棚卸しとは?意味や目的、重要性、注意するポイントなどを解説
2022.11.08
2022.06.28

商品在庫を取り扱う店舗や事業所では、定められた時期に棚卸しが行われている。棚卸しは適切な在庫管理および販売利益の把握につながる重要な作業だ。一方で作業手順や目的が不明瞭なため、正しく棚卸しが行われていない場合もある。
この記事では、棚卸しの概要や目的、重要性、手順や注意するポイントを解説する。棚卸しの作業や在庫管理で課題を持っている場合には、ぜひ参考にしてほしい。
棚卸しとは
棚卸しとは、商品の在庫数量を調査・確認する作業を指す。棚卸しは期首および期末の決算日に行われ、商品の実際の在庫数量と帳簿上の数量が合っているかを確認するほか、材料の数量および品質を調査することで資産を評価する「資産評価」のためにも行われている。
棚卸しで数えられる在庫は「棚卸資産」と呼ばれ、以下の物が該当する。
・商品…加工をしなくてもそのまま販売できる状態で仕入れた物
・製品…製造業が自社で製造し、完成した販売できる状態の物
・貯蔵品…事務用の消耗品、消耗工具、燃料などで未使用の物
・原材料…製品や商品を製造するために仕入れた材料や素材、原料
・仕掛品…製品になる前の加工途中の物
棚卸しの目的や重要性

棚卸しは膨大な在庫のカウントや帳簿との照会と、多くの手間や時間を有する作業だ。目的や重要性を明確にしていないと、適切な棚卸しの作業につながらない。覚えておくべき、棚卸しの目的や重要性について解説する。
正確な利益計算のため
財政管理や健全な企業運営のためには、売上や純利益を正確に把握する必要がある。ところが商品の売上総利益には在庫分も含まれるため、正確な在庫数を把握するために棚卸しが必須となる。
また、売上総利益は含んだ在庫分がすべて売れた場合と、売れ残った場合でも変動する。資産状況を正確に判断するうえでも、棚卸しは重要と言えるだろう。
棚卸しの結果から棚卸資産を把握するためには、カウントした数値を金額ベースへ変更する必要がある。在庫の数値を金額への変更は、「棚卸し在庫の評価」により棚卸資産の期末の単価を決める。
棚卸資産の評価には「原価法」と「低価法」のふたつの方法がある。
原価法とは棚卸資産の購入時に支払った金額を元に、期末の金額を評価する方法だ。低価法は期末の棚卸資産の金額として、原価法による評価か期末時価のうち、いずれか低い方法を選択する方法となる。どちらかの評価方法を選択し、在庫の評価を行う。
適切な在庫管理のため
商品が売れた、補充、入庫など在庫が変動するタイミングでは都度帳簿が付けられる。ただし、帳簿が手書きや手打ち入力の場合、数値の誤りや入力忘れなどヒューマンエラーが発生する可能性がある。
また、商品の紛失や盗難により、実際の在庫数と帳簿上の在庫数が合わない場合があるだろう。棚卸しをすることで実際の在庫数と帳簿の在庫数を確認し、必要に応じて修正をすることで在庫数を合わせ、適切な在庫管理につなげられる。
在庫管理や商品仕入れの見直し
棚卸しによって実際の在庫数と帳簿上の在庫数が合わない場合、原因を追求した上で修正を行う。在庫が合わない原因を把握することで在庫管理の課題と改善点が発見でき、在庫管理業務の見直しにもつながるだろう。
また、棚卸しによって滞留在庫や不良在庫が把握でき、商品それぞれの売れ行きが分かる。棚卸しによって商品の動きが分かるため、仕入れの量や品目の見直しにも棚卸しは役立つ。
不良在庫や在庫過多によるリスク回避
滞留在庫や不良在庫を抱えることは、経営上でのリスクの原因のひとつだ。たとえば在庫品としてカウントされていた商品が実は長期間の滞留により品質が劣化していて、販売できない状態となっていることがある。
帳簿上では在庫品のため注文を受けてしまい、後から「販売できない」ことが発覚すれば、販売機会だけでなく顧客からの信用を損失する可能性も高い。あらかじめ棚卸しによって在庫の正しい状況を確認しておけば、経営や店舗運営上でのリスク回避につながるだろう。
在庫数が過多になると、仕入れた分の資金を回収できる時期が長くなるため、資金繰りが悪くなる。
一方、在庫数が一定の水準に保たれている場合は、資金繰りが良くなる。棚卸しによって在庫の過不足を適切に把握することは、資金繰りにも大きな影響を与えるだろう。
決済書の作成
期末後、1年間の収支や支出を計算した決算書の作成が必要となる。決算書の作成には会社の資産や負債をまとめた資料、税金などの計算が必要となるが、これらの作成のために在庫数と資産を把握するためにも棚卸しは必須だ。
棚卸しの方法や手順

