されるというものになるが、技術によってこの理想にいかに近づけるかということになる。
スマートフォンからのオーダー
感染症の影響もあり、世界中で外食するよりも出前やデリバリーの需要が高まった。モバイルオーダーもフードテックの技術の1つといえる。モバイルから気軽にメニューを見て注文し、商品の配送を依頼できる。
モバイルオーダーが可能になったことで、飲食店はフードロスを減らせるようになり、オーダーした人は、配送の待ち時間を確認したりスムーズに商品の受け渡しができるようになったりするなどのメリットが増えた。今後もモバイルオーダーでの注文は安定した需要が見込めるだろう。
フードテックの具体的な事例
フードテックを導入している具体的な事例を紹介しよう。実際にすでに利用しているサービスや商品だけではなく、食の市場の意外な部分で活躍しているフードテックなどもある。
Uber eats
コロナによりUber Eatsなどのデリバリーサービスを利用する機会が増えた人も多いだろう。Uber Eatsは、注文の電話をかける必要はなく専用のアプリを使うだけで注文や決済が完了する。
アプリから注文を受けた配達員は直接飲食店に出向いて商品をピックアップし、希望した地点に届ける。外出することなく、飲食店の料理を自宅で食べられる、中食のパイオニアといえるだろう。
Eatsa
Eatsaは、アメリカの無人レストランだ。サラダをメインにした商品を提供していて、タブレットで注文する。AIがお勧めのメニューを紹介してくれるサービスなどもある。メニューの数を絞っているので、無人で全自動の営業が可能になっている。
調理も多くの作業をロボットが行い、注文した商品は店内の棚から自動で出てくる。従業員もスタンバイしているが、タブレットの端末にトラブルが発生したときだけサポートするので、一連の商品提供の作業には関わる必要がない。
ソイルプロ
ニップンが開発したソイルプロは、昔から日本で使われている豆腐加工技術を活用して、クセのない歯応えのある食感と風味を実現した食品だ。
今後の世界人口の増加に伴う食料需要の増大、さらにタンパク質が不足するプロテインクライシスにも対応できる食材という位置づけだ。
ロボットトラクター
ヤンマーが開発した無人で走行する農業用トラクター、オートトラクター。操作はタブレットで遠隔で行える。こちらはすでに商品化されていて、作業の効率化や省人化に貢献している。
June Oven
人工知能(AI)を搭載したスマートオーブンで、食材を自動認識して最適な調理方法を提案する。 内蔵されたカメラやセンサーを使って食材を特定し、クラウドベースのAIが最適な調理設定を自動で行う。これにより、料理の効率化が図れる。
Tovala
Tovalaは、Wi-Fi接続可能なスマートオーブンと食材キットを提供。本体が自動で調理を管理し、食材キットを使えば簡単に食事が準備でる。 バーコードスキャンでレシピを読み込み、最適な調理方法を自動設定。数分で本格的な食事が完成する。
今後もフードテックの必要性は高まる
以上のように「フードテック」は非常に多岐にわたる概念であり、実際、すでにさまざまな技術が登場している。
今後もますます食の市場での需要や必要性が増えると考えられるため、フードテックも機能性の高い技術が出てくるだろう。環境に優しく持続可能な社会や食生活を実現するために、フードテックは欠かせないものといえる。