モーダルシフト とは?求められる背景やメリットなどを事例を交えて解説

2022.11.08

2022.08.26

モーダルシフトとは、通常トラックで輸送されるものを鉄道や船舶での輸送に切り替えることだ。地球温暖化が進む中で、二酸化炭素の排出抑制に繋がるだけでなく、近年のトラックドライバーが不足している問題の解決に繋がるといったメリットがある。

本記事では、モーダルシフトのメリットや、モーダルシフトが求められる理由や背景、国土交通省が実施するモーダルシフトの支援策、実際にモーダルシフトを取り入れた企業の事例を解説していく。

モーダルシフトとは

モーダルシフトとは?

モーダルシフトとは、トラックで行われる貨物輸送を、鉄道や船舶での輸送に切り替えることである。例えば、工場から納品先までトラックだけで輸送していたところを、間に転換拠点を設け、工場から転換拠点までをトラック、転換拠点から次の転換拠点を鉄道もしくは船舶、最後の転換拠点から納品先をトラックとするなど、鉄道や船舶を取り入れた貨物輸送にシフトすることだ。

モーダルシフトの特徴

鉄道や船舶を利用することで、少ない労働力で大量の輸送が可能になる。また、トラックでの輸送距離が減り、二酸化炭素の排出削減に繋がるといった特徴がある。

しかし、トラック一つで工場から納品先に輸送するのに比べて、転換拠点で一度荷下ろしをし、鉄道・船舶に積み直すため、リードタイムが長くなる可能性がある。これは輸送する荷物の種類によっては課題となるだろう。鉄道・船舶に乗せるためのコンテナに合ったサイズでしか輸送ができないといった課題もある。

また、モーダルシフトは500㎞以上の長距離輸送の場合に効果が見られるという特徴がある。だが、300〜400㎞の距離でもモーダルシフトが導入されるケースも出てきている。

モーダルシフトが求められる背景

モーダルシフトが推進されてきた経緯

モーダルシフトは近年の話ではなく、実は40年以上前から求められてきた。最初にモーダルシフトが登場したのは1981年のこと。「運輸政策審議会答申」において、モーダルシフトが登場した。この時は、1978年から第二次石油危機が起こり、石油消費を抑えるためにモーダルシフトが求められていた。

その後、1990年には「運輸政策審議会物流部会答申」で、物流業における労働力不足の対策としてモーダルシフトが提言される。1997年の「地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議」にて2010年までにモーダルシフト化率を50%まで引き上げる方針が決まる。

このように、初めは省エネ対策として求められたモーダルシフトだったが、労働力不足、環境問題とさまざまな課題を解決するために求められてきた。

地球温暖化、二酸化炭素の問題

モーダルシフトが求められる背景には地球温暖化の問題が大きくある。地球温暖化は、二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素などの温室効果ガスが大気中に放出されて、地球全体の平均気温が上昇することだ。世界の平均気温は、2011〜2020年で1.09℃上昇していると2021年のIPCC第6次評価報告書で発表された。

地球温暖化が進むと、気候変動による異常気象が頻発する。例えば猛暑や豪雨といった気候変動だ。また、海面上昇も起こる。これらにより生活環境の変化や、動物・植物の減少、農作物への影響が生じてしまう。

地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出の中でも、特に二酸化炭素の排出が最も影響を及ぼす。二酸化炭素は石炭、石油の消費、セメントの生産により放出されるが、その放出された二酸化炭素を吸収する森林も減少しているのが現状だ。

ちなみに日本は2019年の二酸化炭素の排出量で世界5位。1人当たりの排出量は8.4tとされている。

カーボンニュートラル

2015年に採択されたパリ協定では、次のことが世界の共通の目標として定められた。

世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする。”

そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる                                    “

この目標を実現するために、「2050年カーボンニュートラル」という目標が世界の120か国以上で掲げられている。日本でも2020年10月に政府が、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると宣言をした。

「ゼロにする」というのは、温室効果ガスを全く排出しないのではなく、温室効果ガスの排出量から、植林、森林管理等による吸収量を引いてゼロにするという意味である。

物流クライシス・ドライバーの人手不足

「物流クライシス」と言われる問題がある。「物流クライシス」とは、ECサイト等のネットでの注文・配送が増え、物流業界のキャパシティを超えていく問題だ。ECサイトの普及等により個人宅への配送が加速し、「多頻度小口配送」となり宅配数が増える一方で、ドライバーの人手は足りていないという背景がある。少子高齢化によりドライバーの働き手は不足し、2027年には、トラックドライバーは24万人不足すると言われている。

実際に有効求人倍率も他の産業と比べ、2倍ほどだ。ドライバーの平均年齢も他業種に比べて高い。また、低賃金・長時間労働といった労働環境が厳しいことも人手不足に繋がっているだろう。