棚卸しにはさまざまな方法があり、併用することも可能だ。棚卸しの方法や手順について解説する。
実地棚卸し
実地棚卸しとは、保有している在庫を目視により確認の上、数量をカウントしていく棚卸し方法だ。おもに期末日に行われているが、在庫状況の把握や利益管理のために期末日以外に実施されることもある。
一般的な実地棚卸しの手順は以下の通りだ。
・在庫の品目、所在地、数量欄(ブランク)を記載した棚卸しリストを準備する。
・在庫数をカウントし、棚卸しリストの数量欄に確認した数量を記入する
・棚卸しリストのデータを端末へ入力する
・入力したデータと帳簿数を照合し、齟齬がある場合は実際の数に修正する
実地棚卸しは目視によって確認するため、実物の在庫数を正確に把握できる、在庫の品質や状況についても確認できるのがメリットだ。一方で作業は膨大な手間がかかるため多くの人員や時間が必要、目視による確認のためカウントミスなどのヒューマンエラーが発生する可能性があるのがデメリットとなる。
帳簿棚卸し
帳簿棚卸しとは在庫が変動したタイミングで、都度在庫管理表などに記帳する方式の棚卸し方法だ。実地棚卸しが現時点での在庫をすべてカウントする方法であるのに対して、帳簿棚卸しは商品の仕入れ数(入庫数)から売れた分を差し引き、残数で在庫をカウントする方式となる。
在庫を出し入れするたびに記帳するため、リアルタイムでの在庫数が把握できる、在庫を変動させた当人が記録するため、少人数でも実施できるのがメリットだ。一方数値の入力ミスなどによるヒューマンエラーが発生すると、実際の在庫数と帳簿がずれてしまうデメリットがある。
なお、正しい決算作成のために実地棚卸し、帳簿棚卸しが併用されている場合も多い。
リスト方式
実地棚卸しにおいて、在庫管理表などのリストの在庫数値と目視で確認した実際の在庫数量を比較していく棚卸し方法が、リスト方式だ。すでに記載された数値と実際の在庫数量を比較していくため、棚卸しの作業時間が短縮されるメリットがある。
一方リストの数値自体が間違っている場合、カウント漏れが発生する可能性があるのがデメリットだ。たとえばリストの数値が3、在庫倉庫の実物も3だったため「3」としたが、実際は別の場所にもうひとつ在庫があり「4」が正しかったなどのミスが発生する可能性がある。
タグ方式
実地棚卸しにおいて、倉庫にある商品の名前と数量をひとつずつ確認し、情報を記載した荷札(タグ)を現物に貼り付けることで現物の数量を把握する棚卸し方法が、タグ方式だ。
最初に現物を数えてから、在庫管理表や帳簿の在庫数と照合する。先に現物を数えるため、計上漏れが出にくいのがメリットだ。ただし荷札の記入や連番管理などの手間がかかるデメリットがある。
棚卸しで注意すべきポイント