モーダルシフトのメリット

二酸化炭素排出量の削減に繋がる

モーダルシフトのメリットの一つは二酸化炭素の排出量の削減だ。1トンの貨物を1㎞運ぶ際に、排出される二酸化炭素量は、鉄道はトラックの約1/10、船舶はトラックの約1/5の量で済む。トラックと比べて二酸化炭素の排出量が少ない鉄道・船舶へシフトすることは、環境負荷の低減に繋がる。

労働力不足の解消に繋がる

モーダルシフトはドライバー1人の負担の軽減に繋がる。トラック輸送では、数百キロの距離を行き来し、数日かけて輸送されることがある。長距離での輸送をモーダルシフトに切り替え、転換拠点間を鉄道や船舶での移動にすることで、トラックの利用は出発地点から転換拠点までと、転換拠点から目的地までの運転になり、ドライバーの方が一人で長距離を走らせる必要が減る。

国交省の推進するモーダルシフト支援策

モーダルシフトを進めるために、国土交通省で実施されている支援策等を3つ紹介する。

物流総合効率化法

物流総合効率化法は、平成17年に施行された流通業務の総合化・効率化の促進についての法律のこと。2社以上の者が連携をして行う、流通業務の省略化や、環境負荷を減らすための物流効率化の取り組みを国が支援する制度だ。国に申請を出し、認められれば支援が受けられる。

貨物の多頻度小口配送への対応や、産業に関する国際競争力の強化、流通業の労働力不足や環境負荷を是正することを目的としている。

モーダルシフトは、物流総合効率化法の支援対象となる主な例の一つ。他にも、輸送網の集約や、輸配送の共同化がある。

受けられる支援は、事業の立ち上げや実施に伴う計画策定経費や運行経費の補助、輸送連携型倉庫への税制特例、信用保険制度の限度額の拡充といった金融支援などさまざまだ。

モーダルシフト等推進事業

モーダルシフトなど、物流事業者や荷主等の関係者で構成される協議会が実施する物流効率化に関する取り組みにおいて、協議会の開催、 総合効率化計画の策定といった計画策定経費や初年度の運行経費の補助をおこなっている。

モーダルシフトに限らず、省人化、自動化のための無人フォークリフトやピッキングロボットなどの機器の導入、過疎地域での共同配送や貨客混載、幹線輸送の集約化といったトラック輸送の効率化についての取り組みも運航経費補助の対象とされる。

グリーン物流パートナーシップ会議

「グリーン物流パートナーシップ会議」は、国土交通省により平成17年4月に、経済産業省、一般社団法人日本物流団体連合会、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会、一般社団法人日本経済団体連合会が連携して、設立された。

「グリーン物流」とはモーダルシフトやエコドライブ、低公害車などの環境に優しい物流のこと。さらなる新技術の導入、物流の燃料消費を削減するには、荷主企業、物流事業者のどちらかだけでは実現が困難で、両者がパートナーシップを組むことでグリーン物流を進めようと設立された。

令和3年1月時点で、3,300を超える企業等が会員登録をしている。また、これまで20回のグリーン物流パートナーシップ会議が開催され、優良事業者の表彰や、取組事例の紹介、パネルディスカッション等が行われた。

モーダルシフトを取り入れた事例

モーダルシフトを取り入れた企業の事例を2つ紹介する。

医薬品等の輸送でトラックから鉄道への切り替え

株式会社メディセオ、日本貨物鉄道株式会社、日本石油輸送株式会社、日本フレートライナー株式会社の4社は、メディセオの医療用医薬品等の物流センターの埼玉ALCから、岩手県にある東北ALCまでの輸送を、トラック輸送から鉄道輸送へ切り替えるモーダルシフトを実現。保冷BOXとスーパーUR コンテナを利用したことで、温度管理が必要な医薬品もの輸送が可能になった。

この取り組みは、「第20回グリーン物流パートナーシップ会議」の 優良事業者表彰「特別賞」を受賞している。

タクシーと鉄道を組み合わせたモーダルシフト

佐川急便株式会社、北海道旅客鉄道株式会社、天塩ハイヤー株式会社の3社は鉄道とタクシーの組み合わせによる貨客混載輸送をおこなった。

まず佐川急便が稚内営業所から稚内駅に荷物を運ぶ。北海道旅客鉄道株式会社は、旅客鉄道を利用し、宗谷線の稚内駅から幌延駅まで荷物を運ぶ。天塩ハイヤーが幌延駅で荷物を受け取り、幌延町内で配達を行うという事業だ。

この取り組みは2019年に開催された「第18回グリーン物流パートナーシップ会議」の優良事業者表彰において「国土交通大臣表彰」を受賞している。

求められ続けるモーダルシフト

第二次オイルショックの頃、省エネ対策として登場したモーダルシフトだが、現在ではカーボンニュートラルやトラックドライバー不足といった観点から求められている。リードタイムやコンテナのサイズといった課題もあるが、二酸化炭素の排出やドライバー不足を是正するメリットは大きいだろう。実際に取り組んでいる企業の様々な事例を調べてみてはいかがだろうか。

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