棚卸しは在庫の適切な管理や資産状況の把握のための重要な役割を持っている。ただし、適切に棚卸しが行われなければ正しい在庫や資産状況の把握にはつながらない。棚卸しで注意すべきポイントを解説する。
ヒューマンエラーを防止する
棚卸しは在庫数を数える、確認する、入力や記帳をするといった単純な作業だからこそ、以下のようなヒューマンエラーが発生しやすい。
・カウント漏れ
・数え間違い
・記入ミス
・商品間違い
・入力漏れ
・文字や数字の読み間違い
ヒューマンエラーが発生すると、在庫数だけでなく正確な資産も把握できない。ヒューマンエラーを防止するために、以下のポイントをチェックしながら慎重に棚卸しを実行しよう。
・商品棚の影、奥、棚の上など見通しの悪い場所に在庫がないか
・外箱がある場合、明記されている数量と中身の数量に差異はないか
・商品番号や所在地を間違って転記していないか
・見分けがつきにくい商品(カラー違い、素材違い、サイズ違いなど)は充分確認したか
・収集したデータと入力したデータで差異はないか
・0と6など読み間違えやすい数字や文字を間違えていないか
在庫の数だけでなく品質や状態も確認する
棚卸しは、在庫の数だけでなく正確な状態を把握するうえでも重要な作業だ。ただ数を数えていくだけではなく、在庫の品質や状態も同時に確認するようにしよう。
破損や腐食などの不良が発生している、長期滞留している季節商品など販売できないと判断された在庫があれば担当者に報告する。なお棚卸しによって販売できないと評価された在庫は、経理上「損金」として処理できる。
棚卸し表は最低7年間保存する
棚卸しの結果は、棚卸し表に記載する。棚卸し表は棚卸しの実施日から最低7年間保存することが国税局より義務付けられているため、紛失や破損に気を付けて保存しよう。
なお、平成30年4月1日以降の欠損金の生じた事業年度の棚卸し表は、10年間の保存が義務付けられているため注意が必要だ。棚卸し表は担当者が変わったときなどでも分かるように、保存場所を定めておくのが良いだろう。
在庫数が合わない場合は修正する
棚卸しの結果、実際の在庫数と帳簿上の在庫数が合わない場合は、原因を考える。在庫数が合わないおもな原因には、以下のものがある。
・在庫情報の入力ミス、入力漏れ、処理の遅れ
・納品書や返品伝票などの書類の遅延
・在庫の破損や紛失
原因を考え改善を行うと同時に、在庫数を修正する。実際の在庫数を修正することはできないため、帳簿の在庫数を実際の在庫数に合わせよう。
棚卸しを効率化させる方法

多くの作業や時間、人員が必要となる棚卸しは負担の大きな作業でもある。棚卸しを効率化させるための方法を解説する。
日常的な作業のミスを防ぐ
期末に実地棚卸しのみを行っていると、どうしても日々の在庫数がずれやすくなる。帳簿棚卸しを併用する、日々の作業をより慎重にするなどで在庫数を合わせた状態なら、実地棚卸しもスムーズに進むだろう。
たとえば入庫時の検品作業をていねいにする、ダブルチェック体制を整えるなどで入庫時の入力漏れやミスを防ぐことで、在庫数がずれるのを防げる。
棚卸しのための時間や人員を考える
棚卸しには、多くの時間や人員が必要となる。業務中に棚卸しを実施していると、店舗や事業所が混雑してしまい、棚卸しを中断しなければいけないこともあるだろう。
閑散している時間帯に行う、開店前、閉店後などの業務時間外に行う、棚卸し作業のため実施日のみ午後休業とする、など店舗や業務に合った方法で棚卸しのための時間や人員を確保することが重要だ。
棚卸し作業を分割する
取り扱い品目が多い場合、棚卸しでのカウントの作業の負担も大きくなる。棚卸しによる集中作業を分割し、負担を減らすのも有効だ。たとえば、すべての品目を一度の棚卸しでカウントするのではなく、グループ分けした品目ごとに毎月カウントしていく「巡回棚卸し」を採用する方法がある。
全品目を12グループに分けて、巡回棚卸しによって毎月1グループずつ順番に棚卸しをすれば、1年間ですべての品目の棚卸しが完了する。
棚卸し効率化のためのシステムやアウトソーシングを検討する
手入力や手作業による棚卸しは、時間がかかるだけでなくヒューマンエラーが発生する原因にもなる。棚卸しを効率化するための在庫管理システムなどを導入するのも有効だ。在庫管理そのものをアウトソーシングする方法もある。
棚卸しは健全な経営やリスク回避のための重要な作業
棚卸しの概要や目的、重要性、方法や手順、棚卸しの作業を効率化する方法を解説した。棚卸しは膨大な数の商品や在庫をカウントする必要があるため、作業の負担も大きい。一方棚卸しを正確に行うことで店舗や事業の健全な運営にもつながる。棚卸しの作業を効率化する工夫を取り入れて、適切な棚卸し作業を進めよう。